第8眠:聞きたいことは以上です
「ダニー!?」
「もちろん違う。俺はお前が断った時点で諦めた」
ダニーとアルバニは別室で話し合っていた。
ダニーは、アルバニにファティマ殺害を仄めかしたが、アルバニは断ったのだ。
殺すには情が移りすぎたと。
アルバニは情の人だった。
そういう所を気に入っていたダニーはそれを受け入れ、パーティー離脱を提案したのだ。
「変な話だがな、何がなんでも殺すつもりなら、相談の前に殺してる」
「そうだよなぁ……じゃあ誰だ?」
「ファティマはそれなりの猛者だ。簡単に背後を取られ殺されるなんてな……相手はプロだ」
「誰かが雇ったのか」
「そうとしか思えないが、じゃあ……」
ダニーは考え込むと
「ニルス、ぐらいしか考えられないが」
「ニルスねぇ。ドラゴンスレイヤーがそんな真似するかね。下手すると依頼したことを殺し屋に脅されるぞ」
称号持ちは有名になるぶん、様々な縛りもある。
悪評も流れ始めると、広がるのが早い。
称号持ちは、それなりに品行方正な生活が求められるのだ。
「聞きに行くか」
「あん?」
「ニルスに聞きに行くんだ。あいつは演技できるタイプじゃない。顔に必ず出る」
「なるほどな。ああ、そうするか」
二人はニルスの所に向かった。
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夜。
「気をつけるのよ~」
ミラーが手を振る。
「はいはい。って、酒飲みすぎたかな」
ネクリが顔を赤くして言う
「エノームみたいに宿借りれば良かったかもね」
エノームは早々に
「外出たくない」と幼児退行して、宿の一室を借りていた。
「エノームの宿は遠いから。うちらはすぐそこ」
ニルスは宿に着く。
「ネクリ、じゃあね」
「うん、お休み」
宿を開けると、有り得ない顔があった。
「!!!ダニー!アルバニ!!!どうしたの?たまたま、この宿?」
この宿は高級なのだ。
ダニー達が泊まるとは思えないという驚きだったのたが。
「ニルス、よく聞いてくれ」
「なに、ダニー?」
ニルスは恐る恐る聞くが
「ファティマが死んだ。殺された」
その言葉に、ニルスは座り込んだ。
「な、なんで……?」
「通り魔だ」
「ファティマが!?あの娘、経験は未熟でも風魔法使いよ!?」
「背後から一撃だ。相手はプロだろう」
「そ、そんな」
震えるニルス。
「ニルス、ショックを受けてるところすまん。ファティマとは色々あったと思うが、同じ旅をした仲間として、葬儀に出てくれないか」
「もちろん、もちろんよ、ダニー」
「カルテナもショックを受けている。お前さんの顔を見れば気も晴れるかもしれない」
「そうよね。一番辛いのはカルテナよね」
「明日、また呼びにくるよ。この宿にいるかい?」
「ええ。待ってるわ」
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「どうだった?」
アルバニが訪ねるが
「白だ」
「そっか」
少し安心したような表情を浮かべるアルバニ。
「しかし、だとすると本気で分からん。誰なんだ。ファティマを殺したのは?」
「気をつけねーとな、色々と」
ダニーとアルバニはその足で、カルテナの所に戻った。
「カルテナ」
ファティマの遺体を前に俯いているカルテナ
「ああ」
「葬儀の手配はした」
「すまないな、ありがとう」
「ファティマが昔組んでたパーティーに声をかけた。来てくれるそうだ。悲しんでいたよ」
「……ありがたいな。」
「ニルスもだ。泣いていたよ。色々あっても旅した仲間が死んだんだ。ショックだったようだ」
「ニルスも来てくれるのか」
「ああ。俺達は共に旅した仲間だろう。悲しい結末になっちまったがな」
遺体を見るダニー。
「ダニー、離脱の話は」
「あれは一回なしだ。この精神状態じゃ落ち着かねえよ」
「助かる。ニルスにも声をかけてみるよ」
「落ち着け。ファティマ死んだからニルスみたいに思われたらお互い嫌だろ」
「そうか、そうだな。だがショックなんだが、ショックだからこそ、それなら落ち着くんだ」
「少し時間を空けろ。決断はゆっくりでいい。もう焦らせねえからよ」
「ああ。助かる」
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ファティマの葬儀。
ファティマの昔のパーティーと、カルテナ、ダニー、アルバニ、そしてニルス。
「どうか、また生まれ変わり、この草原を駆け抜けることを」
祈りの言葉を言い、花を散らす。
皆が沈痛な顔をしていた。
「ファティマには母親がいらっしゃる。その方に葬金として送りますので」
残された家族に葬金として渡す風習が冒険者達では一般的だった。
皆、布袋に入れて渡す中
『ジャラ』
明らかに多い袋。
普通は金貨なら一枚。銀貨なら十枚。
一枚だけだと無礼なので、銀貨を布袋に入れて渡すことが多かった。
たが、ニルスの布袋はかなり詰まっていた。
なによりも、透けて見える形と色
(マジかよ?あれ全部金貨か?)
