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百城  作者: LJW(中国)
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第二章 家庭型ロボット

 山に囲まれている小さな町は、一年一度の祭を迎えた。この日は参拝の人が多く集まり、神社の前に長い行列が並んでいた。

 カランカランと柏手を打つ音が遠くから室内へと伝わった。机に伏せて寝ている少年の耳が微かに動き、幼い頃の出来事を夢で顧みた。

「なんだあいつは、植木活動の後に校内で植えなきゃいけない種を外に持ち出して、撒き散らして楽しんでるなんて!最悪なやつだな。」と少年はケンカで傷だらけの顔のまま神社へ向かった。

 神社の裏へ回り、スコップで土を掘り、イタズラ少年から奪ってきた種を埋め込んだ。

「なんでいつもイタズラする奴がいるんだよ。よいしょ、植物が空気を浄めて生き物により良い環境を作ってることを知らないの!しかも、よいしょ、いつか俺たちを助けられるかもしれないのに」

 少年は種を蒔き、掘り上げた土を戻した。そして、少年は立ち上がり、手についた土をはらって満足げに種を植え、地面を見た。

「……よし、キレイに埋めた。ここは神社に近い神聖な場所だからもう誰にもいじめられないから、安心してね」

 まだ水やりをする暇もない少年の額から汗が流れ落ちた。やがて土に浸透し、神木の最初の栄養となった。

 密かに神社のそばに埋められた少年の汗がついた種は、スクスクと成長した、現在でも、未来でも。だんだんとぼやけてゆく夢の情景は、徳望の高い女性年長者の少しずつ大きくなる話し声に取って代わられた。

「早く神社へ、カイ……早く神社へ、カイ!カ−−−」と彼女が力を尽くしているように聞こえた。

「え?誰?また聞こえた、いったい誰が俺のことを呼んでるの」

 びっくりして起きたカイは冷や汗をかき、大きく息をした。

 カイは部屋の左右を確認し、見覚えのある置物が目に入り、自分が宿題をしている時に寝てしまったことに気づいた。毎年のこの時期に同じような声が聞こえるが起きた途端に消える。

 いつもヘッドフォンをしてる後遺症かな、幻覚?神社に行って確認したこともあるけど何もみつからなかったから、誰かのイタズラ?もしかして神が世界を救う指示を俺に伝えてる?……カイは過去にも同じような考えをした時があり、何度か声の主を探したが結局何も見つからなかった。だから、カイはストレスが溜まったせいで見る悪夢だとみなし、それ以上追求しなかった。

 気を戻したカイは机に置いてある残りの宿題をパラパラと捲った。

「めっちゃ時間かけてやったのに、まだこんなに残ってる、もういやいや」

 絶望したカイは、諦めて半分残ったお菓子を持って窓際へと座った。カイの部屋は二階にあるが、窓際はスペースが十分確保されているだけでなく安全性も高いためあまり社交的ではないカイにとっては外を見渡す最高な場所なのだ。

「羨ましいな、今年も参拝する人多いな。もし俺が参拝するとしたら何を願おうかな」とカイはお菓子を食べながら、参拝に向かう人たちを見て言った。

 独り言を言っているときに、机にある携帯が鳴り出した。画面の通知には『ウイリアム』と表示された。

 同級生兼親友のウイリアムがカイに電話してきた。カイはつながった携帯を肩と首の間に挟んで再び窓際に座った。

「おいおい、お前さまた運動してる?」と携帯の向こうからのボリボリと食べる音を聞いてカイをからかった。

「まあね、今顔の筋肉を鍛えてるんだよ、って何か用」

 ボクサーがパンチをするときに鍛える腕の筋肉あるいは陸上選手がスクワットで鍛える足の筋肉と同じく、食べる時は噛むことにより頬の筋肉が鍛えられることも当然だろう。

 カイにとって、拳を握り、腕を曲げたときの腕の筋肉はもちろん、歯を噛み締め唇を強く閉じた時に頬の筋肉を見せることも勿論できる。しかし、頬の筋肉を見せることは滅多にないのだ。

