第六章 機械城
やっと機械城に出発する日を迎えたカイはあまりの緊張でトイレに行ったが出てきた後もやはり緊張が解けなかった。モリは忘れ物がないかを確認し、カバンの中に入ってある傘や鍵、財布などを確認した後カバンを肩に掛けた。
「お留守番頼んだよ、モコ」
「え!?モコは行かないの?」
モリは窓を通して外に置いてあるお花に目を向けた。
「誰かがお世話しないとね。カイ、しん配しないで、学校で住むところも、モバイルも学校側から学生に手配してるからいつでもモコに連絡できるわ。モコと一時的に別れるだけよ」
モリはモコといつでも連絡を取ることができると言っても、心の優しいカイはもうすぐモコと別れることを思うと心の中では切ない気持ちになった。モコを見て何を言えばいいかわからなかった。多分、男としてどうやって今の自分の繊細な気持ちを表せばいいのかわからないのだろう。
カイは部屋を出ようとドアに向かって歩いていった。そしてモコはカイのすぐそばまで飛んで来た。そして彼の裾を掴んだ。
モリは先にドアを出た。カイもそのあとをついたが足踏みをしているだけでちっとも進んでないことに気づき、だれかに引っ張られていることに気づく。
裾が何かに引っかかったのかと誤解をしたカイは目線を下に落とし、モコが自分の裾を掴んでいる事に気づいた。
「モコ、どうしたの」
モコが自分に向かって飛んできたのを見て手のひらを差し伸べ、モコはその上に立った。
「カ、カイ、あの、モリはすごい優しい子なの……だから、すぐに人にいじめられるの。そばにいるときは彼女のことをしっかり守ってあげてね」
モコは恥ずかしがりながらカイの名前を呼んだ。数日しておかしなあだ名ではなく初めて彼の名前を呼んだのだ。
「うん、絶対モリを守るよ。」
「じゃ、命に危険がある時でも守れる?だって、モリはお姫っ−−−」
口を滑らしてしまった様子のモコは慌てて自分の口を塞いだ。ココロの中でしまったと思いながら額に冷や汗をかいた。
「俺は騎士で、モリは俺のお姫様だ。団長としての俺は一団の騎士を率いてモリ様を守るのです。だから、国王様ご安心くださいませ」
カイはテレビで見た騎士を真似する。背筋を伸ばし、握った拳を胸に当てた。
再びモコに保証したことで、モコのココロの不安を慰めた。
「ハハハ、あとは……」
モコは頭の左側の編み込んだ髪の毛を止めているゴムを外した。縛っていた髪の毛は解けてしまった。
おとなしくなったモコはいつもと違った可愛さが現れた。
「これ、あげるよ」
モコは腰を曲げ、ゴムをカイの手に置いた。
「これは友達になった証よ。作るときにモリに手伝ってもらえなかったから少し小さいんだ。でもこれわたしの手作りだから世界に二つしかないからね。一つはわたしのところに残して、もう一つはカイにあげる」
もうすぐ離れてしまうせいか、モコは初めて自分が恥ずかしくなるぐらいのセリフを言った。カイに向かって誠実に話しているモコの目頭に涙が光った。
カイはモコの右側にまだ結んである髪の毛、そして自分の手に置いてあるゴムを見た。体が小さいモコよりさらにコンパクトなゴムはほとんど重さを感じられなく、今にも話す時の息で飛ばされそうだが盤石より重い彼女の想いが詰まっている。
「ありがとう、絶対大事にするから」
ゴムはまるで教科書に書かれているペリオットみたいにとても小さく、手で持っていたら消えそうでポケットの中に入れてもどこかに無くしそうだ。適当な場所が見つからなかったカイはゴムを自分の髪の毛に結びつけた。
「乙女だね。このバカ、携帯の服に入れればいいじゃん」
乙女のように髪の毛を結んでいるカイを見てモコは思わず笑った。嬉しくなったモコは涙を拭った。
「服?……あ、ケースね」
そしてカイは携帯のケースを外し、ゴムを入れたあとケースを元に戻した。こうしてゴムも安全に携帯のケースにしまい込んだ。
