第八章 闘具の初見
すっかり朝になり、モリはいつもより早起きをして出かける準備に取り掛かかる。
準備し終わったモリはベッドの横に戻り、静かにカイの寝顔を見守っていた。そうしているうちに時計はもう半周りをしてしまった。
「はい、怠け者、もう起きる時間よ」
素敵な声に起こされたカイは目を開けた。ウキウキして自分に期待する眼差しを向けるモリを見てカイは昨日一緒に買い物をする約束を忘れるところだった。
カイは素早く歯磨きと洗面を済ませ、二人は玄関にきた。そしてモリはカバンのチャックを開け猫のモバイルは中に飛び入った。
「モリ見て!」
カイに呼び止められたモリは振り返った。
「どうしたの?」
「あとでみんなに人間だって気づかれないように、ほら、俺、機械人に見える?」
前、道で見たペーブメントアーティストが路上で演出したマシンダンスからインスピレーションが湧いたカイは硬直した腕を動かし、ぎこちなく一歩ずつ前に進み、歩く機能を与えられたロボットかのようだ。
「ふふふ、大丈夫だよ、気をつけることがあれば事前に教えるわ。だからカイは私のそばにずっといてね。そうすれば気づかれないから」とダンスにセンスのないカイのおかしな動きを見てモリは笑わずにはいられなかった。
ドアに鍵をかけたあと二人は廊下でロープウェイの到来を待った。昨日モリが猫モバイルで予約したロープウェイは建物に入り、遅れることなく家の前に着いた。
ロープウェイは二人を乗せ、商店街方向へと向かった。上空から見下ろした街道にはだんだん人が集まり、奇妙でおかしな形をした機械人も多くなってきた。
カイが窓際で下方を興味津々に見ていることに気づいたモリは彼のそばまで行った。
「行ってみる?ロープウェーイに乗らずに歩こうか」
カイは頷いた。カイの好奇心を満たすためにモリは頭を上げ「ごめんなさい、KIシステム、歩きモードに変換します」と言った後ロープウェイは街道まで下降した。
まだ10時も過ぎてないのに、この古い電気を売っている『旧電気街』と名付けられている街は商店街に行き交う人に占められ、大変栄えていた。もう時期終わろうとしている長休暇の最後の機会を見逃さず楽しもうとする人が多いようだ。
「人型、獣人型、妖精型、ドラゴン型、竜人型……」
両端のお店と建築が重ね式の道で様々な機械人を見て、カイは自分が異世界にいるかのように、気付かないうちに歩くスピードを落としていた。歩くスピードが違う二人はだんだんと距離が離れやがて人溜まりではぐれてしまった。
カイとすれ違うのは異なった種族の機械人だった。その中には多数の人間の容貌をした機械人や奇妙な形をしたものもいれば皮膚もなく表面が金属の外見をしたものもいる。これ以外に、いろんな模様で象られた混合型機械人も当然いる。例えば、獣人型機械人は動物型機械人と人型機械人が混合したものであるので獣人機械人は外見が動物型機械人に似ていながらその特徴もある。そして、人型機械人にも似ているため人間の特徴も持っている。
このように人類と人型機械人、動物と動物機械人などは類似することがあるのだ。例えば、外観、身体能力(力、速度、耐力、敏捷性、柔軟性)などの機能。逆に異なることもある。例えば、動物と人類の骨は白色で、主成分はカルシウムでできていてすなわち白骨である。機械人の骨は銀白色で、主成分は鉄でありすなわち鉄骨である。
カイがまだ周囲を観察しているときに後ろにいた人溜まりが両端に向かって移動したと同時にその分け目が自分にだんだんと近づき、馬車がカイの背後に近づいてきた。
「すみません、ちょっといいですか」と御者席にいる御者が周りの楽しい雰囲気を壊さないように優しく馬車の周りや前方の人に声をかけながら開けられた道を穏やかに運行していた。
そしてカイも周りの人のように道の両端へと下がった。馬が荷物を積んでいる馬車を引いているのを見てカイは頭に疑問が浮かんだ。車の禁止区域に入っていると考えていたが現実ではそうでなかったようだ。
人溜まりがいなくなった道路に目を向けるとそこには車線が引かれている形跡はなかった。
道路沿いに花壇で隔てているが歩道と車道には明白とした線は引かれていない。なぜなら、外出するとき住民はより便利なロープウェイを選ぶからである。このため、機械城には車輌が少ない。稀に車が通るのであれば車と人がお互いに道を譲りあうようになっている。
馬はまだ遠くまで行ってないのに頭を振りながらため息を吐いた。すると馬は速度を落として止まった。後ろから見ると、馬車に積まれた巧みに包装された荷物と御者席におじさんが両手で頭を抱えている後ろ姿。多分大事なお客様が荷物を待っているためおじさんはストライキをしている馬に悩まされている。
「今朝枯れ草を与えてないからってこんなに早く仕返ししないでよな。ほら早く動いて。帰ったら大好物の新鮮な草とトウモロコシ買ってあげるから、食べ放題、これで勘弁してくれよな?」
ちっとも動こうとしない馬を見ておじさんは腰にかけてある鞭を取り出し、高く上げ馬に向かって振り下ろそうとしたがやはり戸惑った。
「ダメだ、今打ったら、驚いて周りの人を傷つけてしまうかもしれん。もう荷物を届けるのに間に合いそうにないな、この商売は水の泡になるな」
おじさんは仕方なく鞭をしまいこんだ。体を斜めて馬車に積んである荷物を見て損失を計算し始めた。するとクラクションがなるのが聞こえたおじさんは離れたところを見つめた。慌てて避ける人溜まりから高速にこっちに向かってくる車が見えた。運転席に座っている男は周囲の人の安全と気持ちを考慮せず、賑やかなところででも速度を落とさず我が夢中に車を走らせている。
スポーツカーの視野は低いため、人溜まりは避けるために走り去った後、男はやっと目の前に現れた馬車に気づいた。しかし、避けるのはもう間に合わない。
急ブレーキをかけたが馬車とスポーツカーはやはり衝突してしまった。馬車にある荷物は後ろへ飛び散り、地面とスポーツカーのボンネットに落ちてしまった。
御者席から飛び降りたおじさんは後ろを確認した。そして、おじさんは荷物を気にせずそのままスポーツカーの運転席のドアの前に向かった。
「すみません、大丈夫ですか?救急ロープウェイを呼びましょうか」
おじさんが言った救急ロープウェイは傷病者を病院などの医療施設まで迅速かつ安全に搬送するためのロープウェイである。救急ロープウェイは白い車体を持ち、車体の上部には二つの警示灯がある。現場に向かうとき、警示灯は赤く光り『ピーポー』の音を出す警報機と同時に周りのロープウェイに避けるよう呼びかける役割がある。現場にたどり着いた時に地面まで下降する際、周りの人に呼びかける役割もある。
救急ロープウェイの使い道、外見と大きさは人類時代の救急車と同じだが、空中で運行するため辿り着ける範囲は比較的に広い。これ以外に、KIシステムの存在により運転室に運転者がいないため必要な救護者以外に救急ロープウェイは救急車より車内にもう一人多く搬送することができる。つまり二人まで搬送できる。
