第四章 人間の少年と機械人の少女
未来にタイムスリップしたことをまだ知らないカイは1日半迷子になり、そして、3日目を迎えた。
−−−顔がかゆいな、蚊に刺されたのかな?
朦朧としている時、蚊が遠慮なく自分の血を採取していることに気づき思いっきり自分の顔にビンタを打った。
「痛っ」と痛さで眠気を覚ましたカイは打った顔に手をあて上半身を起こした。
昨夜、あまり眠につけなかったカイは目が充血し筋肉痛が全身に走った。身体にも何ヶ所蚊に刺された跡が残っている。
痛みが引いた後疲れを解くように首の後ろを揉み、腰を少し伸ばし、寝ぼけた目で太陽を見た。
「もうお昼?お腹すいたな、喉も乾いたよ。もう1日何も食べてないから死にそう」一昨日たこ焼きを食べた以来、カイは水すら飲んでいない。
それ以来、カイは狩人のようにウサギなどといった小さな動物を追いかけたり、猪のような大型動物に追いかけられた時もあった。お腹を満たす動物を捕まえられなかったが結果としては生き延びることができたので善し悪しどちらとも言えない。
「ずっと歩いてきて川とか見つからなかったな、なんでだろう」
不満を言う力もないカイは昨夜喉が渇いたために水源を探していた記憶が蘇った。
月の光が雲に遮られ何も見えない中で水の流れている音が聞こえたカイは苦労しながらも川を見つけた。歓声をあげた後両手で水をすくい口に運ぼうとした時手からドロドロとした感触が伝わってきた。
「何これ、気持ち悪っ、汚れた水?」
そして手にある水を捨て、手を払った後飲み水ではないと思ったカイは川を後にした。まだ未来についてよく知らないカイは水源を逃してしまった。
「あ!!!狂いそうだ」
怒りにこもった拳は嫌な記憶を破って木の枝にあたった。そして体を支えている枝が突然折れてしまい、傾いたカイが木から落ちた。
しばらく歩き、カイは渋い草を味わいながら近くに住宅がある三つの分かれ道の交差点まで来た。
「やっと……人がいる場所まで来た」歓声をあげると同時に体力の限界に達したせいで、疲れ切ったカイは魂が抜けたように地面に座り込んだ。長く休憩を取ったため時間も午後になった。
離れた場所から伝わって来た足音が聞こえ、確認するために頭を上げたカイはたくさんの人がこちらへ向かってくるのが見えた。一番前を歩いているのは子供連れの主婦で、真ん中はおばあさんで一番後ろを歩いているのはひとりの少女だった。三人はお互い大きな距離を取っているため知人ではないことを判断した。しかし、三人の唯一の共通点は手に物で詰められたビニール袋を下げていることだ。ビニール袋に同じマークがついているため同じところから買い物をしたことがわかる。
しばらく休憩したがまだ空腹で体力が回復してないため、このまま道を聞くとまた嫌がられると思ったカイが考えたのは道を聞くことではなく食べ物を奪うことだ。捕まえられる可能性があり、よくないことだと知っていながらもお腹を満たすためにこれ以外の方法を考える余裕もなかった。この時、カイはテレビで見た暴行されても食べ物を奪おうとする子供たちの気持ちがわかってきたような気になった。
食べ物を奪うことに決心した後逃げる路線を計画しながらポケットから電池切れの携帯を取り出し握りしめた。
「主婦は子供を連れてるから泣かせると大変だし、嫌な思いをさせてしまう。おばあさんは俺を追いかけているときに転んだら大変だ。一番離れてるあの人なら大丈夫、持ってるのは絶対食べ物であってくれよ。」
最後の理性を保ったカイは子供と老人を避け、一番離れている少女に手をつけようと決心した。まだ草むらの中に隠れているカイは物を奪うことを思うと胸の鼓動が高鳴った。おばあさんが通る隙を計り、草むらから立ち上がって少女の方へもうすスピードでダッシュした。だんだん少女に近づくカイも少女の顔立ちが鮮明になってきた。カイと同じ年頃のようなぽっちゃりした体つきで可愛い顔立ちだった。ピンク色の唇に風邪が治ったばかりなのか鼻の先端が少し赤くなっている。後ろにまとめた髪の毛はもうすぐ咲く蕾のように巻いてあった。目の前の少女を見て「静かに彼女のそばで、髪が巻かれていない違った美しい姿がみたい」考えが自然と湧いてきた。
