粗暴者
先程の不穏な言葉の主は、顔に大きな傷のある男だった。
不機嫌な様子を隠しもせずに、壁際の人物を睨みつけている。
そして、傷の男の仲間と思しき長髪の男と、スキンヘッドの男。
2人共、相手が逃げない様に道を塞ぎながら睨みを効かせている。
そして、その男達に囲まれているアルメルシアとエミリー。
2人の側には、1人の女性と小さな子供がおり、子供の手には潰れて不格好な形になってしまったクレープのような食べ物。
そして、顔に傷のある男のズボンに、クレープのものと思しき染みがあった。
恐らく、子供が歩いている時に誤って男にぶつかり、汚してしまったのだろう。
アルメルシアは女性と子供の前に庇うように立ち、エミリーはアルメルシアのすぐ側に控えている。
「いくらなんでも、弁償と慰謝料に金貨20枚はやりすぎよ」
毅然とした態度で、アルメルシアは言った。
「俺が誰か分かって言ってんのか? お嬢ちゃん」
そう言うのは、顔に大きな傷のある男。ズボンには、クレープの染みがついている。
「悪い事したんだから、弁償してもらわなきゃなぁ?」
見せびらかすようにナイフを弄びながら言うのは長髪の男。
「金貨20枚出しゃ無かったことにしてやるって言ってんだろ?
大人しく出した方が痛い思いしなくて済むぜ?」
拳に鎖を巻いたスキンヘッドの男が言った。
彼等は、まだ志朗の存在には気づいていない。
辺りを探るが、近くに兵士はいない様だ。
「そんな大金、用意出来ません……!」
女性が子供を守るように抱きしめ反論する。
「……なら、何されても文句は言えねぇぜ」
スキンヘッドの男が言った。拳に巻かれた鎖が、小さく音を立てる。
――なんとかしないと。
志朗は、杖を構える。しかし、杖を振るのを躊躇した。
――……戦って良いんだろうか?
少し距離はあるが、急いで兵士をここに連れて来た方が良いのではないか?
あるいは、大声で兵士を呼ぶフリをして彼等を追い払った方が良いのではないか? そんな考えが頭をよぎる。
志朗の視線の先では、男達がじわじわと距離を詰めている。
その時、アルメルシアが一歩前に出た。傷の男と真正面から向かい合う。
「お嬢ちゃん達には関係ねぇだろぉ? 怪我したくなかったらさっさと退けな」
長髪の男が、アルメルシアにナイフを向けながら言った。
その時、エミリーが動いた。
アルメルシアと傷の男の間に割って入る。
傷の男はエミリーを睨みつけるが、エミリーは全く動じない。
「衣服の弁償と慰謝料。と言いますが、あまりに法外な額であると思われます。
金額の訂正を要求します」
「あんたにゃ聞いてねぇよ。
退けなきゃ痛い目みるぞ?」
ドスの効いた声で凄む傷の男。
「…………痛い思いをするのは、そちらの方ではありませんか?」
「……なんだと?」
男を睨みつけるエミリー。
傷の男のこめかみに青筋が浮かぶ。
傷の男が、エミリーの胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
その時、
エミリーが素早く傷の男の手を掴み、流れるような動作で捻り上げた。
小さな呻き声を上げる傷の男に、一瞬何が起きたか分からずに狼狽える長髪の男とスキンヘッドの男。
しかし、すぐに各々の武器を構えてエミリーに襲い掛かる。
「……警告はしました」
そう言ったエミリーの目は、酷く冷たかった。




