その5/ラーメン~私は塩派。トッピングはメンマだ!~
■その5/ラーメン~私は塩派。トッピングはメンマだ!~
札幌の美味しい食べ物の1つとしてラーメンをあげる人は結構いると思う。私もそう思って、札幌旅行をはじめた頃は美味しいラーメン屋を求めて、あちこちの店を回ったものだ。
しかし、食べ物に関しては人によって好みがハッキリ分かれる。グルメ本やネットの評判と実際食べてみての感想が違うという人は多いだろう。実際、私もラーメンめぐりでは苦戦続き、いや、苦戦ばかりだった。
私はラーメンは断然塩派である。続いて醤油、豚骨と続く。なぜか味噌ラーメンとバターラーメンだけは好きになれない。本当に食べ物の好みは千差万別だと思う。
いわゆる観光客向けとされる「よそ者がこれがここの名物だと思っているものをどっさりのせたラーメン」もサービス精神溢れて嫌いではないが、やはり私はあっさり系で、あまり具のないシンプルな物が好きだ。正直言えば、ネギとナルトとメンマがあれば他はいらない。
ラーメン横丁から東京でも聞いたことのある有名店まで、あちこち食べてみたが
「……不味くはないけど、また食べたいとは思えない……」
最初はたまたま入った店が好みに合わなかっただけと思っていたが、さすがに10件以上回って全てがこの評価だと
「ダメだ。私の味覚はズレている。札幌のラーメンを楽しめない」
と思うようになった。
いい加減嫌になってきた時、わたしはその店に出会った。
場所はハッキリしていないが、すすきの近くだったと思う。その店に入ると、客は誰もいなかった。中途半端な時間なので、そのせいだろうと深く考えなかった。しかし、この時点で私は怪しむべきだったのだ。いくら中途半端な時間とはいえ、日本で名高いラーメン激戦区札幌である。それだけラーメンを日常的に食べる人達が多いこの地で、誰も客がいないということは……。
頼んだ醤油ラーメンを口にした途端、驚いた。
不味い! くそ不味い! こんな不味いラーメンは初めてだ。
今まで食べたラーメンは、先述したように、口に合わなくても不味くはなかった。バターラーメンですら、最後まで食べきることが出来た。
だがこれは違う。口にすること自体が拷問や嫌がらせかというレベルだ。不味いにしろ、普通は辛すぎるとか、苦いとかしつこいとかその不味さを具体的に示すことが出来るが、これは単純に「不味い」としか言いようがない。味というレベルで計れるものではない不味さだ。
どんな食べ物でも残すこと自体に抵抗のある私は、ダイエット中でも麺の1本、スープ1滴残さず食べたものだ。
だがこれはダメだ。かろうじて麺だけは食べたが……私は生まれて初めて「ラーメンを残す」ということをした。
つくづく自分が情けなくなった。こんな目に会ってまで美味しいラーメン屋を探す必要があるのだろうか? 私はラーメンマニアではない。名物と言われるラーメンで美味しいものを味わいたかっただけなのだ。
私はホテルに帰って一人むせび泣いた。いい歳をした大人がラーメンのまずさに泣くなんて我ながらみっともないが、本当にまずかったのだ。
それを最後に、私は札幌で積極的にラーメン屋を探すことを止めた。ラーメンでなくても札幌には美味いものが一杯ある。わざわざラーメンに固執する必要はどこにも無いと。
救いは、翌年訪れた時、そのラーメン屋はなくなっていたこと。あのラーメンを受け付けなかったのは、地元の人達も一緒だったらしい。
それでも、時々、ふとラーメンが食べたくなって店に入る時がある。特に気にして入るのではなく「面倒くさい。ここでいいや」と入るのだが、不思議なことに、そうして入ったラーメン屋は普通に「当たり」だったりする。「鴇の家」や「あじさい」の塩ラーメンなど実に私好みである。
ラーメンについて、私が学んだことは「美味い食べ物屋は、肩を張って探すものではない。腹が減ったと歩いていれば、自然と見つかる」ということだ。