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百城  作者: LJW(中国)
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第三章 神木の報い

 放課後担任に呼び出されたカイは話を終え、職員室から出てきた。校門の前で立ち止まり誰かを待っているようであった。

 しばらくした後、バスケットボールのユニフォーム姿のウィリアムが体育館からこちらへと歩いてきた。休みに入っているため体育館が普段よりも早く閉館し、ウィリアムもいつもより早く出てきた。向かってきたウィリアムに挨拶し、二人は学校を後にした。

「長い勉強生活もこれで一旦終わりか〜マジ疲れたよ。もう頭回んねぇ」とひと気の少ない湾曲した山道を歩いているウィリアムは大きな背伸びをした。

「そうだな、やっと休みに入ったよ」

「そうだ、カイ、君が先生のとこに行くところ見たんだけど、どうやった?進路決めた?」

「まだ、お前は?」

「発明家になろうって思ってるんだ、より良い未来にするために!いつかきっと細い体をマッチョにさせる方法を見つけて見せる!」

「発明家になるんだ、すごいな」と将来の夢を持つウィリアムのことを心からすごいと思った。そして、ずる賢いカイは突然何かを思いついたかのようにウィリアムを見た。

「もし俺が発明家になったら、もしくは、未来のテクノロジーとかでマッチョな体を細くする物を発明する!」と言いながら自分のポッコリしたお腹を軽く叩いた。

「あ、この体じゃマッチョって言えないか。ハハハ」

「もしカイが本当に発明家になったら、俺たち敵になるかもしれないよな」

「友達かもよ」

「もしその時になったら、手加減しないからね、絶対消滅してやるから。豊かな想像力を持ってることを嫉妬してるから。しかも、俺たち考えが違いすぎてるよ。絶対俺の邪魔になるから」

「はいはい、わかったよ、仕方ないな。安心して、競争しようだなんて思ってもねぇから。そんなに一筋じゃないから。」とカイは自分のことをからかいながらウィリアムに目を向けた。

 友達になったこの一年間で、二人はお互いの考えや、理念、物事の扱い方では真逆であることを知った。発明家になる話の中からも二人の観点はかなり異なっていることは明らかである。

 二人の外見もかなり違っている。

 ウィリアムは長めの白髪で、髪を染めるのが好きだ、髪の毛を普通の人じゃ染めない白色の染めてるのがそのユニークさの証拠だ。栄養不良あるいは体質のせいなのか頬が凹んでいて体もほっそりしているが、全体を見てかなりのイケメンである。

 しかし、カイは黒髪で、ウィリアムの長髪とは違って、さっぱり感を保つために、かなりの短髪にしている。頬は体質あるいは人にいじられているせいかふっくらとしていて体も少し太っている可愛らしい男子である。

 カイの視線を感じたウィリアムは真面目になりすぎた自分に気づいたのでカイを見て笑顔を作った。そしてカイもつられて笑った。気を取り戻し、まだ自分の進路が決まっていないカイは何かを考えているように遠くを見つめた。

 みんな進路決まっているのに自分はまだ何もやりたいことが見つからない。どの大学を受験すればいいのか。親の言いなりにするしかないのかな?・・・いまでさえやりたいことが見つからないのに。

「あ!この顔、もしかして好きな子できた?早く教えろよ他のクラスの子?それとも同じクラスの子?」とウィリアムは困っている顔を見せるカイを見て言った。

 恋で悩んでいるかもしれないだと思い込んだウィリアムはキラキラした目でカイを見つめた。そして、カイの肩に腕をまわし名前を聞き出そうと距離を縮めようとしたが、押しのけられた。

「違うよ!考え事してただけだよ。お前みたいに女の子を落とすことをばっかり考えてないし」

「ツンデレに他のクラスの女の子とあまり話さないから。結論からすると同じクラスの子だね。教えてくれなきゃ名前をひとりずつ言うよ。最後に残ったひとりがその子になるね」とウィリアムは意地悪な微笑みを浮かべながらカイが言うのを待っていた。

「マジでないから、もう冗談やめろ俺のことよく知ってるくせに」

「わかったよ。諦めた。幻想的な物事と関わることは全て好きだよな。毎日考え出した作り事聞いてるからわからないわけないだろ・・・でも、なんでいつも俺が主役なんだよ。聞いでるだけで中二病になりそうだよ」と強い態度を見せたカイを見てウィリアムは仕方なく諦めて言った。そして、今にも崩壊しそうに叫び始めた。中二病は一般的に自己中心意識が高く、全宇宙を救った特別な存在だと考える病気で、「自分は世界唯一特別な存在」であることを考える人を描写する時に使われる。カイはいつもウィリアムを自分が考えた物語の主人公としてナレーションの立場から物語を進めるという変な事をする。そして実際に何もしてないウィリアムにはいかにも自分がしたように思わせる。カイが中二病になったかどうか知らないが自分はもうすぐなることは確信している。「カウンセリングの先生もカイには負けるよ」といつも嘆きしている。

