思案
歩き去っていく兵士の背を見送りながら志朗は、先程の事を思い返していた。
『いつ容態が急変するか、皆気が気でないのでしょう』
そして、ベッドに寝ている人物の手を祈るように握るアルメルシアの姿。
ベッドで眠る人物までは、志朗の場所からは見えなかったが、もしかするとアルメルシアの兄だったのかもしれないと志朗は思った。
王とアルメルシアは一見体調に変わりが無い様に見えるが、呪いが進行していくとどういった症状が出るのか、志朗は知らない。
寝たきりになってしまうのか。或いは苦痛を伴うものだったとしたら、親族の胸中は決して穏やかでは無いだろう。
――もし、それが自分の家族だったら……。
ふと、そんな考えが頭を過ぎり、志朗はゾッとした。
得体の知れない病や呪いに掛かるだなんて、冗談ではない。きっと死ぬ程心配するだろう。
――…………父さんと母さん、心配してるかな?
ここに来てから早数時間。向こうでも同じ様に時間が進んでいるとしたらもう深夜を回っているはずだ。
ダミアが何か手を回している可能性もあるが、きっと心配しているだろう。と志朗は思った。
姫や王の為に、そして家族の元へ早く帰る為に、一刻も早く呪いを解く方法を見つけてこなければと、気を引き締めたその時、
またもや聞き覚えのある足音が近付いて来た。
――まずい……ダリアさんだ……!
志朗は即座に辺りを見回し、隠れる場所を探す。
――見つかったらまたデコピンされる……!
これ以上額を弾かれてなるものか。
そう思い、志朗は右側の大階段と柱の影に身を隠す。
足音が聞こえるのは階段から向かって左側。
先程兵士が裏庭があると言った方だ。
可能な限り身動きせずに息を殺す。
靴音は、一定のリズムでこちらの方へ向かってくる。
志朗のすぐ側でヒールの音がなった。
――見つかった……?
ヒールの音はそのまま志朗が隠れている場所を通り過ぎ、次第に遠ざかっていった。
志朗は暫く待った。先程の二の舞になる訳にはいかない。
少しして、ダリアが戻ってくる気配が無いことを確認すると、志朗は物陰から出た。
ダリアが去っていった方を見ながら、ほっと胸を撫で下ろす。
――良かった。
今回は見つからなかったようだ。
しかし、安心したのも束の間の事。
――……何か来る。
それは、足音と言うよりは確信めいた直感の様なものだった。
――ダリアさんとは違う別の人……いや、これは……。
身構えること10秒程、廊下の角から見えてきたのは、黒い三角耳だった。