救急ロープウェイはヘリコプターの様に普段病院の屋上で待機している。
両車の衝突は最初行き交う人の目を引くことはなかった。なぜなら、機械城で行われる戦いはこれより激しいのが多いからだ。
人の目を引いたのはスポーツカーにいた男がドアを開ける時だった。
運転席のドアが開いた。煙が開かれたドアから周囲に漂った。
「いい匂い〜誰かこの近くで焼肉してる?」「お腹空いた」「うん〜〜わかった、焼きトカゲの匂いだ」
空気中に漂う焼き肉の匂いに惹きつけられた人々は足を止め、興奮気味に会話をし始め冷静になることはできなかった。鼻が敏感なカイは当然この匂いに気づいた。しかも、高級食材を焼いた後に出る匂いだとわかった。
人々は焼き肉の匂いを発する場所を探し、事故現場に向かってきた人々は気づかないうちに巨大な円になって現場を囲んでいた。
もともと馬車に近いカイは寄ってきた人たちに押され、事故現場により近くなった。すると、モリの姿が見えないカイは二人がはぐれたことに気づく。
「しまった!やばい、モリがいない。はぐれたか」
周りを確認してもモリの姿が見当たらないカイは人だまりから出ようとしたが、人が多いためしばらくその位置に居るしかなかった。
視線をスポーツカーに移すとトカゲ男が車から降りてきた。男は手に鏡を持ち、自分のカツラを整えながら怒りのために尻尾でドアを強く閉めた。
男はサングラスで上半身のブラウスのボタンは胸元まで開いていた。下半身は季節に合わない短パンだった。全身の鱗片は焦げ赤く、それは浜辺で太陽によって熟したからである。ちなみに、未来の世界での海は黄色と青色でできている。先ほどの焼肉の匂いは太陽によって熟した体から漂う匂いだが彼自身はそれに気づいてないようだ。
「すみません、お怪我はございませんか。申し訳ないです、馬車が道路を塞いでしまって。本当に申し訳ないです。弁償しますので」
おじさんは男を見て頭を下げて謝り続けた。サングラスをした男はヤンキー面していたが、おじさんの筋肉のついた腕を見ると男を恐れているわけではなく自分の誤りをココロから許してほしいだけだとわかっただとわかった。しかし、男は貧乏な人をあざ笑うような微笑みを浮かべて言った:
「弁償?そんな金あるのかな?貧乏臭っ」
「これで足りますでしょうか」とおじさんは自分の財布を開け、中には銅鉄、銀鉄そして何枚かの金鉄も入っている。
直感からして弁償するのに十分だとカイは思った。衝突でヒビが入ってしまった馬車に比べると男のスポーツカーにはほんの少しの擦り傷が残っただけだった。何と言っても事故の原因は男が交通ルールを守らず加速運転をしていたからだ。
「おい、この下賤なヤツ、どんだけ俺の時間を無駄にしてんのわかってんの?それにどんだけ俺の良い気分の損ねてんのかもわかってないよね?海辺で楽しく過ごしたバケーションがこれで台無しだ、な!これを弁償できんのか?……」
穏便なおじさんと違って一寸を得、一尺を進まんとする男は態度がさらに卑劣になった。そして、男は手を挙げおじさんが持っている財布を地面に叩き落とした。
おじさんは怒りもせず、腰をおろして落ちた銭を拾った。
「それに、お金で弁償するだなんて、ったく貧乏人のやり方じゃねぇんだよ」
男は人型としてのおじさんを言語で侮辱しながらサングラスを外した。サングラスを外す男の頭部は外す動きに合わせて斜め上に振った。男は自分の動作がとてもかっこいいと思っているが、イケメンしかこの動作に似合わないことから周りで現場を観察している人たちにとってはとてつもなく滑稽だ。メガネやけをした男の焦げ赤色の肌に両目の部分だけが白く残り、頭を振る滑稽な動作に周囲の人たちの笑いを誘った。涙が出るぐらい滑稽な場面だった。
この時、事故現場の上方に空中で男女一人ずつ乗せているロープウェイが止まっていた。
男は両手で窓の縁を支え、上半身の大半を窓の外に出す非常に危険な姿勢をとっている。下方の状況を興味津々に見ていた。女はずっと席に座っていて、視線を手にある本から離さなかった。暇な時間を使って読書に専念しているのだ。
「な、ぺランス、なんでいつも文字だけの本が好きなんだよ、ホントつまんねぇ。スーパーブックじゃねぇのにプラス絵もねぇし」
「一瞬で目に入る画面は視界の刺激になるけど虚仮威しに乗ってるだけ。文字はそれほど強い刺激はないけど味わいが深いから印象深いの。簡単にいえば文字には文字の魅力があるってわけさ」
「文字の……魅力!?なんだそれ、食べれんの?」
「食べれるよ、精神面を満たせる食べ物よ」
「へぇ〜深いな、同じ世界じゃないな」
「ね、ジンリョウ、早くお菓子箱に入ってるサイレント豆出して、下うるさいな」と下方から絶えず笑っている声に不満を持ったのか女は不満な口調で言った。
「サイレント豆……あ、思い出した。だいぶ昔に作ったやつだよね。あれを食べた後一次的に耳がこの世界と隔離状態になる豆。でもぺランス本当に見ねぇの?下にいる人、マジで楽しそう」とジンリョウと名乗る男は窓の外に乗り出した上半身を引っ込めて女の方に向き、下方を指差して言った。
ジンリョウの顔は普通だが体は少し変わっている。
お腹の少し上のところに会話ができる口があり、そのもう少し上に呼吸あるいは匂いなどを嗅ぐことができる鼻がある。顔にある鼻と口で合計二つの鼻と口を持っている。お腹の周りにある白くて綺麗な歯があるだけではなく、大きくて長い舌もついている。位置からすると口はジンリョウの胃と繋がっているようだ。
ジンリョウは体に欠点(腹部に口と鼻)がある人型機械人で、『ゴースト城』で生まれた。
ゴースト城にはジンリョウのような体に欠点のある機械人、あるいは見た目が少し怪異な機械人が集まっている。中にいる住民たちは他の城では多少差別を受ける時がある。ココロに傷を負った彼らは『昼間は部屋で過ごし、夜になってから出かける』という生活をしている。
ジンリョウはそんな幽々たる生活環境から逃れたいので学業を終えた後ゴースト城を出た後、今一緒にロープウェイを乗っている女と知り合った。そして二人は数年一緒に生活を送ってきた。
「興味ないから下の人たちは見たくないわ」とジンリョウに返事をしている女はぺランスという。全名テム・ぺランス。彼女は程よい体つきでオムライスの中を包んでいる卵のような髪色をしていて、その両端には外せないスライスしたトマトがついている。そしてケチャップで引かれた線がそれと繋がっている。頭の両端にあるスライストマトは髪飾りではなく、ケチャップもピンではなくぺランスの体の一部である。
混合型機械人であるぺランスは食べ物でできた美女のようで誰が彼女を見ても彼女の美貌を賞賛せずにはいられない。中にはよだれを垂らすものもいる。
ぺランスは『グルメ城』で生まれ、そこの元住民の体には食べ物の特徴がある。グルメ城には数え切れない美味しい食べ物が備わっている。
