茨の呪い
「……それは」
「師から聞き及んでいるだろう。魔法使いの中でも更に特異な魔法を使うものが居ると。
ある血族にのみ伝わる死の魔法、呪いの一種。
その茨の痣が全身に広がった時、その者を死に至らしめるものだと聞いた」
王は、捲りあげた袖を元に戻し、自身の腕を擦りながら言う。
「呪いを解くには、術者を見つけて解呪させるか殺すのが定石。しかし、術者を探させているが今も見つかっていないのが現状だ。
このままでは、後2ヶ月……呪いの進行の早い者は1ヶ月と言ったところか……」
そこで王は一旦言葉を切った。少しの間考え込み、考えが纏まったのかゆっくり口を開いた。
「私だけなら……これも運命と受け入れる事も出来よう」
王の言葉に周りにいた貴族服の者達が次々に「何をおっしゃいますか!?」「そんな運命などある訳が無い」と口を揃えて言う。
「私だけならまだ良いのだ……。
問題なのは、私の子……第一皇子、第二皇子。そして、姫。更には大臣の子息や公爵家の令嬢までその呪いを受けた事だ」
「……呪いを受けた方々は……今、どうされて居るのですか?」
志朗が困惑しつつも王に尋ねる。
「息子2人は、私と娘よりも呪いの進行が早く、私の母が付きっきりで診ているが、それでも進行を遅らせるのがやっとといったところだ。
他の者達も、日に日に痣の範囲が広くなっている」
痛ましげに目を伏せる王。しかし、すぐに先程の毅然とした表情に戻ると、威厳に満ちた声で志朗に告げた。
「だが、まだ方法が無い訳では無い。
術者がその場に居らずとも、呪いを解く方法がかつて魔法使い達の住んでいた隠れ里にあると分かった。
今、そこは西の魔法使い達が暮らしていると聞く。
シロウ。そなたには、西の魔法使い達が住む隠れ里へ向かい、呪いを解く方法を探して来て欲しいのだ。
西の魔法使い達とは、今でこそ互いに不可侵を約束したがこちらに協力するとは限らぬ。一筋縄ではいかぬだろうが、頼めるか?」
――死の呪い……。
――自分に、出来るだろうか……?
志朗はダミアの弟子では無い。魔法すら先程少しだけ使える様になったばかりのただの人間だ。
ダリアは、『手を貸してくれればいい』と言ったが、果たして本当にこれだけの責任ある仕事を自分は全う出来るのか……。志朗は、漠然とした不安に包まれた。
その時、志朗を見つめる人の中に縋るような目をした者が居ることに気付いた。恐らく、先程王が言った大臣や公爵家の者、王家を案じるもの達だろう。
彼らは志朗がただの一般人である事を知らない。
日に日に広がっていく痣。いつ容態が急変するか分からぬ不安に苛まれる者達にとって、志朗は最後の希望と言っても差し支え無かった。
――出来るか……いや……出来るかじゃない。
志朗は、力強く頷いた。
「……分かりました。出来るだけ早く、呪いを解く方法を探して戻ってきます」
志朗の返答を聞いた王は、同じくしっかりと頷くと、声を張り上げる。
「誰か。『アルメルシア』をここへ」




