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その9/ススキノラフィラ

■その9/ススキノラフィラ

 新型コロナの影響で、もしかしたら今年は札幌行きを中止することになるのでは。という予想が洒落にならない2020年5月17日、ススキノラフィラが閉店した。

 ススキノラフィラは札幌ススキノにある商業施設。簡単に言えばいろいろなお店が入っているデパートだ。地元の人達がよく買い物に利用しており、私もほぼ毎年お世話になっている。

 観光客用の施設ではないのになぜと思われるかも知れないが、私はホテルにつき、荷物を置くとまずここを訪れる。ホテルに備え付けの冷蔵庫に入れる飲み物やつまむものを買うためだ。だから行くのはいつも地下にあるイトーヨーカドー系列の食料品売り場。地下道から入り、焼き鳥やザンギのパックを山積みしている売り場に出迎えられると

「ああ、今年も来たな」

 と感じる。そういう意味では、私にとって札幌での買い物の顔といえるかも知れない。ネットの記事で従業員達が並んでお辞儀をしている画像が寂しかった。

 今年の夏に札幌に行ってもラフィラはもう亡い。6月には解体されるというから、建物自体亡くなっているだろう。 

 ……まさか時計台のように周囲をラフィラの絵が描かれたカバーで覆うなんてことはしないだろうな。あれを見た時、私は「これは札幌市のギャグなのか」と思った。


 主に野菜ジュースと飲むヨーグルト、ちょいとつまむ簡単な惣菜を買う。夜、ホテルの部屋で地元のニュースを見ながらザンギをつまむのはこの旅行ならではだ。そんな時間に揚げ物など食べたら太るぞと自分に注意しては、だからどうしたと気にしないのも毎年のことだ。

 私はスーパーをウロウロするのが好きである。私にとってスーパーをうろつくのは格好の時間つぶしだ。店の人から見ればろくに買い物もせずただウロウロする怪しい客となるのだろうが。

 テナントとして入っている食べ物屋を見て回るのも好きである。私がよく使う駅前のイトーヨーカドー(ショッピングセンターなどとは言いたくない)では、数年前から食事をする店がほとんど撤退してしまい、今は1階の隅にコーヒーやソフトクリームを売るスタンドがあるだけになってしまった。なんか寂しい。

 そういえば、ラフィラの閉店と共に八雲のごまそばも食べられなくなるのか……。いや、あれは支店だと思うからどこかに別の店舗があるだろう。次に行くまでに探してみよう。


 私にとって、ススキノラフィラは「境界線」でもある。ラフィラから札幌方面はいかにも観光客を出迎える繁華街であり、華やかな光に溢れている。

 が、ラフィラから中島公園側にはいると少し空気が変わる。風俗の空気が増すのだ。泡のお風呂の店などはこちら側に集まっているし、店舗もコンビニやラーメン、ジンギスカン店に混じって風俗案内だの、精力剤のお店だのが目につくようになる。コンビニのすぐ横に泡のお風呂の看板が普通にあったりする。観光客向けの格好しぃが薄らぎ、素の欲望が表に出ている感じだ。

 これらの変化は大通りに接した1ブロックか2ブロック程度なのだが、その独特の空気がもたらす変化は、歩いているだけで感じられる。

 今は定宿となった中殿ホテルに行き着く前、泊まるホテル探しにおいてラフィラにどれだけ近いかがひとつの基準だった。いろいろな意味でラフィラは私の札幌滞在の目安だった。

 ラフィラの次に建つのはどんな施設なのだろうか。

 しかし、失った寂しさは、次の瞬間、新たなるものへの期待に変わる。寂しさは過去にあるが、期待は未来にある。

 人は過去にではなく未来に進むものだ。閉店の寂しさも、いずれは次の施設への期待に変わるだろう。いや、変わらなければならない。

 ありがとう、ススキノラフィラ。

 そしてこんにちは。まだ名も知らない新しい建物、新しい店よ。

 さぁて、どんな店が入るだろうか。


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