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百城  作者: LJW(中国)
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第一章 博士と二人の子ども

 機械城のあるプライベートの実験室で空いていたカーテンが慌てて締められた。

「ダメダメ、まだ準備出来てない。はじめてじゃないけど、私……少し緊張してる。よし、始めよう」

 女の子が誤解されるような言葉を言った後、小さな竜の爪が机の上に置いてある本を開き始めた。

 本を開いた途端、記録されていた冷たい文字がまるで命が宿ったかように、新鮮な空気を吸った途端、体に活力がもう一度まとわり始めた。

 本に書かれたひとつひとつの文字が魔法をかけられたかのようにページから離れ、空中で飛び交わした後それぞれ異なる場所で任意に組み合わされた。

 そして、開いたページの上に立体的な映像があらわれた。文字で説明された環境の描写は道路になって現れ、植物を描写した所は、花や木が生えてきた後、ルネサンス風の町や住民も続いて現れた。

 これは文字で表現された内容を立体的な映像に移すことが出来る本であり、未来に存在するスーパーブックシリーズの代表の一つである。

 しばらくした後、スーパーブックを眺めているドラゴンと背中に乗っている少女は読者として本の世界に向かって冒険をはじめた。

 身体が小さい二人は本の世界で自由に飛び回り、街の上空で本の外では感じられない街の背景や人の生活を身近で感じられる。

「ドラグ、フェアーミ、今から『造洞機』の準備で忙しいから、自分たちで遊んでおいで!遅くならないように早く帰ってくるんだよ」と白い雲が漂う空の遠くからおじいさんが子どもたちを心配する声が聞こえた。

「わかった!博士」「はいはい!わかったよ〜博士」

 とドラゴンであるドラグと背中に載っている少女フェアーミは同時に頭を上げて返事をした。

 博士は子供達を見送った後、実験台に向かって造洞機を起動する最後の準備に取り掛かった。

 遠くから聞こえてくる足音がだんだん消えていった。

 この時、未来の冒険物語は次の実験の失敗から展開し、そして、子どもたちから博士と呼ばれるおじいさんはある少女と少年の恋愛の証人になる事は誰もが思いつかなかったであろう。

 博士と挨拶を交わした後、フェアーミはドラグの変化に気が付いた。いつも大人しく口数が少ないドラグは数カ月ぶりに言葉を発したが、以前のドラグはまだ男の子の声だったのに、今は魅力のある男性の声に変わったいた。

「おい! このドラバカ!どうしたの急に!どこでそんな声覚えてきたの?声は変わったけどまだ男だと認めないからね!まだ幼いから、男にはれないよ!」とフェアーミは嫌機に言った。

「どこで学んだかなんて俺の勝手だろ!誰も俺も認めることなんか期待してないし!いつもいじめられてるから黙ってただけだし、また変なことを押し付けられるんだろうね!だから喋ったんだよ!しかも何種類の声を使ってね、あはははは」とドラグは得意げに言った。

 驚きの表情を隠せないフェアーミを見て、いつもいじめられているドラグは学んだいろんな男性の声を自慢するために、得意げに男性の声を変えながら笑った。

「困った困った、バカドラが前よりも賢くなったから博士がもっとドラグを好きになるかも知れない……私の家での地位が持たない!」とフェアーミは独り言のように呟きながら、博士の頭の中の幸福への妄想は崩れ落ち、ある日自分は惨めになるかもしないと思った。

 雪が降っている寒い夜。

『マッチはいかかがでしょうか?……マッチ、どうですか?一本買ってください、お願いします』

 フェアーミはボロい服を一枚身に纏ったまま飢えと寒さを耐えながら、裸足で大雪が降り積もる街で通りすがりの人にお願いするようにマッチを売っている時の自分を想像し始めた。

 凍えながらマッチを売っている自分がいつの間にか昔博士と3人で住んでいた家の前を通り過ぎた時、暖かそうな毛皮の絨毯を羽織って暖炉の前で幸せそうに寝ているドラグを自分は窓の前で羨ましそうな眼差しを向けた。、もっとマッチを売れば食べ物と服を買うお金が儲かると自分を励ました後、寒さに耐えきれないフェアーミは木かごに残っているマッチに火をつけようとしたが雪に濡れたせいでちっとも火がつかない。

 ヤバイ、超寒い。無我夢中に惨めな姿を想像するフェアーミはふっと我に帰り、「ダメよ!バカなドラグに戻って」とドラグに当たり付けするように言った。

「ヤダね〜命令するなよ!俺の御主人は博士だけなんだよ!……な?博士」とドラグは自慢げにフェアーミを見て頭を微かに揺らしながら確認をする様に実験台の前に立っている博士に尋ねた。

「いつも御苦労さん!」と博士は気まずく笑いながらドラグに返事をした。

「博士の邪魔をしないでよ!あと、博士は御主人じゃなくてパパなの!パパ〜!このバカ忘れたんじゃないでしょうね!」

「忘れてねぇよ、絶対忘れないから……ねえ、フェアーミ、何で時々パパのことを博士、または先生、ティストで呼ぶのかな?『御主人で呼ばないほうがいい』って本人も言ったけど。パパ、博士、ティスト、先生、御主人って全部パパの名前なのかな?なんか複雑だな〜」

「もちろん違うわよ、名前はそのなかのひとつだよ。ほかには場合によっての呼び方なんだよ」とフェアーミはドラグに説明しようとしたが、前からドラグに何かを理解してもらうのは難しい事を知っている。何よりもこれ以上ドラグが賢くなるのは博士はもっとドラグを好きになるからなので、あえて説明するのをやめた。

「そんなに気にしないで、私の後について呼べばいいから」と言った後、フェアーミは怒ってないのにドラグの背中に向かって拳を下ろした。ドンドンと音がした後ドラグの背中にコブができた。

 訳もなく叩かれたドラグは不可解にフェアーミを見た。

「なんで叩くんだよ?」

「昔人々は動物にある事を覚えさせてほしい時、食べ物を与えるか叩くかの二つの方法を使ってた、今この私が使ったのは後者の方法よ。ドラグのためだからね、私の言ったことをよく覚えられるようにと!は、はやく感謝しなさい!」

「へぇ〜そうなんや、ありがとう。そうだ、主人公はなんでまだ登場してないの?フェアーミ、見つけた?」

 主人公の周りにはきっと稀で面白いことが起こるから見逃せない事については、いつも意見の合わない二人でも稀にこのときだけは一致したため、二人が遊んでいる時に会話の合間で必死に主人公の姿を探していた。

「まだ見つかってない」とドラグの背中に載っているフェアーミは下を見ながら首を横に振り、答えた。

 主人公は登場せず、面白いことは一つも起こらない。街を見渡すかぎり同じ設計で建てられた建物と普通の日常を送っている住民だけであった。

 もしかして、悪いことをする人が現れないと主人公も現れないのか?でも、今悪い人すら見つからないから、いつまで待たなければいけないだろう。こうして考えている間に、ワクワクしていたフェアーミはすっかり好奇しんをなくしてしまった。ページの上に現れている現実のような映像ですらフェアーミの好奇しんを呼び起こすことが出来なかった。フェアーミは背を伸ばし、日光を遮るように片手を少し額の前に出し、遠くを見つめ、最後の努力をしようと試みた。

 遠くの森を見渡した後、貴族のガーデンらしき風景がフェアーミの目に入った。そこには綺麗に整えられた芝生に咲いた色とりどりのお花と道路の両端のショートツリーが植えられている。さらに遠くを見渡すと、フェアーミの好奇しんを再び呼び起こす風景が目に入った。