数時間走り続けたバスはやっと止まった。ワクワクしていたカイはバスでさえも見逃さなかった。バスに乗ってからずっと未来のバスを観察していたが今まで自分が乗っていたバスとさほど変わらず、高度な技術が使われているようには見られなかった。カイにとって、このバスはごく普通のバスかもしれないが、過疎地域に住んでいる住民にとってはそうではないかもしれない。
「やっと機械城についた」
先にバスを降りたカイは深く息を吸い、身の回りを感じとる。
さらに心はぞわぞわし、興奮した気持ちを抑えきれないでいた。
「まだついてないよ、まだ少しあるから。ここでロープウェイに乗り換えよ。行こうか」
バスから降りたモリはカイをつれて道路沿いから上までの階段を上る。
階段に沿って上を見たカイは思わず嘆いた。
階段とつないでいる鉄製の建築はほとんど木に遮られているため、大自然に溶け込んで一体になっているようだ。ロープウェイ乗り場としての建築にはフロアがなく、階段がそのまま頂点までついないでいる。
そしてカイは手すりに掴んで階段を登る。息が荒くなったカイはやっとモリと屋上まで到着した。
屋上は漢字の『凹』に似た形で字の凹んだところに長方形のロープウェイが宙に浮かべられて止めてある。
過疎地域の人口はもともと少なく、それに加えて街にやってくる人も少ないため止めてあるロープウェイは廃棄されている車のように乗る人はほとんどなかった。長く乗られていないせいかロープウェイの鉄製の車体も錆びている。
ロープウェイがよく見えたカイは今まで自分が見たものと完全に違っている事に気づいた。
自分が知っているロープウェイは間隔をおいて自動的に現れるもので『oooooo』のような形で現れ、ドライブシャフトがスチールロープを駆動し、そのまま号車を誘導して運行する。号車のてっぺんにはアームのような機械があってロープと固定している。多くのロープウェイは『6』のような形をしている。
しかし、このロープウェイは異なっている。ロープウェイの正面にドライブシャフトはない。上部にも固定するロープらしきものがない。号車の上部には伸縮できる二つの機械ハンドがついているだけだ。
−−−上には絶対ロープウェイを固定するものはあるだろう。そうでないと宙に浮かぶような不思議なことは起こらないはずだ。
疑問を持つカイはロープウェイの後ろ側に来て、両手を上へ伸ばし跳んで見た。やっぱり、上部は何もないように見えるが指がワイヤーのようなものに当たった。
モリはロープウェイのドアの傍までやって来た。お客さんを感知したロープウェイは車内のプロクラムを自動的に起動した。
ロープウェイのドア側から気体が出され、鉄製のドアはゆっくりと屋上の地面に敷かれ、通行可能な道路となった。
鉄製のドアが倒れる時にドア付近にある手すりは長く伸び、自然と通路両端のガードレールとなった。
全てが整った後モリは車内に向かう。
「カイ、もう入れるよ」と窓からモリはカイを招いた。
カイは震えながら一歩ずつ中まで歩んでいく。中まで入り、重さを受けたロープウェイは少し揺れただけで想像していたよりも安全だった。
「ロープウェイで機械城まで行くの?」
「そうだよ、ロープウェイは機械城の主な交通機関だからすごく便利よ」
モリは車内の操作台へと向かった。
乗っているロープウェイは向かい合う席が設置されてある。完全上を考慮して車内は二人しか乗れない。もし夫婦で乗るのであれば赤ちゃんを一人連れて乗れるだけだ。
斬新なドアの開き方と車内にルートを設定する操作台があり、外観と比べてそんなに古く感じられない。
モリは指を操作台の画面に滑らし、画面が光ったのと伴い車内に乗務員らしき声が流れた。
『みなさん、こんにちは。本車のKIシステムを担当させていただく乗務員です。よろしくお願いいたします』
KIシステムは機械人によって作られた機械人の知恵が詰められたシステムである。人類の時代のAIシステムに似ている。『KI』は『機械人のインテリジェンス』の縮写から由来したものである。