頭につけている髪飾りも目立っていた。そこには白い花があり、楕円形の花びらが二重あって内側には約5つ、外側には10あるジャスミンの花だった。
少女の姿をはっきりと見た瞬間、優しいオーラに包まれていると同時に成熟した雰囲気が漂っていて年齢を超える美であった。
突然現れた黒い影にびっくりした少女は叫び声を上げずにただ反射的に後ろへあとずりした。
少女の前に来て彼女の姿がはっきりと見えたカイは呆然と突っ立ったままでいた。少女の美しさに引きつけられ空腹感もそれほど重要なものではなくなって来た。帰宅の途中にカイの汚い姿を見て避けようとせず、ただ静かに彼を見ていたので彼を助けようと考えたようだった。不意に二人の視線が重なり、2、3秒だけの見つめ合いだったが、二人の間には素敵な感情が生まれた。
少女のものを奪おうとしたカイは逆に自分の心が奪われた。
また、しばらくしたあと体の動きをコントロールする脳が虜になる前に我に帰った。そして、少女の手にあるビニール袋を奪い取った。
逆方向の道へ逃げて行く前に、少女の損失を最小限に抑えるため電池切れの携帯を彼女の手に置いた。
「これあげるよ、売って少しはお金になるよ。」
計画は成功した。もし事前に逃げる路線を計画していなかったら少女の美貌に引かれたカイはなすすべもなかった。
こうして初めて犯行するカイは力を尽くして三つの分かれ道の交差点へと走り去った。
予想していたのと違って、人気の少ない逃げ道を選んだのに自分が少し留まっただけで何人かの人が通りかかった。運は悪いが奪う時の光景を見られなかったことが幸いだった。
−−−なんで助けを求めなかったのだろう、俺の逃げる速度が助けを求める声より早かったから?
普通は声を上げたり人の助けを求める声が聞こえるはずだけどなんで後ろはこんなに静かなんだろう?カイは疑惑に思ったが怖がっているため後ろに振り向くことができなかった。
ドンドンドン……必死に静かな街で走っているカイは心臓の音まで聞こえた。
全力の走りで心臓の鼓動が高まり、食べ物を奪った罪悪感が心臓の鼓動とさらに強まり、脳裏に浮かぶ少女の顔が心臓の鼓動が更なる刺激になった。心臓が三回もの刺激を受け心臓の動きが異様になった。息苦しくなったカイは休むことができる場所を探し、まわりを見渡した。
前方には石で作られた壁で囲まれている一軒家の建築が並んでいた。家門の前にある鉄柵は、離れている一軒家以外のところ以外は全て閉めてあったので人が住んでいるに違いないと思った。
遠く離れているところは歴史感のある黄ばんだ黑色の木小屋があった。
「こんなにも早く見つけられるなんて、普段は不幸な俺でも、ラッキーな時もあるもんなんだな。神様に助けてもらったみたいだ。」
隠れる場所を見つけたカイは道路の先にある木小屋へ走った。
錆びている名札に主人の名前がぼやけている。走ってきたカイは途中で一目しかちらっとしか見ていないため気づかなかった。
そして、中まで入ったカイは、石で作られた壁に囲まれた木小屋が目に入った。
木小屋は異なる大きさの木の棒と板を釘で固定して作られたものである。木材の小屋は耐風性が弱く時間が経っているため、何ヶ所か風に損害された穴が空いているのが見える。木小屋も二階建てになっているが周囲の一戸建の高さと比べるとかなり低い。
カーテンが閉めてあるところは視線を遮られ屋内の状況が確認できない。外観から判断するとこの木小屋は老朽化が進み、人が住める状態にない廃棄された建物であることは明らかである。
木小屋に入らなくてもこのままでは十分安全だという判断をした後石壁に隠れて座った。
目の前にある食べ物を見て空腹感がさらに増した。口の中はよだれでいっぱいになり、包装紙をすばやく解いて食べ物を口の中に放り込んだ。
−−−美味しい、でもなんかネチャネチャしている……きっと昨夜すくった汚れ水の苦い記憶が残っているからだ。