 しばらくした後、目を細めて遠くに集中しているフェアーミが見たのはダークトーンの別荘だった。そして、その後ろの風景に違和感を感じた。しかし、スーパーブックの1ページが表せる内容に制限があるため別荘より後の風景は現実の世界の風景との境目になっているため植物でも建物でもなく、机に置いてある実験用のビーカーだけが目に入った。ビーカーの大きさは街の風景に合わないためフェアーミは違和感を感じた。

「あっ!あの建物おもしろい……バカドラ、行こう。主人公がいるかもしれない。GO!GO!GO!」と目線を戻して興奮したフェアーミはドラグの首に回されている縄を引っ張り馬に乗っているように強くドラグに叩きつけた。今の状況からしてフェアーミは別荘の後に隠された風景が物語の肝心に関連していると信じているからである。

「痛っ!もうちょっと優しくしてよ!皮膚は厚いけど痛みはちゃんと感じるから!ってお前も翼ついてるくせになんで俺に乗ってるんだ!」とドラグは後ろを見てフェアーミを下ろそうと体をひねり始めた。

「優しくないなぁ〜女性を大事にするのはジェントルマンの責任でしょ!責任!わかってる?」

「やれやれ、こう言ってもわからないか。余計なしん配しちゃったわ。ちっとも賢くなってないわね!地位を脅かすと考える私がバカだったわ」と戸惑うドラグの顔を見てフェアーミは言った。

 フェアーミはため息をつきながらも、ココロの中では安しんした。ドラグは成長する中で変化したことはだんだん私から離れていくと感じるけど、でもバカでKYでいつでも私の助けを必要とすることには変わりない。

 二人がケンカしてる間に別荘の上空にたどり着いた、ドラグは速度を落として芝生に着陸する。

「爪で本が傷付かないように気をつけてね」

「大丈夫、平気だよ−−−」

 二人が会話しているうちに、ドラグの後ろ足が真っ先に芝生の上に着陸した。足裏に触れた部分の映像は消え、草と泥が別の場所にどかされたかのようであった。足裏に当たる部分に実際の本のページが現れ、足の爪が消えない傷跡を残してしまった。

「やばい!!」

「このバカ!気を付けてって言ったのに」

「さっき、話に気を取られてたから気づかなかったよ」

 言い訳をするドラグを無視し、フェアーミは慌てて周りの状況を確認し始めた。

「景色は消えてないし、周りの様子も変わってないからよかった〜でもベージに傷が残ってるけどあまり影響はないわね。今度傷つけたら許さないからね」と周囲の状況が無事であることを確認したフェアーミは言った。緊張して息が止まりそうなドラグは無事だとわかった時一息をついた。

 二人が残した傷はこのとき別荘に向かっている主人公に影響を与えていることは誰も想像しなかった。

 別荘の近くの森を歩いている主人公は頭が鋭い道具に削られたみたいに、スウスウした感触に違和感を感じたので、足を止め、手を伸ばして頭上を触った。

「あれ!?髪が!」

 先まで濃密だった髪の毛が、今頭の半分しか残っていなくもう片方の頭はツルツルになった。

「変な髪形だな、うん……前もこんなんだったっけ?なんか思い出せない」

 スーパーブックはいろいろな欠点がある。その一つは外の世界から影響を受けやすい。

 本自体が損害されたり、ページが破られたり、ストーリを書き換えられたりした時などに物語に存在する実物に影響を与えてしまう。今傷つけられている部分は主人公の外見を記述している部分であったので主人公の外見に影響を与えたのである。

 わざと損害を与え、本の物事を変えてしまう以外に、ドラグのような不意の傷つけによって影響を与えてしまうときもある。例えば、飲み物をこぼしたりした時に本の世界では大雨が降ったり、水災害に遭ったりするときもある。酷い場合にはスーパーブックの『スーパー』の機能を失い、ただの本に戻ってしまう。

「ここで本題が始まるのかな」とフェアーミはドラグの背中から飛び降りた後、二人は別荘の窓から中を覗き込んだ。

 一階には様々な金属の装飾が施されているが人はひとりも見当たらない。

 すると、エサを啄む小鳥が突然飛び去ったのと同時に人の気配を感じた二人は後ろを振り向いた。

 一人の少年が正午の炎天下で、別荘に向かって歩いている。

 少年の頭には半分の髪の毛しかない可笑しな髪方を見た二人は我慢できず爆笑したと同時に先ほどの傷跡が与えた影響に気づいた。

「もう笑わないでよ、ドラグのせいじゃない!ほら真面目に!」

 フェアーミとドラグは少年の左側に目を向けた。初めて登場する人物の人物紹介はその人物の横に現れる事を知っているからである。このとき、少年の情報が黒い文字になって浮かび上がった。

 ……「性別——男」「種族——人類」「職種——冒険家」「能力——なし」「趣味——女性」……

 二人が読み終えた後情報は自然と煙となって消えた。

 魔法の本の世界で、この能力を持たない冒険家はドラグの好奇しんを引き出した。

「何の能力も無いのに、冒険するのって勇気あるね〜、おい、お前すげぇな」と地面に伏せているドラグは少年が外の世界の声を聞こえないと知りながらも賞賛した。

 少年は別荘にだんだん近づいて来た。本の世界の物事は読者に直接影響を与えず間接的に影響を与えるためこれから二人の体に接触をするときの少年の体は道のど真ん中にいるドラグの体と直接ぶつかるわけではない。触る面でその接触した部分は徐々に煙となり少年はまるでドラグの体に入ったかのようになる。そして黒い煙は上空で漂い、やがて反対側に着いたときにだんだんと少年の体になって現れ、まるでドラグの体から出て来たようであった。

「街の住民は僕の冒険に参加したくない、この近くにもう一軒あるから諦めずに誘ってみよう。最後の望みが叶うかもしれない。頑張ろう」と少年は自分を励まし、息を整えた後、自信満々に目の前のドアを開いた。

「すみません、誰かいませんか?」

 中に入った少年はドアを閉め、部屋に目線を移すと床から反射した光が目に飛び込んだ。

「まぶしいっ!なに?……金属と宝石を嵌め込んだ大理石の床?わ〜何あれ?門の縁の金属に彫刻で花模様が入れられてる。うわあ〜金のシャンデリアだ。豪華だな、この家のご主人はきっと金持ちなんだろうな、一緒に冒険できたらいいな」

 しばらく別荘の中で待ったが誰も自分に応えなかった。しかし、少年は家から出る意思はなく主人の帰りを待って見ることにした。

 少年は少し退屈だと思い、1階の客室を歩き始めた。周りを観察している少年は、この家に豪華な家具が揃っている以外、至る所にある主人の趣味が露わになっている赤色の家具が配置してあった。

「家は広い上、家具も特独だな〜お金持ちだけでおさまらないかも。これが上流社会の生活かな。もし、僕と冒険に出かけなくても、出発するときに何か食べ物をくれたら嬉しいな。荷物をなくしてから、もう何日もご飯食べてないよ」と少年は歩きながら不意に左手でお腹を揉みながら右手で喉を触った。長い時間をかけて冒険仲間を探すことに苦労をしていたようで空腹感も限界に達している。

「飲み物?」と赤い木で作られたテーブルに飲み残された赤い液体に目をつけた。

「これは……血?トマトジュース?普通のトマトジュースをワイングラスに入れる?マジで血じゃないよな?いやいや、血をワイングラスに入れる人もいないでしょう。これは一体何だろ?」と少年は独り言をぶつぶつ言いながら、グラスを手に取り、ココロの中で不安を感じた。

