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国王陛下


「中へ入るが良い。そんなに遠くては、話す事もままならぬ」


 王の言葉に志朗は、ぎこちない動きで歩みを進める。ダリア、オトモ、ローレンも志朗に続いた。

 他の者達の視線が容赦なく志朗に突き刺さる。

 ようやく玉座から10m程の距離まで近づき、志朗は足を止めた。


 志朗の目に1番に飛び込んで来たのは、王の透き通るような水色の短髪だった。

 一瞬、地毛かどうか疑ってしまう程である。


 後ろで、ダリアとローレン。そしてオトモが深々と礼をする。慌てて志朗もそれに習う。


(おもて)を上げよ。」


 王の凛とした声が響く。全員がゆっくりと顔を上げ、ダリアが口を開く。


「東の魔法使いダリア。そして、弟子のローレン。

 訳あってこちらに参じる事の出来ないダミアに代わり、馳せ参じました。愚妹の非礼、今一度陳謝申し上げます」


 ダリアの言葉に、王は軽く頷いた。


「良い。そなたの妹も今事態の解決の為に動いていると聞いている。そなたらを労いこそすれ、非礼と思う事は無い」


 ダリアとローレンはもう一度深々と一礼した。

 王が視線を志朗の方へ向ける。金色の瞳が僅かに細められた。


「ダミアの弟子よ。名はなんという?」


「志朗と申します……。」


 王は、鷹揚(おうよう)に頷いた。


「あの魔法使いダミアの弟子と聞いていたが、随分と若いな……。

 シロウよ。歳は幾つだ」


「えっと……今年で16になります」


 周りがザワザワと騒がしくなった。そこかしこで、「子供ではないか」「あれがダミア様の弟子……?」「こんな若造に任せろと言うのか?」「まさか……」といった声が聞こえてくる。


「静まれ」


 威厳に満ちた声。辺りは、志朗が広間に足を踏み入れた時の様に静まり返った。


「ダミアから、そなたは今まで街に降りた事が無く国の情勢に疎いが、魔法使いとしての力量は確か。今回の件は、そなたにしか頼めぬと聞いている。

 若く才能ある魔法使いよ。本来なら長旅を労うべきであるが、今は急を要する。頼まれてくれまいか」


「……はい」


 志朗は、困惑しながらも頷く。


 知らない間に何やら凄い魔法使いに仕立てあげられ、志朗はダミアに「何故ここまでハードルを上げたのか」と問い(ただ)したくなった。

 しかし、残念な事にここにダミアは居ない。


 ――ダミアさん、一体何処に……!?


 しかし、そんな事を考えている余裕は無い。王は緊張した面持ちで話を続ける。


「ダミアから聞いて知っているだろうが、この国ではかつて大きな内乱があった。

 我が父の弟……叔父とそれを慕う派閥による謀反。王位継承権を巡った殺し合いだ」


 王の表情が苦虫を噛み潰したように歪む。


「そして、その争いに魔法使いが手を貸した」


 ダリアが王の言葉を継ぐ。


「今でこそ国に住む魔法使いも多いが、60年前。当時は殆ど人との交流が無く、魔法使い達は森の中に自分達の集落をつくって暮らしていた。


 そして、件の戦で魔法使いは東西に二分した。

 叔父の側に着いた者達は、『西の魔法使い』と呼ばれ。前国王陛下側に着いたものは『東の魔法使い』と呼ばれるようになった」


「苛烈な戦であったと父から聞いている。

 あれから60年。父亡き今は、我が母と、ダリア、ダミアを含めた極小数の者のみが当時の戦の詳細を知る生き証人となった。

 戦が終わってから時間は掛かったが、国の情勢も落ち着き(ようや)く平和が戻ってきたと思っていた。しかし、」


 王は一旦言葉を切る。


「1ヶ月程前、少数の魔法使い達が失踪したという話を耳にした。失踪した者達を捜索させていたが、思う様な成果、手掛かりは無かった。


 そして同時期に国の中核を担う者達にある()()が起きた。私にも……」


 王が、自らの服の袖を捲る。周りの貴族服の者達が痛ましそうに目を背けた。


 志朗は息を飲む。


 王の筋肉質で白い肌には、黒々とした茨の様な痣があったのだ。



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