お年頃のぺランスはスタイルを保つことにココロがけている。無数の美味しい食べ物を目の前にして、山のようなご馳走を避けたいがためにグルメ城を離れ、ジンリョウに会った。
ぺランスが返事したのを聞いてジンリョウのお腹にある口が動いた。そして、甲高い声で話す。
「じゃあさ、ペランス。行って味見して見ねぇ?下にいる人たちはめっちゃ美味しそうな匂いがするんだけど」
お腹にある大きな口にはジンリョウの低くて男らしい声と異なり、独立した意識があるようだ。
「別に、興味ない。私は機械人の肉なんて想像するだけで寒気を感じるものは食べたくないね……あのさあ、ジンリョウまた窓際に行っちゃって。まだ見飽きてないの?勝手にロープウェイを止めやがって。まだやることがたくさんあるから忙しいっていうのに!基地の掃除、場面の設定……何日か後に重要な会議を開くのを忘れないでよね!この大きなお口!まったくさっきみたいな冗談もうしないでよね」
「「ごめん」」
ジンリョウの上下の口が申し訳なさそうな微笑みを浮かばせたのを見てぺランスは両目を閉じた。そして、頭を少し上げ、空気を吸い込んむ動作に応じて鼻が伸縮し、下方から漂ってくるいい匂いを感じ取っている。
「確かに、もともとグルメ城に住んでた私でさえこの匂いの虜になったわ。お二人は焼き肉が食べたくなったでしょ。基地に戻ったら作ってあげるよ」
ぺランスは目を開けジンリョウに視線を移した。
「それか、 ジンリョウはもしかして始まる闘いを期待してる?あの二人はあんたにとって可愛い可愛いアリみたいな存在でしょ」
ぺランスは硬くなり、車内に座っていてちっとも立ち上がっていなく、窓の外すら見ていない。自分の鋭い聴覚プラス判断でトカゲ男とおじさんの間では闘いが起きるのは必然であると予測する。
「全部違うね。ロープウェイを止めたのは変な気配を感じたからだよ。大口も感じたよ。すぐ下にあるんだよな。でも、めっちゃ弱い」
大口はジンリョウが話しているときにぺランスに向かって「おいらも感じたよ」とジンリョウの気づきを認めた。
「気配?」
「そう、俺たちと違うんだよな。俺たちと同じ匂いがあるだけではない。あの7人の匂いも」
「怖い、そんな人存在する?ね、これは絶対ジンリョウの言い訳だよね。もう少し遊ぶ時間を稼ぎたいだけよね?もう聞きたくないわ、興味なくなってきた。……KIシステム、ロープウェイの運転続けて」
「本当だよ、ね、ペランス俺を信じて……おい、KIシステム、まだロープウェイを起動しないで」
「KIシステム、あいつをほっといて続けてください」
「わかった、じゃ……」
ジンリョウは車内に置いてあるお菓子箱を持って席を仮のジャンプ台として、ひょいっとロープウェイから飛び降りた。
ジンリョウの勝手な行動にぺランスは日常茶半でなんの反応もなかった。手にある本のページをめくりながら淡々とした口調で「むちゃをする。本当にちっとも自分の欲望をコントロールできないんだから。遊びに行くなら自分の力を抑えてね。この区域を平地にしないでよね。自分が狂者であることがバレないように、狂食」
みんなはある領域で一番強い者やその領域を率いることができる人のことを王者と呼ぶ。勇敢な人あるいはみんながまだ迷っているときに一番最初に前に一歩進むことができる人を勇者と呼ぶ。また、ある出来事や人、物あるいは感情をクレイジーにする人を狂者と呼ぶ。
狂者によってクレイジーになったときには究極に強い力を発揮することができ、体の様々な変化を遂げる。この過程は『狂化』である。
統計によるとこのような人が8人存在する。この8人の狂者の姿は世界各地で目撃されることは頻繁にあるが、一番多く目撃されているのは機械城である。ここはおそらく狂者たちに一番好かれている場所だ。
狂者たちが善なのか悪なのかは明らかにされていない。しかし、管理者たちにとって狂者たちはときに不合理なことをし出すので城内の秩序が混乱してしまうことから手の込んだ悪人であるかもしれない。
ジンリョウは第8番目の狂者で食べ物にクレイジー、コードは『狂食』である。
空中から落下する時、ジンリョウはブラウスの三つのボタンを上から下まで順番に閉じた。「下についたらできるだけ黙ってよな?今回はケンカを売りに行くわけじゃねぇから」とジンリョウは真ん中のボタンを閉じようとした時に大口に言った。
すぐに「いいよ」の答えが帰ってきたが耳にキンとくるような声を聞くとジンリョウはいつも大口が自分のいいなりになりたいか否かを判別できない。
ジンリョウはボタンを閉じた後、適当に透明なロープをつかんだ。そして、鉄棒の体操選手のように体を空中で360度回転させた。回転が終わろうとした時に良い腕力の持ち主であるジンリョウはさつま芋を半分にするかのように力入れることなくロープを折ってしまった。
ロープが折られた瞬間、すぐ下方の旧電気街にたくさんの旧式のモバイルを販売している『骨董モバイル』屋さんに古くて感情のない非常に旧式のモバイルは自動的にインターネットが接続された。非常に旧式なモバイルは一斉に接続された通知音を発したので、店内位にいるオーナーも疑問に思った。すると、ずっとカイのズボンのポケットに入っているだいぶ前にネットワークを自動検索モードに切り替えられた携帯にもインターネットが接続され、着信音が鳴った。しかし、その着信音は人々の笑い声に遮られてカイには届かなかった。
ジンリョウは折ったロープの片方だけを手に取り、直線落下している体は今度、催眠氏の手に持っている左右に動く時計のように空中で弧線を描いた。口から「ア〜ア〜ア〜」の声とともに空中で何回か行き交いした後ブレなくスポーツカーのルーフに着地した。
「気配が少し強くなったな、この近くにいるはずだ。あの人は一体どこにいるのかな?」
車体の高さと自分自身の高さで視野がやけに広い。ジンリョウはその場で周囲を見逃さず観察していた。
笑い声が絶えない中、疑惑を抱いたトカゲ男は周囲を見渡した。周りにはおじさんを笑っている人はいなく、全部自分を嘲笑っていることに気づいた。
ちょっと太ったカイの体形が人溜まりの中で特に目立つせいか、男はカイが人型機械人だと勘違いし、そして彼に向かって言う。
「なに笑ってんだ、お前に関係あんのか、え?死にてぇのか?」
男がおじさんに対する態度と自分にわざと挑発してくる行動に対してカイの心の中はすでに怒りの炎が完全に爆発してしまった。
「あ゛?テメェもう一回行ってみろ、食べられてぇのか?」
カイの気勢のある反撃はジンリョウの耳にも届いた。そして、ジンリョウは「見つけた」と言った後ルーフから飛び降りた。
男に反撃し、意気高揚したカイは思わず大脳の奥に潜んでいる傲慢さを放出した。すると、カイは暖かい気流が明らかに自分の体の中で逃げ回っているのを感じた。
−−−俺、どうなってんの?何かが頭の中から逃げ出してきた。あっ熱い。なんか全身に力が湧いてきた。このトカゲ男の腰に剣がかかってるのに、俺は何も……こいつの挑発に、俺はこんなに衝動的な人だったっけ?