 別荘内に怖い雰囲気がだんだん漂い始め、窓越しに見ているフェアーミは反射的に手で目の前を覆い目線を足下の芝生に移した。

 少年はグラスの液体を回し、匂いをかいた後、グラスを傾け液体を少し飲んでみた。

「ビックリした、普通のトマトジュースだね。貴族の生活は上品だな〜ワイングラスでジュースを飲むだなんて、おしゃれ。」

 さっきは試しに飲んで見たが少年がトマトジュースだと確信した後我慢できずに再びグラスを傾けて残りをゴクゴクと飲み干した。

「あ!もう少しだけ、少しだけ飲もうと思っていたのに、止まらないで一気に飲み干しちゃったな。どうしよう?……後でちゃんと主人に謝らなきゃ」

「あ〜ビックリして死にそうだった。本当に、この本って冒険の話だよね、なんかホラーの要素も入ってる」

 血ではないと分かったフェアーミは目を覆っていた手を下げ、再び部屋の中を覗き込んだ。

「怖がってるのに見るの?ドMだなフェアーミは」

 フェアーミは自分がドSであることを証明しようとドラグを叩こうとしたときビクっと動いたドラグの耳は違う方向で何かの気配を感じた。

「どうしたの?」

「なんか人の足音が聞こえたような気がする」とドラグは爪を口の前に当て、フェアーミに大声を出さないように合図をし、小声で言った。

 フェアーミは仕方なく手を下ろし、再び別荘の中に目線を移した。

「二階に行ってみるか!」

 留守の時は普通、鍵を閉めるのに、僕が開けられるってことは御主人が家にいるかもしれない。たぶん二階で休んでるから僕の声が聞こえてないだ。少年は御主人を待つことを断念し、そして二階の部屋に向かい、主人を探すつもりだ。

 廊下の曲がり角までたどり着いた時、突然蒼白い横顔が少年の眼の前に現れた。蒼白い顔が少年に気づき正面を向いた途端、目があった二人は思わず「幽霊だ!」「人間だ!」と叫んだ。少年が目にしたのは顔が青白く、クマがひどく残っていて、八重歯がむき出しになっている吸血鬼だった。

 恐怖のあまりに少年の半分しか残っていない髪の毛と吸血鬼の長い髪の毛が雷に撃たれたように立ったのと同時に気を失い、硬直した二人の体はv字型になって両端へと倒れてしまった。

 ……「性別——女」「種族——吸血鬼」「職種——なし」「能力——闇の中では全能」「趣味——ホラ映画を見る(人間を紹介する映画)」……

「見て見て!吸血鬼だ」

 ドラグが情報をみて興奮しながら隣にいるフェアーミを見たとき、フェアーミはあまりの恐怖に口に白い泡を吹きながら倒れていた。

「大丈夫か、フェアーミ?おい!しっかりしろ」

 ちっとも反応しないフェアーミを見て、ドラグはビンタで起こそうかと迷っていたが、しばらく個人的感情を捨ててやがてフェアーミを背中に乗せて別荘を離れた。

 しばらくして、フェアーミはドラグの背中で目覚めた。しかし、恐怖からまだ気を取り戻してないので背中に顔を伏せたままだった。

「バカドラ、生まれてからずっと実験室から出たことがないから、ねえ、現実の世界にも吸血鬼が存在するの?」

「しらねぇ〜俺たちがどうやって生まれたかすらしらねぇ」

「バカにはわからないか」とフェアーミは苦笑いをしながら言った。

「でも、寝る前に博士から聞いたんだけど『現実の世界にも怪物は存在する』って、機械怪物だったかな。そうだ、気持ち悪いならここを出ようか?」

「もうちょっと遊ぼう、とりあえず人の多いところに行こうか」

 そして、ドラグは先ほど行った街へ向かった。二人にとっては短い移動時間だったが、本の世界では早送りをした映画みたいに時間が過ぎ去り、太陽が昇りそして月へと変わり、また太陽が昇りの繰り返しが続き二人は本の世界の二日目に辿り着いた。太陽が雲に隠れ、最初の日と比べ物にならないくらいの曇り日だった。二人が街へ移動している間、少年と吸血鬼のストーリは続いていた。昨日の午後、村長は街の人々を別荘に集め、昼間に行動しにくい吸血鬼をみんなで協力して捕まえた。

 人々は村長に集められているため街には人気すらなかった。

 低空飛行をしているドラグは住宅と住宅の隙間から教会に人が集まっているのを見た。フェアーミを載せたドラグは近くまで近づいて、多くの住民が何かを囲んでいるように集まっているのを見た。そして、囲んでいる中心はさっき、二人が見た吸血鬼であった。

 吸血鬼は犯罪者みたいに、処刑台の木柱に鉄製のチェーンで縛られていた。

 吸血鬼は教会の屋根にある神印の鎮圧を耐えながら、門の前で聖書を唱えている神父の洗礼を強制的に受けていた。曇りの天気で日差しはそんなに強くなく、吸血鬼は幸いにも助かっていたが、全身の皮膚に赤い斑紋が現れ、まるでお湯をかけられたかのような苦痛な表情を見せていた。吸血鬼の足元には魔除けの銀器や十字架が置かれていたが効果がないようで、聖書でココロを清めた後処刑台の下に準備されている薪で吸血鬼を処刑することにした。

 お祈りを唱え終えた神父は聖書を閉じた。そして、周りで見ている住民はざわつき始め、怖い表情で吸血鬼に向かって叫んだ。

「コイツは街のみんなの血を吸った、殺せ!」

「私の血を吸っても構わないが、子供はまだ2歳なのに吸うなんて」

「お年寄りにまで手を出すなんて、暗黒だね!」

「なんで病人をまた傷つけるんだ」

 ……「「殺せ!」」……

 住民はもう吸血鬼を恐れることなく、腐った卵や果物(やわい柿、とげつけのサボテンの実、ドリアン)、石を投げつけた。

 やっと気を取り戻した吸血鬼は処刑台の下で怒り狂った民衆を見て、再び恐怖に襲われ失神した。臆病な吸血鬼にとっての人間は失神するほど恐れられている存在で、人間が吸血鬼を恐れているのと同じである。そんな吸血鬼が住民の血を吸うはずがない。二回も失神した吸血鬼を見て二人は住民の言っていることが信じられなかった。空中で全てを観察している二人は住民の暴動に参加せず、静かに地面の状況を見守った。

 フェアーミが吸血鬼を見て失神した状況から、吸血鬼を恐れているが、住民とは違い、フェアーミはただ吸血鬼の見た目を怖がっているだけである。

「フェアーミ、調子は良くなった?」

「うん、だいぶ良くなった……」

 本の世界の住民たちにとっては、数十時間も過ぎているが、全ての状況を目にしている二人にとってはわずか1分過ぎただけである。

 フェアーミは別荘で見た光景を思い出すだけで背中に寒気が走ったが、人気が多いところで先の恐怖感から少し抜け出したのか体力が戻って伏せた体を起こした。

「しん配してくれてありがとう」

「俺はただ今度吸血鬼が出たらお前が俺に向かって吐くのが怖いだけだ」

「考え過ぎた私が悪いわ!このバカドラ、あっ下見て」

「誰?危ないから早く戻ってきて」と二人が言い合っている間に、下から一人の慌てて止める男性の声が聞こえたのと同時に民衆は声がした方向に目を向けた。そこには別荘で見た少年が立っていた。そして、民衆から抜け出した少年はそのまま処刑台へと向かった。

 住民たちは少年の行動に驚きを隠せなかったが、武器を持ってない状態で吸血鬼近づいくことが危ないから少年を止める者はいなかった。

「みなさん、聞いてください、僕の友達は吸血鬼ではありません。信じられなければ僕みたいに上がってきて試してみてください。血を吸いません。」

 体を民衆に向いている少年は話を続けながら自分の腕を伸ばし、吸血鬼の口の前に近づけた。吸血鬼の鼻はピクピクと動き、本能的に唾を飲み込んだ後気を取り戻した。

 見覚えのある人を見て、安しんした吸血鬼は、勇気を振り絞って台下の民衆を見た。

「友達だから言ってるだけじゃないのか?前、村長のところで血液融合検査をしたら、コイツの血液は街の全ての人の血液と融合できるのはどう説明するんだよ!コイツが知らないうちにみんなの血を吸ったんだ!」と民衆の中から一人の住民が少年に反発した。

