その10/2022~たかが3年、されど3年~
2022年夏。3年ぶりに札幌おひとりおのぼり旅にでかけた。新型コロナの感染者数はむしろ年々増えているのになぜと思う人もいるだろうが。最大の理由は「禁断症状」だ。今年も行くのをやめれば、むしろ何か憑きものが取れたように「札幌、別に良いよ」となるかも知れないが、やはりアシリベツの滝の空気に浸りたい。滝野カレーが食べたい。新千歳空港のきのとやの行列に並びたい。トリトンの海鮮爆弾軍艦を頬張りたい。感想でお勧めされたどんぐりのちくわパンも口にしてみたい。
様々な欲望(主に食欲)が入り乱れ、ええーいかまわん。行ったれーっと決断した。ちなみにコロナワクチンは3回接種済み。2回目と3回目は摂取翌日に熱を出して寝込んだ。
ちなみに、今回は新しい場所を開拓する気はなく、今まで行ったところであそこ行きたいなぁと思うところを足を向けるという方針なので、新味はない。特に変化のない場所でぼーっと過ごすつもりで計画を立てた。
だが、私は3年ぶりの札幌で小さな数々の変化に寂しさを覚えることになる。
ホテルの予約。ここは定宿とも言える中殿ホテルに、というところでまず挫折した。利用している旅行サイトからいつの間にか中殿ホテルが消えている。はてなと直接、中殿ホテルのホームページに行くと。予約はネットのみとある。会員登録とか必要なのかなと思いつつ予約ページをクリックすると……メンテナンス中……。空き室状況のページをクリックしても、メンテナンス中。
前に見たのは2020年。その時は確かコロナのため一時休業だったと記憶している。まさか、そのまま廃業してホームページだけが残っているとか。
嫌な予感がしつつ、私は今回、別のホテルを予約した。
予約したホテルは中殿ホテルから少し離れた場所にある。ちょうど札幌駅からホテルに行くときに少し道をズレれば中殿ホテルの前を通る。嫌な予感がしつつも、私はそこを通ることにした。
すでに外はうす暗い。馴染の看板が見える。が、灯りが入っていない! 見上げても客室にはどこも灯りがない。カーテンも開いてない。廃業しているのか?
だが、入り口を見ると、うっすら灯りがつき、来客消毒用のアルコールが見える。奥にはフロントに灯りがついている。が、どちらも必要最小限の灯りだ。人の姿はない。
「うそ……。廃墟かここは」
愕然とした。かつての人が入るのに何の遠慮もいらない。一見さんに対する心の壁など薄手のカーテンほどもなかったこのホテルが、今はお客を拒むかのようなオーラを放っている。札幌の夏といえばホテルにとってかき入れ時だろう。それなのに。ラブホテルだってもう少し入りやすい雰囲気を出している。
ここに何があったのか? 深く考えるのが何となく怖くなった。
寂しさ混じりで始まってしまったが、今回足を向ける先に選んだのは、最初にも記したように今まで訪れた中で落ち着く場所。となると私にとって札幌最大のパワースポット・滝野すずらん丘陵公園は外せない。天候が少々心配だったが、なぜか旅行中はホテルに戻ってから降り始め、朝になったら止むという天が配慮してくれているような展開。
久しぶりのアシリベツの滝はやはり心落ち着く。滝がよく見える橋の欄干に手をかけ、ただぼーっとしながら滝の音を聞く。何人かの観光客がやってきては記念撮影をして去って行く。若いカップル、子供連れの親子、老夫婦。静かに力を抜き、たまにそばのベンチに座り、気がついたら1時間経っていた。
徒歩。白帆の滝に寄ってから公園へ。中央口から入って森のすみかを通り、展望台経由で森見の塔へ。野幌森林公園の遊歩道もそうだが、やはり川辺や森の中を歩くと落ち着く。去年、一昨年は江ノ島へ行ってしらすのかき揚げ丼を食べ水着のおねーちゃんで目の保養をしたが、やはり違う。学生の頃は海が楽しかったが、年齢を重ねるにつれ、海だとエネルギーを吸い取られていくような感じがして却って疲れる。山や森は逆にエネルギーを補充しているようで心身共に落ち着いてくる。
やはり「海は自身の元気を解放し、山は元気を自身に補充する」場所だと再確認。札幌は山と森には困らない。なんだか、観光と言うより、休養に来る感じだ。
で、静かに休養し英気を養えたかというと、さすがに完璧とは行かなかった。コロナの影響はわかりやすい形で目の前に現れる。私が札幌に行く大きな理由の1つ。
「うまいもん食いたい」
に、2つの苦難が立ちはだかる。ひとつは言わずと知れたコロナの影響。今年はかなり緩和されたはずだが、それでも店の様子、メニューという形で現れる。
これまで行列の出来ていた店がガラガラ。これまでと同じく人が並んでいるなと思ったら、感染対策で客と客の距離を取っているため、入れる客数を制限。外は行列、中はガラガラといった感じ。新千歳空港のフードコートも、あちこち空いている席が見えたのでやはり少ないのかと寄ってみると、客同士の距離を取るために席はあれども利用禁止のステッカーが椅子やテーブルに貼られていた。