心の中で疑惑を抱いている時にカイの目に変化が起きた。
目の周りには鮮明な青筋が浮かび、そして自分の感情をコントロールできなくなったカイは血管が張り裂けた。血管から滲んできた血はカイの眼球、目玉、瞳孔全体に血液が行き渡り、最終的に血液は目を全体的に赤黒い色に染めた。
男の彫り深い目にカイは鋭利な刃物のような鋭い視線を向け、まるで今にも男の体を突き刺すようであった。
カイは口が右にあげ、自信があるような表情を見せた。剣を所持しているトカゲ男だけではなく、100名のトカゲ男に千本の剣を直面しても負ける気はしない。
カイは今までにない表情を見せた。カイの異変した様子は他の人からみれば人が丸ごと変わったように見えた。しかし、エゴを失うことなくカイ自身であることに変わりはなかった。カイは強い心を持ち、傲慢であることはいかなる邪悪なものにも心をとりつかれることは無い。
−−−そうだな、俺は衝動的な人だ。挑発に対して反撃しない理由はない。
心の中で自問自答したカイは左足を一歩前に出し、トカゲ男に向かって歩き出そうとした時見知らぬ男が目の前に現れ、前に進むのを遮った。
ジンリョウはお菓子箱を開けて一粒の豆を取り出した。
指がカイの唇を分けた後豆を舌の上に置いた。
「落ち着けって、Bro!」
口の中に何を入れられた?気づいた時にはもう飲み込んでしまった。
カイの疑惑を抱く表情を見てジンリョウは半分説明を入れながら進めるような口調で話し出す。
「しん配すんな、体に害はねぇよ。今飲み込んだのは家のねぇちゃんが作った冷静豆だ。食べたら気持ちを落ち着かせる効果がある豆なんだ。さっき、興奮してたからな、俺が勝手に食べさせた。どう?うまいだろう」
美味しいかどうかは、気付く前に飲み込んちゃったから味すらわかんないよ。でも、飲み込んだ後は確かに落ち着いた。体もリラックスしてきた。
「この箱にまだたくさんのお菓子があるよ。幻覚を生む幻覚豆、話す声を変えられる変声豆。ねぇちゃんがそんなにおもしれぇくないやつもつくたんだよな。これ以外に、ポテトチップスとかクッキーとか普通のお菓子もあっから」
首にかけられている皮革の紐はお腹の前に下げている箱を固定している。ジンリョウは紹介しながら開いた両手を斜め下の箱の中の食べ物を指しながら人々に振る舞っていた。
開けられた箱にはビンやいろんなお菓子と飲み物が入っている。豆で作られたお菓子だけで7種類ぐらいある。中ではジンリョウが面白いと思っているのは冷静豆、幻覚豆、変声豆である。つまらないと思っているのは静音豆や力豆、速度豆そして痛みを消えさせる麻酔豆だ。
カイは最初にセールスマンではないかと思っていた。男は箱の中のお菓子を勧めているがお菓子には価格がついてないようだ。
価格がないのに何で購入すればいいんだ?疑惑を抱いてる場合じゃない。目の前にお菓子を勧めている男を追い払いたい。
「すみません、また今度にします。機械城に来たばかりなので、まだ仕事も見つかってないから節約しないと」
「来たばかりね、ずっと気づかなかったのはこういう……」
「大丈夫だよ、じゃ先に他んのとこ行くね。縁があればまた会えると信じてるよ」とジンリョウは親指と人差し指で顎を掴んで考えながら言った。
まだ立ち止まって見ている観客がいるのを見て遊び屋のジンリョウはせっかく来たからここでしばらく遊んでいこうと考えた。こうして、ジンリョウはルートの終点で自分を待っている−−−異族街道にいるぺランスを後にした。
「前列で各お菓子飲料を販売しているよ、欲しい人いる?」
ジンリョウは現場を見ている人々が囲んでいる内側を歩いた。そして、両手を曲げ『0』の形を作り口の前に当て、勧める声を大きく拡大させた。
カイはトカゲ男に視線を移すと状況が変化していることに気づく。おじさんに向かって立っている男は腰の紐を解き、剣を手に持った。おじさんは硬くなった胸筋で裂けた服から鍛えられた胸がむき出しになった。腕に青い血管が現れた筋肉もさらにしっかりして来た。
取り付かない事態に至らないように周りの人を巻き込みたくないとしん配していたおじさんは揉め事から身を引こうとしたので男と戦う方法で問題を解決しようとしている。
カイのそばに立っているカップルの会話から戦闘がもうすぐ起こることがわかる。
少年は少女の腕を強く組み、頭を彼女の肩に乗せて言う。
「ね〜ハニー、もう始まりそうだよ。怖いな、早くいこうよ。巻き込まれたら大変だから」
「気にすんなベイビー。危険にさらされたときは守ってやっから」
少女は自信満々に頭を上げ、リズムよく少年の掌をポンポンと叩いて不安を慰めた。
ぞっとする甘い言葉を交わすだけならまだ理解できるが少年と少女の役目が逆になっているところを見て理解できずに鳥肌が立った。
精神的に大きな打撃を受けたカイは視線を前方に移した。男は剣のクリップを握りゆっくりと鞘から抜いた。
鞘から剣を出した男は剣を高く空中に挙げ、戦闘の宣言を始めた。
「短かし命よ、断つことなく流れる時間よ、こんな下賎な種族によって浪費されるだなんて、あは、あははは」
高貴な貴族の姿をあらわにしている男の顔は酷く歪み壊れたかのように大声で笑った。男は今回の事故がもたらした影響を大いに誇張した。
男が右手に持っている剣のブレイドは透明で、火とは対極的で冷気を放ち氷属性のようだ。仿水は淡い黄色になっているためブレイドが放っている冷気も淡い黄色だった。そして、左手に握っている鞘は空気中に発散されている仿水を吸収していてエネルギーをストックしているようだ。
「下賤な種族っていちいちうるさいんだよ。この皮を裂いて中身がどれくらい高貴なものが入ってるか見てみようじゃねぇか。黄金か白銀か、それとも、普通の鉄かな」
おじさんは両手を握りしめ、拳をぶつけてココロの中の不満を発散した。そして、おじさんは男の方に向かって歩き出した。戦闘は始まった。
双方の怒りの炎はまるで周囲の空気を燃やそうとしていて、この状況を見た周りの人々の中で誰一人止める者はいなかった。
頭を高く挙げている男は頭を低くした。
「浪費された時間はテメェの命で捧げるしかないな、冷凍剣」
剣の名前を告げた後男は一足先に攻撃をし始めた。剣のブレイドを一定の角度に傾け、何の武器も持っていないのおじさんに向かって振り下ろした。すると、反応が敏速なおじさんは一歩後ろへ下り両手を合掌し、男の剣による攻撃を受け取った。双方は対峙状態に陥った。
手のひらと冷たいブレイドがひっつき、男の剣を下ろす力とおじさんの防護する力のでジュ〜ジュ〜の音が発生した。すると、ジンリョウの顔が突然そこに表れた。周囲の人が驚いただけではなく、戦闘中のおじさんと男もジンリョウの行動に驚きを隠せなかった。ジンリョウは二人の間に入り、体を半分しゃがんだ状態で近距離でおじさんの手に挟んでいるブレイドを観察し始めた。空腹感はお客さんよりも先に来てしまっているようで、商品を誰も買ってくれなかったので前に開かれたポップコーンを一人で美味しそうに食べていた。
