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その3/うきうきスポット

■その3/うきうきスポット

 一応、私の旅行の目的は観光と言うことになっている。もっとも、観光地と言っても思っていたほどではないという場所もあれば、思った以上に楽しめた場所もある。

 札幌旅行で私が大当たりだと感じた場所。それは「滝野すずらん丘睖公園」である。今やここは札幌における私のソウルスポットと言って良い。毎年同じ場所では芸がないと、たまに行かずに済ますと翌年には無性に行きたくなり、2年行かなければ禁断症状が出るほどだ。

 厳密に言えば、公園にある滝である。特にアシリベツの滝。この滝をぼーっと見て過ごすと心が落ち着く。気がつくと、30分から1時間経っている。何もせず、ただ滝の前で腰をおろしぼーっとしているおっさん。他の観光客は何だこいつはと思ったことだろう。

 アシリベツの滝は左右に2つあり、紹介されているのは向かって右側の大きな滝である。

 滝の見える朱に塗られた手すりの橋にもたれてぼんやりと滝を見ている。滝の向こうは大きくえぐれているようで

(この景色、どこかで見たような……)

 そんな感覚にとらわれる。その正体はすぐにわかった。

 滝のえぐられた裏側、滝によって隠されたそこから全身黒ずくめの男達が現れ、含み笑う。

 そうだ。ここはいかにも「子供向けヒーロー番組で、盗賊や悪の忍者集団とかが隠れ家を作っている」ような場所なのだ。

 今にも滝の裏側から仮面の忍者赤影の卍党とか、アイアンキングの不知火一族とかが出てきそうな、そんな空気がある。

 ここに来る度に、私は立ち入り禁止を無視して滝の裏側に隠れ、他の観光客を去るのを見ては

「馬鹿め、ここがそう簡単に見つかるものか」

 と笑いたい衝動に駆られる。

 もちろん、ここは滝ばかりではない。虫除けスプレーをものともせずにまとわりつく無数の虫を手で払いながら歩く滝野の森ゾーンとか、たくさんの子供達が騒いでいるこどもの谷ゾーンとか、いるだけで楽しい。

 バスの乗客の会話から知ったのだが、ここは札幌の幼稚園~小学校低学年の遠足の定番らしい。言われてみれば、いかにもそれっぽい集団をよく見る。こどもの谷では、いかにも引率の先生らしき大人に連れられた子供達がいる。子供達の騒ぐ声を不快に思う人もいるようだが、私には癒しの声である。

 滝に次ぐ私の癒しスポットがこどもの谷の南に広がるローンスタジアムと呼ばれるなだらかな丘だ。広々とした斜面にポツポツ見える赤い玉。ビックリボールと名付けなれているそれはでっかいビニールボール、運動会にあった大玉転がしの玉を思い浮かべればいい。子供達がきゃっきゃっ騒ぎながらそれを転がして斜面を登り、転がして遊ぶ姿を見ていると、私も年を忘れて仲間に入りたくなる。

 明らかな子供用の遊具なだけに我慢していたのだが、今年、ついに遊ぶ機会が訪れた。

 今までにないほど子供達でにぎやかな斜面をのんびり下っていた時だ。上の方から

「だれか止めてぇ~~っ」

 という女の子の声。見上げると、小学校低学年ぐらいの女の子が、うっかり離してしまったのだろう。転がり落ちるビックリボールを母親らしき女性と一緒に追いかけている。そのボールは、まっすぐ私に向かって転がってくる。

 これぞ天の采配とばかりに、私は手を広げて身構え、転がり落ちるボールを受け止めると

「そらそらそら」

 とばかりにボールを転がして母子のところまで駆け上がった。

 それだけである。それだけだが、ボールを転がして斜面を駆け上がって遊ぶという子供じみた願望を叶えられて私は満足だった。しかも小さな女の子の「ありがとう」というお礼つきである。

 私が訪れるのは夏なので草原だが、冬、雪に覆われたここはソリの遊び場となるらしい。いつか冬にここを訪れ、年甲斐もなく遊びたいものだ。


 札幌のすぐそばには手頃な山がいくつもあるのも嬉しい。円山、三角山、藻岩山、八剣山。

 東京では登山気分を味わえる手頃な山など高尾山ぐらいしか思いつかない。それも私の家から片道2時間近くかかるため、手軽に出かけるとはいかない。札幌が羨ましい。

 手軽さならばなんと言っても円山である。ふもとに動物園もある。

 この山、円山公園から登って頂上で一休み、下山するまで1時間ちょっとというお手軽さ。私も2時間ほど余裕があると、ホテルから行ってちょっと登ってくる。メインとなる観光地のように「よし、今日はここに行くぞ」的な力を入れる必要うもない。ちょいと登ってくるか的な気軽さがある。

 とは言っても山は山。道の途中にはそこそこ急な場所もある。もっとも、1、2分で終わるためそれほど苦にならない。

 頂上にゴツゴツした石が並んでいるのは腰を下ろすのにちょうど良く、景色もなかなか。天気の良い日、そこに腰を下ろすと汗があっという間に引いていき、そよ風と相まって実に心地よい。

 ただ、転落防止用の柵などがないため注意が必要だ。

 もうちょい力を入れたい時は藻岩山に登る。慈啓会病院入り口から登って頂上で一休み、旭山記念公園に下りる。というのが私の基本パターンである。こちらは登って下りるのに3時間ちょっとかかる。お手軽というには長く、観光のメインにするには短いのが不満ではあるが、頂上からの眺めは円山以上である。面倒くさい時はロープウェイもあるが、使ったことはない。

 この藻岩山と大倉山は夜景を楽しむバスツアーもあるので、一度利用してみたいと思っている。

 登山路を進んでいると、時々思いも掛けない遭遇がある。

 甲高い音がするので何だろうと見上げると、木の上でキツツキのような鳥が木の幹を嘴でコココココと叩いている。

 いきなり目の前を茶色い猫より少し大きい生き物が駆け抜けたこともある。

 登山路を曲がると、道のど真ん中にリスがいて目が合ったこともある。次の瞬間逃げていったが。

 クマにはまだ遭遇したことはない。できればこのまま遭遇しないまま過ごしたい。


 観光とはそこにあるものを見に来るのではない。それがある空間、空気に浸りたくて来るのだ。

 観光地は環境地だなぁとつくづく思う。



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