中庭と姫
お待たせ致しました。
いつもお読み頂きありがとうございます。
少女が振り向く。
水色の髪がさらりと揺れ、深い碧の双眸が志朗を捉える。
「……貴方は、ダミア様のお弟子様……シロウ様……でしたか?」
志朗は頷いた。
「……お休みにならなくて良いんですか?」
アルメルシアは、そっと目を伏せる。長いまつ毛が、陶器の様に白い肌に影を落とす。
「少し……花を見たかったのです。
もうすぐ出発だと思うと、中々寝付けなくて。
シロウ様。もし宜しければ、こちらにいらして下さいませんか?
話し相手が欲しいと思っていた所なのです」
戸惑いながらも頷いた志朗は、緊張した面持ちで花壇の方に近づき、アルメルシアの隣に腰掛けた。
歳の近い異性と話をした経験が殆ど無い為、何を話せば良いのかさっぱり分からない。
「謁見の間で見た時も思いましたが、本当にお若いのですね」
「あ、いえ……」
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
穏やかに微笑みながらアルメルシアは言う。
何を話したら良いのか分からないまま、志朗は花壇の方へ視線を向けた。
色とりどりの花が咲き誇り、天井のガラスからは柔らかな月明かりが差し込んでいる。
見上げると、空には大きな金色の月と小さな赤い月が浮かんでいた。もっとも、これを月と呼んでいいのかは分からないが……。
「とても、綺麗な場所ですね」
「えぇ、庭師がとても丁寧に育ててくれています。
時折、私とお祖母様も花壇の手入れを手伝っているのですよ。
私のお気に入りの場所です」
嬉しそうな声で言うアルメルシア。
花壇に向けていた視線を、隣へ向ける。
先程と同じく穏やかに微笑むアルメルシア。
月の光が、簡素ではあるが質の良い白いドレスに身を包んだ姿を一層美しく輝かせる。
絵画……或いは人形の様に整った顔立ち。しかし、その目元には薄らと隈ができており疲労が溜まっているのが見て取れた。
「あの……『シロウ様』」
志郎の言葉を、アルメルシアが遮る。
「シロウ様は……魔法使いと人間の間に生まれた子は、穢れていると思いますか?」
「…………。」
志朗は口篭る。
――『今代の王の姫君は、魔法使いからも嫌煙される忌み子だと聞く』
先程の食堂で兵士が言っていた言葉を思い出した。
この世界の事を、魔法使いの事を志朗は知らない。
どう返したら良いのか、そもそも余所者である自分が答えを返してしまって良いのか。志朗には分からなかった。
アルメルシアは、志朗をじっと見つめながら返事を待っている。
「……俺には……分かりません」