 住民たちは誰一人台上に上がって試す人はいなく、様子を伺うままでいた。

「吸血鬼ではなくても、光を恐れているから別の悪魔かもしれない!殺せ」ともう一人の住民が発言した。

「そうだ!」「賛成だ」「殺せ」「誰か火をつけろ」

「ね!こんな近くまで腕を伸ばしてきたら血吸っちゃうよ。この人たちが言ってることは本当なの、私、人間の血を吸う悪魔なの」と吸血鬼は生きるか血を吸うかの戸惑いを抑えながら自分の前に立つ少年に言った。

「吸血鬼だから何?怖いってちっとも思っていない。人が許してないときに血を吸うことは絶対にないと僕は信じてる。昨日、別荘でたくさんの美味しい食べ物をご馳走してくれた時点で友達だから。友達を怖がる人なんていないでしょ」

「勘違いしないで!同情しているだけだよ、冒険の誘いもお断りだね。友達なんかじゃないから。人間と悪魔は……友達になんかなれないから」

「なれるよ!深く考えちゃダメだ!僕たちの友情は種族とは関係ない」

 吸血鬼は少年の真剣な表情を見て、さっき自分が言っていたことに悔を感じ、目をそらした。やっと築いた絆が簡単に否定されたら誰でも怒るだろう。

 少年は自分が言い過ぎたことに気付き吸血鬼の顔を見た。吸血鬼の八重歯を見たとき、少年は吸血鬼が自分の安全を守るために強いことを言っただけであったと気づいた。そして、少年は謝るように親指と人差し指で吸血鬼の唇を摘んで八重歯が隠れるように被せた。

「誰にでも人に知られたくない面はあるよ、変えられなければ隠せばいいんだから。こうすればもう大丈夫」と少年は吸血鬼の下唇持ち上げ、眠っている人に布団を覆い被せるように八重歯を隠した。

「そうだ、村長って誰か知ってる?なんか村長に悪いことでもした?」

「うん、種族の間の仇だよ。村長は蚊の一族の一員で、長い鼻が血を吸えるようになってることを知ってるのは私だけだよ」と八重歯を隠された吸血鬼はぎこちなく話した。

 少年は吸血鬼から目線をそらし、下方の住民たちを見渡した。ほとんどの住民の顔、首、腕などに残っている赤い跡は八重歯によっての跡ではなく、蚊に喰われた後に残る跡だということに気づいた。

「蚊?アイツが事前に集めた住民の血で罠を仕掛けたんだよ」

「ここで死んだら終わりだよ!この素晴らしい世界を見に、一緒に冒険に出ようよ。光に弱いのなら僕が傘を差してあげる。昼間に行動しにくければ僕がおんぶして足になるよ。」と少年は振り返り再び真剣に吸血鬼を冒険に誘った。

「紳士的だな」と上空で少年が言ったことを聞きフェアーミは感動して言った。

「昼間も出かけるようになるのかな……」

 吸血鬼も昼間に行動したいが、呪いをかけられているせいで、夜しか頭が冴えず、自分の考えが実現できないため、数え切れない寂しい夜を過ごした。寂しさのあまりに、夜中に街へ出かけたこともあるが、人気のない街を見てより切なくなった。吸血鬼は一人の力で、昼間に外出することができないことに無力さを感じた。

 吸血鬼は少年の話を聞いて、微笑みながら自分が今まで過ごした寂しい夜の苦痛を思い出し、冒険に出かけることに動揺し始めた。

 この時の少年は吸血鬼から返事はなかったが暗黙の了解も返事の一つだと考えて吸血鬼を連れ去ろうと縛っているチェーンを解き始めた。

「何やってんだ?やめろ!誰か止めて!」

 少年に時間を稼ごうとして、吸血鬼は下の民衆を睨んだ。民衆の恐怖しんを利用して、「来るな」と思わせるような表情を見せ、威嚇した。

 住民は「誰かが止めるだろう」と考えているから誰も前に出て止めようとしなかった。後ろに立っている住民は前に押しかけ、一番前に立っている住民は自分が前へ出ないように必死に止めた結果誰も台上に上がらなかった。

「かなりキツく縛ってるね。夜であればよかったのに」

「夜?夜なら解けるの?」

 吸血鬼は頷いた。そして、少年は何かを思い出したかのように「ちょっとまってね、すぐ夜の環境を作ってあげるよ」と言いながら自分の裾を裂き始めた。

 少年は裂けた裾を折り畳んで吸血鬼の目を覆った。そして、少年の動作に合わせて吸血鬼も目を閉じた。

 自分より低い位置にいる吸血鬼を見下ろした少年は、鞭で叩かれて破れた服から露わになった女性の特徴に思わず目をそらしたが鼻血が出るのは防げられなかった。

 目を覆い被された吸血鬼は外からの光を完全に感じないで暗黒の全能を起動し始め、キツく縛られたチェーンは縛っている獲物の体から先に力を失った毒ヘビのように下へ移動したが解ける様子はなかった。

「ごめん、予期してたのとだいぶ違うよ、何も食べてないから。力がないから解けない。」

「僕の血吸う?」

「血液で飢餓感良くなるけど、いいの?」

「大丈夫だよ、ちょうどあるから」

 少年は鼻から垂れてきた鼻血を手で集め、吸血鬼の鼻へと近ずけた。

「どうぞ」

「ありがとう、いい匂い、これが新鮮な血液なんだ」

 血液は人間にとって鉄のさびのように生臭いが、吸血鬼にとっては誘惑のある匂いだ。

 吸血鬼は餌を見て興奮した子犬のように舌を出して手のひらを舐め始めた。

「なんか奇妙な味……お父様が言ったのと違う、なんか酸っぱい。手を切って出した血?」

「あっ違う、これはあの、今出たばかりの僕の、鼻っ、鼻血」

「えっ!え〜やっと血を味わったのに、なんかガッカリ〜涙出そうだけど今はそれどころじゃないな」と吸血鬼は再び手のひらに残った血を舐め始めた。人生で初めて味わった血が鼻血であったが、空腹感がかなり解消され、全能を起動する力が湧いてきた。

 そして、全能を起動した吸血鬼の体に縛っていた鉄のチェーンは体に沿ってゆっくりと足元に落ちた。

 チェーンが処刑台に落ちた音を聞いた民衆は押し合うことをやめ、疑惑を抱く表情で一斉に台上を見た。

「なになに?」「どうかした?」「まじ!?」「!????」……

 ……「「ヤバイ!早く逃げろ!」」とその場で固まっていた民衆は吸血鬼の異変に気付いた。

 そして、吸血鬼に復讐されることを恐れ、盗みにバレたネズミの如く四方八方へと逃げ始めた。

 この時、吸血鬼は逃げ回る民衆を相手することなく、吸血鬼に罪をなすりつけた村長の居場所を感知し始めた。

「こっちの事情を知っているようだね。西北方で待ってるんだね!全ての仇を加算しておくよ」と村長の居場所を察知した吸血鬼は、念力で伝えた。

 少年と目を合わせた後、木柵でできた東南方向の影に沿って、潜水をするようにそのまま地面へ潜り込んだ。

 そして、ヒントに従って、フェアーミを載せたドラグは西北方へ向かった。


 村長と何回も戦った末、吸血鬼の弱点を把握した村長は吸血鬼の目を覆っている布を外した。

 光を感じたと同時に全能を失った吸血鬼は全身の力が抜け、戦闘力は普通の人以下に陥った。さらに、頭もだんだんとクラクラし始めた。吸血鬼は、少年のように服の裾で目を隠そうとしたが、もうはやそれくらいの力もない。