「自信持てよウィリアム、本当に異世界から来た魔王だから」

「また始まったよ」

「魔王だった時の記憶がないのは地球をもっと楽しむために、一時的に俺のところに保管してあるからだよ。他の人に会ったら恥ずかしがらずに魔王だと自信持っていいなさい、がんばるんだ!」

「俺をキラキラした目で見んなよ。真面目に言うなよ・・・・仕方ないな、今回だけな」

「あ〜なんか入って来た、俺らの距離が近すぎたかな、記憶が蘇ってきた」と妥協したウィリアムはカイの期待に応えようと両手で頭を抱え地面にしゃがみこんだ。

 そして立ち上がったウィリアムはわざとらしく中二病の人がよくする姿勢をとった。左手で右の顔を半分隠し、指のちょっとした隙間から目を出して右手を左腰に当てた。

「間違いない、俺は魔王なんだ、数百名の部下を持つ大魔王なんだ!戦争に飽きた俺がこの地球にやってきて、違う生活を体験しているんだ」

「俺の身分にまだ気づいてないやつ、従ってないやつ、俺のことをよく困らせてるやつ、地球の生活を飽きて記憶が戻ってきた時がお前らの人生が終わる時だからな」とウィリアムの表情がだんだん歪み気味の悪い微笑みを浮かべながら山に向かって叫んだ。

 声が遠くでだんだんと消え、ウィリアムの体がピクッとし、まるで人間の魂が戻ってきたように見えた。

「おかしいな、一瞬気が動転したよ。さっきなんかあった?」

「別に何も」

 お見事な演技を見せたウィリアムを見て信じ込んだカイは慌てて目をそらし、心の中で少し疑惑を感じた。

 −−−ウィリアムは本当に魔王なのか?それにしてもはなんでこんな冗談をしたのかな?もしかしたら、ウィリアムが本当に自分の魔王の記憶を俺のところに保存して、冗談口調で常に魔王であることを思い出させることを命令されているから?

 考えているうちに二人は先が三本の別れ道まできた。ウィリアムはこの道に沿って斜面を上がり山のてっぺんまで上がったところで降り20分ほどした町に住んでいる。しかしカイは道に沿って斜面を降りたところに住んでいるため二人はここで別れた。

「また学校でね、カイ」とウィリアムは斜面を上がりながらカイに手を振った。

「おう、また−−−」とカイは「またね、ウィリアム」を言いかけた時に目の前に止まったトラックで遮られた。そしてカイはトラックの横を回り再びウィリアムに別れを告げようとしたがそこにはもうウィリアムの姿はなかった。

「走って帰れるなんて羨ましいな、早く家について遊べるし。それにしてこの俺は・・・」とカイは自分のお腹の贅肉に目を向けて指で摘んだ。揺れる腹を見て自分は動けないデブであることを再び確信したカイは斜面に沿って家に向かった。

「これで最後、はい」

 配達員は疲労な体を引きずりながらフラフラと受け取った最後の荷物をトラックに積んだ。

「じゃあ、お先に」

「疲れ果ててるね。大丈夫?少し休んでいかれたら?」

「大丈夫です。まだ果物を新鮮なうちに届けなければいけないので。終わったら少し休めます」と配達員はドアをしめ、運伝席に戻りエンジンをかけた。そしてカイの方向へと走り去った。

「どうせ休みは長いし、ちょっと遊んでから勉強しようと。復習を先にやってから予習して。俺天才だな。へへへ」とカイは計画通りに行わない計画をしながら、ダラダラして斜面の木の下まで歩いてきたときポケットに入ってる携帯が振動した。

 −−−母さんからのメールだ。

『学校終わったよね。もう家についた?お父さんともうすぐ搭乗続きするから』

『もう着くから心配しないで。安心して楽しんできてね。二人も気をつけて行ってきてね』母に返信をした後、携帯をポケットにしまいこんだ。

 すると、エンジンの音が聞こえたカイはその場で足を止め後ろからやって来る車を見た。振り向いたカイはまだ目の前の光景を確認しきれていないのに、一瞬目の前が真っ白になって記憶が飛んだ。気を取り戻した時には自分の足が宙に浮いているのが見え、体はもうガードレールの外を飛び出している。

