ダリアの弟子
「それにしても、」
ダリアが志朗の顔をまじまじと見つめる。
「ほっそい目だねぇ……誰に似たんだか」
「なっ……!?」
志朗は、何も言えなかった。
友人の優介相手であれば軽口のひとつも叩けるだろうが、相手は一癖も二癖もありそうな魔法使いである。妙な事を言って変な魔法でも掛けられてはたまったものではない。
言い返す言葉が見つからずに、口を開けたり閉じたり繰り返していたその時、
「ダリア様、お弟子様を連れてきましたよ!」
少し先の角からオトモが顔を出した。
そして、オトモの後ろから背の高い男が出てきた。
燃えるような赤い髪。癖が無く真っ直ぐなそれは右肩の辺りで一つに束ねられ、胸下まで流れている。
髪と同じくらい真っ赤な瞳に穏やかそうな目尻が印象的な青年であった。
彼は随分と疲れた様子で志朗達の元へ急ぐ。そして、開口一番。
「師匠……速すぎです」
苦笑しながらそう言った。
ダリアは鼻で笑った。
「アンタが鈍臭いんだよ」
ダリアの物言いにも慣れたように苦笑し、「すいません」と言った青年。いつも似た様なやり取りをしているのが見て取れた。
青年が、志朗の方を見た。一瞬青年が目を見張る。
「随分、若いお弟子さんだね……」
「初めまして……ダミアさんの、弟子の志朗です……」
多少つっかえながらも、志朗は言った。
志朗は今、ダミアの弟子としてここに来ている……事になっている。
――ひとまず話を合わせよう。
「シロウ……不思議な響きの名前だね。
私はローレン。同じ弟子同士、仲良くして欲しいな」
穏やかな調子でローレンは志朗に向かって手を伸ばす。
初め志朗は何か分からなかったが、握手を求められていると思い至り、慌てて手を伸ばす。
「さぁ、もう良いだろう?
いい加減急がないと王様からお小言食らっちまう。全員纏めて飛ばすよ」
その時、ローレンの表情が引きつった。
「……ダリアさん、王城を出てからそんなに時間も経ってないんだし、そんなに急がなくてもゆっくり飛んでいけば大丈夫ですよ……!」
心なしか声も上擦っているのは志朗の気の所為ではないだろう。
嫌な予感がした。
「何言ってんだい。アンタもうヒヨヒヨじゃないか。遠慮してないで飛ばされな」
ダリアは、自身の持つ杖を力強く地面に打ち付ける。先程と同じ浮遊感が志朗達を包む。
「……シロウ君」
ローレンが小声で志朗に話し掛ける。
「死なないでね……」
嫌な予感は的中。志朗は、本日2度目のセーフティバー無しのジェットコースターに乗る気分を味わう事になったのだった。