路地裏の攻防
そこからのエミリーの挙動は素早かった。
腕を捻りあげていた傷の男を、ナイフを持った長髪の男の方へ思い切り突き飛ばす。
長髪の男は、かわしきれずに傷の男にぶつかり、共に地面に転がった。
そして、すぐに迫るスキンヘッドの男の拳を軽々とかわす。
鎖を巻いた拳は、小さく金属質な音を立てて空振った。
スキンヘッドの男は、ボクシングの様に早いスパンで拳を打ち出すが、エミリーにとってかわすことは容易いものだった。
そして、エミリーはスキンヘッドの男が拳を繰り出すタイミングに合わせ、カウンターで顎を強かに殴り上げる。
強力なアッパーをくらったスキンヘッドの男は、白目を剥いて呆気なく気絶した。
わずか数秒にも満たない出来事。
その無駄の無い動きには、一切の躊躇いも情けもなかった。
志朗は呆気に取られ、ただエミリーを見つめている。
「まだやりますか?」
冷ややかなエミリーの言葉。
ふらつきながらも地面から起き上がった傷の男と長髪の男が、互いに目配せした。
「うぉおおお!!」
長髪の男が叫び声を上げ、ナイフを振り回しながら飛び掛かる。
エミリーは、長髪の男が振り回すナイフを最小限の動きで避け、その腕に手刀を叩き込む。
銀の軌跡を描いて遠くに飛んでいくナイフ。
長髪の男の視線が、一瞬ナイフの方へ向いた次の瞬間。容赦の無い膝蹴りが、その顔面にめり込んだ。
長髪の男は鼻血を噴いてその場に倒れた。起き上がってくる様子は無い。気絶した様だ。
残るは1人。
エミリーは離れた所にいる傷の男に一撃を見舞う為、身体を軽く屈め、顔を上げた。
その時……
エミリーのすぐ側を火球が通り過ぎた。
それはエミリーの後ろの壁にぶつかり、小さな破裂音と共に石壁を焦がす。
驚きに目を見開くエミリー。
火球が飛んできた方を見ると、そこにいるのは傷の男。
杖を構え、不敵な笑みを浮かべていた。
息を飲むような小さな悲鳴を上げる子供に、子供を庇う様に抱きしめる女性。
志朗は、先程一瞬でも迷った事を後悔した。
男が魔法使いである事に気づいていないわけではなかった。
魔法を使うかも知れないことも、少し考えればすぐに分かる。
しかし、志朗は迷ってしまった。魔法を覚えたばかりの自分では、一歩間違えればアルメルシアやエミリーを巻き込んでしまうかもしれない。
相手に必要以上の大怪我を負わせてしまうかもしれない。
たとえ相手が悪人で、誰かを守る為であったとしても、それで良いのか? と問い掛ける自分がいた。
杖を振るう腕に、ブレーキが掛かってしまった。
――でも……。
――迷っていたら、守れない……。
杖を握る手に力がこもる。
「魔法使いである俺に逆らったのが運の尽きだぜ、嬢ちゃん」
男は杖を振り上げる。
男の周りに次々と現れる火球。
志朗は、ゆっくりと杖を持つ手を上に上げる。視線は傷の男にしっかりと固定されている。
――ルシアさんやエミリーさん達に当たらないように、やり過ぎない様に……。
「こんなに数が多いと、後ろの嬢ちゃん達にも当たっちまうかもしれねぇなぁ?」
自身の優位を確信した傷の男は、笑みを強めた。
エミリーは、傷の男を睨みつけながらも半歩後ずさる。
志朗は、思い切り杖を振るった。
男の出した火球の周りに、音もなく水滴が現れ弧を描くように集まっていく。
そして次の瞬間、男の周りに浮かんでいた火球が一瞬にして凍りついた。
同時に、勢いよく地面から生えた緑のツタが、男の手から杖を奪い取る。
「!?」
傷の男は慌てて辺りを見回す。志朗が魔法を使うまで、志朗の存在に全く気づかなかったようだ。
すぐに男は志朗の姿を捉えた。
しかし、男は志朗の姿を見るやいなや、目を見開き短く悲鳴を上げた。その表情に浮かぶ色は、恐怖。
「お前……いつの間に、しかもその……」
酷く狼狽した男が途中まで言いかけたその時、
男が視線を外した隙を付き、至近距離まで迫っていたエミリーの回し蹴りが、その首に直撃した。
傷の男は、そのまま頭から地面に激突し、あまりにも呆気なく気絶した。




