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猫と弟子?


 志朗が振り向いた先、長い草が生い茂っていた場所は綺麗に踏み(なら)され、人一人分程のスペースが空いていた。そして、そこに佇む1匹の猫。


「お待ちしておりました『お弟子様』」


 もう一度、相手は先程の言葉を繰り返す。


 志朗は目の前の光景に呆気に取られていた。


 黒く短い毛が全身を覆い、頭部には一対の三角耳。ふっくらとした口元から生える長い髭。

 目はアーモンドの様な形に開き、金色の虹彩と縦長の瞳孔を持った瞳が志朗を見つめている。


 目の前にいるのはどこから見ても猫だった。


 しかし、先程から猫は、志朗に人の言葉で話し掛けている。

 猫の周りに人影は無く、誰かが声を当てている訳でもないし、スピーカーの様なものも傍目には分からない。

 そして、この猫は服を着ていた。ローブの様な上の服だけならまだしも、ズボンやブーツまでしっかりと履いている。


 そしてそれ以上に普通の猫から掛け離れている点が1つ。


 それは、目の前にいる猫が2本足(・・・)で立ち歩いている点だった。


「王様の所までご案内致します。そちらのローブを着て、荷物を持ってから私にお声掛け下さい」


 猫は事務的な口調で用件を言った。


 ――……オデシサマ……お弟子様?


「あの……弟子って……?」


 志朗は誰かの弟子になった覚えは全く無い。

 この猫(?)は何か勘違いをしているのでは無いか。そう思い、志朗は猫に話し掛けた。


「いいえ、勘違いではございません。」


 猫は志朗の考えを読んだかのようにきっぱりと否定した。


「数日前に、私の主が『弟子を連れてくるから迎えに来い』と言われて外に出ていかれたのです。

 そこにある荷物を持って」


 猫が黒い風呂敷の方を指さしながら言う。黒い毛に覆われた手と、ピンク色の肉球が見えた。


 ――あのお婆さんは魔法使いだった……?いや、そんな絵本みたいな話がある訳……。


 困惑した志朗を他所に猫は話を続ける。


「今ここに主は居りませんが、貴方様がこの荷物を持ってここに居る。

 それが貴方様が主の弟子である何よりの証明なのでございます」


 腰に手を当て胸を張りながらそう締めくくった猫は、志朗にローブを着るように急かす。


 志朗はいよいよ訳が分からなくなってきた。

 自分が見知らぬ森に居ることも目の前にいる猫の事も、老婆が魔法使いだと言うことも……。


 寧ろこれは夢だと言われた方がまだ納得できる。


 しかし同時に、猫について行った方がいいのではとも考えていた。


 ――もし夢だったとしても、森の中でまた1人になるよりは人違いでも街まで連れていってもらった方が良いかも知れない……。


 志朗は、猫の言った通りに風呂敷の中に入っていた黒い布を頭から被る。

 黒い布だと思っていたこれはフード付きのローブだったらしい。かなり大きいものだったようで袖が余ってしまった。

 志朗は袖を何度か折り返し、丁度いい長さにしてから足元にあった荷物を黒い風呂敷に纏めて手に持った。


「準備は出来ましたか?」


 志朗は頷いた。


「弟子……ではないかもしれませんが、街まで連れて行って頂けますか?」


「はい!しっかりと王城までご案内させて頂きますね」


 猫は志朗の話を聞いているようで聞いていなかった。


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