 ここにいてはいけない、せめて夜になってからと戦略を変えた吸血鬼は村長に背をむけ逃げようとした時、石に引っかかって地面に倒れこんだ。

「衰退した吸血鬼族よ、前から軽蔑された我ら蚊族の力を見せよう。これから、私達に嫌悪な目つきができるか見せてやる!」

 吸血鬼が弱っている隙を見て蚊村長は血を吸おうと鼻を長く伸ばし、吸血鬼の首元へと飛びついた。

 危険を察知した吸血鬼は体を縛る呪文に必死に抵抗しようとした。そして、少し意志を取り戻したのかフラフラしながら立ち上がった。

「これから、いろんな敵に立ち向かわなくてはいけない、今の状況でさえ怖がっているようだったら一緒に冒険に出かけられないよ。私、前へ踏み出せねば!」と目標を見つけた吸血鬼は勇気を振り絞って言った。そして、吸血鬼に応えるように、影が足元から肩へ、そして大きなマントになって広がり風の中で自由に漂った。この時、影がない彼女は本当の吸血鬼になった。

「吸血鬼としての誇りを忘れないで!」と両親の声が吸血鬼の頭の中で響いた。

「うん!絶対忘れないから」

 そして、吸血鬼は頭を少し傾け背後から自分に向かってくる蚊村長を軽蔑する眼差しで睨みつけた。怒りに満ちた目は赤く充血しているが勝利の微笑みも同時に浮かびあがった。

 蚊村長は横顔しか見ていなかったが、恐怖のあまり慌てて町から逃げた。


「きゃっ」

 フェアーミは恐ろしい光景を見て思わず手にある紐を引っ張り、ドラグをその場から連れ去ろうとした。

「落ち着け!フェアーミ!あれは虚像だけよ!」

「博士〜助けて」

 この時、ドラグはあの時に自分がとんでもないミスを犯したことに気がついた−—

「フェアーミ、なんで紐を俺の首に巻きつけるわけ?馬じゃないし!」

「飛行するときに、疾走する馬のようにカッコ良く飛ぶのっていいでしょ」

「うん……確かに。でも、馬方はよく紐を馬の頭に巻きつけるけど、なんで俺の首に巻きつけるんだ?」

「顔を隠したら、ダサくなるでしょ!このバカドラ何でこんなこともわからないの!」

「なるほどね!ありがとう!フェアーミ、でもなんかおかしいな」

 あの日いじめられたドラグはフェアーミの意図を理解できなかったが、今やっと違和感の訳がわかった。

 首が紐にキツく縛られ、窒息しそうだ。

「やっぱり、あのとき断るべきだった!博士〜早く、もう息ができない」

 そして、ドラグとフェアーミは気を失い、地面へ墜落した。

「どうしたのじゃ!」と椅子を動かす音と博士の声が同時に白い雲が漂う青い空の遠くから慌てて走る音がした後、空に巨大な拡大鏡と人間の目が現れた。目の左にある太陽と、下方の事物が空に現れた目と比べ物にならないぐらい小さな物に見えた。

 博士は声がした方向に沿って探し、すぐ近くで倒れている二人の姿を見つけた。拡大鏡を置いた後、ページから二人を机に移した。

 子供たちに呼ばれて本の世界の外に突然現れた人は先ほど見えなかったおじいさん、博士だった。

 博士の名前はサイン・ティスト、白い髪の毛にほっそりした人間のおじいさんである。額に少し垂れ下がった長い前髪、キョトンとした目そして、いつでも笑顔を見せるのが博士の普段の姿である。

 博士の手のひらでまだ気を失っているフェアーミとドラグは機械人によってつくられたモバイルである。(注:「機械人」は未来のロボットの総称であり、後の文章で詳しく説明される)

 モバイルは未来の携帯の総称であるが、ドラグとフェアーミの外見は人間によって作り出されたものとは異なっている。

 フェアーミの姿は妖精の模様をかたどり、親指の一関節の大きさしかない小さな体と優秀な頭脳を持つ。しかし、ドラグはドラゴンの模様をかたどって作ったモバイルであり、フェアーミと比べて比較的に大きく、指二本を合わせた大きさで強い力を持つ。小さい体のおかげで、ページに現れる景色やキャラクターを間近で観察することができ、まるで本の世界に入り込んでいるようだった。

 モバイルを快適に利用するため、背中に電池使用量を表示できる翼が設置されている。フェアーミとドラグも同じように設置されている。翼の大きさは使用量の表示である。例えば、翼が大きければ電池が充足しており、小さければ充電不足であることを示している。また、翼が完全に消えている状態のモバイルは電池切れで睡眠状態に陥ることを示している。

 人類の時代で作られた同じタイプの携帯は外見が類似しており、色と機種だけが異なっているのに対し、モバイルの外見の類似は二重卵黄や多重卵黄、双子や三つ子以上誕生する確率と同じように稀である。多くのモバイルは異なる外見を持ち、脳の中のチップを通じて人間のように物事を考えたりすることができるのと同時に、しん身も年齢によって変化していく特徴があるが、その変化はごく小さなものである。

 このように独立した考えや感情を持つモバイルは「エッグハウス」のチェーン店で手に入れることができる。ちなみに、エッグハウスの本店は「技術城」という科学技術が発達している街にある。

 ほかに、モバイルはどんな機能があるのか、どのように製造されるのか、存在の意義は何なのか?……いろんな答えは物語の展開によって明かされる。

 博士はエッグハウスで大きめのドラゴンの鱗に覆われているエッグとツヤのある色白いエッグを購入し、実験室に持ち帰った。そして、博士は指をエッグに強く押し当て、自分の指紋で眠っているドラグとフェアーミを呼び起こした。

 博士はいまだに独身であり、フェアーミとドラグはモバイルだけではなく家族であり、子供のような存在である。

「すまない、そばにいなかったからこんなことが起きたんだ−−−」

 机で眠っている二人は、気を失っているだけではあるが博士は自分の不注意に深く後悔し、スーパーブックをゆっくりと閉じた。

 本を閉じる動作に反応し、ベージの上の方に現れている風景は塵へと変わり、やがて黒い文字に戻った。このような立体的な映像を表示できるスーパーブックの表紙は液晶画面になっているため、使うときに電気が必要である。

 足が悪い博士は本を閉じた後、足を引きずってフラフラしながら本棚の上段へ片付けようとしたとき、電池の表示欄が赤く光り電池不足を合図している。博士は、本を本棚に置いて後日、長く使えるように充電した。この充電とヘッドフォンを接続する口は一体になっており、耳が遠い博士にも本の世界の音が聞こえるようになっている。

 しばらくした後、気を失っている二人は目を覚まし、フェアーミは小さくなってゆく翼をバタバタさせドラグの後につき、博士の方へと向かった。

「ドラグは力持ちだね、わしがこの本をもつのにも大変じゃ」と顔に微笑みを浮かべている博士は手を後ろに組み、両端の多くのマシンが置いてある細い道を歩きながら言った。

 ドラグは普通の会話を褒め言葉だと勘違いし、少し照れながら頭を掻いた。

「バカドラ!褒めているわけじゃないわ、博士が毎回大きな本を棚に戻すのに大変ってことよ」

 本棚にはいろんな大きさのスーパーブックが置いてあって、容量によって大きさが異なってくる。容量が小さく手のひらのサイズのような本をはじめ、容量が大きい半身大の物もある。