食べているときにカイは手元にある食べ物を見た。外見は普通で、どこででも手に入る食べ物だが包装紙が少し変わっていると感じた。食べ物界の全ての食べ物を制覇しているカイにとっては今手元にある食べ物のメーカーは見たことも聞いたこともない。でも一番変に思ったのは食感だった。まるで納豆を食べたようなネバネバした食感だった。たくさん疑惑に思う点はあるが食べ物を口に運ぶ動作は止まらなかった。すると壁の外から音がした。音に察したカイは嫌な予感がした。そして、食べ物で満たしている幸せな笑顔もだんだん険しい顔立ちに変わった。
先ほどあったばかりの少女が自然にゆっくりと歩いて入ってきた。カイを追いかけてきたようには見えなかった。そして地面に座り込んでいるカイと立っている少女は同時にお互いの存在に気づいた。
カイと少女はお互いを見つめ合い、まるで時間が止まったようであった。そして二人は戸惑う表情を見せた。
「どうやってここまで追いかけてきたの?」
「ここ私の家なの」少女は甘く優しい声を持ち、そう言う声でカイを責めずに立ったままただ彼を見つめた。
−−−彼女の家まで来てしまっただなんて、自ら網にかかったではないか。
そしてカイは最後の一口を口に放り込み、左手の人差し指の指先を右手の手のひらに当てストップの合図を見せた。
「ちょっと待って、自分でやるから」
少女は爆発する前の冷静した状態にいると潜在意識で思い、相手に殴られるよりかは自分で自分を終わらせてしまった方がいい。すると、可笑しな考えを持ったカイは拳を握り、自分の頭に強くパンチをした。そして、意識をなくしてしまった。地面に倒れこんだ時には肩が近くの花木鉢にあたり、その近くのお花まで倒してしまった。
「花?番地札?人住んでたんや」
拳と頭がぶつかりキラキラした星がカイの頭上を回り、意識が遠ざかった。
少女はフラフラしながら倒れているカイを起こし、腕を自分の肩にかけた後ぶつかりながら部屋の中まで運んだ。
「ただいま」
少女に答えるものはいなく、昆虫みたいな影が廊下に現れて確認する間も無く視界から消えてしまった。
そして、少女は下駄箱置いてある写真にも「ただいま」を言った。
しばらくした後、少女に手を貸してもらったカイはソファーの感触を感じた。
−−−さっきの黒い影は……また蚊なのかな、夏の蚊は多いな。
不満に思ったカイはふわふわしたソファーで眠りについた。カイを安置した後少女はテープとスコップを持って門のところにしゃがみ込み花木鉢を修理し始めた。
修理を終えたあと手の甲で汗と泥がついた顔を拭いた。
「ふう、やっと終わった、お風呂入ってこよと」
少し寝たあと、カイはゆっくりと目を開けた。視界は白く濁り何も見えない状態にあった。何回か瞬きをしてから屋内の状況がだんだんはっきりと見えてきた。
木小屋の内部は、原則的には二階建てとは言えない。一階は普通の一戸建の高さだが二階の屋根は非常に低い。
二階には三つの部屋があり、両端に一部屋ずつあって角に一部屋がある。両端の部屋は障子が閉めてあって中までは見えないが両方とも寝室であろう。角にある部屋の木で作られたドアは空いていて隙間からいろんなものが置いているのが見えたことから物置の部屋であると推測できる。
二階の廊下は一人しか通れない広さになっていてそばで支えている柱は木の枝を紐で束ねているものや薪が残ったもの、またはプラスティックで作られているので安全では無い。一番危ない構造は一階から二階を繋げる階段が移動式の梯子でできている。
一階を見渡すと電気家具は冷蔵庫とテレビだけで、しかも旧式バーションである。ここに住んでいる少女は貧困な生活をしていることに気づいたカイは食べ物を奪ったことに対しての罪悪感はさらに深まった。
着替え室の扉が開かれた、そこには浴室でお風呂に入り終わった少女が、濡れた髪の毛をふきながら、出てきた。
