国の城下
「あの街ですか……?」
遠くから見ても尚大きい城と街を見て、志朗は言った。
「はい。中央の城で王様は、シロウ様をお待ちしております」
オトモは、志朗の隣に立つ。
「では、杖を大杖に持ち替えて頂けますか?」
いつの間にか、オトモの手には先程の細い杖ではなく、傘程の太さでオトモ背丈とほぼ同じ長さの木の杖が握られていた。
――大杖……。
志朗は杖を革の入れ物にしまい、風呂敷から傘くらいの木の杖を取り出した。
「これですか?」
「それです。杖は魔法の細かいコントロールに便利ですが、大杖のように長時間の魔法の使用には不向きなので……」
――杖にも色々あるのか……。
志朗は、大杖を眺める。
年季が入ってはいるが定期的に手入れされていたのか、痛みは殆ど無くくっきりと浮かび上がった木目と先端に嵌められた青い石が美しく光っている。
「森では危ないので出来ませんでしたが、ここまで来れましたので一気に城下まで行きますよ!」
オトモが地面を杖で突く。木特有の乾いた高い音が響く。
すると、オトモの身体が地面を離れふわりと浮かんだ。続いて、志朗の身体も軽くなり地面から足が離れそうになる。
――『一気に城下まで』……まさか。
「あの、オトモさん……一気にってもしかして」
「大杖にしっかりと捕まっていてくださいね。感覚さえ掴めれば、シロウ様もすぐに飛べるようになりますから!」
「いや、そういう事ではなくこの先崖ですし『では、行きますよ〜!』」
志朗の言葉を全く聞いていないオトモは、『せーのっ!』という軽い掛け声のまま崖から飛び出した。
志朗は尚も食い下がるがその声虚しく、オトモと共に崖から命綱無してダイブする羽目になったのだった。
遠目から見えた城下の街は、淡いベージュのレンガと赤いレンガを綺麗に敷き詰めた美しい街並みだった。
志朗達が着陸したのは、人気のない路地。すぐ側に大きな通りがあり、賑やかな話し声や物音が聞こえてきた。
「あっという間だったでしょう?シロウ様」
「……大丈夫。大丈夫……どこも怪我してない……ちゃんと足ついてる……大丈夫」
オトモが自慢げに鼻を鳴らしている側で、志朗は壁に手をついて自身を落ち着かせる様に1人呟いていた。
目はいつもより開いているのだが、傍から見れば相変わらずの糸目である。
50m以上はあったであろう場所から命綱無しでジャンプした挙句ジェットコースター並のスピードで空を飛んだ志朗は、半ば錯乱状態であった。
「さぁ、早く行きましょう。王城まで後少しですよ」
志朗のローブの裾を引きながら、オトモは言った。
「出来れば、今度はもう少しゆっくり飛びたい……」
志朗は、オトモに引かれるままに大きな通りへ出る。
通りには所狭しと様々な店が並び、客を呼び込む店員の声や通りを歩く人々で賑わっていた。
通り過ぎる人の中には、志朗と同じ様にローブを着た人も多く、オトモの様な二足歩行の猫や犬も見られた。
オトモは、志朗のローブの裾を引きながら通りを抜け、脇道に入る。そして、十字路を左、右と次々に曲がっていく。
志朗は、道を歩きながら曲がり角や十字路。行き止まりになっている道が幾つもある事に気付いた。
「随分と入り組んでいるんですね」
「はい。先代の王様の時に敵の侵攻を阻む為に街路を複雑化し、ありとあらゆる場所に仕掛けを施したのです」
「敵……」
「シロウ様は、まだお若い魔法使いとお見受けしますが、話には聞いた事があるのではありませんか?
かつてこの国で起こった内乱について」
「内乱……?」
オトモの言葉を繰り返す志朗に、オトモははてと首を傾げた。
「はい。ご存知無いのですか?幾ら人の国から離れて暮らしている魔法使いでもこの話を知らない者は……『随分と遅かったじゃないか。アタシを待たせるのも大概にして貰いたいもんだね。オトモ』」
いきなり声がしたかと思うと、オトモと志朗の前に1人の女性が降ってきた。