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馬車の中



 馬車内


 志朗は、とても居心地が悪かった。


 理由は志朗の真向かい。

 志朗の座る席の真正面に座し、一切視線を逸らすことなく志朗を睨み続けるエミリーの姿だった。


「……あの」


 エミリーの射貫く様な視線だけでもどうにか和らげようと、志朗は話し掛けた。


「なんでしょう?」


「今日は、いい天気ですね」


「空は曇っていたように思いますが?」


 志朗は、馬車の窓から外を見る。夜明け前の薄暗い景色。天気は生憎の曇である。


「…………。」


 声の掛け方を盛大に失敗したようだ。



 まだ諦めるには早い。もう一度、志朗は会話を試みる。


「えっと……外の景色……綺麗ですね。街並みとか……」


「えぇ、特にこの城下は職人達が丹精込めて作ったものですので」


 一切窓の外には目を向けず、志朗を見つめたまま答えるエミリー。


 城下を低く飛ぶ魔法使いの姿が、志朗の目に留まる。


「随分と低い所を飛んでいますね……」


「城下には特殊な結界が張られており、一定の高さ以上は飛べない仕組みになっているのです。ご存知無いのですか?」


「す、すいません。初めて知りました」


 先日のダリアのアクロバット飛行は、これのせいでもあった様だ。


 再びの沈黙。


「……この国の、お、おすすめの場所とかって、ありますか?」


「姫様が手掛けておられる中庭の景色は、この国のどこよりも美しいと思っております」


「あ、あそことても綺麗ですよね!

 夜でも花がぼんやりと光っているようで……!」


「夜光花という種類の花をご存知ないのですか?

 あれらは夜、月の明かりで淡く光るのです。

 中庭にも数種類植えているので、光っているのはそれかと」


「そ……そうなんですね。

 初めて知りました……」


「貴方のお師匠様は、そんな事もご教授されないのですか?」


「…………すいません」


 2人の様子に見兼ねたアルメルシアが、口を開く。


「エミリー、あまりシロウをいじめないでちょうだい。

 シロウは、今までほとんど外に出た事がないのだから、知らなくても仕方がないわ」


「姫様。この程度であれば私はなんとも思いません。

 しかし、あまりに常識を知らないというのは、有事の際に不利にしかなりません」


「そ、そうかもしれないけれど」


「いくら先の戦争で戦果を上げ、国の発展に尽力した魔法使い、ダリア様ダミア様の推薦でも、

 私は出自の知れない者を信頼する事は出来ません」


「…………。」


 キッパリと言い切ったエミリーに、アルメルシアは困った様な笑顔を浮かべた。



 その後も、志朗はどうにかエミリーとの意思疎通を図ろうとするが、どれも上手くいかず、結局城下の外門に着くまで、両者の距離が縮まることは無かった。



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