 ドラグはいつも自由に飛び回れるように一番上段に置いてあるスーパーブックを選ぶ。

「ごめんなさい」

「ははは、かまわん。ドラグがいつも重い材料を実験室に運んできたお陰で造洞機を起動することができたのじゃ。だから、好きに選んで構わんのじゃ」

 博士にとって子供達の笑顔が戻ることは何よりも嬉しいことである。そして、二人は博士の肩の上に止まり、それぞれ左肩と右肩に座った。

「バカドラは力持ち以外何もないからね」

「力がないよりマシだ!」

「別にいいもん、蛮力を使わなくても仕事はできるから。博士をよく知ってるこの私があんたよりもスマートな妖精型だと言うことを忘れないでね」

 女の子に生まれたので、フェアーミは力が強いことにはまるで興味を持っていない。

「じゃ、俺があんたよりもバカなドラゴン型だということも覚えておいてね」

 フェアーミはバカな自分を誇りに思っているドラグに親指を立て深く感しんした。世の中にはバカの頂点に立っている者だけが誇りだと思っているのだ。

「そうだ!博士、このスマートな妖精さんが気を失っている時に垂れたよだれが本を汚したんだよ」

 ドラグは突然本の中での出来事を思い出し、自分の仇を討とうとしたが、自分が爪で本を傷つけたことをすっかり忘れていた。

「さっき本を傷つけて、主人公の髪の毛を半分消したのは誰かしら」

 普段なら、言い合いが続くが、今回のドラグは少し賢くなり博士の前で男らしい一面を見せた。

「いい男は女とは争わない」

「こっちこそ、いい女は男とは争わないもん」

「ははは、構わん。書籍をおもちゃだと勘違いしないように大事にするのじゃ」

 博士は二人の子どもを叱らずに優しく説教した。

「「わかった」」

 二人は異口同音の返事に納得した博士は声を整え、話を変えた。

「うん、よろしい。それでは今日の一問一答を始めよう。読んだ本の中で特に好きな本はある?じゃあ、質問する人としてわしはさっき二人が読んだ『乱世の魔談』が好きじゃ。不可能を可能にし、人の心を掴むポジティブな本じゃ。」

「俺、知ってる」「私、知ってる」

 博士にもっと可愛がられるように二人は積極的に手を挙げた。

「レディーファーストでしょ!」

 もう一度フェアーミに「優しくないなぁ」と言われたくないドラグはイヤイヤと手をおろした。

「私、あの『恐竜がどうやって消えた』って本が好き」とフェアーミは頭を傾け挑発的に博士の喉越しに反対側のドラグを見た。

「俺はドラゴン!恐竜じゃないから」

「めっちゃ似てるくせに!翼が余分に付いてるだけじゃん」

「じゃ、俺『人間がどうやって消えた』って本が一番好きかな」とドラグも同じく挑発的にフェアーミを見た。

「私は妖精だ!人間じゃないから、ほらこの耳みてよ」

 フェアーミは髪の毛を掻き上げ、先っぽが尖がった妖精のシンボルである耳を見せるように動かして見せた。

「あなた達人間がそんなに嫌じゃったの」

「嫌だ!あんなの絶滅すればいいのに……あっ!博士が」

 フェアーミは恐る恐る博士の顔を覗き、この時の博士はいつもの微笑みに少し悲しい表情が浮かんだがまたすぐに普段の微笑みに戻った。フェアーミは、自分が不意に言った言葉が博士を傷つけてしまったことに気づいた。

「このバカドラ、あんたのせいだよ、なんでこんなことを言い始めるんだよ」

 フェアーミはドラグを責めたが、ドラグは疑惑を持ったままフェアーミを見た。しかし、自分の言ったことについてはもっと深い意味があることには気づいてない。そして、フェアーミは自分たちの不注意を謝った。

「ごめんなさい、博士、私とドラグはわざとじゃないの」

 フェアーミは立ち上がり、深くお辞儀をした。

 お辞儀をしているフェアーミは突然体のコントロールを失ったように体がまっすぐに立ち、体を左右に揺すりながら歌い始めた。

「♩〜ぶんぶんぶん♪ハチが飛ぶ〜♪」

 フェアーミが唄っている歌は博士が以前に設定した着信音だ。誰かから電話がかかって来ていることを意味している。

 博士はフェアーミに向かって頷いた後、耳元に飛んで来た。

 そして、フェアーミは耳に向かって普段と同じように話始めたが、声は男の声に変わった。

「先生、テレビつけて、ワールドニュースチャンネル」

「あ、いらっしゃいませ」

「先生、見逃さないでね!99番目のお客さんがやっと来店したから切るね」

 博士の返事を待たずに切ってしまった。そして、フェアーミの口からブーブーの音が聞こえた後、フェアーミは男の声から女の子の声に戻った。

「かわいい女の子なのに男の声が聞こえたなんて、キモっ」とドラグは嫌な顔をしてフェアーミを見た。

 電話を受け取る側としてのフェアーミは電話の掛かり主の声になり切る事ができる。例えば、主婦が電話をかけて来た時、女の子の声だったフェアーミの声はその主婦の声に変わり切ることができる。このとき、中年男性が電話をかけて来たから自然にその男性の声になる。

 ドラグはフェアーミに嫌味を言っているが、本当は誰よりも彼女のことを羨ましく思っている。フェアーミは生まれつき自分の声をもっているが、ドラゴン型としてのドラグはその機能を持っていない。他人の音声を記憶し、話すことを繰り返し学んだ後、話すことができるようになっている。

「相手の声だよ、毎回同じことでバカにしてるよね。もういい加減に変えたら?」

 遊びつかれたフェアーミはドラグと言い合う途中で声がますます小さくなり、もはや話す気力も残っていない。

 男は慌てて博士にテレビをつけるように言ったが、何が起きているのか。実験台に戻ろうとした博士は、ソファーへ向かいテレビをつけた。

『では速報です、指名手配第667号の容疑者が機械城警察によって逮捕されました。』

『残り666名の容疑者が逃走中です。治安はますます良くなっていますが、機械人の住民は安全に気をつけてお出かけください』

『ニュースレポート……』

 アホ毛のような電線が頭の上にまっすぐ立っている機械人の美人アナウンサーは繰り返し指名手配された容疑者のニュースを報道している。テレビ画面の下方には:

 機械城の『最高裁判所』の判定により、人間が機械人によって定められた『人類第三定律』の第一定律:人間は機械人を傷付けてはいけない、あるいは危険にさらされている機械人を無視してはいけない、罪を犯した。


 以下の指名手配には注意してくださいの文字がアナウンサーの横に現れた。

 名前:サイン・ティスト 指名手配順位:666

 指名手配の写真はぼやけているが、博士であることは間違いない。

「ビリがスカイプリズン入りか、ははは、運悪いのう〜」

 博士は拍手をしながら他人の災いを笑った。しかし、自分はビリから二番名である事を思い出した瞬間博士の表情は驚きに変わった。

「これから、わしがビリか〜」

 ビリの人の牢獄入りは博士の気持ちをモヤモヤさせた。

「この!お前たちはわしの肖像権を侵害したな。宇宙人じゃないから、なんで写真がこんなにぼやけてるんだ?もっとわしのことを尊重せんか!もっとはっきりとした写真を探してこんか!」と博士は突然テレビに向かって批判的に言った。

 博士は昔自分が資金を集めるために行っていたたくさんの実験や売った実験の成果が買収側によって利用されることや今している実験はいつも町にネガティブな影響を及ぼしてしまうことで指名手配をされていることを知っている。しかし、自分がこんなに特別なことで指名手配をされることは考えもしなかった。

 世界各地の牢獄には特殊な犯人が存在していることから警察は実際に博士を逮捕することは困難である。指名手配のぼやけている写真は警告であり、ただ博士の危険行為を止めるように呼びかけている。


 スカイプリズンは機械城の送風口から排出される熱風によって発生した上昇パワーを利用し、空中に孤島を作り牢獄として使用している。この地下一階を入れて計九階ある大型な牢獄では世界各地の怪異な犯人を拘束している。