「大丈夫?ひどい怪我で倒れてしまって」カイは声がする方向へと目を向けた。そして、シャワー上がりの少女の美しさに夢中になって魂まで連れて行かれそうな時にふっと我に返った。
「あっ、すみません、俺悪い人じゃないんです。何日も迷子になっていてお腹が空きすぎて食べ物を奪ってしまつたんです」慌てて少女に頭を下げて謝った。
下を向いているカイは時には顔を上げて少女の表情を伺っていたが、彼女を見るたびに恥ずかしくなって視線を逸らした。このまま何度も同じことを繰り返した。
「別に気にしないで、それにしても疲れたでしょう」と少女は頭を横に振りカイを責めるところか逆にしん配していた。
「歩けば歩くほど遠くなっていて気づいた時はもうどこにいるのかすらわかなくなってしまった。」
「帰り道がわからなくなったの?」
「そうです、あの−−−」自分が住んでいる町の名前を言おうとしたカイは何日か前に起きたことを思い出した。
「あの、ファイナシ町はどうやっていくんですか」
大体の住民の答えは「あんたはいかれた考古学者かい?それとも頭が悪いのか?」「フィクション映画の見過ぎだろ、阿呆が」などであった。
するとカイは言いかけた言葉を飲み込み違った形で少女に質問した。
「携帯を貸してもらってもいいですか?電話をしてみたいんです、インターネットでも大丈夫いいですので」
「ごめんなさいね、携帯は家で遊び疲れて今充電して休んでるの。あしたになったら使えるわ。あと、この村に人が少ないせいかまだインターネットの接続はされてないの」
カイの額の傷に気づいた少女は何かを思い出したかのようにしゃがみ込んでソファーのそばに置いてある箱を探り出した。
またしも携帯を人間のようにたとえているのを聞いて物思いにふけた。
運営会社は少数の人のためにわざわざインターネットの工事を施すことがほとんどない。特に村で生活をしている人のほとんどがお年寄りでインターネットを使う人が少ないし工事のコストなどをカバーできないため、過疎地域ではインターネットがないことはおかしいことではない。
おかしいのは携帯を人間のようにたとえていることだ。前にあった店員さんも携帯と「けんかしている」と言っていたので、この村の特有の文化なのかな?多分そうだよ、自分が住んでいる町にも特有の祭りがあるみたいに。
「あった……まだ水が温かいうちにお風呂入ってきて」と少女は箱から緑のものを出してカイにいった。物思いにふけているカイも少女の声で我に返った。
自分が知らない人だと全く遠慮していない少女にきょとんとしてしまった。
「嫌なら、新しい水にかえってくるよ」カイが行きたくないと勘違いした少女言った。
「いや、大丈夫ですよ」
「じゃ早く入ってきて、このままだとどこに行っても嫌がられるから」と話しながらカイを着替え室へと押しこみドアを閉めた。
「今日は私のタオルを使って、他のものも自由に使っていいから」とその場を去る前に言った。
いい匂いに満ちた着替え室に入ったカイは体の匂いがさらに強くなった。ぐずぐずした後服を脱いだカイは浴室のドアを開いた。
シャワーの下まで来てシャワーヘッドをつけた。流れ出た液体は体にあたり流れて来たときおかしい感覚が伝わって来た。
「えっ、ここも」
まだ湯気が出ている浴槽にも変な液体が入っている。そしてカイはしゃがみ込み液体を両手ですくい上げた。
「牛乳や花びらでお風呂する人は聞いたことあるけど、油でお風呂……これ、油じゃない」
淡く黄色い液体は外観から見て食用油とオリーブオイルなどの油だと勘違いしてしまうが、手のひらから伝わってくるドロドロした感触は油のようなサラサラした感触がない。
「これはあれみたいだな……」
昨夜、水を探している時のことが脳裏に蘇り、好奇心で液体を舐めて見た。
「温くて、少し甘い、なんかお湯みたい」
突然少女がお風呂に入った事を思い出したカイは一瞬で顔が熱くなった。再びシャワーのスイッチを捻りサッサっと終わらせた。
ズボンを穿いたあと服が見つからないカイは隙間をあけ周りを見渡し助けを求めようとした。
