第7眠:住み込みの弟子が来た
魔法ギルドに納金しに行く。
すると魔法ギルドは人でごった返していた。
「おや?何事?」
この識都は広い。
なので魔法ギルドも何個かに別れている。
一地区が抱えている魔法使いはせいぜい数十人程度なのだ。
いくら狭いギルドと言えども、こんなに一気に人が集まるなんて有り得ない、はずなのだが。
「おお!すまん!今は手が放せなくてな!今度でいいかい!?」
魔法ギルドのおじさんが言ってくる。
「すぐすみますよ~。いつもの報酬の納金です~」
金貨は重い。
こんなの持って往復なんてしたくないのだ。
「ああ、じゃあここで預かる。書面は後で届けるから」
「は~い」
金貨50枚。
報酬の一割を渡す。
それに年会費やら、更新料やらで、かなりお金は取られるのだ。
「……え?あれ、金貨?」
一人の少女が呆然と言う。
「バカな、あの布袋だと50枚ぐらいありそう……」
そのとき、袋の置き方が悪かったのか、金貨が中から出てくる。
「……金貨。五十枚。」
少女は呟いたあと
「……報酬の納金は、一割でしょ?……いくら稼いでいるの……?」
すると魔法ギルドのおじさんが溜め息をつき
「あのな、この人はあの『ドラゴンスレイヤー』のミラーさんだ。この人を基準に考えるんじゃない」
この一言で
『えええーーー!!!!!』
魔法ギルドで、知らない人達に囲まれた。
この人達はグリモアの学園を卒業してきて、取りあえず、大きな街のギルドに登録しようと、たまたまこの地区に来たらしい。
「グリモアの学園って、私の後輩ですね~」
「そ!?そうなんですか!?『ドラゴンスレイヤー』のミラーさんは有名ですけど、学園出身なんて初めて聞きました!」
「卒業してませんからね~。わたし」
学園では、よく寝ていたので、教師と生徒両方に嫌がらせされて、逃げるように出て行ったのだ。
ろくな思い出がない。
向こうも無視してるんだろーな。
あと、名前変えたからかな?
ミラーと名前変えたのは、学園出てからだからね。
「ミラーさん!あの!弟子とかって!」
「ごめんなさいね~。わたし弟子はとってないの」
魔法使いには師弟制度がある。
学園出身でなければ、大抵は師弟制度の元魔法を覚えるのだが、私は中退したと言えども、学園出身なので、師弟制度をしていなかった。
育てるの大変だし。
私はそれより、寝ていたいのです。
「弟子でなくてもいいです!ただ働きで構いません!ミラーさんのお仕事のお手伝いさせて貰えませんか!?」
金貨に見入っていた少女が懇願してくる。
苦笑いする魔法ギルドのおじさん。
私が弟子も取らずに、こういう勧誘を片っ端から断っているのを知っているのだろう。
けれども
「仕事の手伝いかぁ」
私の仕事。よく寝ること。
言われてみればだ。
私は結構色々やっている。
快適な睡眠を得るために、こう見えても努力しているのである。
それを手伝って貰えたら楽だな。うん。
ただ働きでいいと言ってるし、弟子でもないという。
金は払ってもいいけど、要はそういう気持ちな訳だ。
私の仕事ぶりから、なにかを学んで、お金を掴みたいという事だろう。
うん。なら良いかな。教えるの面倒でも、自分でなにかを勝手につかんでもらう分には構わない。
「雇い主に聞いてみます。あなた、お名前は~?」
「はい!ミガサと言います!」
その言葉に
「ま!?マジか!?ミラーさん!?弟子とるのか!?」
魔法ギルドのおじさんが叫ぶ。
「弟子じゃないです。手伝いをしたいと言っている。
しかもタダでもいいと言っているぐらいだから、自分で、勝手に技術を学ぼうという心意気でしょう?