「この後手いたくなるよ。おじさんさ、舌が雪の積もった電柱柱にひっついてしまった経験はねぇの?」とポップコーンを頬張りながら言った。
「おじさんは小さい頃に興味があったの、そのアイスのように凍った電柱柱を舐めて見たいって。多分危険な行動だっただろうな。すぐお袋に止められたよ。小僧、ありがとうな。ここを離れたほうがいい。巻き込んちゃったら大変だから」
「そうだ、戦闘中のお二人はなんか欲しいもんある?一回りして聞いてきたんだ、後お二人だけ聞いてないから」
ジンリョウは戦闘の干渉はしていなくおじさんの同伴にも見えないが、男はジンリョウが持っているポップコーンと無表情の顔を見ただけでなぜかわからないがココロの怒りが一層増した。
「どっからきたんだよ!頭おかしんじゃねぇの、戦場まで来て物を売るなんて」
ホント、マジでこいつの顔面を一発殴りてぇわ。でも片手に剣、もう片方には鞘を持ってるから空いてるてねぇし。男は考えていることを行動に移すことができないので口で「買わねぇ、どけ、どけ」と言うしかなかった。
「あ!ごめんね邪魔しちまったよ、どうぞどうぞ続けて」
ジンリョウは腕の長さ分の距離まで下がったが、戦闘中の二人にはまだ近かった。もし、おじさんが剣を挟んでいないのであれば男が一振り返りをするだけでジンリョウに当たるのだ。しかし、ジンリョウは二人の戦闘に巻き込まれるのをまるで気にしてないようだった。
腕をのばせる距離まで下がったジンリョウはポップコーンを食べながら映画館で映画を見ているように傍観者として二人の戦闘を見ていた。
男はおじさんと暫く対峙続けたが状況が依然として好転しない。すると、男は尻尾を一掃し、対峙状態を打ち負かそうとした。
おじさんは腹部が尻尾に打たれた。腹部に激痛が走り、手を離したおじさんは腹部を抱えて後ろへ何歩か後退りした。
攻撃するチャンスをつかんだ男は剣を少し持ち上げた。
男が再び襲いかかってくるのを見ておじさんは拳を強く握りしめた。血がおじさんの指の隙間から垂れて来た。ジンリョウの予想と同じで、氷で出来たブレイドは手のひらと離れたと同時に皮も一緒に剥がれて来た。
冷凍剣はおじさんの左肩に焦点を当て振り下ろされる時に、おじさんは今度右手でブレイドを握り、迷うことなく前に突き進んだ。鋭利な剣は手のひらを傷つけた。大量の鮮血が手のひらから流れ、おじさんの負傷はさらにひどくなった。前に突き進むことに伴い、男とおじさんの距離は少しずつ縮んだ。右手をブレイドの真ん中の位置にまで移動された時、おじさんは力を入れ始めた。
「おい、待って、何すんだよ、やめろ」
ブレイドはヒビが入り、凍った湖が人に踏み砕かれたような音が聞こえてきた。
冷凍剣を放棄する?と男は一時的な戸惑いを見せた。
「この一拳は、お前に返すよ」
蛮力でブレイドを切断した後、おじさんは左の拳を強く負傷した自分の腹部と同じ位置を強く打った。
男は強い反撃に吹っ飛ばされ、へなへなと地面に座り込んだ。これと同時に、おじさんに折られたブレイドも地面に落ちた。氷を地面に打ち砕いたように、氷でできたブレイドは多数の氷になってしまった。そして、太陽の光に照らされた後淡く黄色い氷に変わったブレイドは溶け始めた。
おじさんの第二拳は男の頭上に振り下ろされる。
「ストップ、ストップ、もう武器無くなったから。不公平だよ。ちょっと待って」
「じゃ、早く武器出せ」
性格が豪放なおじさんは拳をしまい、男に準備する十分な時間を与えた。すると男は親指でヒルトにあるボタンを押した後手を振り払い、剣に残った半分のブレイドを振り落とした。この時、ジンリョウは男に近付きしゃがんだ。ポップコーンを食べていないジンリョウは男を見下げるような表情を見せ、軽蔑で満ちた眼差しで男を見た。この時、ジンリョウの顔は男の顔との距離は10センチ満たない。
「公平?お前、なんか俺の気分を悪くしたな」と言い残した後ジンリョウは横側に下がった。
この下賤を片つけた後、お前の番になるからと男は考えながら怒りをこらえて反撃しなかった。
「鞘が先空気中の仿水を吸収したばかりだから、今はもう固まったな」
立ち上がった男はヒルトと鞘を併合させた。
「仿水でできたブレイドよ、もう一度鞘と併合しろ……冷凍剣」
男は再び剣を出し、すると完全な冷凍剣が空中に現れた。
冷凍剣、剣系の闘具で、氷系の闘具にも属す。主体は鞘である。鞘は空気中の仿水を吸収し、内部で冷凍していく。ヒルトにあるボタンを押すとヒルトは事前に凝固したブレイドと併合し、新たな剣となる。こうすることで、戦闘中の損害した刃を更新することができる。
冷凍剣はたくさんの利点がある。例えば、続行能力が高く戦闘中のブレイド損害や剥がれ落ちを数回に渡って補充することができる。湿った環境の下で著しい戦力が見られる。
しかし、欠点もたくさんある。例えば、氷でできたブレイドの耐久性は鉄製のブレイドより低い。ブレイドの生成時間も周辺の環境温度に左右されやすい。
男は、今度剣をあげたあと振り下ろさなかった。おじさんを誘導し、防御姿勢をとらせた。すると、次の瞬間男は何かを確認するかのように上空に目を向けた。
「ちょうどいいな、この下賤な種族よ、もう負けてるからな」
男は何か必勝する方法を見つけたようで、険悪な言葉を言い残したあと鞘を地面に落としたと同時に密かに手に隠しておいた自分の格好を整えるための鏡が人々の視野に現れた。
太陽の光が鏡を通しておじさんの目に反射し、視界を奪った。
「しまった、何も見えない」
目に辣油が入ったかのようにヒリヒリした感覚が伝わってきた。おじさんは腕を目の前に当て、警戒しながら後ずさりした。
自分の突然の攻撃に効果があったのを見た男は必勝の一撃をしようと全身の力を込めて剣をおじさんに向けて高速に突き進む。
ブレイドはおじさんの腰部から入り、深く体に差し込んだ。体を即時に避けたためブレイドが腰部をつき抜かずに済んだ。痛みを感じ取った場所から男の方向を感知できたおじさんはまだ体に差し込んでないブレイドの部分を握って男に一蹴りした。ヒルトから手が離れた男はバランスが崩れ地面に倒れこんだ。
「冷凍剣?ヒルトにボタンがあると思う」
おじさんはまだ目を開けられないでいた。男が剣を自分の体から引き抜き、傷口が再度傷つけられないように、また男が再び冷凍剣を使って攻撃してくるのを防ぐためにおじさんはボタンの位置を模索して押した。
ブレイドと離れたヒルトはおじさんが足元に落とした。