周りの目がそれに注がれる。
ドラゴンスレイヤーニルス。
身内だけの葬儀に見栄を張る必要もない。
純粋にこれだけ稼いでいるのだ。
ニルスはそれに気付かず、悲しんでいた。
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死は新たなる旅立ち。
なので、冒険者達は、悲しみの葬式が終わったら馬鹿騒ぎして、送り出す。
それが通例だった。
なので
「ギャハハハハ!まじかよ!!!」
皆で馬鹿騒ぎ。
ここでは弔いで笑うことこそが、死者への敬意だった。
ニルスもファティマとは色々あったが、憎む気持ちは無かったのだ。
弔いとして笑っていた。
「ところで、カルテナ、魔法使いどうするの?」
普通に聞く
「昨日の今日で見つかるか!?」
周りがゲラゲラ笑う
「見つかるまでは私入ってもいいよ」
その言葉にアルバニが叫びそうになるが、無理矢理ダニーが口を塞ぎ
「アハハハハ!それは助かる!なあ!アルバニ!」
場を崩さず、うまく乗れ、という感じのアイコンタクトを送ると
「ああ!まったくだぜ!ニルスとなら連携も楽だしな!」
周りも笑いながら酒を飲む。
ダニーはさり気なくカルテナに近づき
「夜、口説け」
「まじか、だって昨日は」
「まさか、ここまで気があるとは思って無かったんだよ。口説けば落ちる。このノリならな。いけ」
「分かった」
カルテナは、様子を見てからニルスに話しかけに行った。
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「おはよーごさいまーす」
パープルドラゴン討伐の打ち合わせというので、来たのだが
「もう昼過ぎです。ミラーさん……」
ミガサは疲れたように言う。
アカリに聞いたら
何回起こしても起きないので、心配でアカリに聞きに来たらしい。
そして
「ミラーは1日の2/3は寝てるから」
という言葉に愕然としていた。
その打ち合わせだが、皆が厳しい顔をしていた。
「どうしたのですか?」
ネクリさんが特にイライラしている。
「ニルスが抜けたいって」
「あら」
「……まあ、昔のパーティーで魔法使いが死んでね……」
ニルスさんが気まずく言う。
「私は反対しないわよ。ニルス」
エノームさん
「ただし、レンタル移籍みたいな、期限付きにして」
「ニルスさん。私としてはレンタル含め認めたくはありません」
メイル。
「まあまあ。まずはニルスに聞きたいことが~」
「なにミラー?」
「寝たでしょ?」
その一言で、周りが凍る。
「……」
口をパクパクするニルス。
「聞きたいことは以上です」
周りは凍りついたまま
「ニルス。レンタル移籍なら認めます。必ず帰って来てください」
で話が終わった。
パープルドラゴンの出発は明後日。
ニルスは今回は来ない。
代わりに
「修行中なのは分かりますが、ミガサさんのお力も借りたいです」
「分かりました~」
私はミガサに振り向き
「明日、明後日で修行しましょう」
「はい!」
なんかなし崩し的に弟子みたいになってきたなー。
でも、ニルスさんなぁ。
恋っていいね。私もそのうちしてみたいな
このニルスのレンタル移籍の話は、「娼婦が嫌なので~」の時は、メイルとネクリの猛反対で、ニルスは諦めています。
ミラーの体調がこの頃から見るからに悪化してきたため、サブとしてのニルスが手放せなかったからです。
その結果、もう少したったあと、ニルスは本格的に離脱しました。
このルートだと、ミラーが元気なのと、ミガサがいるので、メイルが折れてレンタル移籍を認めます。