そういう人なら構いませんよ。私は、教えてください。と頼み込んでくる人が嫌だっただけです~」
弟子にしてほしいってそういう事だからね。
私は自分で、苦労を背負い込みたくはないのです。
「は!はい!その通りです!わたし!頑張ります!」
「雇い主に許可とってからだからね~」
「そんな!じゃあ私も!」
「俺もお願いします!」
一斉に声をかけられるが
「先着一名です」
「そんなー」
ガックリとうなだれる子達
「あのですね~。魔法使いに必要なのは、この積極性ですよ~。とにかく、一番に話しかける。一番に声をかける。自分は、なにが出来て、なにが得意か。自分の価値をすぐアピールする」
みんなが聞き入っている。
「わたしも、この仕事依頼を見て、場所は遠かったけれども、ギルドに無理矢理お願いして駆けつけました。私は得意だと思ったからです。良いですか、彼女は積極的だからチャンスを掴んだだけです。皆さんも、積極性を失わないでくださいね~」
真剣な顔で聞き入る。
「じゃあミガサ、明日の夕方またここに来てください。おじさん、帰ります」
「あ、ああ。ありがとうな」
そのままメイルに会いにオルグナ商会に行く。
「メイルいますか~?」
「ミラーさん。ええ。呼んできますよ」
オルグナ商会の人がメイルを呼んで来てくれる。
「こんにちわ、ミラーさん。どうされました?」
「あの~私の手伝いを入れようかと」
「スカウトですか?ミラーさんの紹介ならば断りませんが」
「一応魔法使いで、わたしの後輩に当たります」
「ああ、学園出身ですものね。ミラーさん」
そうです。
「お金とか良いので、私の手伝いだけをさせようかと思います」
「なるほど、本当に修行みたいな感じですね。要は帯同のお願いですか」
「はい。ご迷惑おかけしないように、歩かせるようにはしますが」
「そういう話であれば構いませんよ。お金の払いも考えても良いですが」
「ひとまずはいいです。修行ですから」
「そうですね。甘やかすのはよくないですね」
メイルは頷き。
「パープルドラゴンの討伐の許可は下りました。近々出発しますので」
翌日、魔法ギルドに行くと、ミガサは座っていた。
「あ、あの」
「採用」
「ありがとうございます!」
「早速、住み込みで働いてもらいま~す」
「はい!」
「ただ働きとは言え、付きっきりでやってもらう以上、多少は渡します」
金貨を10枚渡す。
「こんなに!」
「宿も隣に住んでもらうので~。荷物は?」
「もう用意しています!」
話が早いなぁ。
「じゃあ行きますか」
宿のアカリには事前に話をして部屋を開けてもらった。
「……高級な宿ですね~」
ビックリしたように歩くミガサ。
「えへへ。そうでしょ?結構いい宿なのよ、うち」
嬉しそうにするアカリ。
「とは言え、あなたが入る部屋はランクが落ちるわよ。修行なんでしょ?」
「はい!頑張ります!」
ミガサは楽しそうにしている。
ふと、アカリが
「……ごめんね、年齢聞くなんてアレなんだけど。ミガサって、16超えてる?」
「……?え?はい。17ですけど」
17
「年上じゃん!?」
ビックリするアカリ。
そっかー。学園って16までだもんね、本当は。私は14で退学したけど。
「そうなんですか?でも私は修行中なので、別に……」
「そうじゃない!私もだけど!ミラー!彼女も16よ!」
固まるミガサ。
「……うそ、ですよね?」
「16です~」
老けて見えるのかな?ショック
「じゅ、じゅうろくで、ドラゴンスレイヤー……?そんな、学園での生活って、なんだったの……?」
ミガサはショックを受けているようだった。
ミガサを受け入れた夜、魔法使い3人が遊びに来た。
開口一番。
「いじめていい?」
ネクリさん。
「だめです~」
私は苛められっ子なので
「住み込みの弟子ねぇ。確かに私達も金持ちなんだから、それぐらいいてもおかしくはないわ。いいお金の使い方だと思うけど」
エノームさん。
「なんか生意気な顔してるよね、あいつ。ネクリ、一緒に嫌がらせしない?」
「やめてくださ~い」
ネクリさんと、ニルスさんはなんか、ミガサが気に入らないらしい。
なんでだろう?