 心臓は何かに掴まれているように圧迫を感じ、空中に浮いている足にも力が入らない。この光景は夢で見たことがあり、その時は故障したエレベータは高速に下へ落ち、死に神に体を締め付けられているようで身動きが取れなかった。

 体が高いところから落ちることが現実で起きたなんて夢にも思わなかった。自分の命はもう今日で終わりだと絶望感に満ちいた。

 カイは道路の方へと目を向け、走っている唯一のトラックが見えた。自分はトラックにはねられたのだ、でも−−−

「顔がはっきり見えない、自分を殺した犯人が誰なのかさえ知らずに死ぬなんて−−−」と現実を受け入れたカイは仕方なく微笑み、目を閉じた。

 両親の面影が暗黒な世界から浮かんできた。

 なんでお父さんとお母さんがここにいるの、これが死に際の走馬灯なの?そして両親が自分の名前を呼んでいる声が聞こえた。暖かくて安心する声が鳴り続けた。

 −−−このまま死んだらお父さんとお母さんかきっと悲しむだろう。まだ両親に言いたいこととやらなければいけないことがたくさん残っている。悔しい、悔しいよ!自分の運命は自分で決めないと。

 カイの生存への強い欲望が彼の目を開かせ、空中に浮いているが賭けてみようと決めた。そしてカイは息を荒くし、獣のように低い呻き声を出し絶対諦めまいと不気味なくらいの微笑みを見せた。

 そして体が木と接触する瞬間背負っているリュックを外し木の枝にかけることに成功した。地面に落ちる速度を落とし体が受ける衝撃を最小限に抑えた。しかし、リュックの肩紐がちぎれリュックは枝に残ったがカイは速度を低減することなく落ちていった。枝にかけることに失敗したカイはむやみに周りの枝に捕まえ着地する前に手で頭を守った。落下する時に速度を軽減したためなんとか助かった。痛みが全身に走り手しか動けないカイは携帯を取り出して助けを求めようとしたが気を失ってしまった。


 急ブレーキをしたトラックはガードレールと接触し摩擦で火花が飛び散った。減速するのに少し距離を取ったトラックはやっと止まった。

 なんかひいたのかな?眠気に襲われ、反応が遅くなった配達員は頭をハンドルにもたれた。少し休んだ後気を取り戻した配達員は恐る恐るドアを開け、トラックの周りを確認した。

 車体の前方が凹み、防風ガラスにもヒビが入った。何かを引いた形跡があるけどけが人はいないし、残っていたのはガードレールの傷跡しかなかった。そして交通違反をし、運良かったと思った配達員はドアを閉め疑惑を持ったまま去っていった。

 人気ない森で倒れているカイは誰にも気付かれず時間が過ぎ去っていった。

 指先がかすかに動き、体の感覚がだんだん戻ってきた。しかし、体の異様に気づいた。体が引きずられていて腰の部分に紐のようなもので縛られ痛みを感じた。

 誰かに助けられたと思ったカイは安心して周囲の様子を確認した。しかし、そこには誰もいなかった。ハッとしたカイは腰の周りに目を向け、縛っているのは紐ではなく木の根だった。カイを引きずる木根の表面はもうすぐ枯れ死にするように剥がれ落ちている。仰向けに倒れているカイは不思議だと感じて少し頭を上げて前を見た。木根の先は少し離れているところの黒いホールから出ており、洞窟ではなく周りの景色に合わない突然現れたホールから出てきている。小さいときに大人から地獄は暗黒に満ちていることを聞いたカイは見たことのないホールを地獄の入り口だと認識するに他ない。

「俺地獄に連れていかれるの?短かった人生が最悪だったなんて。それはそうか、不意に人を傷つけてしまうことを言ったかもしれないな」

 体力がまだ回復してないカイは身動きできず、死神にされるがままでいた。頭が先にホールに入ったが、また同じように違うホールに引きずり込まれた。

 地獄も層に分かれているのかな?何も考えられないカイはホールの中が色とりどりで、しかも回転している。そして、カイは今までに感じたことのない目眩を感じた。吐き気を感じ胃の内容物が逆流しそうだ。頭も鈍く、まるで車に酔う人が熱を出したあと車に乗った感覚と同じだ。しかし、目眩を感じたカイは気を失ってはいなかった。