それぞれのロープウェイにそれぞれのKIシステムがついていて、乗務員の代わりに乗客に質の高いサービスを提供する。
この政策は人工コストを0に低下させると共に乗客に良好な乗車環境を作った。
KIシステムが普及した当初、知能と機能が作り出した乗車体験は大変な人気をもたらした。いまでも人気は衰えることなく、乗客は自発的に投票を行なっている。
一番最近機械城で行ったアンケートの『KIシステムについて一番好きな機能はなんですか』で投票が一番多かったのは以下の三つである:
『乗客が急性な病気で倒れた時、素早く病院に連絡する機能』
『前方の渋滞状況を感知することができ、乗客へ合理的なルートを計画する機能』
『ガイドさんのように他のところから来た旅行者に機械城の環境を紹介する機能』
『目的地を教えてください』
「機械城、機械学園外部、第20幢建築」
『学園の規定に基づき身分の確認をする必要があります。画面を見てください』
モリは画面に目を向ける。画面のセンサーがモリを感知し、顔を捉えた後KIシステムに送った。
『確認ができました。7銅鉄をお支払いください』
行き先は遠いがこのロープウェイはごく普通の設置であるので費用は比較的に安い。
ロープウェイで出かける方法については、異なったロープウェイは同じ行き先でも値段が違う場合がある。例えば、テレビ付きのロープウェイはついてないのに比べて平均1銅鉄高い。カラオケ付きのロープウェイは表面に隔音素材を使っているため、ついてないものと比べて2銅鉄高い。
そしてモリは操作台の下にある投入口に銅鉄を投入し、『お支払いが完了しました。ロープウェイを起動いたします。良い旅をお楽しみ下さい』とKIシステムが放送した後ロープウェイは起動した。
「わ〜、す、す、すげぇ〜、号車の上部に本当にロープがついてる?普通はスチールロープじゃないの?」
先程確認したがロープウェイが実際に運行しているとカイはやはり目の前の光景に驚きを隠せなかった彼の舌はうまく回らなかった。空中に浮かんで運行しているロープウェイはマジシャンに浮き物マジックをかけられたかのように支えるものがなく空中に浮かんでいる人のように不思議である。
それ以上に不思議だと言っても過言ではない。カイは傍観者としてこの一連のことを見ているのではなく自らマジックのような体験に臨んでいるからだ。
「機械城にいろんな異なった様式、種類のロープウェイがあるの。ほら、これらをスチールロープで誘導したら空中で混じり合って光を遮るでしょ。しかも空を見上げたら気持ち悪いでしょ。だから、機械城でロープウェイを固定するのは見えない透明な素材を使ってるの」
モリの説明を聞いて、カイは機械城にあるロープウェイは透明なロープによって誘導されて森の中を移動していることを理解した。
すると、まるでカイの視界に応えているかのように森で生活しているたぬきやトナカイを始め、りすなどの小型動物なども一斉に移動しているロープウェイを見上げた。ロープウェイを囲んでいる木の枝も二人に挨拶をしているかのように車体の表面に当たる。森全体が二人を見送っているようだ。
しばらく移動したロープウェイは車体を傾け、山の頂上に向かっている。まだ興味津々に外の風景を眺めているカイと裏腹にモリはこそっと操作台で運伝モードを普通から高速に変換した。
「カイ早く座って、もうすぐ下り坂だから立っていると危ないわ」
カイが座ったのを確認した後、画面の確認ボタンを押した。自分の席に向かう時のモリは小声でクスクスと笑った。
高速モードが起動する。透明のロープを握っている機械ハンドは親指以外の三つの指を外し、指の腹にあるタイヤがロープについて回転し始めた。全体のプロセスは飛行機が着陸する時内側のタイヤが地面に触れた時と同じようだ。
