第9眠:そういえば弟子の魔法を聞くの忘れてた
オーガー
冒険者にとっては勲章になる化け物。
「じゃあミガサ。訓練がてらオーガー倒しますから~」
「ミラーさん!本気で言っていますか!?」
ミガサが驚くが
「ミラー。仮にも弟子みたいに訓練させるんだから、ちゃんと師匠って呼ばせたほうがいいよ」
ネクリさん。
確かに。
「じゃあ、師匠と呼んでくださ~い」
「分かりました師匠!」
ノリがいいなぁミガサ。
「良いですか、ミガサ。確かにオーガーやドラゴンは恐ろしい化け物です。ですが、私達の戦略としては、むしろ、他の魔獣よりも倒しやすい」
「そ、そうなんですか?」
「いちいち教えません。横から技術を盗んでください」
「は!はい!」
ミガサは緊張した顔で付いて来る。
「ミラー。でもオーガーなんて近くにいないよ?」
「転移で飛びま~す」
「……金持ちが」
「魔法ギルド経由で、オーガー討伐の許可と、報奨金の話はしていますから。取り戻せますよ~」
転移石というものがある。
好きなところに転移できる、空間移動の魔術が封じ込められた物なのだが。
これは一つ金貨150枚というとんでもない物なのだ。しかも、一個あたり一人しか使えない。
あと大抵の施設には転移妨害の魔術がかかっているので、飛べない場所も多い。
便利そうで便利ではない。
でも今回はこれを使います。
「私は待ってるよ。気をつけてねー」
「は~い」
私とミガサは転移で飛んだ。
オーガーがいるという森。
その入り口におじさんがいた。
「あなたがミラー様で?」
「はい。ドラゴンスレイヤー、ミラーと、その弟子ミガサです」
「ミガサ……?ミガサ……!ああ!グリモアの学年主席のミガサですか!?いや、やはり弟子にする方も大物ですな!」
有名なんだね、ミガサ
「そ、そんな。私はまだ未熟で」
「ドラゴンスレイヤーの方にご説明するのも申し訳ありませんが、規則ですので。オーガー討伐には証明が必要です。私が立ち会い人となります。討伐が完了しましたから、遠距離通話で連絡ください。オーガーはこの先に生息しております。巨大ですから、すぐ見つかるかと」
「分かりました~。行きますよ、ミガサ」
「はい!師匠!」
二人で森を歩く。
「ミガサ、私達は山を歩きます。あなたは明日、歩く訓練をしていてください。あなたを載せる荷台は用意していませんから」
「はい!」
「正直歩く方が辛いです。討伐など楽だと思いますね。さあ、殺しますよ」
オーガーはすぐ見つかった。
「し、師匠?遠すぎませんか?」
呪文詠唱を始める私に戸惑うミガサ。
確かに遠い。だから良いのだ。
詠唱が終わると
「GUUUUUOOOOOOOO!!!!!!!」
「ひっ!?」
オーガーの叫び声。
ミガサが抱きつく。
でも詠唱を止めない。
動力攻撃は、息の根を止めるまで時間がかかるのだ。
それが、ブレスドラゴンに、メイル達が立ち向かわない理由。
出来るだけ有翼のドラゴンを狙わないのもそうだ。
動力攻撃をしている間に、遠距離攻撃や滑空攻撃をされたら全滅するから。
唯一の例外はアイスドラゴン。
あれは、ブレスが出ない時期を狙ったが、有翼であるが故に紙一重だった。
私が魔力の使いすぎで気絶。
ネクリさんとニルスさんの二人の魔法でトドメをさしたが、もう少しで攻撃されるところだったらしい。
私はメイル達から離れたらマトモに活躍出来ないと思う理由がこれだ。
あの娘の戦略が故に、私は活用されているのだ。
あれこれ考えているうちに
『ドーーーン』
オーガーは倒れた。
立会人のおじさんを呼び寄せて検分してもらう。
「間違いありません。討伐証明を出します」
「ありがとうございます~」
眠くなってきた。
「こ、こんなに簡単にオーガーを倒せるなんて……」
呆然としているミガサ。
「やり方分かった?」
「わかりません!?全然です!」
主席じゃないのか。ミガサ。