 カイの苦痛を感じた神木は腰に巻きついている根を減らし、根の先をそっと優しく額に差し込んだ。額から延長した根は脳の神経に付着した。カイの身体と繋がった根は傷を少しずつ癒した。

「気持ちいい」

 額から冷感が体に伝わり、目眩と体の痛みが消えた。そして、体力がだんだんと回復してきて手と足も動けるようになった。カイが困惑を感じているとき、いつも夢で聞こえていた声がした。

「ごめんなさい、いつも神社に呼び出すのに私の方が先に寝てしまうなんて。」

 毎年の祭りの時期は参拝する人が集まるため神の力が一番強い時であり、神木の力も一番強い時である。神木はカイを夢の中で神社へ誘ったが、あまりにも老いているため体力が衰えているのでカイの到来を待ちきれずに眠ってしまった。

「カイに会うまでもう一年かかると思っていたげと、遠く離れている郊外での体が『ホール』が現れているのを感知したから思ったよりも早く会えたね」

 身の回りは静寂したままで耳からも何も聞こえていないのに声は頭の中で響き渡った。不思議だと思ったカイは再度確認し、声の元は額から差し込んだ根からであった。

「人間がこの『ホール』を起動できるんだなんて、しかも歳をとったおじいさんが−−−」

「あ、ごめんなさい。歳をとったせいか独り言が増えたよ、話が遠くなったね。それでね、『ホール』が起動されたのを感知したときはびっくりして起きてしまってね。そしたら、最後の力を振り絞ってホールのもう片方の位置をあなたがいる時代へ変えたのよ。こんな形で会うとはね、でもやっと会えたよ。私の体を見てびっくりしたよね。」

 何分か前、未来の世界で、樹木で満ちた『木の城』と名付けられたところで、木根が全世界に広がった神木が『ホール』の起動を感知し、深い眠りから目覚めた。

 −−−体?

「木の根だよ。私木の女神なの」と神木の返事にカイは驚きを隠せなかった。

 このときカイが驚いたのは神木が自らのことを木の女神だと名乗ったことではない。森で起きた時にホールを確認した後その先に存在するのは人間ではないことを確信したからだ。驚きを感じたのは自分が話してもないのに、ただ頭の中で疑問が浮かんできただけで神木はそれに答えることができる。

 大脳を通じて会話できるってことかな。

「俺たち知り合い?」とカイはあまりの驚きで大きく開いた口を閉じ頭の中で話をかけてみた。

「覚えてないの?私はあなたが昔に埋めた種だよ。神社が加護する中でもう一万二千年ぐらい生きてきたよ。その間に稀に傷つけられたげと。あいつらは私の体の一部を切り落として一人の少女を傷つけたの・・・もう寿命が来ているけど会えて嬉しいわ」

 少女って誰のこと?とカイは疑問に思った。そして神木はあえて話題を変えたのでカイもそれ以上そのことに触れなかった。悲しい過去の出来事だったかもしれない。カイもそれ以上追及しなかった。

「時間的にも間に合ったから。あの人類が遭う災難が訪れる前に未来に連れて行こうと思ったのね」

 話を聞いて呆然としていたカイは我に返った。

「待って、さいっ・・・災難!?早く離して未来になんか行かないよ、まだ家族と両親がそこにいるから一緒にいないと」

「ごめんね、本当に。今の私の力ではあなた一人しか連れて来られないの。両親にこのことを伝えられたらいいのに。そうしたら私がしていることにきっと賛成するわ。でも、もうそんな気力はないよ」

 入って来たばっかりの時のあのホールにはだんだんと離れ、カイは焦って自分を縛っている木根を裂き始めた。しかし、二つ目のホールからたくさんの根がカイに向かって腕を縛った。

 腕の自由を奪われたカイは足を必死にバタバタとさせ、どこかに足を引っ掛けて進行をとめようとした。しかし、この彩られた空間では足を引っ掛けるところか地面すら存在しない。

「おい、待って、ちょっと聞いてよ、おい!離して」

 カイは二つ目のホールから引きずられてタイムスリップの軌道を通過して未来の地球へ到着した。ホールもすぐに消えた。

 カイを縛っている根も千切れて落ちた。

「眠たいよ、また眠りについてしまう。この未来の世界、私についてたくさん疑問があると思うけどここにこれば・・・」と眠りに落ちる前の囁き声のように神木の声はだんだん小さくなった。神木は次目覚める時にカイに会えるよう期待し、そして目を閉じた。眠りに落ちる寸前にカイが過激な行動を阻止するために神木は根の先端を使い脳裏の記憶のつながりを切断した。

