出発
裏口から城の外へ出た志朗達。
歩きながら、アルメルシアが口を開く。
「ここから城下の外までは、早朝に動く馬車に紛れながら移動します。
城下の外に出た後の移動は、志朗にお任せしますね」
「はい。分かりまし…………えっ?」
返事をしながらアルメルシアの方を見た志朗は、驚きのあまり固まった。
何故なら、フードを被ったアルメルシアの髪と瞳の色が、濃い茶色に変わっていたからだ。
アルメルシアは、イタズラが成功した子供の様に笑う。
「ダリア様から頂いた物です。フードを被ると、容姿を目立たない様に変えてくれるのです」
志朗は、納得しながらフードをまじまじと見つめる。
道具自体に魔法が掛かっている様だ。物語で言う所の魔道具の様なものだろうか。
術者との距離、生死に関わらず魔法が発動し、人間でも扱えるものだと昨夜ダリアから聞いた。
――その代わりに作るのがとても面倒だってボヤいていたな……。
「すごいですね……」
「私も驚きました」
楽しげに言うアルメルシア。
髪の色が変わり先程とまた違った印象ではあるが、どちらの姿も美しい。
志朗がアルメルシアに見惚れていると、不意に咳払いが聞こえた。
「先を急ぎましょう。魔法使い様」
「すいません……」
眼鏡の位置を直しながら言ったエミリーに、志朗は半ば反射的に謝罪した。
先程アルメルシアが言った通り、城門前には1台の馬車が止まっていた。
エミリーが馬車に近づき、馬車の周りを軽く検分した後、扉を開けて車内を確認する。
その後、アルメルシアの為に扉を開け、中へ促した。
その様子を見つめていた志朗に、エミリーは、
「念の為です。妙な細工があっては困りますから」
横目で志朗を睨みながら言った。
なんとも微妙な空気のまま、志朗達を乗せた馬車は、街の外へ向けて進み出したのだった。
――その姿を、王城内から眺める影が1つ。
王城内 とある部屋
窓際に佇む女性は、城下の外へ駆けていく馬車を見送っていた。
窓から入る風が、女性の長い水色の髪を撫でていく。
「……似ているわね、あの子」
女性はそっと呟いた。
金色の刺繍が施されたローブは、かつて東の魔法使い達が袖を通していたものだ。今、それを着ているものは殆どいない。
そして、黒い髪に細い目。
女性は、物思いにふける様にそっと目を伏せる。
「皇太后陛下」
女性に向かって、オリーブの階級章をつけた兵士が言った。昨夜、志朗に道案内をした老齢の兵士だった。
「回診のお時間です。
お疲れでしょうが、どうか……」
兵士の言葉に、皇太后と呼ばれた女性は振り返る。
「分かっています。
こんな所で音を上げていては、孫娘に顔向け出来ませんから」
そう言った後、すぐに女性は回診の準備を整え、兵士と共に部屋を後にした。