「別に大したことないよ。祭がまた始まったから、一緒にどう?新しい巫女さんを見られるかもしれないよ。ゲヘヘ」

「マジないわ、まだ見てないのによだれ垂らしてるとは。早く拭いて、流れてる音聞こえてるから」

「おっけ、拭いたからって行きますか?」

「うん……俺はいいや、特に願いことはないし」

 今年17歳のカイは他の同級生と同じく人に言えない悩みがあるが、他の子たちと比べて悩んでいる程度は深刻である。カイはいつも退屈を感じる事が多く、自分の心の中では何かが欠けているようで、自分がなにをしたいのかも曖昧で未来に対しても期待していない毎日を送っている。願いを言う時や友達と将来の夢についての話題をしゃべる時にカイはいつも何を言えばいいのか困っている。このため、カイはいつも参拝することを断っていた。

 カイが興味を持つことはもちろんある。例えば、本や漫画、テレビに出ている幻想的な物や、魔法、超能力、異世界。

 現実では幻想的な物を身近に感じられないが、本やテレビなどを通じて違った角度から体験することを楽しんでいるカイは作家或いは役者になりたいと稀に積極的にやりたいことを思いついたこともある。しかし、この職業の尋常じゃないストレスを知った途端にその考えをやめた。あれから、カイは紙に自分の創作を書いたり、テレビの主人公を真似たりすることに留まった。

「そうか、わかった。1人で行くよ」と少しがっかりしたウイリアムの声を聞いて、彼を1人にさせられないカイは一緒に行くことに動揺を隠せなかった。

 気が変わったカイはウイリアムに伝えようとした時、見慣れた姿が人溜まりからこちらへと向かってくる人は買い物から帰ってきた母だった。

「ごめん、また学校で話そう、お母さん帰ってきた」と出かける時によく勉強をするように言い聞かされたので、のんびりしているとこ見られたら大変なことになると意識したカイは慌てて電話を切った。そして、食べかけのお菓子をおき、慌てて机に向かい本を持ったカイは母に気づかれないように口に残ったお菓子をドアと反対側の頬へと移した。

「まったく、また窓際に座ちゃって!危ないのよ!落ちたらどうするの。ねぇ、あれ?また何隠して食べてるでしょ!」

 わざと落ち着いたふりをするカイは本読んでいるふりをしたまま、首を小さく横にふり文句言う母に反応をした。お菓子を含んでいる反対側は母にとって盲点だから、まだ気づかれていない。

「もう少ししたらご飯ができるからね」と母はドアの鍵を取り、部屋へと向かった。カイは机を片付け、一階へと向かった。

 初夏は穏やかで、セミとカエルの鳴り声は夜の訪れを住民に伝えるように奏でられている。夕飯の時間になり、カイはウキウキしながら炊飯器を開けた。

「今日も一杯だけよ」

 カイの身長は170センチあり、体重は80キロと少し太っている男子である。かわいい顔つきで、同級生にも人気者であるが、母は息子の健康管理をするためにいつもダイエットをするように言い聞かせているのと同時に食事制限もしている。

 肥満は自分の健康には悪いが、成長期の真っ最中のカイにとっては食べ物の誘惑を抵抗することが難しい。このため、ダイエットをすることを自然の成り行きに任せている。

「わかった、わかった」と返事した後、カイは自分の背後を確認した。父は新聞を読んでいて、母は食べ物を並べていて、誰も自分のことに気づかなかった。お碗を手に持ったカイは付ける量をごまかすいい機会だと思い意地悪な微笑みを浮かべた。そして、より多くのお米が入るように、しゃもじで押しながら一粒一粒の間に隙間なく詰めた。