「はい、これ前に学校に分配してもらった住まいでネットを通じて買った服なの、サイズを間違えておおきすぎたからきれなかったんだ。もしきれなかったらまた探してくるから」少女が隙間から服を渡し、ドアの後ろに隠れているカイは反射的に服を受け取った。
「あの……俺の服は?」
「こめんね、縫いてから渡そうって思ったけど、あまりにもボロボロだったから捨てた」
確かにそうだ、あのボロボロの服を綺麗に縫おうとしたらたくさんの布が必要になってくる。もし他の布を使わずに穴だけ縫いたら子供もきれない大きさにまで縮んでしまう。
少女の服を広げて見た。柔らかい生地で作られ触り心地も非常に優れている。服の真ん中には大きな花が描かれている。アニメ模様の花がついているためあまり女性化されてない。確かに女の子にとってはスカートになれるほどサイズが大きいがカイにとってはちょうどいい。
少女が外にいるため上半身裸で出る訳にはいかないので服を着た後ズボンについている泥を叩き取り、見違えるほど変化したカイは恥ずかしそうにドアを開けた。
外開きのドアは外に立っている少女の額がぶつかり、そして彼女は右後ろへ一歩後ずさりした。カイが出る前に興味本位で曇りガラス越しに中の様子を見ようとしたようだった。
「ありがとうございます、これは、大丈夫です」スカートを持って期待する目でカイを見る少女を慌てて断った。そして少女は微笑みカイに背を向けてスカートを元の位置に戻した。この一列の行動はとても暖かくて心が溶けてしまいそうだった。
「着替え可能な熊のぬいぐるみだと勘違いされたのかな」
カイはソファーに座り少女が戻ってくるのを待った。帰り道を聞いてから帰ろうと考えていた。
どのように聞いたら変に思われないかと考えるのに夢中になった時、膝の外側が何かにぶつかった感触を覚えた。すると少女の柔らかい髪の毛があたり、くすぐったい感触が伝わってきた。先ほど見つけた薬を持ってカイの側へとやってきたことに気がついた。
横向きに立っている少女は片足をソファーにかけ、指についている緑色の薬を傷口塗った。
「これを傷口に塗ってマッサージしたらすぐに治るから。怪我してる所見えないから私がやるわ」
近距離で接しているためカイは少女の体から漂ってくる優雅で甘美な花の香りに包まれた。香水が比べ物にならないぐらい、鼻に着く香りは心に沁み今までにない快適さが感じられた。
これが女の子の体の香りかなと思い、顔が赤くなったカイは少女の香りに夢中になり、胸の中で一眠りをしたいと妄想していた。
「痛かったら教えてね」
「ありがとうございます、あっ自分でやりますよ」
視線を少女に移したとき指についている薬に驚いて目を大きく開いた。
瓶の中に入っている植物の茎がくっきりと見えて、厳密には薬物ではなく山からとってきた薬草を細かく砕き瓶に入れたものである。テレビや本の中でよく薬草を砕いて傷口に使っているのを見かけるが実際に見て使ったのは初めてだ。
薬草が効き始め、カイの頭の上の腫れは少しずつ消えていった。
「なんでさっき自分を殴ったの」
「あ、あれは……あははは、女の子が起こると世界を消滅するパワーがあるからそうなる前に自分を自分で終わらせた方がいいと思って」と自慢げに微笑んだカイは自分を殴ったことを嬉しく思っている。学校内や校外で接触する女友達はいるがかなり少ない。「怒ると世界を消滅するパワーがある」という結論は傍観者として得たものである。毎回女の子を怒らしてしまった男子の結果を見て、自分の身に災害が遭ったように心の影がずっと消えないでいた。この少女にあったばかりなのだが短い間の接触を通してあまり怒らない寛容な女の子であると感じた。
「ごめんなさい」と自分が少女を短気な女の子だと思ってしまったことに対して謝った。
「馬鹿ね」と少女は冗談を言いながら薬を優しく傷口に塗った。
「もう自分を傷つけないでね、わかった?」
「うん、うん」
自分を心配する少女を見て照れながら首を縦に振った。
「あ、そうだ、私に渡してくれた、あれ、机に置いてあるから。貴重なものでしょ、無くさないように大切に保管してね」
