第6眠:魔法使い達のお疲れ様会
目が覚めると、帰り道だったようだ。
メイルが血塗れだ。
メイルはドラゴン解体時には陣頭指揮を取るので毎回血塗れになる。
普段は大人しくて礼儀正しいのだが、解体時の口調はかなり乱暴。
それでも解体を行う人達とは強い信頼関係で結ばれていて、それに対する不満は聞いたことがない。
ふと、前を見ると街が見えて来た。
いつもの拠点の識都ではない。
一度素材を預けて、整理したりするのだろう。
うん。二度寝しよう。
ドラゴン討伐は何度もやっているので、手慣れていた。
素材売却もあっさり終わり、私には満額渡された。
「次のパープルドラゴン討伐には入国の許可が必要です。許可がでしだいお願いをしにいきます」
「わかりました~」
金貨500枚。
前金合わせて700枚だ。
私はかなりお金持ちである。
今すぐ引退しても困らないだろう。
でも、今のような私に合った仕事がすぐ見つかるとも思えない。
メイルから断られるまでここにいようと思っていた。
お疲れ様会というのをたまにやる。
魔法使い4人が集まってやるのだが
「毎回の話ではあるけど、居酒屋貸切で飲み会というのもねぇ」
苦笑いするエノームさん。
「ナンパとかウザイし。私は毎回こうしたいよ」ネクリさん。
「エノーム、別に言うほど高くないんだし良いじゃない。うちらいくら稼いでると思ってるのよ」
ニコルさん。
この4人の為に、飲み屋を貸し切っていた。
私達の為だけに料理と酒が運ばれる。
「いやいや!ネクリさん!うちを選んでくれて有り難いですよ!さあー!飲み放題!食べ放題!ジャンジャン飲んでね!」
この飲み屋は、寡黙な料理人と、お喋りな女性店員で賄っていた。
ネクリさんはこのお店がお気に入りらしく、打ち合わせとかもここでやっていたのだが。
「まあ、お酒飲みましょう。お疲れ様でした」
エノームさんが酒を掲げると
『かんぱーい!!!』
四人の飲み会が始まった。
「……うう……だってぇ、ファティナの身体エロいしぃ。カルテナはエッチ大好きだしぃ」
泣き上戸なニルスさん。
「身体でダメなら金をつめー!」
キャハハハハと笑うネクリさん。
こっちは笑い上戸。
「おさけー。おいしいー。わたし、ずっーっとさけのむー」
エノームさんはお酒飲むと幼児退行する。
こういうのなに上戸って言うの?
一方で私は、酒を飲むとハキハキと喋れるようになるのだが、とりあえずご飯とお酒が美味しいので黙って飲んでる。
「きんか、さんびゃくまいかー。そうだよねー。そざいをこおらすだけで、さんびゃくまいって、もらいすぎだよねー」
ボソッとエノームさんが言う。
「仕事内容を考えたらその報酬に不満はないけど、メイルと比較したら不満はあると」
「そうだよー!さすがはみらー!」
絡みついてくる、エノームさん。
「キャハハハハ!普段と逆だー!ハキハキ喋るミラー!おもしろーい!」
笑うネクリさん。
「ミラーが、わたしの倍もらってるは分かるよー!仕事内容ちがうからねー!メイルもわかるんだけどさー!」
雇い主と雇われ主。
「……最近のドラゴンの売却益、かなり増えたらしいよ」
泣いていたニコルさんがポツリと言う。
「へー!なんでだろーねー!」
「他のパーティーがドラゴン討伐して全滅したんだって。それで価値があがった」
全滅。
噂は聞いたことがある。
私達の真似をした人達が、次から次へと返り討ちにあったと。
「待って?全滅って、スティンガーキャラバンも?」
ネクリさん。スティンガーキャラバンは以前一緒に行動したことがあるのだ。
「いえ、あの人達が唯一の成功例。でも壊滅的打撃を受けたみたい」
「……そう」
ネクリさんは少し酔いから覚めたらしい。
「……私達が成功し続けているのは、メイルの作戦と、ニールの知識、それとミラーの魔術なんだけど」
「私は人より長距離で魔法使えるだけよ。別に凄くないし」
「……ハキハキしゃべるミラー、きもちわるーい」
エノームさん。ひどい。
「まあそれはともかく。わたしのこころのモヤモヤを晴らしてー!」
エノームさん。
「あのお金の使い方は、貧しかった頃の反動でしょう?殺されそうになるわ、娼婦に売り飛ばされそうになるわ、みたいな生活してれば、ああなるよ」
「成金かよー!」
「……そう言えば、メイルのファッションは成金っぽさがあんまり無いなぁ」
ニルスさん。ニルスさんはファッションが大好きなのだ。
「ファッションコーディネートからお金で依頼してるからねー」
どれだけだ。
「……前から言いたかったんだけど、ミラー。あなたお金持ちに相応しく、オシャレすべきよ」
半眼で言うニルスさん。
「わたしの寝間着、シルク製」
「寝間着じゃなくて、普段の格好!!!」
「……ああ、そうだ。ミラーって、ベッドと寝間着が特注なんだよね」
「そう。宿屋に自分専用のベッド作ったし」
「……もう家買いなよ」
「今の宿屋、ご飯をいつでも作ってくれるから離れられない」
「気持ちはわかるけどねぇ」
そうこうしているうちに眠くなってきた。
「ねむーい」
「じゃあ解散しますか。またね」
「うん!」
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「ダニーよぉ。どーにかならねえかなぁ」
酒を飲む、元ニルスのパーティー二人。
「アルバニ、カルテナに別れる気はない。あれは無理だ」
「じゃあ、ニルスは諦めんのかよ!?」
「それこそまさかだ。ドラゴンスレイヤーの価値は無限だ。たとえ実力が伴っていなかろうがな」
ダニーはアルバニと違い、ニルスへの評価は冷静だった。
確かに優秀な魔法使いではあるが、ドラゴンスレイヤーを成し遂げられるほどではない。
あれはミラーと呼ばれる天才の仕事で、ニルスは単なる手伝い程度だと認識していた。
それでもなお
「アルバニ、お前の言う通りなんだよ。俺たちは上を目指さないといけない」
ドラゴンスレイヤーがパーティーにいる恩恵は計り知れない。
単純に受けられる依頼が増えるだけではないのだ。
格のある冒険者達は同じ依頼でも報酬も上がるのだ。
「ああ。とはいえ、パーティー抜けんのもなぁ」
このパーティーでも付き合いは長い。
「パーティー抜けても一緒だ。ニルスはカルテナにしかなびかん」
「というと?」
ダニーは酒瓶を叩きつけて言った。
「ファティマを殺せ」