 そして、カイの記憶は映画を巻き戻したようにウィリアムと別れた時の情景に戻った。切断された記憶の部分は単独保存した映画のように脳裏の一番深いところへと漂っていった。

「また学校でね、カイ」

「おう、またねウィリアム」

 まるでウィリアムがその場にいるようにカイは遠離れた誰もいない前方に向かって手を振った。次の瞬間、地面に倒れた。

 カイが倒れているところは町から遠く離れた小さな村である。近くで一番栄えている町は色々なロープウェイの交通機関があり「機械城」と名付けられたところである。この時のカイはまだ、現在の地球はもはや機械人の時代であることを、人類がもはや絶滅寸前の動物であることなど、知るはずもなかった。しかし、人間は保護されず、逆に機械人からの攻撃を屡々受けていた。

 約十五分間が経ち、倒れているカイはゆっくりと目を開けた。空が目に入り呆然としながら周りを確認したが風景が不自然の角度で視界に現れた。背後も地面の固い感触を覚え、しばらくして地面に倒れ込んでいることを意識した。

 一部の記憶を失ったカイは何が起きたのも知らずに恐る恐ると立ち上がりキョロキョロと周りを見た。廃棄された道路は車も通らず、両端にあるガードレールもカビカビで下方には藤の蔓が広がっていた。人に踏められないところに生い茂に生えていた。ガードレール外に生えている草も膝を越える高さまで成長していた。遠くを見渡し太陽が山の背後へと沈み、その下方にある川を夕日で照らされてキラキラと輝いている。

「うわ!まぶしっ、なんでこんなに光ってるんだ、すげぇ太陽だな」

 太陽の光が目にしみたカイは慌てて背を向け、頭を低くして目を擦った。この時にカイはまだ水の異様に気づかずただ水面が眩しく反射しているとしか考えていない。

「ってここどこ、俺迷子になったのかな?」

 やっと目が回復し、下を向いているカイは体の傷が目に入った。

 体の中の傷は神木に治療されたが、力に限界があったため傷跡がまだ鮮明に残っている。

 カイは優しく腕を触り、擦り傷のような傷口はさほど痛みを感じられなかった。

「ここ俺知らないな、ここで怪我したのかな。もしかして転んで地球に孔を打ち砕いて反対側に到着したってこと?いや、そんなことはあり得ない、しかも穴なんてないし」

 肩にリュックと教科書の重さがなく軽々としていた。無意識に肩を触り自分のリュックがなくなっていることに気が付いた。

 一周りに目を配ったが見つからなかった。

「あれ!?リュックがない・・・強盗にあって、それでここに放棄されたってことかな?」

 そして慌ててポケットに手を入れ、携帯がまだ残っていることを確認したカイは一息ついた。

「・・・携帯がまだあるってことは強盗にあってないと思うけど」

 カイは突然何かを思い出したかのように手を叩き大きな口を開け驚いた表情を作った。

「わかった!専門的な宿題を盗む組織が現れたに違いない。こんなに学生思いな組織がこの世界に存在するんだなんて考えてもなかったよ。ありがとうございます」

 リュックをなくしたと気づいた時には少し悲しかったけど、まだ手つけていない宿題を思うと悲しい気分が一気に吹っ飛んだ。しかも変に心の中ではうれしい感情が湧いてきた。

「これでも今の遭遇を説明できないか。どうやってここまできたか全く覚えてないや」

 考えても結論を出せなかったカイは周りに道を聞ける人もいないため、いったん疑惑を心の底にしまった。そして携帯を取り出し両親に連絡することを決めた。

 電波がないから電話もかけられない。インターネットもないから調べ物も地図を開くこともできない。磁石の針は使えるがキラキラと光っている川の方向を指しているのでカイは前進することを諦めた。

 カイは携帯をポケットにしまう前に、もしかしたら使えるネットがあるかもと、設定を「自動的に利用可能なネットを捜査」モードに切り替えた。携帯をポケットにしまった後、カイの注意力は周りの環境へ戻った。

 太陽が沈み微かな光は山の頂上で消え、景色も暗くなった。

 突っ立ても誰も助けてくれないので勘で方向を選びまっすぐに伸びている道路を歩き出した。

「人はいないし、車も通らない、ネットには繋がらないし、電波は無いし、街灯もない。これは一体どうゆう状況なんだ?・・・なんで、なんで不幸な時は不幸な事が連続で起きるんだ。運がいい時はちょっぴりの幸運しかやってこないのに」