それぞれの機械ハンドから4つの滑りタイヤが現れ、合計8つのタイヤが現れた。八つの滑りタイヤとロープの共同作用の元で、ちょうど山のてっぺんを降りるロープウェイは安全運伝を保つことなくジェットコースターのように加速し、山の反対側に向かって突っついた。急な加速と同時に滑りタイヤはロープにしっぽのような形の火花を放った。
山の下まで来たロープウェイは進み続ける。山沿いにある川が突然来た高速なロープウェイによって水面を切り分けられた。あまりの速度に水面に影すら映らず一筋の黒い残像が残っただけだった。
『乗客様、今いらっしゃる車内にはハハハ〜叫び声を上げるお客様がいらっしゃいます。高速によって驚かされたかと思います。ハハハ、KIシステムは運転モードを普通に切り替えましたので再度の切り替えはご遠慮くださいませ』
KIシステムがアナウンスしている最中笑いを我慢できなかった。センサーが驚かされたカイの表情をKIシステムに転送したに違いない。
体から離脱しそうな魂が肉体に戻った。カイは手のひらを額当て、カッコよく後ろに滑らし、びっくりして立ってしまった短髪を倒した。
「再度の切り替え?」
落ち着いたカイは疑問を持ったまなざしでモリを見た。
カイの目線に気づいたモリは思わず目線を足元に落とした。長丈のスカートの裾を強く掴み笑い声を我慢しようと唇を噛み締めたがやはり声が漏れてしまった。
するとモリはわざと背筋を伸ばし「あ〜太陽ポカポカ。良い天気だな」と何もなかったように外を見て言った。
モリの一連の反応を見たカイは、ロープウェイ自体は故障していなく事前にモードを切り替えられたのだと知った。からかわれたと改めて気づいたカイは仕返そうと考える。
「おらーーーーー、俺はもう死んだ。びっくりして死んでしまったんだ。モリが俺を殺したんだ。今悪霊になって復讐しにきたぞ」
幽霊のような悲惨な叫び声を出し、立ち上がったカイは両手を垂直に伸ばした。指を曲げ、爪を出し、凶悪な表情でモリに飛びかかった。
「きゃ〜来ないで〜誰か〜助けて〜きゃ〜❤」
カイの演技に付き合うモリは可愛い声で助けを求めた。
「諦めるんだ、地獄のドアはもう空いたぞ」
『お客様、間もなく機械城です。お昼になって渋滞しています。現在システムを低速モードの切り替えをいたしました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません』
KIシステムがアナウンスをしたと同時にロープウェイは減速する。減速したせいでで体が慣性作用によって傾き、そのままモリがいるところに倒れてしまった。
カイとモリは想像し難い一連の身体接触をした。モリと席に戻ったカイは顔が真っ赤になっていた。二人は視線をどこに置けばいいのかわからず、頭を下げたまま、地面を見ていた。
『ロープウェイが有名で栄えている機械城へようこそ』
車内のアナウンスが再び鳴り出し、気まずい雰囲気も緩和された。
アナウンスに気を取られたカイは窓越しに外の景色をみる。
機械城は機械製造や産業の発達が中心である都市だと想像していた。ゲームでよく目にしているような黒色や灰色などの暗い色で出来た金属で構成された都市だと想像していた。しかし、カイが目の当たりにしている虹より色鮮やかな都市は彼の想像を覆した。
下の方から見て色とりどりのスタイルが異なる小さな店。一軒の店がもう一軒の店の上に重なるものもあれば、いくつかの店の上に積み重ねているものもある。全体から見て長方形の木の塊を取られたジェンカのようだ。宴会場の積み上げられたシャンパンタワーにも子供が気まぐれに作った積み木にも見える。
それぞれの店の看板と店内の環境から見て、カフェーやケーキ屋、レストラン、雑貨店、おもちゃ屋、カラオケなど機械人の娯楽を提供するところである。
それ以外に、道沿いの同じ側に位置する店と店をつなぐ階段あるいは吊橋が設置してある以外に、それぞれの店の前にロープウェイ乗り場としての空きスペースも設置されているのが見える。