「教える気ないから。自分でつかんで」
「は、はい」
ミガサはオーガーをじーっと見るが
「見てるだけで、分かるんですか~?」
「え?」
「私は触らないとわからないと思いますよ」
ヒント特大。
多少はね。
このやり方はメイルが編み出したものだ。
わたしが勝手に広めるのもね。という抵抗感があるのと、教えるの面倒。
ヒントは出したので、あとは自分で考えてもらおう。私は眠いのだ。
オーガーをぺたぺた触るミガサを見ながら、わたしは寝た。
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「ミラーってスパルタだよね」
ネクリさん。
「そうでしょうか?」
「そもそも攻撃方法が氷魔法なのすら伝えてないの凄いと思ったわ」
言われてみれば。
ミガサは今、重りをもって山を歩いてる。
「学年主席らしいので~」
本人もそのつもりで来たんだから頑張ってもらおう。
「ニルスいないし、一応練習ぐらいはさせたいんだけど」
なるほど。
「じゃあ私が教えるよ」
「たすかりま~す」
すると
「ほら!このグズ!!!早く戻れ!!!こんな山上りにどれだけ時間かけてるんだ!!!」
ネクリさん、なんですか、その口調は
「は!はい!」
「今から私が、ミラーの代わりに教えてやる!耳かっぽじってよく聞け!」
「はい!」
「ミガサ!使える魔法は!?」
「はい!風魔法です!」
こけるネクリさん。
「マジで!?じゃあ無理じゃん!」
「そ!?そうなんですか!?」
そう言えば聞くの忘れてたよ。ミガサの使える魔法。
「ネクリさん、風ならば氷魔法と相性が合います。いけるかもしれません」
「まあ、そうだね」
「氷魔法なのですか?あまり経験が……」
「気合いだ」
「はい!」
「風魔法なら私も使えますから。割合が違うだけでしょう。取りあえず、ネクリさん。あの獣を狙わせてください」
「ええ。まずは、あのビルガルムという野犬ね。コイツの死体がここにある。よく見て、ここが動力……うん?」
振り返ると
「お、おえーー!!!」
「吐くな!!!馬鹿なのか!?これぐらいの野犬の死体で吐くとかどんな軟弱な精神してるのよ!?」
野犬の死体を見てミガサは吐いてた。
「に、臭いが、慣れないです」
「慣れろ!アホ!」
大騒ぎ。
少し落ち着いて、鼻をつまみながら死体を見るミガサ。
「いい、これが動力。これを凍らせれば、どんな生き物も死ぬ」
「凄いですね!それ!」
「ビルガルムはね、ドラゴンと同じような位置に動力があるの。だからこれを狙って凍らせるイメージでやって」
「……これをピンポイントで?難しいですね。ですが、分かりました。やってみます!」
ミガサは、こちらから見える位置にいるビルガルムに向けて詠唱を唱える。
「私の魔法が長距離でいけるのは、風魔法の相乗効果だと思うのです」
「なるほどね」
だから、ミガサもうまくやれば使えるかも知れない。そう見ていたら
「GYIIIYAAAAA!!!!」
ビルガルムの絶叫
ビルガルムはズタズタになって絶命していた。
「出来ました!!!初めて魔物倒せました!!!」
喜ぶミガサ。
私達は黙ってビルガルムの元に行き。
「出来てねーーよ!!!風でズタズタにしただけじゃねーか!!!」
「氷の欠片もない」
「で!でも!私!初めて魔物を倒せたんです!」
「ビルガルムぐらい初心者でも殺せるわ!こんな風じゃドラゴンの鱗で弾かれて終わりよ!氷魔法だって言ってるだろうが!!!」
激高するネクリ。
しかしだ。
「主席ね~。わかるわ~」
その風の威力。
ここまでズタズタにする風魔法使いなんてメッタに見ない。
この威力ならば、ドラゴンの鱗すら破壊できそうだ。
だからこそ
「あなた、向いてない」
「そ!そんな!」
「あなたの能力は本物よ。こんな風魔法、ベテランの魔法使いでもなかなか出来ない。