 両親は旅行に出かけ自分も家でのんびりテレビ見ている頃だったのに、今では帰り道もわからない。家に帰って遊ぶという希望の光は、暗くなってゆく景色と同じように絶望に満ちている。

 カイは携帯の懐中電灯機能で暗い中を数時間かけて歩いた。

 斜面を通過したとき微かに光る青い光が森を突き抜け目に入った。カイは懐中電灯を消し、コンビニエンスストアの看板から出た光だと確信した後やっと人がいる場所を見つけたと大声で叫んだ。下までつながっている道はないが斜面は平坦しているから歩きやすい。いち早くコンビニにたどり着くためガードレールを飛び越え森を通ろうとした。ガードレールの外側にいるカイは森の暗闇からの恐怖のせいで両足に震えが止まらない。携帯の懐中電灯の明かりを借りてなんとか走って森を超えられるが小さい頃から暗いところと幽霊が苦手なカイは家で寝る時でさえ電気をつけないと眠れないのに携帯の微かな明かりだけでは恐怖を乗り越えるのは困難である。森を抜けることは今のカイにとっていちばんの挑戦である。

「ヨーイ、ドン」

 森で眠っている『魔物』はカイの走っている足音で目覚め、『攻撃』をはじめた。

 泥はまるで骨のない怪物のようにカイの靴に向かって攻撃し、木の枝は小さいナイフのように服を傷つけ、そして葉っぱは今にも爆発する爆弾のように体に張り付いた。森にいる鳥たちも目を開け悲惨な鳴き声で弱っている心を攻撃している。

 たった1、2分で森を突き抜けたカイは斜面の下方にたどり着いた。靴は泥にまみれ服の数カ所に穴が空いた、身体にたくさんの葉っぱがついた。幸い、ズボンは綺麗なままだった。


「まだ仕事はたくさん残ってるけど本当に任せて大丈夫?」

「私足が速くて普通の店員の4倍の仕事量をこなせる優秀な店員ですよ。安しんして任せてください」

「わかった、たこ焼きの準備を忘れないでね。夜になってお客さんがだいぶ少なくなるけどこの店の特色だから24時間提供しなければいけないから。じゃお先に」

「わかりました。お疲れ様です店長」

 そして店員を一人残し店長はお店を出た。一人になった店員は寂しさを満たすために歌を口ずさんだ。

 お店の前にきたカイは頭についている最後の葉っぱを取り、身だしなみを整えた。綺麗な服は人に自信を与えるのなら今ボロボロで体を隠しきれないこの服はとんでもない恥である。

「破れているところ多いな、手で隠しきれないよ。手がたくさんあったらいいのに」

 非常に緊張しているカイはドアに手を当てゆっくりとドアを押し開けた。不審者だと思われないように空腹感を我慢しずつ頭を下げ棚にある食べ物に目配りしながら唾を呑み速足でレジへ向かった。

 レジに背を向け、歌を口ずさみながら奥の方で串でたこ焼きを裏返している店員はレジ前に立っているカイに気づかなかった。

 カイは店員の邪魔をせずただ幽霊のように後ろで待っていた。

「♫なんで〜みんな〜たこ焼きを好きなの〜、♪中にはタコの足が入っているのに〜タコの足は臭い〜臭い・・・」

 お客さんが来たみたい、そして店員は後ろを見た。

 カイのよだれがついている汚い顔を見てびっくりした店員は一歩後ずさり悲鳴を上げた。

「・・・脚ああああああ!食べないで、わたし食べられないから、食べられないから」

「あ、すみません、つい・・・」

 たこ焼きから視線を戻し口元まで流れて来たよだれを手で拭いた。

「本当に申し訳ございません、この時間にお客さんがいらっしゃらないと思ってたもんですから、申し訳ございません」

 何回もお辞儀をして謝る店員を見てカイは慌てて気にしないように手を振った。

 店員が姿勢を戻したのを見て、声を整えて入る前に何回も連取したセリフを言った。

「こんばんは、実は役者なんです。飛行機の事故で無人島まで流された人間の役を演じています」

 カイは後ろへ下がり、指を「0」の形にし、まるで木の枝で作られた杖を持っているかのように足を引きずりながら店員の方へ向かった。レジの近くまで来て頭を上げて上方の長細い電球を無人島に通過する飛行機だと装い手を振って助けを求めた。