多分食べ物を奪う時に携帯を少女に渡して損失を最小限に抑えるために売ってお金に変えられることを伝えたが、少女はそのまま自分に携帯を返してくれたことに感動してしまった。
−−−良い子だな、町まで行く方法を直接聞いても大丈夫そうだ。
「あの、ファイナシ町までどのように行けば良いかを知ってますか」と勇気を振り絞って言った。
「うん……確か知ってるはずだけど……」
他の住民の態度と違って、少女は真剣に考えてカイに答えようとした。
「……でも、少し気になっていることがあって、今おいくつ?」
「あ、すみません、自己紹介を忘れてしまいました。カイです、今年17歳です」
「わたしはモリよ……私、私も17歳」
自分の年齢を伝える時緊張して他の方向へ目線をそらし戸惑いながら話した。
年齢と体重は女性の秘密であることを思い出し自分は失礼なことを聞いてしまったことに気づいた。
この時のコンビニの様子では
タコ店員はアルバイトの制服に着替えた後、オーダーメイドしたズボンを履き変えた。出勤表にチェックを入れた後休憩室を後にした。
「もう二日もたっているのね、あのお客さんは無事に家に着いたかしら。もし迷子になったら大変なことになるから……もしあの日即座にモリおねぇさんのことを伝えられたら力になってあげられたかもしれないのに」
カイのことをしん配する店員さんは最新商品が入っているカゴを地面に置き自分の頬を軽く叩いた。自分の状態を整えて再び仕事をし始めた。二つの商品棚の真ん中にいる店員さんは2本の足で立ち、他の6本の足を器用に使って期限切れのものを新しいものに変えた。しばらくして、店長は店員の仕事を点検するために入ってきた。
「今日は早いね」
「はい、今日の夜、用事ができてしまったので他の店員さんとシフトを変えました。大丈夫ですよね」
「仕方ないな、誕生日パーティーだよね。誕生日おめでとう。42歳にして若くて肌も綺麗だね」
「もう店長ったら、まだ成年してないから、まだ17歳、17歳300ヶ月です」
そして木小屋では
「うん……私が勘違いしたみたいね」
「大丈夫、大丈夫」
町の情報を得られなかったがモリは自分を変人だと思っていなかったのでカイは一息ついた。
「それに、街までどうやっていけるか知ってる?」
自分が生活している町は、町の中心から何キロかしか離れていないので家の方向がわからなくても栄えている場所についたら電波もインターネットも繋がるし、他の人に場所を聞けばとにかく家に帰れるだろうとカイは考えた。
「村へ迎えに来るバスはあるが、ここに住んでいる人が少ないから一週間に一回しかこないの、今週のバスはちょうど正午に行ってしまったわ」
「バスに乗りたければ一週間待たなければいけないということか」
カイは眉間にシワを寄せ心の中で自分はついてないと思いながら絶望的な微笑みを浮かんだ。
薬を塗った後モリに挨拶をして他の方法で家に帰ろうと木小屋を出る準備をし始めた。
「もう行くの?外は雨が降りそうだからここにいたら?」
カイを止めるモリの話し方は生き別れをするかのように感じた。モリは水が体に害を及ぼすと考えているみたい。酸度が高い雨なのかなとカイは疑惑に思った。カイは前へと歩き出しカーテンを少し開けて外を見た。曇った空が暗くなり、もうすぐ大雨が降りそうだ。木が曲がるぐらいに強い風が吹き、窓をがガタガタと鳴らしながら隙間から入ってきた。
ここを出ても行く場所はないから雨がやんだ後またボロボロな姿に戻ってしまう。自分がずぶ濡れになる姿を想像したら反射的に肩をすくみ、寒気がした。
「来週町へ行くからまたその時に一緒に行ったら?二階にまだ空いている部屋あるから」とモリは上を指差した。
「それとも……今急いで家に帰るのは、何か用事でもあるからなの?」と慌てるモリを見てカイは手を振った。
「いや、何にもないよ、今休みに入ってるから。親も旅行に出かけてるし、学校が始まるまでずっとひとりだよ」
「ほかの町の学生なんだね……そうだね、じゃここに泊まって」