一番上に位置する建築を見ると支える基盤がなく、その下にあるたくさんの店の小さな屋根によって支えられている。
提供されている住民の建築の外観は異なっている。それぞれの階の壁に漢字の『口』のような門があり、ロープウェイが自由に出入りできるようになっている。乗客が家の前で降りることもできるし、家まで乗ることもできる。
下の方に集まっている建物は生活、娯楽の場で、上の方は住居としての場である。機械城がこのような積み重ね方式の建築構成を設計したことは機械人の人口増加の問題と生活の質の向上に貢献しただけではなく、機械人の独特な建設能力と知恵を表現していた。
カイが右側にある見たことのない景色を隙間まで逃すことなく観察している時、斜め前の方向に気を引かれる。
ケーキ屋前の空き地に数名の学生が待ちに待ったロープウェイに乗った。するとロープウェイは空中で通路を横切り、反対側まで移動した。
カイは視線をロープウェイから離すことなく左側の窓まで移動する。
空中にある二軒の店をつなぐ道はないため、反対側の店まで渡りたいとなるとロープウェイで移動しなければいけない。道の両端に位置するお店の上の方にはロープが設置されてあるに違いない。何もないように見える上空には無数のロープが張ってある。
カイが乗っているロープウェイはTの形をした交差点で止まった。
上空の左右に大量のゆっくり運行しているロープウェイが現れた。上空の右側と反対側で渋滞しているようだ。
『空中通路の左右に渋滞が見られたため、新しいルートへの切り替えをいたしました』
号車が軽く揺すった後、上部に固定されている伸縮可能な機械ハンドが作業を始めた。きつくロープを握っている左手を緩め、そして延長しながら下方の一番地面に近いロープに伸ばした。するとロープに固定した左手は縮み、上のロープに固定している右手が伸び、号車が地面に着陸する。
地面と号車は20センチほどしかない。上のロープを離した右手は縮んだ後やがて地面に近いロープに固定した。
ロープウェイはこの機械ハンドのおかげで任意のロープの上に移動することができるのだ。
新しいルートに切り替えた後前方に進んだ。そして一番下に底の領域にあるお店に向かった。一番下の店の間で移動する。道路は広いため一番下にある建築でも良好な光が入ってくる。それに建設する際に高度な照明設備を備えたため内部も明るい。
道の両端にあるお店は人気がないようだ。門の前に野菜と果物、肉類と魚類が置かれている。
「安いな。オーナーさんは?店員さんも見てないね。無人販売なの?」
カイは前の方を見た後、この店のオーナーたちが前にいることに気づいた。
果物を持っているオーナーや新鮮な野菜と活発な魚を持って前のロープウェイに勧めているオーナーがたくさんいた。あまり人が来ないせいか、オーナーさんたちは異様な情熱を見せた。
「まったく、子供のように見ないで。こっちだってお金持ってるのに。ふん、やめとこ」
モリは後ろの窓を通して様子を見た。誰にも相手にしてもらえないことを見て財布をしまいこんだ。
モリのちょっと怒っている姿も綺麗と思ったカイは、ロープウェイは一番素敵な場所だと思った。
住民は普通建築の下の方の外側に位置する店で買い物をするときが多い。中に進むほど人気が少なくなるのでお客さんを引き寄せるためにも価格を低くする傾向にある。人気が少ないため店員を雇わずオーナー一人で経営しているとモリはカイに説明した。
ロープウェイは下を抜け、高いところへ登る。前方から二人が乗っているロープウェイより三倍大きい、外観が鮮やかなロープウェイがやってきた。
「お姉さん、お兄さん、こんにちは」
窓にすがっているネズミ少女が礼儀正しい挨拶をする。ふわふわした灰色の肌に尖った鼻、真っ黒な目。彼女が動物型機械人の一種であるネズミ機械人である。
「こんにちは」「こんにちは」