「・・・でも、午後製作のスタッフたちと逸れてしまって次の撮影場所へ行きたいんですけど。ファイナシ町までどうやっていけばいいかご存知でしょうか」

 表情豊かな少年を見て本当に役者だと信じ込んだ店員は聞き覚えのある町の名前を思い出しながらサインをもらおうと商品を記録する紙とペンを出した。

 カイは容易に店員の信用を得て心の中で喜んでいたと同時に申し訳ない気持ちも現れた。

「すみません、実は僕は役者ではないんです。迷子になってしまいました」とカイは事実を伝えた。

「ごめんなさいね。お役さんがおしゃった町は小さい時に聞いたことはあったが、印象には残っていますが突然聞かれると思い出せないです」

「そうですか、そういえば携帯持っていますか?僕の携帯は電波がなくてお借りしてもよろしいでしょうか」

 自分の状況を証明するためにカイは携帯を取り出そうとした時——

「携帯ですか、今喧嘩しているので家に置いてきました。ごめんなさいね」

「ケンカですか・・・」

 店員の言葉に疑惑を感じたが、携帯も故障する状況があると一瞬理解した。例えばフリーズ、バグ、画面が黒くなったりすることがよくあることをケンカの状態にあると言えるかもしれない。

 携帯を擬人化する店員も面白いな。

「大丈夫、大丈夫です、僕の携帯もよく故障するんで」とカイは人の言葉を理解したのにもかかわらず今度店員が戸惑った顔でカイを見た。

 すると空腹に限界に達したせいかカイに反抗するようにグーとなった。お店に二人しかないため店員にもはっきりと届いた。

「お客様、何かご購入なさいますか」と店員は笑顔で問いかけた。

 そしてカイは片手をのばしポケットに履いているお金を出そうとした。冷たいコインに触れてカイは自分がお昼の時に余分の食べ物を買ってしまったことに後悔した。

「すみません、小銭しか残っていません」

「そうですか、道具をしまってください。そうしたら・・・」

 カイが見せたコインを見たことがない店員は人間がまだいる時代のコインをユーモアに道具といった。

 店員は後ろを振り向いて数個のたこ焼きを箱に入れカイに渡した。

「はい、どうぞ。たこ焼きです。私がおごります。不思議ですよね?コンビニがたこ焼きを販売しているんだなんて。でもこれがここの特色なんです。・・・大丈夫ですよ、受け取ってください。もし美味しいと思って頂ければ次ここに来た時にまたいらしてくださいね」

 店員は遠慮するカイにたこ焼きの入っている箱を渡し、そして勘定を忘れないように財布をレジの横に置いた。

 店員に返そうとした時にお腹が再び鳴り出したため好意をいただくしかなかった。

「あの、店内の警報器で警察に連絡しますか?力になれるかもしれませんよ」

「いいえ、大丈夫です。面倒臭いので、ありがとうございます。離れたところの山を越えれば着くと思います」

 透明の窓越しに店員に離れたところにある山を示した。あの山は他の山より一段高く自分が町で生活している時になんとなく心に留めていた。しかし、これもまた偶然である。カイが生活していた町はもうこの時代に存在せず、昔の町の場所もここからはるかに離れているところにある。

 カイは店員に挨拶したあとお店から出た。そして月と道路両端の街灯の光を浴びながら帰り道を探し始めた。

 しばらく歩いたカイは箱を開けた。焼き上げたたこ焼きは湯気が立ち、まだ暖かいため甘酸っぱい匂いとたこ焼き自身の香りが漂ってきた。

 お腹が空いているカイは漂ってきた香りを逃さず大きく吸い込んだ。爪楊枝でたこ焼きを口に運ぼうとした時にカイは戸惑い始めた。

「中に入っているのはタコの足かな、手かな・・・とにかくオスの足でなければ大丈夫」とカイは店員が口ずさんだ歌詞を思い出し、初めて食べ物に対して抵抗感があった。しかし、美味しい食べ物の誘惑に負けた。しかも食べ物を尊重しなければいけないと思った。

「ねばねばしてて、お餅みたい。確かに特色があるなー、うわータコも弾力あってうまい」

 食べ物を含んでいる頬はまるでボールのように丸く、噛む動きに合わせて上下に弾んでいる。

 この時のコンビニでは人を助けた喜びに満ちている店員はレジを片付けたあと、本棚に目を向けた。

「次は書籍交換だね」

「本・・・そうだ、学校で勉強してた時は歴史の先生が授業であの町のことを言ってたような気がする。でも、あのお客さんはなんでそこへ行くのかな、おかしいの」

「あっ、言うの忘れてた、隣の村に住んでるモリおねぇさんなら知ってるかも・・・」

 少年を追いかけ、重要な情報を伝えられるように店員はレジのそばから走って出てきた。走っている店員の下半身からたくさん乱れている足音が伝わってきた。まるで陸上試合の終点を競い合う4人の女子の足音と同じようである。