「こんにちは、お疲れ様です。上から新しく派遣された警備員です」

 新人は犯人名簿を閲覧している先輩の警備員に一礼をし、様子を伺った。

「やっときたか。今は犯罪が多い時期でね、搬送される犯人はますます多くなってきて、手が足りなくて困ってるところだ。これで少し楽になる。人数を確認して、後の仕事は頼んだぞ。」

 二人が話している間、牢獄の灯りが暗くなった。まだ夜まで早いけど、島の周りの熱気が光の妨げになり、いつも機械城より一歩早く暗くなる。

 この時、一箇所の牢屋の明かりがつき、中にいる一人の囚人がこちらに向かって不機嫌そうに話した。

「腹減ったよ!ご飯まだ?」

 四階にある牢獄のほとんどの犯人は拷問時に残した傷だらけになっているが、男は、傷がなく白と黒のしま模様の囚人服を身に纏っていることから優遇されているに違いない。

 また、男は他の囚人が閉じ込められている藁の牢屋と違い、シャワー付きのトイレや広々なベッド、クーラーが設置されている贅沢な牢屋に住んでいる。インターネット、携帯電話などの外と連絡が取れる施設を提供できない以外、男は警備員に不足する物を求めることが許されている。

「もう準備できた、すぐ持っていくよ」

「面倒いから、自分でやるよ」と囚人は壁とつながっている鉄柵を力強くゆらし、そして壁が壊れるほど柵を思いっ切り引っ張り出し、中からのんびりと歩き出てきた。

 新人は囚人がこんな簡単に出て来られることに驚きを隠せなかった。しかし、新人は男を警戒する姿勢をとり、一歩後退りながら腰にかけている銃を出す準備をした。男は自分を警戒している新人の警備員に礼儀正しく微笑んだと同時にココロの中で「世間知らずの田舎者」と鼻で笑った。

 男は新人を襲わず逃げることなく、机に置いてある自分の夕飯をとって再びのんびりと歩き出した。牢屋に戻った男は外された鉄柵を元に戻し、嬉しそうに夕飯を食べ始めた。

「うまい!ボス、あのクソ爺爺、いや、博士がさ、逮捕されるから俺に自首させてここで待機しろって命令されたげど」

「でも、博士はいつ逮捕されるんだよ〜逃げ出す前にここが好きなるかも知んない、もう逃げたくない!うまい!」と囚人はふわふわのベッドに座り、味蕾を喜ばせる夕飯を食べながら感慨した。

「お疲れ様です。ではまた明日」

「お!おっ疲れ、またね」

 囚人の数を確認した老警備員は男の牢屋の前に止まり、お互いにフレンドリーに挨拶を交わした。そして新人と老警備員は反対側へ歩き出した。

「そんなにびっくりするな!スカイプリズンの各階と世界各地の牢獄にはあんな奴がいっぱいいるぞ、やってもないのに自首してさ、ここで博士を待つ。博士が逮捕されたら、連れて逃げると」と老警察は名簿にチェックを入れながら驚きの表情を隠せない新人に言った。

「それはどうしてですか」

「何十年ぐらい前、囚人たちの頭たち、博士の昔の多い実験成果を使って悪いことを企んでて、それ目当てで博士を探してるんだけど、でもなかなか博士の居場所がつかめなくて仕方なく下のものに自首させた。そうしたら見つかる確率が高くなるでしょ」

「もし博士が捕まったら、この人たちに連れて行かれたらまたトラブルを起こしてしまうから、なぜ自首した囚人たちを釈放しないんですか」

「確かに博士の実験成果をもたらしたネガティブ面が俺たちや管理者たちを悩ましてるんだけど、でもこいつらの存在を考えると実際に博士を捕まえることにはいかないんだよ。しかも、博士の指名手配の写真がぼやけてるのはほかの人にも捕まえられないようにしてる。ここだけの話だよ。アイツらを釈放しないのは、ここに閉じ込める限り悪さをしないから、外の警察も楽だよ。アイツらと衝突しないでね。普通の囚人より手強いから」と老警察周りを気にしながら小声で新人に説明した。

 そして人数確認を再開した二人は、威風堂々とした後ろ姿が暗黒の中でだんだんと小さくなって奥へと消えてゆく。

「わかりました。あの人たちは一番手強い人達みたいですね。」

「いや、アイツらよりもっとヤバイ奴が8人くらいいるって聞いてね。早く天国へ旅立つことだけ願うよ」


 フェアーミは長時間体力を消耗したため、博士の膝にもたれて眠りについた。

 フェアーミが寝てる隙にドラグは彼女の一本の髪の毛を引っ張り出した。

「毎日一本ずつ抜こうと、いつかは俺みたいになるから、その時になったらもう『脳から溢れ出す知識が髪の毛になって生えてくるからね。でもあんたの頭はいつもツルツルだよ』っ言えんのかな」

「起こしてはいかん!」と博士は髪の毛を抜こうとしているドラグを止め、声を低くしヒソヒソと言った。

「大丈夫だよ博士、髪の毛が減ってるって気づかないから」

「いかん!女の子にとって髪は命なのじゃ。フェアーミが気づいたら泣いてしまうかもしれん。そうなってほしくないじゃろ?」

 博士の尋問にドラグの頭の中では弁論大会に参加しているようでフェアーミが泣くのを見たいのと見たくない理由が山積みある。

 頭の中で結果が出ないドラグは、博士に弁論の結果を任せた。

「わかった。もうやらない」

「よろしい」

 しばらくして、博士はアニメを見ているドラグに言った「ドラグ、今日も材料の購入を頼んだぞ。わしは外に出られないから。今日もインターネットを使わないでオールドマップ使って」

 博士のお使いを了解した後、ドラグは翼をバタバタさせ空中で一周した途端、目から三角形の放射線のような光が現れた。放射線の中央に淡い青色をしたバーチャルラインが現れ、飛行路線に合わせて、青いラインが円形を描いた。

 ドラグは博士の近くに止まり、次の指示を待った。

 しばらくした後、円形内で青いバーチャルな地面が現れた後、建物を示す立体的な画像が続いて現れた。

 博士は円形内の模擬された環境を確認した後、人差し指で空中を指して必要な材料と注意事項をリストした。そして、ドラグが安全に戻れるよう帰りの路線を描いた。

 ドラグは財布とエコーバッグを持ち、窓際へ向かった。窓を少し開け、誰も自分に気づいてないことを確認した後出発した。

 博士は熟睡しているフェアーミをそっと手のひらに乗せ、実験台へ向かった。

 実験台の上の方にぶら下がっているランプのような模型はドラゴンホールと小屋がある。ここが普段子供達の部屋兼充電の場所である。そして、博士は取り外しのできる屋根を外し、フェアーミをベッドに寝かせた。

 小屋にあるドアは、フェアーミにとって出入りし易いが、博士の指一本分のスペースしか無いので彼女を起こさないために屋根を取り外した。

 ベッドに寝かされたフェアーミはベッドのワイヤレス充電によって充電され、そのうち体力が戻ってくる。そして、だんだん体力が戻ってきたフェアーミは脳が動き夢を見始めた。

 すると、屋根を戻そうとした博士は床に転がり落ちているぬいぐるみに目を向けた。片付けない子供はいつまで経っても大人になれないもんだと思った。そして、博士は仕方なく微笑みながらぬいぐるみをベッドへと戻した。

