返答
「すいません」と謝った後、志朗は続ける。
「俺は、この国に住む人の事も魔法使いの事も、良く知りません。
今回の一件についても、俺は今日聞かされたばかりでした。
……だから、もし宜しければ教えてくれませんか?
この国に住む人の事を、魔法使いの事を、そして……姫様の事を」
初めて謁見の間で会った時も今も、アルメルシアはとても美しい人だと思った。
けれど、穏やかに微笑むその表情は、志朗には何故か寂しげに写った。
何故、彼女が忌み子などと呼ばれるのか、何故魔法使いを疎む者がいるのか。
この事件の首謀者は、何故王家や貴族達に呪いを掛けたのか。
彼女を守り王の望みを叶える為に、知っておかなければならないかもしれないと、志朗は思った。
「……そう……ですか……」
アルメルシアは、俯いた。
その肩は、心なしか震えている。
志朗は今更ながらハッとした。
王族に、一国の姫に対して、『穢れているか分からない』等という返答はとてつもなく失礼だったのではないかと。
「えっと、その……!
失礼な事言ってすいません!
……でも……あの……」
「…………ふふっ」
分かりやすく慌て出した志朗に、アルメルシアは小刻みに肩を震わせて笑いだした。
志朗は、血の気が引く思いだった。
しかし、次にアルメルシアが放った言葉は、志朗が想像していた反応とは些か違うものだった。
「今までこの質問を投げ掛けて、否定しなかったのは貴方が初めてです」
口元を手で隠しながら穏やかに笑うアルメルシア。
「安心して下さい、怒ってなどいませんよ。
私も、少々意地の悪い質問をしました」
そして、そっと小さな声で「そうですね……そういう事にしておきましょう」と言ったのだった。
「シロウ様」
「は、はい……!」
「私の事は、『姫様』ではなく『ルシア』とお呼びください」
「……え?」
あまりに唐突に言われた為、意味を理解しきれずに固まる志朗。
「明日からの移動中、私は一国の姫ではなく1人の町娘として行動します。
王族が無闇に動けば、国の人達に疑念や不安を与えるやもしれません」
「お願い出来ますか?」と言い、何かを待つように口を閉じたアルメルシア。
――……実際に呼んでみて欲しいって事かな?
「えっと……『ルシア様』」
「『様』は、付けないで下さい」
穏やかではあるが、有無を言わせぬ口調であった。
「……る、ルシア……さん」
「はい」
よく出来ましたとばかりに、アルメルシアは微笑んだ。