 母の「一杯だけ」の要望に応えるために、山盛りにつけたこともあるが「あんたの一杯は人の二倍よ」と責められた。

「これで完璧!」

 −−−一番上のご飯をすきすきにつければバレないでしょ。

 炊飯器を閉じたカイは食卓の前へと座った。ごく普通の一杯が、本当は大量のお米が凝縮されたものである。

「もうすぐ休みに入るよな」と父は新聞を閉じ、カイに問いかけた。

「まだ一週間ある」

「お母さんから聞いてるよね。会社からの休みが降りたからお母さんを連れて2人旅行に行こうと思ってね。もうすぐ高三になるから、家でしっかり勉強してな」

「うん、わかった。一緒に行きたいけど、勉強の方が大事だから家でおとなしくしてるよ」がっかりした表情を見せたが、本当は1人で過ごせることに喜びを感じていた。

 −−−ラッキー、もうすぐ1人になれるからやりたい放題じゃん。

 父は食べようとした時に、母は口の中に入っている食べ物を飲み込み、箸を置いた。

「お父さんといない間に、しっかり勉強するのよ。お菓子なんかばっかり食べてるんじゃないよ」と母の文句を聞いたカイは思わず眉間に皺を寄せた。

「わかったよ」

「時間があったらトレーニングしてね、痩せたらカッコよくなれるよ」

「別に、誰かに好かれようとしてないし、しかもこれはただ体が夏の暑さで熱したら膨れて、冷やしたら縮む現象なだけだよ」

 たぶん反抗期のせいか、カイは自分の見た目を気にする事なく、ご飯を素早くかきこんだ。

「今の状態を改善しないと体に悪いのよ。あとから後悔しても無駄だからね。ねぇ、話聞いてるの?……またそんな早く食べて、早食いも肥満になる原因なのよ。ほら、お母さんみたいにゆっくり食べないと」

 いつも母に同じことをばかり言われているから、カイも少し不機嫌になった。ゆっくり噛んで食べることは消化にいいと知っていても、カイはがっつり食べるときに得る満足感が好き。

「お母さんは米粒の数がわかっているほとだから、邪魔しちゃいかん、忘れたらまた数え直しだから。」

 カイの不機嫌に気づいた父は冗談気味にゆっくりご飯を噛みしめる母をからかった。ご飯を食べたあと、両親がソファーで休憩している間カイは自ら皿洗いとキッチンの掃除をした。

「カイも大人になった一面もあるね」と母はこっそりカイの様子を観察していた。そして、父も新聞紙で顔の半分を隠して静かに見守っていた。

「お母さんさぁ、さっき厳しすぎたんじゃない?もっと好き勝手にしてやったら?」

「お父さんにはわからないよ、好き勝手にしたらこの子ダメになるかもしれないから。厳しくするのもこの子のためだから。」

「あっ!今日、新しい商品の発表がある」とカレンダーの日にちに気づいた母が言った。

 そして、母は少し傾いた姿勢を正し、隣においてあるリモコンに手を伸ばしてスイッチを入れた。

「ねぇ、聞こえてる?」とウキウキしながらテレビチャンネルを変えている母が肘で父を突っついた。

「はいはい、もう読み終わるから」と父は新聞紙に一目を通し、大事なところの見逃しがないかを確認した後、母と一緒にテレビを見始めた。

『−−−以上が携帯の紹介でした。この新機種が生活をもっと便利にしてくれるといいですね……』

 テレビの音を聞こえたカイは皿を洗いおわり、蛇口を閉めた。

「また発表会?……お父さんとお母さんは携帯が好きだな」とカイはテレビをチラっと見た後、背を向けて洗い終わった食器を拭いた後食器棚に戻した。

 何年か前だったらカイも両親と同じようにテレビの前で新機種の発表会を待ち伏せするが、最近の機種には大した変化がないため興味をだんだん無くしたカイはそれ以上時間を費やすことをやめた。

「そうね、便利な時代になったね。タイムラインで友達の状況も見れて、会話したり顔を合わせたりすることもできるようになったね」

「それ以外の機能もあるよ、買い物したり写真とったり、仕事もできるし。こんなことなんて、前には想像できなかったよ」

「そんなにいいものなのか、2人もあまり依存しないでね」

 こんなこと自分が言うことじゃないとカイは苦笑いした。

「掃除終わったから、部屋に戻るね」

 テレビに集中している両親はカイに返事する暇もなかった。

 カイは両親が若い人より電気製品に夢中になっている姿を見て仕方なく笑った。ことの良し悪しを考えるのをやめ、リビングから出た。

 テレビ上の発表はまだ続いている。

『発表会はまだ続きますので、チャネルを変えず期待してくださいね。今から紹介する商品は我が社がまもなく発売する新しい商品です。では、スタッフさんに持ってきてもらいましょう』と発表会の司会でかつこの会社の社長である男は台下のスタッフさんに合図した後数名のスタッフさんがスタジオの側面から二つ箱を台上に運んできた。箱はプレゼントのように綺麗な包装紙で包まれ、さらにリボンでラッピングされていた。長方形の箱はスタッフさんと同じぐらいの高さがあり、内部には一人分のスペースがある。

