アルメルシア
王の言葉に、扉の側にいた兵士が駆け出す。
数分もしないうちに、兵士は1人の少女を連れて戻ってきた。
王と同じく水色の艶やかな髪。腰まであるそれは、毛先の方へ向かうにつれ蜜を溶かしこんだような金の色彩へ変わっている。
水色の長いまつ毛に彩られた深く濃い碧の瞳が、冷たく澄んだ雪解けの水を思わせた。
少女は、しっかりとした足取りで玉座の方へ向かう。
志朗と目が合った一瞬、少女は志朗に向かって薄らと微笑んだ。
志朗は急な事に驚き、一瞬どう返すべきかと狼狽えた。
しかし、その間に少女は先程同様に表情を引き締め、強い光を秘めた目を奥にいる王へと向ける。
少女は、その場で優雅に一礼した。
「お待たせしました、国王陛下。『アルメルシア』にございます」
「話は聞いているか?」
「はい。先程兵士様より伺っております。
どうか、私に引き受けさせて下さい」
王は頷き、顔を志朗の方へ向ける。
「我が娘アルメルシアだ。シロウ、お前には娘を連れて魔法使いの隠れ里へ行ってもらう事になる。
使いの者だけでは取り合って貰えぬ可能性もあろうが、王家の者が直に出向いてきたとあれば、あやつらも邪険にはすまい」
王はここで一旦言葉を切り、「もう一つ、そなたには気をつけて貰わねばならぬ事がある」と前置きした。
「最近、国の外で妙なモノが目撃されている。幸い、国の中で目撃されたという話は無いが、くれぐれも用心せよ」
――妙なモノ……?
志朗は、王の言い方に何処か言い様の無い違和感を覚えた。
「国民達には、今回の一件は伏せてある。
今、国に余計な混乱を招くことは極力避けたい。
そなたも、なるべく目立つ事の無いよう留意せよ。
出立は夜明け前。それまで、各々準備を整え、体を休めよ」
「分かりました」
「必ずや、お兄様達や皆の呪いを解く術を見つけて参ります」
大広間に、少年と少女の声が響く。
数分後、志朗は謁見の間を出て1階のロビーにいた。
各自準備をを整えてから、日の出前に志朗とアルメルシア姫。そして姫のお付の者1名の、計3名で西の隠れ里へと向かう事になった。
「シロウ」
大階段からダリアが降りてくるのが見えた。
「……ダリアさん、すいませんお願いが」
「あぁ、時間が惜しい。場所を変えよう」
そう言うやいなや、階段を降りきってすぐに足早に歩きだすダリア。志朗は、小走りで後を追う。
幾つもの通路を曲がり、扉を開けると日の光と共に湿った土の匂いがした。
ダリアと共に来たのは城の裏手、短い芝が広がり低い木が点在する場所だった。人の姿もまばらで、志朗がダリアに頼み事するにはうってつけの場所だった。
「ここなら問題ないだろう。
短時間で詰め込む事になるが構わないかい?」
ダリアは、腰に下げていた皮のケースから杖を抜き志朗に向ける。
志朗も、杖を取り出してダリアと向き合った。その表情は真剣そのもの。
「はい、お願いします。俺に魔法を教えてください」