「魔法の才能はあるからね、あいつ。ムカつくんでしょう。というか、グリモアのミガサって、聞いたこと無いの?ミラー?」
「有名なんですか?」
「主席よ。あの学年のね」
へー。優秀だったんだ。
それなのに、ただ働きでもいいなんてね
「グリモアの主席がなんだー!ミラーの弟子は私達の下だー!」
「そうだ!そうだ!」
ネクリさんとニルスさんは盛り上がってる。
「多少は嫌がらせされてもいいと思うわよ。ミラー。苦難がないと人は成長出来ないからね。放っておきなさいな」
「そうしま~す。そもそも、弟子ですらないし。お仕事の手伝いするというから入れたのです」
「仕事の手伝いって、睡眠関係?」
「うん。毛布運んだり」
「主席が毛布運びとか、最高の嫌がらせね。なかなか思い付かないわ」
エノームさんが感心したように言う。
「まあ、好きにさせてあげればいい。私から見れば、なかなか好ましい感じだけどね。あいつ」
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ダニーはファティマを呼び出していた。
「どうしたの?ダニー?」
「ああ。実はな。俺とアルバニで話し合ってな。パーティーを離脱しようかと思ってな」
「そ!そんな!」
「もちろん、俺達だけじゃニルスは来ないだろう。ただ、こう、お互い抱えた思いがあるなかで、一緒にやるというのも苦しくてな」
「そう。残念だけど……」
「ああ、このあとカルテナにパーティー離脱の書類持って行くんだ。色々世話になったな。カルテナと幸せになれよ」
「うん。ダニーとアルバニも元気で」
「アルバニは挨拶しないが、察してやってくれ。あいつもあんたが憎いわけじゃないんだ」
「分かっているわ。私のワガママに巻き込んでごめんなさい」
ダニーが去ると、ファティマは安堵の溜め息をつく。
「うん、まあこれで良かったのよ。やっとカルテナと結婚できるし」
本当はニルス離脱直後に結婚する予定だったが、忙しいのと、ニルスがドラゴンスレイヤーになったことから、伸び伸びになっていたのだ。
反対していたアルバニが抜ければ、問題は無くなる。
「ダニーは残って欲しかったけど、仕方ないよね。また募集すればいい」
ダニーは優秀なファイターだった。
代わりを探すのは大変だが、それでも依頼のランクを落とせばいい。
ファティマには冒険での野心はなく、カルテナと結婚出来ればそれで良かった。
すると
「ガハッ!!!!」
いきなり、気配もなく
後ろからナイフで胸を突き刺された。
「な、なにが……」
振り向こうとしたが、それもままならない。
ファティマは、そのまま倒れ込んだ。
ナイフを刺した人影は陽気な声で言った。
「依頼完了っと」
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ダニーとアルバニは、カルテナにパーティー離脱の申し出をしていた。
「……どうにか、残って欲しいが」
カルテナは絞るように言うが
「お前さんの幸せ考えたら、ファティマと結婚は正しいんだ」
ダニー
「お前さんが憎いわけじゃない。もちろんファティマもだ。俺が悪いんだよ。こっちが申し訳ないぐらいだ」
アルバニ
二人からの申し出はカルテナにとってはショックだった。
これだけ長くパーティーを組んでいると、連携の問題があって換えが効かない。
特に、恋人のファティマも最近の加入だから、ここでダニーとアルバニに抜けられるのは困るのだ。
それでも二人の意見は分かる。
問題は、ニルスが加入しないことではない。
そのわだかまりで、連携が乱れることだ。
お互いにプロなのだ。
そこはシビアに考えていた。
「……ファティマは、なんと?」
「俺だけが挨拶したよ。元気でね。との事だ」
そうだろうな、とカルテナは顔を覆う。
ファティマは別に冒険へのこだわりはないのだから。
重苦しい雰囲気の中、突然ノックの音が響く。
「なんだ?」
「分からん。どなたですか?」
「冒険者、カルテナのパーティーか?」
「ええ。私がカルテナですが」
入って来たは衛兵だった。
「あなたのパーティーのファティマさんが、通り魔に殺された」
3人は立ち上がり、呆然とした顔をしていた。