『ではこちらへ、包装を開けてください。』と男はスタッフたちに指示した後再び台下のカメラとお客さんに目を向けた。

『今、スタッフさんたちに持ってきてもらったのは、全人類の贈り物である、家庭用ロボットである』

 男が紹介している間、スタッフたちは素早く包装を開け周りを整頓してから台下へと下がった。準備を整えた後男は手にある携帯のアプリケーションで科学技術感に満ちた箱を開けた。

 開けられた箱の内部は暗く、なにも見えない。そして、男の「光れ」の合図とともにはこの上層部にある4つの電気がついた。そして、一人の男性と女性が裸で現れた。

 ……『『『人、人間!?』』』……

 記者だけではなく、招待された全ての人が眼の前の光景に驚きを隠せなかった。そして、気を戻した人たちは近くの人と話し始めた。ざわつき始めた会場には人口販売などの過激な発言をする人まで出てきた。

『違います!これは人間の外見と知恵を持った家庭用ロボットであり、家事の手伝いをする家庭型ロボットの一種です。掃除や料理、年寄りの面倒を見たり子供の宿題を見るなど様々な家事を手伝ってくれます。あなたの想像を超える機能がついています。我々の家庭用ロボットはなんでもできます』と会場のコントロールを取り戻すため男は説明した。

『今皆さんが目にしているのは我が社の製品の中から選んだ二つの合格商品である。家庭型ロボットは異なる外見、体型、年齢そして知恵を持つ特徴がある。体のデータや外見までは必要に応じて予約することができます。しかし、ここで明白にしておきますが、外見を特別に作ることは特殊なケースに限ります』

 家庭型ロボットは外見を始めいろんな面で現実の人間に似すぎているため、お客さんはロボットの外見を希望することができない。例えば、男性が敬っている女性の外見を持つロボットを希望することはできません。

 特殊なケースとしては例えば、重い病気を抱えている方は自分の外見と同じロボットを希望し、自分が亡くなった後の時間を自分の代わりに家族と過ごす。または、過度に亡くなった人を思うケースに限ります。

『近いうちに、今までにないこの高知能の商品が我々人類と同じのようにこの地球で生活していく−−−』

『待ってください!……』

 突然、一人の記者が立ち上がり、男の説明を遮った。

『先ほど人類と同じのようだとおっしゃいましたが、それは人間と同じように犯罪もするということですよね。私たちを傷つけるようなこともするということですよね。こんな危険なものをどうやって身近に置くというのですか』と記者はカメラに背を向け男に問いかけた。

『ご質問をありがとうございます。今からお答えいたしますので、お座りください……会場にいらっしゃる皆さまだけではなく、おそらくテレビの前のみなさまも同じ疑問をお持ちであるかと』

『この件に関してはご心配なく、家庭型ロボットは我々人間が定めた『ロボットの三定律』によって制約されています。この中で最も重要な第一律はロボットは人間を傷付けてはいけない、あるいは危険にさらされている人間を無視してはいけない。ですので、家庭型ロボットは人間を傷つけることはありません。』

 質問を問いかけた記者も男の答えに納得し拍手を贈った。そして、会場の人もつられて次々と拍手した。

『ありがとうございます。これにて発表が終わりますので、残りの時間で再度このロボットをご覧くださいませ』

 熱烈な拍手で閉め、会場の人はカメラを始め、携帯、デジタルカメラが一斉に箱の内のロボットに向けられた。そして人類の様々な欲望がこの二体の裸に注目を集めたのであった。

 台上にある女性のロボットの目頭に光るものが現れ、そして唇を震わせながら『恥ずかしいよ、見ないで、見ないでよ』

 隣においてある男性のロボットは舌を噛み締めたせいで口の角から血が流れ出た。『なんて侮辱なんだ……』と歯を噛み締め必死に自分の声が出ないように我慢した末、あまりの侮辱に耐えきれなく怒りの声が出た。



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