「ほん、本当にいいの?」
モリは警戒も戸惑いもなく首を縦に振った。
カイはモリの好意をそれ以上断ることなく一晩泊めて次の日に出ると考えていた。雨宿りをすると同時に、明日携帯を借りようと決めた。
カイも当然考慮がなかった。妖怪が人を太らしてから食べると聞いたことはあるがもし妖怪が本当にいるのなら今の自分は十分妖怪の基準に達しているからそのうちかぶりついてくるでしょう。
カイが唯一不自然だと思った点は誰かが自分を監視しているかのようで、まるで監視カメラで観察されている感覚である。しかし、人の家にいるのでこの感覚がどこから来たのかを深く考えなかった。
夕飯の時間になり、食べ物を奪ってしまった罪悪感でお腹空いてないことを理由にソファーでテレビを見て夕飯は食べなかった。テレビでは昔を懐かしむチャンネルがロボットと関係する映画を放送している。
「かっこいいな、なんでこんなにリアルにできるんだろう」
両眼がキラキラしているカイを見て、ニコニコしながら喜ぶカイの横顔を見つめて一人で夕飯を食べているモリも楽しい雰囲気に溶け込んだ。
夕飯の後モリはカイが手伝うのを断り、ひとりで後片付けをした。
疲れていたカイは震える梯子をゆっくりと登りながら二階へと上がった。カイの身長は170センチでそれほど高くはないが、天井が非常に低いため頭を天井にぶつけてしまった。障子を開いた後三畳ほどの部屋でベッド、机、箪笥が巧みに準備されてあった。窓の外からは一階の天井にはたくさんの花木鉢が置いてあって種類が異なる花が植えられていた。その上には雨を防ぐためにラップで作った雨避けがあり、安っぽく見えるが雨避けの効果は抜群である。石垣の横に置いてある雨好きのお花から一階の天井に置いてある雨嫌いのお花や服の柄までがお花模様になっていることからモリは非常にお花が好きということがわかる。
視線を部屋の中へ移し、空間は小さいが隅々まできれいに掃除されていて心を落ち着かせる場である。時間はまだ早いが心身共に疲れ果てたカイは横になって寝る準備を整えた。
「この部屋もベッドもいい匂い、モリは寛容でいい子だな」
まぶたが重くなったカイは意識がだんだんと朦朧になった。すると−−−パリン……
と何かが割れる音に伴って「あ、痛い」の声がしてきた。モリの声だと意識したカイは一階を見た。
割れたお茶碗の欠片を拾うモリは不意に手を切ってしまった。欠片が柔らかい肌を横切り、モリは慌てて傷口を処理した。少し深い傷口から血が流れ出たのと同時に傷口から機械の部品が微かに見えた。しかも傷口の周りからロボットが壊れたような電流が現れた。
「ロボット!?そんなバカな、絶対テレビを見すぎて目がかすんでしまったんだ、手伝わないと」
何日も野外で寝ていたため、疲労が溜まった体は動けずそのまま眠りについてしまった。
夜中になって豪雨がやっと止み、気温が下がってきた。
「寒い」とモリはカイの布団に入って反対側から顔を出し自然に横で眠りについた。目を閉じる前にカイのぶくぶくした頬をつまんだ。
潜在意識が周りの物音を察し、夢遊したかのように座り起き、人差し指で上の方をさした。月の光が窓越しにカイの顔に照らされ、目を閉じながらもぼやけた独り言を言った。「ここんとこ夢を見たんだね、すげぇ長い夢。今も教室の机で寝てるだろう」
布団に手を入れて太ももの内側をひねったカイは痛みで自分に夢だと答えとようとした。
「痛くない、本当に夢だ」
寝言を言ったあと眠気が『早く寝ろ』と刻んである棒で後ろから頭を叩いた。
そしてカイは背筋を伸ばしピンとした状態で横になった。
隣で寝ているモリは太ももに痛みを感じて起きた。手で眠気が覚めていない目をこすってあくびをしながら『痛い』といったあと眠気に襲われそのまま倒れこみ眠りについた。夜明けになる前、外は完全に静まり返っていて室内に二つの音だけが鳴っていた。一つは時々昆虫が羽をバタバタさせる時のブンブンの音とカイが『このクソ蚊』と寝言で言い返す声であった。