男が体を起こした後地面に落ちているヒルトが目に入った。すると、男は地面に跪き、両腕を垂直に伸ばし上半身を前に伏せた姿勢をとった。
「届かない、後ちょっと」
すると、おじさんの目が回復したようでゆっくりと目を開けた。男はもう冷凍剣を手に取るチャンスはない。
おじさんは傷口を確認せずにそのまま男の方に向かった。
「どう、続ける?」とおじさんは朗らかに笑いながら言った。
男は立つ暇もなく下半身を地面に摩擦しながら後ずさりし、おじさんと距離を取った。
「やめるよ、俺の負けだ。お前も負傷したし、今日のことはこれで帳消しだ」
男は再び殴られるのを恐れて諦める言葉を発した。
「そうだな、戦闘も引き分けだな。貴族としてのお前は、俺たち労働者もプライドがあることを覚えとけ。今日、もし他の人が俺だった場合だったらただで済んでなかったから」
警戒しんを緩めたおじさんはこの一言を言い残して背を向けその場を離れようとした。
しかし、男の顔に陰険な微笑みが浮かんだ。自分が言ったことを違背し、戦闘を続けようと考えているようだ。
すると、男は自分の尻尾を体の前に持ってきた。尻尾の末端は四分に別れ、中心にはごく普通な銀針が現れた。面目失墜した男は尻尾に隠されている針で背を向けたおじさんの背後に取り返しのつかない傷をつけようとする。これが男の最後の手段であった。
すると、男は針を口の中に入れた。針は飴みたいに舌の上で転がり、有毒な唾液を付けた。男は針を口から取り出した後、唾液の毒素と針は化学反動が起こり銀色から黒色に変色した。変色した針から男は毒液を満遍なく付けた事が確認できる。
「針に牛一頭を殺せる毒液を付けた。下賤よ、どんだけ強い体でも倒れてしまうぞ」
すると男は針を手に持ち、おじさんを狙って全力に投げつけた。近くで男の汚い手段を見たジンリョウは針に向かってポップコーンを一個投げた。ポップコーンに当たった針は行き先が変わり、時計回りしながら地面に落ちた。
「ちっ、邪魔すんなこのセールス野郎」
ジンリョウは男の罵声の中で少しまえまで歩いて針を拾った。
「戦闘中に使ったら見えてないことにしてやるけど。でも、戦闘が終わってんのに裏でこんな汚いやり方を取るなんて、見てらんないね」
「いつ使おうか、関係ねぇだろうか」
「関係あるに決まってんだろ。もうじき俺の食べ物になるから、食べられる前に俺の気分を損なうことしたら食欲下がるだろ!」とジンリョウは話しながら恐怖な雰囲気が漂い始めた。
狂っている微笑みを浮かべ、その口の中は舌で前歯を舐めていて、分泌された唾液が上歯から垂れてきた。不意打ちをかけようとした行動は焼きトカゲ肉に対しての食欲が少し下がったが、まだ大いに食欲が残っていることに変わりない。服の下に隠れている大口はジンリョウの顔にある口と同じ動きをしたため、大量に分泌された唾液が服についた。
「まあ、味見でもしてみようか、久しぶりの焼きトカゲはたまんねぇな」
口中の唾液を飲み込みながら手に持っている針をそっと転がし、空中に細い光が現れた。
細い光が消えた瞬間男の尻尾は滑らかでかつ平らに大きな1段を切断された。すると、切断されたところから血液が飛び出し、鉄骨があらわになった。
ジンリョウが針を転がすところから切断されるまでの時間はとてつもなく短いため男は何が起きたかもわからず、尻尾が切断された痛みすら感じていなかった。そして、男は疑惑を抱きながら背後に目を向けた時、自分の尻尾がこんなにも容易に切り落とされたことに気がついた。切断された尻尾を見た男はあまりの恐怖に体の震えが止まらず、仕返しもできなかった。
ジンリョウは針を切断された尻尾に刺して持ち上げた。尻尾はまるで爪楊枝がついた試食品のようになっていた。
「俺のとっておきの調味塩をつけようと」
ジンリョウは再びお菓子箱を開け、手を伸ばして食べ物にふりかける塩をひと掴みとった。
尻尾に塩を振りかけて味を楽しもうとしたとき、ジンリョウは何かを思い出したようで、突然頭を男の方に向け不気味な微笑みを浮かべた。
「あ!ここにこんな大きな肉の塊があるのに、なんで俺は今日小さい肉に食いつこうとするわけ?」
すると、ジンリョウはまだ手に残っている塩を男の体に振りかけたと同時に「痛くないから安しんしてね、すぐ食べちゃうから」と言った。
男の視線はジンリョウの指の隙間からパラパラと落ちている塩について自分の体に移すと下半身は失禁してしまっていることに気づいた。
「お前らみたいな、セ、セールスマンはやっぱり普通な奴がいない」
地面に座り込んだ男は立ち上がることすら忘れてしまい、地面に伏せて一番原始的な這う姿勢で逃げた。
「何見てんだよ、どけ、どけ」
スポーツカーを置いて人溜まりを分けながら逃げる姿がカッコ悪かった。
「そんなに怖がるなよ、食べるふりしてただけだよ。本当に食べたいわけじゃねぇし。げ〜ポップコーン食べすぎた。基地に戻ってご飯食べなきゃいけないから少し胃に空間残さないと」
服に隠れている大口はジンリョウのやり方に少し不満を感じたのか愚痴を言い始めた。
「な、ジンリョウあいつを逃がすなよ。おいらまだ何も食べてないよ」
人々がまだトカゲ男に注目しているときカイは自分の想像を超えた行動をしたセールスマンに視線を移した。
「戦場で気まぐれに歩いて、映画を見てるみたいにゼロ距離で戦闘を見てるのに傷も覆ってない。あの二人に巻き込まれてもない。絶対只者じゃない」
ジンリョウはカイの視線を察し、地面に残されている鞘とブレイドを拾って結合させた。
「おい、へなちょこ。冷凍剣はお前みたいなやり方じゃダメなんだよ」
ジンリョウは冷凍剣を抜き出し、完全で真っ直ぐなブレイドが目の前に現れた。
この達人はなんかすごいことやりだすのかなとカイは期待した眼差しで見た。
しかし、ジンリョウは真面目な口調で意外な言葉を発した。
「こうやって食べるんだよ。天然なアイス〜」
ジンリョウはヒルトがアイスを固定する木の棒とし、ブレイドをアイスとした。舌を出してブレイドを舐め始めた。力加減をうまく調整できなかったのか舌は鋭利なブレイドで切られた。すると、舌は破裂した消火栓のように血液が吹き出した。
「いてぇ、失敗したな。カッコよくここを離れようと思ったのに」
へまをやらかしちまったな、俺ダサぇ。気まずくなったジンリョウは血だらけの口を押さえてその場を後にした。
「あり……ありがとう」
トカゲ男の逃走する姿を見送ったおじさんはジンリョウに自分を助けたお礼を言おうとしたがその場にもう誰もいなかった。戦闘の騒ぎがここで一旦終わり、取り囲んで見物をする人たちも徐々にその場を後にした。散らばる人々の中からカイはモリを見つけ、そしてモリもカイに気づいた。
なんでモリあんなところにいるの?