食堂などは賑わいも調味料の1つだと思っている。混雑も困るが、あまりにも人がいないと料理の味も3割減なのだ。他にも節電なのか食堂自体うす暗いところもある。
この制限のため、グループ客はかなり苦しんだろう。例えば初日の夕食に向かった回転寿司トリトン。平日にもかかわらず店の外まで順番待ちの客が溢れている。案内板を見ると「130分待ち」おいおい。だが気にせず手続きする。なろうでブックマークをつけたもののほとんど読んでいない作品がいくつかある。待ち時間を利用としてそれらを読むつもりで順番待ちの席へ。人と人の間は一人分ずつ空いているが、何となく座りづらいのは、やはりコロナの影響か。仕方がない。立って読みながら空くのを待つかと思ったところへ。
「おひとり様ですか、ご案内します」
待ち時間ゼロで案内された。どうやら皆さんグループ客らしい。ただでさえコロナ対策で目一杯座ってもらうことが出来ない状況。グループだとなかなか人数分の席が空かない。ということで、私のような1人客はグループの隙間を埋めるかのように手早く案内出来るらしい。実際、その後も1人客が待ち時間なしで次々案内された。
ここも3年前とは変わっていた。まず、回転寿司なのに寿司が回っていない。すべてタッチパネルで注文する形だ。レーンを回るのは「本日のオススメ●●」といったポップばかり。注文式は握りたてが食べられるのは良いのだが、回転寿司は流れてくるネタを吟味しつつ手にするのも楽しみなのでちょっと寂しい。
そして、ここで私はもう1つの苦難を受けることになる。
明らかに食べられる量が減っている。初めて札幌に来たときは、平気で14~15皿を食べていたが、今は10皿も食べられない。懐具合のせいではない。腹具合のせいだ。6皿目辺りで満腹感を覚え始め、結局9皿で終わった。自分でもこんなに食べられなくなっていたのかと驚いた。
そういえば、新千歳空港で3年ぶりに食べたきのとやのソフトクリーム。量が多いなと感じた。特にここのは濃厚なので尚更そう感じる。半分ぐらいでちょうど良いと。ハーフサイズがあればと初めて思った。その前にフードコートでジンギスカン丼を食べたのでそうせいかと思っていたが。
ソフトクリームと言えば、空港の休憩所で各店舗のおすすめソフトクリーム一覧みたいな看板があった。こんな看板を出すぐらいだから、暗にソフトクリームの食べ比べをしてくださいと言っているのだろう。だったら尚更各店のソフトクリームを少し小ぶりにして、2、3店は食べられるようにして欲しい。きのとやクラスだとこれ1つで満腹になって他店のを食べる余裕がなくなる。
苦難ばかり書いたが、コロナのせいでテイクアウトが増えたのは助かった。前にも書いたが、私はジンギスカンを焼くのがへたくそだ。最初の頃、定山渓温泉の食事処でジンギスカンを頼んだところ、私の焼き方があまりにもヘタすぎて我慢ならなかったのだろう。店の人がずかずか歩いてきて
「そうじゃない! こう焼くんだよ」
と私を押しのけて注文した肉や野菜を焼き始めたほどだ。本当の話である。
そうだから、ジンギスカン店のホームページで「テイクアウト始めました。ジンギスカン丼」を見たとき、思わずガッツポーズを取ってしまった。もっとも「よし、今日の夕食はこのテイクアウト。ホテルで食べよう」と行ったら「あ、今はやってません」と断られてずっこけたが。
そうそう忘れてはいけないパン。今回は素泊まりなので朝食はない。オプションで朝食バイキングをつけられるが、その値段が……学生時代ならいざ知らず、今の腹の容量ではあまりにもコストが悪すぎる。そこで夕食時に朝食べるものを買う。ホテルには宿泊客が自由に使えるレンジがあるので弁当でも良いが、やはりパンで。ということで、感想欄でも勧められたどんぐりへ。
せっかくだからとちくわパンを取るとずっしりとした感触。セイコーマートのとは密度が違う。ちくわ自体も詰められたツナも良い案配に他を押しのけることなく自分の味を主張してきて、出来の良いバディもの「パンの具材・ちくわ&ツナ ~空腹野郎をぶちのめせ!~」みたいな感じだ。だが、これぐらい食べ応えがあると私では一食では2個が限度。とても店のオススメを一通り食べることなど出来ない。だがそれで良い。次の楽しみが出来るというものだ。ちなみに、ちくわパン以外ではシフォンケーキがお気に入り。
ちなみに、札幌に行く少し前、家から歩いて15分ほどの駅前商店街に新しいパン屋が出来た。のぞくと棚にちくわパン。どんぐりほどのずっしり感はないが、こちらもお気に入り。
3年ぶりなので期待が先行しすぎたのだろうか。少し物足りなさを覚えた今回の札幌おひとりおのぼり。だが、物足りなさは楽しみの種である。来年のために、この種は私の胸にそっと植えておこう。
来年は開拓の村の屯田兵定食が食べたい。