魔法使いと国
「では、シロウ様」
「あ、あの……」
「?、なんですか?」
はて?と首を傾げながらアルメルシアは言った。
「俺の事も、『シロウ』と呼んでください」
様付けで呼ばれるのは落ち着かない。志朗は緊張した面持ちで提案した。
アルメルシアもすぐに頷いた。
「分かりました。
では……シロウ」
「……はい」
穏やかに名前を呼ぶアルメルシアに、少々たどたどしく答える志朗。
「少し、話をしませんか?
この国の事、魔法使いの事も、私が知る限りですがお教えしましょう」
「はい、お願いします」
志朗の言葉に頷いたアルメルシアは、「何から話しましょうか……」と言いながらひとつずつ話し始めた。
アルメルシアの話によると、この国は周りを高い山脈に囲まれた巨大な盆地に有り、近隣に他国は無い。
大昔に、盆地の外から人がやってきてここに国を造ったのではないかと言われているが、当時の文献は殆ど残っていないという。
魔法使いは、ずっと前から存在していたらしいが、魔法使いに関する文献もまた非常に数が少なく、いつ、どの様に現れたのかは未だに推測の域を出ないらしい。
人にとって、魔法使いと友好を結ぶ前はほとんど何も分からない。得体の知れない存在だったようだ。
魔法使いの話になってもピンと来ない様子の志朗に、アルメルシアは苦笑した。
「シロウは、今までどんな風に暮らしていたのですか?」
「えっと……」
そう言われて頭に思い浮かぶのは、高校や向こうの世界で心配しているであろう家族、友人の事。
しかし、その事を今ここで言えるはずもなく……。
「…………ダミアさんの所で……暮らしていました」
必死に考えたが、こう返答するのがやっとだった。
「どんな風に?」
アルメルシアが身を乗り出して聞いてくる。
志朗は、小説や昔読んだ絵本の内容を総動員し、ゆっくりと話し出す。
「えっと……呪いに使う材料を、森の中に取りに行ったり……ダミアさんから言われた本を取りに行ったり……掃除や洗濯を手伝ったり……色々です……」
「まぁ!まるで昔読んだ本の中の人々の様な暮らしをしていたのですね」
どこか嬉しそうに言うアルメルシアに、志朗は頷きながら、
――……ダミアさん、なんかごめんなさい。
好き勝手適当に話してしまったことを、まだ一度しか会ったことのない魔法使いに心の中で謝罪した。
「祖母も、魔法使いの事はあまり話してくれないから、シロウから聞けて嬉しいわ。
でも、本当にダミア様の元から殆ど出ていなかったのですね……。
魔法使いの事もご存知ないのでしょう?」
「はい。ダミアさん……師匠も、その件に関して、あまり話をしてはくれなかったので……」
シロウの言葉に頷いたアルメルシアは、魔法使いについても少し話してくれた。
魔法使いは、見た目こそ人間と大差ないが、その寿命は人間の数倍は長い。
ダリアとダミアも見た目こそ若々しいが、すでに60歳を越えている。
見た目は実力の高い魔法使い程自由に変えられるらしく、魔法使いにとって一種のステータスの様なものになっているのだとか。
そして、魔法使いと人間の一番の違いは人間には使う事の出来ない魔法を使う事だろう。
魔法とは、人間には起こすことの出来ない事象で、何も無い所から火や水を出す。空を飛ぶ。手を触れずに物を動かす等だ。
この辺りは、志朗の想像する魔法使いの像と同じようだ。
そして、その中でも極めて特殊な事象を引き起こす事が出来る者達を、『特異な血族』として時に重宝がられ、また時に忌まれてきたらしい。
部位欠損の様な大怪我を治す。他の魔法使いが掛けた呪いを解く。遠く離れた場所まで一瞬で移動する。等、魔法使いでも不可能とされる事象を引き起こすと言う。
中には人や魔法使いを害する事象を引き起こす血族もおり、その者達は魔法使いの中でも異端とされてきたらしい。
「今回の一件のこれも、その『特異な血族』が使う魔法の1つと聞いています」
アルメルシアが、自身の腕をそっと擦る。細い両腕には、肘上まである白い手袋をはめており、例の痣がどこまで進行しているかは分からなかった。
志朗は押し黙る。そして、先程から気になっていた事をアルメルシアに問うた。
「……皆さんの体調は……どうですか?」