「もうここにはいない、間に合わなかった」

 店の前に立っている店員は元気なく肩が垂れ下がった。速度を自慢としている彼女は、タコの8本の機械足を使っても間に合わなかった。

 カイがお店にいる時はレジで下半身が隠れているため、店員が40半ばの上半身が人間姿で下半身がタコの足を持つ未来で生活しているロボット−−−機械人であることに気づかなかった。彼女は混合型の一種であるタコ型機械人である。


 村の中で、カイはここで生活している住民に会い、自分の町までの行き方を質問した。しかし、一部の住民はカイが言った町の名前と身にまとっている服を見て少し嫌な態度を見せ彼を避けた。もう一部の住民はその町を知らないでいた。

 利用できそうな事が分からなかったカイは、町から離れざるおえなかった。彼は汚く、穴だらけの上着をみて、自分が変人とみられる事に少し納得した。しかし、町の事を知っている人達は、いかれた人が行く場所だと思っているようだ。その一部の住民の言葉に対し、彼はおかしいと感じた。

 村を出た後カイは携帯の明かりを頼りに暗い道路を歩いた。

 朝から夜までずっと携帯を使用していたため電池が低下している事を警告されたあと電池が切れて自動的にシャットダウンした。

 電気がなければ先に進むことも困難である。長時間歩くことによってかかとの皮が剥がれ腫れ上がったため、近くで一晩過ごすことに決めた。周囲の環境は厳しく持たれてねれるような施設もない。綺麗に掃除された道路上で一晩止めようと考えたがたまに車も通りかかるので寝ているときに引かれたら大変なことになると思い道路上で寝る考えをやめた。カイは周りを確認し道路沿いの草村で横になった。すると草むらの中からネズミや蛇が動くような音がした。そして、カイは結局高い木に登って一晩過ごそうと決めた。枝が背中をつついて眠れないのかそれとも携帯がなくて寂しいのかなかなか眠れないカイはずっと半分移ろいている状態だった。

 あうううううう、ゴホッゴホッ・・・・あうううううと突然狼が泣く声が聞こえた。何秒か続いた狼の鳴き声が、人間が咳する音で中断され、そしてまた狼の鳴き声が聞こえてきた。

「狼?」不気味な声で目覚めたカイは一段と高い狼が登って来られないところに登り、木に座り警戒しながら下を見た。

「なんで咳する音が聞こえたんだろ」

 高いところは月の光に照らされているが下方は暗いままだった。こんな暗いところで人間が歩くはずがないので咳の音も狼が出したとカイは判断した。

「狼人間?空耳かな?・・・夢かな?」

 カイが必死に考えているときに不自然と思うほどの力強い風が遠く離れた木の城から吹いてきた。風によって震えた葉っぱがザザザの音を立てた。狼がきた?カイは落ちないようにと祈りながら木に強くしがみついた。風に飛ばされた緑の葉っぱは空中に漂い、そして枯葉にしかない茶色の光を放った。光っている葉っぱは下の方に落ちるはずだったが、途中でカイがいる方向へ漂い、そしてそれぞれ異なる木の枝にとまった。高い木の枝に留まった葉っぱもあれば、低いところに留まったものある。そしてカイのそばに留まり、一斉に周りを照らし幻想的な景色を造った。蛍光の中心にいるカイはびっくりして後ずさりしながらも好奇心を隠せなかった。すると、葉っぱたちが子供のような幼い声を出した。声はそれぞれ異なっている異性同音に話し始めた。

 ・・・「「「私たちは神木が生んだ木の精霊です。ママが眠る前に木の城まで来るようにとあなたに伝えるように言いました。私たちのママがそこで待っています」」」・・・

 ・・・「「「私たちはもうすぐ消えてしまいます。残った時間は私たちが一緒にいますので安心して眠ってください」」」・・・と木の精霊たちは言い終わった後子守唄を歌い始めた。

「この夢マジで現実的だな・・・次は美味しい食べ物夢を見られたらいいな」

 眠気が襲ってきて木にもたれてゆっくりと目を閉じた。

 茶色の光が消えた後葉っぱは緑色に変わり地面に落ちた。

 次の日になって、帰り道を探し続けるカイは結局誰もいない野原で一日中迷子になっていた。



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