華やかなロープウェイとすれ違うとき、内部が高級レストランのような閑静で精巧な装飾を見てカイは目を離せなかった。車内にはナフキンが敷かれた唯一の机と横にここちよさそうな椅子が置かれている。プライベートでの利用と家族の利用しか受け付けていないようだ。角に料理をする調理台が置かれ、シェフが料理をしている。その横には盆栽が飾られている。車内に乗客がいるため、調理台の前にいるシェフとウェイターさんは仕事中だ。
内部にキッチンを設置しているロープウェイを『レストランロープウェイ』と名付けている。乗客に食事をしながら風景を楽しませることを目的としている。さらに、レストランロープウェイは道のりの長さと食事の時間を組み合わせることができるので乗客の時間を大いに節約することができる。
するとレストランロープウェイを利用しているネズミ夫婦は椅子に座り、ランチが運ばれるのを待っている間、グラスを傾けワインの味を楽しんでいる。
すれ違いのロープウェイからの視線に気づいて夫婦は軽く会釈をした。
白い帽子をかぶっている猫のシェフは食べ物を調理しながら、口を尖らせ、いやな顔に涙目でネズミ夫婦をみている。シェフはココロの中で「ネズミを捉えられない上、お世話をするなんて」と悔しい気持ちでいた。
視線に気づいたシェフは再び無理やり笑顔を作る。
カイとモリは女の子に手を振り、ロープウェイは離れ去った。
生まれつきで活発な女の子は多分親が与えた貴族のような生活に息苦しくなったからか、窓を開けて新鮮な空気に触れようとしていた。
数分後に学園の所属建築が視界に入った。今まで見てきた建築と同じスタイルで地面には建てられず、高い場所に建てられている。
ロープウェイは壁の開き口から突き抜けモリが住んでいる場所の前で止まった。止まった場所は広く、学生の通り道だけではなく二台の中型あるいは一台の大型ロープウェイが止められるようなスペースが確保されている。
すると鉄製のドアが開き、モリに続いて降りた。
乗客が降りた後、ロープウェイは廊下に沿って移動し、廊下の端にある開き口から建物を離れた。
モリが部屋の鍵を探っているとき、また何台かのロープウェイが建物に入り、何人かの学生の男女がそれぞれ自分の部屋に入った。
外壁に『口』のような開き口がある建物は外観からして普通の建物と異なっている以外、内部の構造もカイが知っているものと異なっている。学園は性別で建物を分けなかった。
視線を戻し、ドアにある名札の数字を見る。
「20−5−15、もうモリの住まいに着いたか。」
モリの部屋番号について:
20は機械学園が手配した第20棟のビルを表す。数字が大きくなるにつれ、学園から離れて行く。1から5棟は学校の建設時に内部に設置された。6とそれ以後は拡張されたビルとして外部に建てられている。
5は階を表す。
15は住んでいる位置を表す。向かい側の部屋番号の30番からこの巨大型のビルはどの階にも30戸の部屋があることがわかる。1から15までは廊下の左側に位置し、それ以降は右側にある。
「カイ、入って」
カイは、最初この部屋は学園が手配した寮だと考えたが中に入って見たら寮の様子がどこにもなかった。高級マンションのような大きな空間に施設も備えており、さらに大きなベランダもついている。
モリはカイにスリッパを渡しドアを閉めた。するとドアの下方にある投入口から新聞紙と広告が落ちてきた。
長い間溜まった新聞紙と広告を拾い、カバンと一緒に下駄箱の上に置いた。
「猫ちゃん、ただいま」
モリの声が聞こえた猫型モバイルは深い眠りから目を覚まし、体についてしまった埃を振り下ろした。
迎えにきた猫ちゃんはモリの手のひらに飛び乗った。手を挙げてカイにも挨拶をした。
目の前の猫ちゃんは猫を象って作ったモバイルである。外観からして団子のサイズしかないモバイルは普通の猫より小さい以外、ふわふわした毛や素早い動きは本当の猫と変わりない。