でもね、私達はドラゴンを狩り、素材を手に入れるキャラバンなの。あなたの強力すぎる魔法は、素材を破壊するわ」
ネクリさんも頷く。
「悪いことは言わない。その能力なら、冒険者としては引く手あまた。このキャラバンには向いていないだけ。
今のうちに他に行きなさい。無理に不得意なモノを覚えることは有害よ」
「でも!私はドラゴンスレイヤーになりたい!いえ!違う!!!私はお金を手に入れたい!!!あんな風に!金貨をいっぱい手に入れたい!!!!」
ミガサの欲望。
なんというか、見た目と違いますね。
「心意気は良いけど。じゃあ訓練続ける?氷魔法よ。今度はちゃんとやって」
「はい!行きます!」
詠唱を唱える。
そして、ビルガルムを狙うが
「GYIIIIIIIYAAA!!!」
また。ビルガルムはズタズタになった。
しかし
「氷の破片は見えた」
ビルガルムを見ると、要所要所に氷の欠片が見える。
「イメージが違うの。ミガサ。いい?一つに集中するの。そこを氷漬けするイメージ。そうね、その木でもいいわ。あの出っ張った枝を狙って凍らせて」
「はい!」
再び詠唱をするが
「構成が違う!魔法構成のあり方が広すぎる!」
「は!はい!」
「ミラー、凄いね。人の魔法構成を見て理解できるの?」
魔法構成は人によりけりなのだが、なんというか作法みたいなものはある。
私もミガサも学園出身で、風魔法もかじっているので、なんとなく分かる。
ミガサの魔法構成は粗い。
「主席でしょ?1から教えさせないで」
「すみません!」
「スパルタだなー。ミラー」
そうかな?
ミガサは再び詠唱をして枝を狙うが
「枝を吹き飛ばしてどーすんのよ」
「すみません!」
これは参ったな。
「もう一度言う。あなたの魔法は粗い。でも風魔法というジャンルにおいてはとても良い。何故なら、風魔法で粗いということは、範囲が広いということ。そして、その能力ならば、風魔法使いとしては満点よ」
「なるほどね、で、この仕事に対しては」
「向いてないです。一点狙いだから」
落ち込むミガサ。
「メイルとも相談しま~す」
ミガサの訓練は終わった。
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「あん♪カルテナ、まだするの?」
ニルスとカルテナは裸で抱き合っていた。
レンタル移籍という形だが、パーティー復帰。
これにはダニーとアルバニも大喜びしていた。
代わりがこれ。
カルテナはずっとニルスの相手をしていたのだ。
ファティマへの申し訳なさもあるのだが、それ以上に、寂しさも強く、ニルスを抱くのはカルテナにとっても助かっていた。
「今、ダニーとアルバニがギルドで依頼を探してる」
「良い依頼があると良いわね」
「ああ」
二人はそのままキスをして、ベッドに倒れ込んだ。
ダニーとアルバニはギルドで笑いあっていた。
「すげーな!ドラゴンスレイヤーの威力は!」
「ああ。向こうのキャラバンが、レンタル移籍と明確にするために、冒険者ギルド全体に告知してくれたからな。
俺達が申請しなくても、ドラゴンスレイヤーのニルスはうちのパーティーに今いる事が簡単に分かる。有り難い話だ」
受けられる依頼の数は今までの十倍以上。
それも報酬金が凄い。
「どれから狙う?」
「失敗したらマズいからな。オーガー討伐ならいけるとニルスは言っていた。ニルスが自信のあるものから選ぼう。たまたまあるからな」
「ああ。いいな。オーガーバスターの称号か」
「ニルスはレンタル移籍だ。ニルスがいるうちに称号をパーティーで持っていたい。オーガーバスターなら格が違う」
「しかし期間限定なのはな。残念だぜ」アルバニが言うが
「なに、嫌でも離れなくすればいい」
「?どうやって?」
「簡単だ。カルテナの子を妊娠すれば離れようがなくなるさ。カルテナの仕事はニルスを孕ませることだ」