事故が起こるときに巻き戻すと。
モリは逸れたカイの姿を探している。大きなブレーキを駆ける音と衝突音が聞こえた後、カイをしん配するモリは事故現場へ走り出した。戦闘を見ている人々は高い壁のようにモリの視線を遮っている。つま先で立って上に何回もジャンプして状況を確認しようとしたが、依然として中の状況が見えない。そして、モリは不安な気持ちで人と人の間の隙間を潜った。なんとか狭い場所を潜って半分の距離まで来たとき分散する人の中からカイの姿を見つけた。
「カイ、はあ……よかった、こんな……ここに居たんだ、はあ……」
さっき、走ったことによってモリの呼吸が荒くなっていて、息をしながら話した。もうすぐ咲く花の蕾のように巻かれた髪の毛も走っているときに風で解かれた。そんなモリを見て、自分を探すために走ってここまで来たことに気づいた。
「しん配したよ。傷とか覆ってないよね、早く見せて」
モリは両手をカイの肩にかけ、彼の体を回しながら傷を覆ってないかじっくり確認した。カイが傷つけられるのを恐れていた。
カイは初めてモリに会った時を思い出す。食べ物を奪い取ったのにモリは追いかけもせず、助けを呼ぶこともなかった。近くの人に助けを求めることもできたのにモリは何もしなかった。街で逸れてモリは慌てて自分の姿を探している。
家族以外で初めて自分をこんなに気にかけてくれているとカイは心の中で感動した。
「き、傷ないから。ごめん、心配かけて。俺は大丈夫だよ」
目に砂が入ったようでカイは顔を背け、目をこすった。
「……あのおじさんが大変なことにあったから一緒に手伝おう」
腰部に差し込まれたブレイドがまだ体に残っているためおじさんは腰を曲げられないようだった。カイはモリと一緒に荷物拾いを手伝いに行こうと決めた。
先ほどのカップルも馬車の反対側で荷物拾いを手伝っている。
「ありがとうな、手伝ってくれて。学校は大丈夫なの」とおじさんはカップルが身に纏っている制服を見て疑惑抱いた。
「「機械学園は明後日から始まるんです。今日はまだ遊べます」」
カップルは異口同音におじさんに答えた後、お互いを見て微笑んだ。
「まだ始まってないのか。学校に行ったことないからね。だから学校いつ始まるのかわからないよ。ハハハ」とおじさんは苦笑いした。
カイは落ちた荷物を荷物台に置くとき、スポーツカー越しに彼らが話しているのが聞こえた。
「あれが機械学園の制服なんだ。ペアルックかと思った。じゃ、モリと同じ学校の子かな」
「「おじさん、またね」」
「待って、あげる物あるから」
おじさんは手についている血を拭き取り、単独に荷物台においてある箱を開けた。箱の包装紙は粗末で明らかにお客さんの荷物ではなかった。お礼として二つのリンゴを取り出し、カップルに渡した。
「これ、喉渇きにいいよ。自分用に置いてたから」
リンゴをもらった二人はおじさんにお礼を言い、その場を後にした。
「ね、ハニー、もうすぐ学校始まるね。ずっと一緒だよ?」と少年は少女の腕を組んで甘えていた。
「いいよ。でもベイビー手を少し緩めて」
「やだよ、ハニーずっとそばにいて〜」
鳥肌が立つ二人の会話を聞いて、カイとおじさんは思わず寒気が全身を走った。しかし、そばにいるモリは目が光り、しかも小声で「お〜」とあの二人を羨むような声を出した。
少年は背後の目線に気づいたのか頭を振り向き、おじさん、モリそしてカイを順に睨みつけた。少年の眼差しはまるで「僕のだよ、誰も奪い取れないから」と言っているようであった。最初からこの二人のギャップのあるやり取りから人に鳥肌を立たせ、おかしい感覚だけではなく、むしろいいなと感じさせるところもある。二人が口にしている機械学園の話を聞き、最後の荷物を持ち上げたカイは昨日の晩ご飯の後のことを思い出す。
モリは本を茶卓に置いた後、腰を下ろした。近くに座っているカイは猫モバイルの毛を撫でながら本を開いたモリを見て、自分の動作を止めた。
「モリ、本読むの?」
「もうすぐ学校始まるから、少し慣れようと思って」
猫はテーブルから飛び降りた。カイは頬杖をして背中を丸めて机に伏せた。そばで静かにモリの本を見始めた。
下を向いてる本を読んでいるモリは垂れてきた髪の毛を耳にかけ、カイを見て言った。
「これ私たちがやってる数学よ。わかる?」
カイは少し黄ばんでいて年月を経ている本から目を離し、頭を起こしモリを見て頭を横に振った。
「数字と記号だけはわかる。計算方法と公式はもうわかんない」
「教えて欲しい?」
「い、いや、大丈夫。勝手にみとくわ」
カイは未知のことに対してはいつも好奇心旺盛だが、勉強に対しての未知だけは例外だった。
「どうやって言おうかずっと迷ってたんだけど、明後日学校に行って登録するの。せっかく機械城に来たんだから、カイも一緒に登録しに行こうよ。どう?」
「え?なんで?」
「一人で学校にいるのは寂しいから。いや、カイを一人残したらしん配だから」
「勘弁してよ、おとなしく家にいるから。外に出ないって約束するよ。モリは安心して学校行って」
「勉強が嫌いなんだ。悪い子、前も真面目に勉強してないでしょ、ウー」
顔を膨らませたモリを見て、カイは慌てて姿勢を正して言う。
「そんなことないよ、本当に真面目に勉強してた。ただ真面目に諦めなかっただけ。本当に心の底から勉強が好きじゃないの」
もし、勉強を諦められるのなら迷わず諦めていた。しかし、あの競争が激しい時代に諦めていたらすぐドン底に落とされ、骨もごなごなに砕かれる。だから、カイは自分の意思を背け、親と先生の教えのもとで嫌々ながらじっとこらえて真面目に勉強していた。
「勉強の楽しさがわかったら勉強を好きになるかもよ」
「そんなことない、ない、ない。真面目にやって、努力もするけど、でも、好きになるだけはないな」
すると、モリは突然何かを思いついたかのように言った。
「機械学園は人に面白いって思わせるところなの。しかもすっごい自由よ、入学と離れるのはすごい簡単なの」
「マジで?そんなに面白いの?」
面白いことを聞いてカイの態度は一瞬で変わった。背筋を伸ばし期待する目をむけた。
「そうだよ。家に戻る前に、しばらく一緒に行こう、いい?」
「わかった。行かせてください」
−−−何が面白いかな?登録が終わった後に教えるってモリが言ってたし。なんかモリが言ってる『面白い』って俺の理解と違う気がするな。カイは考えながら手に持っていた荷物を他の荷物に重ねて荷物台に置いた。
