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6章  6話 影

「まさか、また会うだなんてな」


 景一郎は静かに敵と対峙する。


 同じ服、同じ武器。

 ――同じ顔。


 まるで生き写しのようなモンスター。

 本能的な不快感を覚えながらも、景一郎は自分と瓜二つの敵へと剣を向ける。


「――スキルだけじゃなくて、装備まで一緒なのか」


 景一郎は宵闇の太刀を使い始めたのはつい先日のこと。

 なのにアナザーもまた彼と同様の装備を手にしている。

 ――景一郎と同じ姿であることが当然のように。


「ッ……!」


 そして動き出したのは――アナザー。

 彼は漆黒の風となり景一郎に肉薄する。


(速い――)


 迫る黒刃。

 景一郎はそれを防いだ。


 宵闇シリーズをコンプリートしたことによる恩恵――速力倍加。

 アナザーもその効果を受けているようだ。

 以前とは比べ物にならないほど速い。

 素の状態でさえ、矢印を使って加速しているときと同等の速度が出ている。


(――けど、前ほどの脅威は感じないな)


 同時に、景一郎は冷静さを失わない。


 確かにアナザーの速力は倍増している。

 だが景一郎も同じこと。

 むしろ、彼があれから大量にレベルアップしていたこともあって、両者の能力差は縮まっている。


「お前がレベルまで真似する奴じゃなくて良かったよ」


 アナザーの戦闘力は以前と――【面影】の総力をもって討伐したときと同じ。

 だからこそ――レベルアップした今は景一郎のほうが強い。


 景一郎は地面を踏みしめ、力でアナザーを押し飛ばす。

 アナザーも抵抗するが、鍔迫り合いを制したのは景一郎だった。


「――矢印」


 とはいえアナザーもそのまま討たれるはずがない。


 彼は矢印を展開する。

 空中に散らばった矢印は景一郎とアナザーを囲い込み、2人だけの戦場を作り出す。


「っと……!」


 反射的に景一郎が刀を構えると、腕に痺れが走る。


 アナザーがすさまじいスピードで一太刀を叩き込んできたのだ。

 装備効果による速力倍加と、トラップによる加速。

 2つを併用することで、アナザーはこれまでにない速度を叩き出している。


 さっきの防御も半分は勘だった。

 少しでも逡巡していればそのまま食らっていただろう。


「――――」


 景一郎の周囲をアナザーが跳びまわる。

 一方で景一郎は動かない。


 矢印を駆使して縦横無尽に動くアナザー。

 景一郎はそれを最小限の動きでさばいてゆく。


 2度、3度。

 景一郎は迫る攻撃を弾いてゆく。


「っと」


 そして鍔迫り合いへと持ち込む。

 2人は刀を合わせ、その場で膠着する。


 しかし――


「――【影魔法】」


 アナザーが刀の峰を掌でなぞった。

 すると彼の手元で、剣が影を纏う。

 赤黒い影を。


「ッ……!」


 直後、彼の刃から影が噴き出し、鍔迫り合いをしていた景一郎を呑み込む。


 魔法剣術による斬撃の拡張。

 それを鍔迫り合いによって互いが足を止めているタイミングで使用したのだ。


「――矢印」


 景一郎が影の濁流に呑まれたのを見送り、アナザーが彼から視線を外した。

 そしてアナザーが展開した矢印は――紅へと向かっている。


 矢印を踏んで加速するアナザー。

 彼は紅に肉薄し、刃を振るう。

 一方で、彼女は一切の反応をしない。

 刃を目で追うことさえしていない。


 抵抗の素振りを見せない紅。

 そんな彼女の首に黒刃が迫るが――


「力は温存するって話だけど、危ないときは身を守るくらいしても良いんだぞ?」


 ――ギリギリで景一郎が割り込んだ。


「いえ――景一郎なら、絶対に間に合うと思っていましたので」


 紅は疑いもなくそう口にした。

 不安げな表情どころか、微笑んでいるようにも見えた。


 もしも景一郎が間に合わなければ、彼女は狂刃を受け入れるつもりだったらしい。

 実際、さっきの彼女は刀に手を伸ばす様子もなかった。


 それはまさしく全幅の信頼。

 幼馴染ゆえ――ということなのだろうか。


「そうか」


 景一郎は刀を振り抜き、アナザーを間合いの外側に弾く。


 先程、影魔法を受けたことで彼の頬には傷がついていた。

 しかし重い傷はない。

 とっさに彼も影魔法を発動し、アナザーの一撃を相殺していたのだ。

 

 戦況は五分と五分。

 攻めているのはアナザーだが、景一郎も破綻を見せていない。


 とはいえ、それもここまでの話。


「――悪いな」


 景一郎は笑みを浮かべる。

 ――かつての強敵を前にして。


「本気で相手してやれなくて」


 余裕さえにじませながら。


「お前が最後の1体になるまで、待たないといけなかったからさ」


 景一郎はアナザーから視線を外す。

 そこに広がるのは、すでにモンスターが駆逐されつつある戦場。


 数えきれないほどにいたモンスターが今や全滅寸前だ。

 彼が戦っている間、レイドチームがモンスターを討伐していてくれたからだ。


 おそらくアナザーはこのダンジョンにおけるエリアボスに近い立ち位置にいる。

 事実、モンスターが無限に湧きだすモンスターハウスにおいても、彼は1人しか現れていない。

 

 だが、アナザーを倒してしまえば新たなアナザーが出現してしまう。


 ならば他のモンスターがいなくなるまでアナザーと戦い――最後に倒す。

 それが最良だと判断した。


「そういうわけで」


 景一郎は腰を落とし、腰だめに黒刀を構えた。

 そして、左手の掌に矢印を展開する。

 続けて、黒刀に影を纏わせた。



「――遊びは終わりだ」



 景一郎が刀身に左手で触れると、矢印の勢いを乗せて剣が振るわれる。

 神速の斬撃。

 それにあわせ影の斬撃が射出された。


「ッ……!?」


 防御の構えを取ろうとするアナザー。

 だが、遅かった。

 

 三日月のような黒い斬撃。

 それはアナザーに回避の隙を与えることなく、彼の腰を両断した。


 景一郎の魔法剣術解禁。

 レベルアップと装備効果により、景一郎の戦闘力は初めてアナザーと戦った5章前半から飛躍的に向上しています。



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