「マ、ママ?」と不意にフェアーミに当たった博士の手は強く捕まえられた。

 博士は慎重に指を抜いた。

「行かないで、行かないで……ここにいて」

「すまんのう、いいパパになれなくて。ドラグと生まれてからずっとあの人に会わせられたなかった。」

 博士は昔の恋人に会いたくだけでなく、子どもたちは写真でしか母親の姿を見ることができないが、自分以上に会いたがっていることを思うと心が痛むことを知っている。

 亡くなった恋人に再び会うために、人目を忍び、過去と現在の時間を繋げる「タイムホール」の実験を成功させることに必死な毎日を送っている。

 実験を成功させるために博士は人生の大半の精血を尽してきたが失敗の繰り返しが続いていた。年を重ねることにより実験を諦めようとした時もあったし、自分の命を終わらせるような極端なことも考えたことがある。

 何年か前の朝、博士はいつものように洗面台に立ったが鏡に写ったシワだらけの顔と白髪が増えた髪の毛を見て「年月の流れとともに老化が自分を跡形もなく侵食している」ことに気づいた。完全に老いた自分の姿を見て、髭剃りでこのまま自分の命を終わらせることで彼女にすぐに会えるのではないかと思いついた。しかし、二人の子供の笑顔が頭に蘇り、極端な行動をするのは不責任である。そして、その極端な考えを捨てた。

 −−−きっとまた君に会えるよ。暗黒に満ちた地獄でもなく、光明の満ちた天国でもない、二人が愛したこの土地で。

 あの時巨大な木の下での誓いを思い出し、希望が見えた博士は再び実験台に戻った。そして長い年月が過ぎ去った今でさえ、実験を続けている。

「体力はまだ何年かもつ、10年以上はキツいかもしれん。だから、二人は早く大人になってな」

 熟睡しているフェアーミを見て、博士は取り外した屋根を戻し実験台の椅子に座った。そして博士は、実験台の前方にある厚いガラスで隔離された反応室を見た。反応室には「タイムホール」を創る正方形の大型機械が置いてあり、それを「造洞機」と名付けている。

 造洞機内にはロール状のインペラーがあり、システムが正常に働けばこのインベラーの高速な回転が空間の時間を歪み過去と未来を繋げる軌道を切り開くことができる。

 博士は続いて上の方に目を向け、厚いガラス状に造洞機の状態を表す実時データが示された。機械の状態は良好である。続いて右の方に置いてある黒板をとり、動する前、成功すれば驚ぎすぎると次の段取りを忘れずに黒板の内容を確認する。黒板には普通の人では理解しがたい数式や赤で囲まれている文字が書かれている:魂収集機○復活皿○タイムホールX→新9938年8月10日に戻る→魂の収集(同時の自分を含め誰にもバレないようにする)→現在まで連れてくる→皿に入れる→成功 

「あっしまった!パワーを賄う材料がない!……そうだ、造洞機にもう入れたか、ははは忘れてた。最後に範囲の設定を大きくして、タイムホールの場所はこの実験室の全体にして……よし、これで設定完了」

 実験台に設置されてある造洞機のスイッチを入れ、インベラーが起動され高速に回転し始めた。博士は息を殺し、成功を祈った。造洞機の内壁にサイレンサーが設置されているため起動していても騒音はしない。子供達もそばで騒いでないため実験室は物音一つせず、静まり返っていた。静寂な実験室で博士は思わずあの時の悲しい記憶が蘇った。

 年齢によって博士は色んなできことに対しての記憶がぼやけている。したばかりのことでもまるでしてないかのようで記憶に残らない。人に言及されても、「そんなことあったかのう」と他人事を言っているようである。

 しかし、博士がまだ若い頃仕事がなく一番心細い、あの日のことを決して忘れることはない。

 ティストは慌てて倒れている恋人のミグの側へ駆け寄った。大きく息をする音が聞こえたミグは力なく眼を開けた。

「ごめんなさい、ティスト、迷惑かけちゃって」

「昨日の夜に約束した話と違うじゃないか。なんで最後になっても、この俺のそばに、この貧乏のそばに」と自分の無力さを感じティストは地面に跪いて倒れているミグを震える手で抱き寄せ、涙に咽びながら問い詰めた。

「あの人を選んで、またほかの人、病気を治せるお金があればのに、生きていけるのに。この俺と一緒にいても苦痛するだけだよ。今のように」

「確かに今は辛いけど、でもこの辛さは痛みによるものではないよ……」とミグは痛みで左胸を抑えている手をティストの顔にそっと触れ、彼の温もりを感じた。

「これからもう一緒に歩んでいけないからだよ」

「なんでこんなにわがままなんだよ。まだわからないの。人間と機械人は不可能だよ。俺たちには未来はないんだよ」

「ふふふ、わがままなところが好きなんでしょ」

 視線がだんだんとぼやけ、頭も重く、話す力さえない。自分にはもう時間がないことを認識したミグは、急いで別れの言葉を言った。

「もうダメかもしれない、ティスト、耳かして」

「……お願いがあるから聞いて」

「なんでも聞いてやるよ」

「お金に困ってもいても、悪いことはしないでね」

「うん」

「どんなに辛くても、笑顔でいてね」

「うん」

「この嘘つき!笑ってないじゃない、ほら笑って、笑〜って」

 ティストは涙まみれになっている顔を引きずりながら、無理やり笑顔を作って見せた。

「ははは、ブサイク……最後のお願い、もう一人にさせたくないから、私を忘れて他に好きな人を見つけてね」とミグは遠くをみつめながら最後のお願いをした。左胸から伝わる痛みがさらに酷くなった。ティストを愛し、他の人にココロ移りされたくない自分は正直である。しかし、本音を言ったら彼には無責任だ。

「……」

 ティストは何も答えず、ただ垂れたミグの手を握りしめた。

 まだ、この世から去ったことを信じられないティストは、涙もなくぼっとミグを見守り、そして彼女の指に付いている指輪を見つめた。この草で作られた指輪は二人の愛の証であった。

「まだ終わってない、終わってない」

 あの日を絶対忘れっれない博士は、涙を浮かべ、深くため息をついた。そして、あの時の惨めな自分を何度も責めた。

 我に返った博士は反応室へ目を向け、高速に回転しているインベラーが内壁と摩擦し、火鉢が飛び散っている。さらに、造洞機についてあるライトは成功を示す青と失敗の赤が交互に光り、異様な現象が起きた。しかし、交互のフラッシュに続き、ブレーカーが落ちたように造洞機は突然停止した。これまでは赤いライトしか点滅しなかったので、今回は違う状況が起きたかもしれない。

 そして博士は立ち上がり、実験室の隅々まで確認し始めた。

 隅に置いてある荷物を動かしたり、椅子の上に立ち本棚の上を確認したり、そして机の下、タンスの中「ない」と言いながら実験室の普段気づかない隅々まで探している。引き出しを開けた瞬間、博士はセリフを発し、戸惑いながら引き出しを見つめたがやはり見つけることはなかった。戸惑った博士は、引き出しの中に以前買ったものがあることを思い出し、手を奥へ入れた。

「今度も失敗か……」

 人生の残りが少ない博士は悲しむ時間もなく、足が悪くても興奮した表情で小走りしながら黒板の方へ向かった。やる気満々にチョークで黒板の数式を訂正し始めた。左手にある小さな白い箱は博士に希望を与える高価な結婚指輪が入っている。

「今回は青いライトが光ったから、成功に一歩近づけた。」

 この時の博士は、タイムホールもうすでに現れたが、現れた時と場所が間違うことを知っていない。過去に現れるタイムホールの先はある人気の少ない田舎に現れ、未来につながる入り口は博士が希望した新9938年ではなかった。

 放課後に帰宅するある少年がタイムホールに影響され、未来にタイムスリップした。

 現在の地球は機械人の時代になり、人類がもはや絶滅寸前の動物であることを。

 前世未聞の試練、危険、珍しい物事が少年を待ち伏せている。恋愛、成長、そして未来の冒険の物語はここから始まる。



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