おじさんはカップルを見送った後、スポーツカーに手をつきながら辛そうに移動している。そしてスポースカーの反対側までやってきた。
「二人も、ありがとうね、手伝ってくれて。はい、これ。リンゴどうぞ」
「「ありがとうございます。おじさん」」
「後は任せて。まだ用事があるでしょ」
「ぶらぶらして、お買い物するだけです。大した用事はないので。おじさん、傷口かなり深いけど大丈夫ですか?病院に行かなくても大丈夫ですか?もし、俺に何かできるのであれば言ってくださいね」
切断されたブレイドがおじさんの体内で溶け始めた。仿水、汗、そして血液混じりに垂れてきた。傷口から人間と同じような生身の体で、導線のような血管、銀白色の鉄骨そしてブレイドで傷つけられた骨格から見える部品。
「おじさんの魂はダメージを受けてないから、しばらくは病院に行かなくても大丈夫だよ……ハハハ、真面目に言うよ、真面目に言うよ、年取ってるわりに体はまだ元気だからね。だからこれくらいの傷はしん配することないよ。今は警察が事故現場を処理するのを待ってるだけだ。」
傷口を見るだけで痛みが伝ってくるのにおじさんは顔色も変えずに気にしなかった。
「でも−−−」
「大丈夫だよ。ほら、楽しんできてね」
おじさんはカイの肩を軽く叩き、無理せず微笑みを見せた。
カイとモリはおじさんに別れを告げ、その場を後にしようとした時「おい、僕、ちょっと待って」と二人を見送るおじさんは突然何かを思い出したかのようにカイを慌てて止めた。
「今、お金に困ってるでしょ」
「え!?なんで知ってるんですか」
「さっき、まだ仕事見つかってないって言ってたから、トカゲ男と向き合っている時に聞こえたよ。おじさんの耳はいいぞ。どう、手伝いにくる?給料はいいから」
「本当ですか?」
「今人手足りないからね。来なよ。ここに住所書いてあるから良かったら見に来てね」とおじさんは一枚の名刺をカイに差し出した。
正式的に採用されたわけではないが仕事のチャンスをもらった。カイは突然のチャンスに以外で驚きを隠せなかった。そして、名刺にシワが付かないようにそっとズボンのポケットに入れた。おじさんは空気を読むのが得意なのか、モリの体は非常に衰弱していることに気づいた。そして、指でモリをさし、またカイと少し会話を続けた。モリのことについて話しているようだ。
カイは再びおじさんに別れを告げモリに向かって走って行った。
「どうしたの、おじさんなんか言った?」
「おじさんから名刺もらった。あと、モリのことを大事にするようにって、しっかり守るようにって言われた。なんでそう言ったのかわからないけど」
「じゃ、どう答えた?」
モリはカイに背を向け指で毛先をいじりながら、彼の答えに緊張と期待を抱いた。
「そうだな……」
カイは目をキョロキョロさせた。恥ずかしさのあまり、カイはおじさんに言ったことをそのままモリ伝えることができないため臨時に代わりの言葉をつくった。
「おじさんに、安心してください、モリはこういうの必要ないから。だって強い子だもんって言ったよ」
「え!?なんでよ。私を大事に、守って見てもいいじゃない。ねぇ〜いいよね、いいよね」と体を振り向いたモリはカイの腕を揺らしながら言った。
「モリ、そんなに強く腕組まないで」
「嫌だね、カイがずっとそばにいてくれないと」
カップルがその場を去る時のシーンがカイとモリの間で演じられた。しかし、違うのが−−−
「わかった、わかった。絶対後ろついて行くから。逸れないから。だから首を離して、息できない」
モリはカップルの間の動作を間違えてカイにした。カイの腕を組まずに首を組んでいた。
腰を低くしているカイはモリのそばで窒息しそうだ。この時、お城の『星の中』の一階、機械城城主の家の一階では。
「……状況は以上です。今回の事件はS級です。城主様に速攻伝えるようにしてください。現場へお越し下さるようにしてくださいませ」
「わかりました」
バトラーは電話を切ったあともう一通の電話をしたあと慌てて三階の城主の部屋へと向かった。
「大変です、大変です!コロアイル様、先ほど管理局からの電話で機械城のロープが何ものかによって折られました。原因は不明です。守っている秘密の部分は危険にさらされております。」
なぜジンリョウによって折られたところはこんな厳重な事態を招いたのか?機械城の管理者たちは知られざる秘密を持っているようである。しかし、その秘密は何なのか?また、なぜ透明のロープが秘密と密接な関係があるのか?
「……修理する人をすでに派遣いたしました。今日は貴重なお休みでございますが、どうか現場にお越しくださいませ」
バトラーは返事を得られなかったため指でドアにノックした。
「コロアイル様?まだ寝ていらっしゃいますでしょうか?……時間が大変迫っておりますので、失礼いたしますね」
ノックしたあと、依然として返事を得られなかった。バトラーはドアノブをまわしドアを開けた。
「失礼いたします。まだお休みになってください。着替えをすぐ準備いたしますので」
部屋を見渡すと、誰もいなかった。
「まったく、また鬼ごっこしていらっしゃいますか?昨日おやりになったばかりじゃないですか?」
バトラーは多数のアイデンティティーの持ち主である(バトラー、城主代理人、コロアイルのプライベイト教師兼保護人)。イダずらしている子供のそばにいる親のようにバトラーはどうしようもなかった。自分の行動とちょっと厳しい口調で子供の要求に応えるしかなかった。
「少しだけですよ!」
バトラーは「見つけました」を繰り返しながら、探し回り始めた。ドアの後ろやタンスの中、乱れた布団の中、ベッドの下全てを探した。
「おかしいわね〜全部コロアイル様が隠れるのに気に入ってる場所なのに、見つからないわ。もうお部屋にいないのかしら?」
表情が険しくなったバトラーはじっくりと部屋の隅々まで見渡すと化粧台に置いてあるメッセージを見つけ手に取った。
ジャレンへ:
今朝早く起きました。何かが起きているようで、でも考えても何が起きているのかわかりませんでした。多分クレープの食べ過ぎだと思います。へへへ。だからよく行ってる異種族街道にある屋台に行ってきます。
このメッセージを見たときにはお着替えを済まして、屋台に行く途中です。
コロアイル
「自分を整えるのに得意ではないコロアイル様、自分でお着替えを済まして外出……あ!!!大変だ!SS級、最上級の事態が起こりました!」
ジャレンと名乗るバトラーはメッセージを読み終えたあと、驚きのあまりに口を大きく開け、顎が今にも地面に落ちそうであった。