学園は各学生に一台このような種類のモバイルを手配する。モバイルをすでに持っている学生にとっては予備として使うことができてモバイルを持ってない学生にとってはこの機会を用いてモバイルを持つ事ができる。
学生はモバイルの永住使用権を与えられているが、モリはやはり学園の所有物だと思っているため帰るときにいつも部屋に置いていく。
家賃が安い上モバイルまで手配することは機械学園の福祉である。そう思うとカイは思わず心の中で称賛した。
朝準備したお弁当を食べた二人は掃除を始めた。掃除をしてつまらなくなったカイはモリの肩を叩き、事前に手に集めた埃を彼女に向かって吹いた。すると少し咳き込んだモリは手をバケツに伸ばし、濡らした後手を振りカイの顔に仿水をつけた。
からかわれたモリはいつも反撃をするが性格が優しすぎるためカイにとって少しの攻撃性もなかった。
こうして、掃除しながら遊んでいた二人は夕日が窓越しに部屋に入ってくるまでやっと埃だらけの部屋を掃除し終えた。
大掃除がこんなにも大変な事後だとは思わなかった。半日もかけてやっと終わった。疲れ切った二人は地面に座り込み、ピカピカになった部屋を見て達成感に満ちた笑顔が浮かんだ。
「お腹すいたな、モリ冷蔵庫に食べ物ある?」
「冷蔵庫にまだ食材を準備してないわ、今日は出前にしましょ」
モリは猫ちゃんに視線を向け、それを理解した猫ちゃんはテーブルに飛び乗った。呪文で起動するかのように猫ちゃんの額にインターネットの標識が現れた。テーブルのガラスを見て走り出した猫ちゃんはテーブルのガラスを液晶画面に変えた。すると、そこに模擬されたこの地域の建築が現れた。
画面の中心の区域にある建築の五階から二つの赤い点が見えた。それは二人の居場所を表している。模擬された場面がものすごくリアルで好奇心に満ちたカイは指を部屋に伸ばした。部屋の壁は指が触れたことによって一部の区域が消えてしまった。指をひたら消えた区域が再び構成されて現れた。
「何食べたい?」
「うん……モリが選んで、同じのにする」
モリは腕を挙げ、指が『今日の特売』が書かれてあるお店の上空にたどり着いた。すると何かを思い出したかのようにモリは素早く指を移し、それ以上選ばなかった。そしてお店の上空に『特売』と書かれてないところに移動した。
「ここにしよ」
「やっぱりさっきのにしよう」とカイはモリの手を止めた。
彼女は手をさっきの「特売」店に移し戻した。
「わかった。こうやって使うんだよ……」
イダズラをしていたカイと違ってモリは彼にやり方を教えながら指をレストランの看板に当てクリックした。この簡単な動作に伴い選択されたお店の店内の環境が少しずつ拡大し、ほかの建物がだんだん消え始めた。
そして、選択されたレストランの店内の風景が投影された空間を占め、店内の店員さんが二人を見上げた。
「いらっしゃいませ。お伺いいたします」
画面に店員だけではなく、レストランの食事環境やシェフが仕事しているところまで見える。画面はそのままの店内の状況を示した。
しかし、インターネット上での販売は実際に店内で食事しているお客さんのプライバシーを守るため出前を頼む側からは見えないようになっている。食事を運んでいる店員が持っているお皿の中のものまで消え、空のお皿を持って机に運び、空気と会話しているようだ。
レストランにいる人も当然ながらこちらの様子を伺うことができない。二人の会話はヘットフォンをしている店員さんしか確認できない。高度な技術で作られたコンタクトを通じて簡略された二人の居場所を確認できる。
ちなみに高度な技術で作られたコンタクトはとても高価なものであるので、店長さんは通常1組のコンタクトを片方ずつ二人の店員さんにつけてもらう。コンタクトをつけている店員さんの目は綺麗な異色を放つ。
「とんかつ丼を二つ、ここまで届けてください」
「とんかつ丼がお二つ。かしこまりました。少々お待ちくださいませ」