第4眠:本人置いてけぼりの殺し合い
スロートドラゴン討伐前に、荷台の確認をしにきたのだが
「素晴らしいです~」
想像以上だった。
荷台という言葉に失礼なレベルで、完璧なベッドが出来ていた。
「ミラーさんのコンディションを整えるのは、討伐の上で大切ですから」
メイルの顔をふと見る。
お人形さんのような顔。
あまり感情の起伏が無いのだ。
たまに笑ったりもするが、愛想はあまりよくない。
曰わく「愛想良く過ごしていたら娼婦として売り飛ばされそうになったから」だそうだが。
(エノームさんか)
嫉妬深いと自分で言っていた。
正直、私に対しての嫉妬も感じるが、それ以上に、メイルだ。
まだ幼いのに、金を湯水のように使うメイル。
キャラバン運営の支出はかなり緩い。
少しでも問題があれば、金払いを躊躇う事はない。
この荷台もそうだ。
普通こんな真似はしない。
だが、メイルは躊躇わない。
そして、自分に対する支出。
どこの街に行っても、メイルは最高級の宿を選ぶ。
まだ幼いので、身の安全を考えているのだろうが、お金に対する執着が殆どないように映る。
盛大に稼いで、盛大に使う。
エノームさんは、いくら稼いでも、律してあまり使わないタイプだ。
メイルと真逆。お金を大切にしている。
しかし、どちらが貯金があるかと言えば、メイル。
稼ぎが違う。
キャラバンのリーダーであり、キャラバン会計を全て行っている。
商人とも直接繋がっている。
私達への払いが悪いわけじゃない。
稼ぎが異常なのだ。
ドラゴンを殺して回るという商売。
こんなもの誰も考えなかった。
ドラゴンは生涯で一度倒せれば英雄。
その、前提を破壊した。
「メイル、ばっちりです」
「良かったです」
安心したような顔を見せるメイル。
気になったことを聞いてみる。
「メイル。気になったのですが、今回の討伐で、もう10匹以上は殺すことになります。
ドラゴンの素材の相場は変わらないのですか?」
「ああ、そうですね。ミラーさんには説明していませんでしたね」
私はいつも寝てるから、伝わってない情報が多いですね。えっへん。
「素材によっては下がっています。特に皮と鱗。アイスドラゴンや、スネイクドラゴンのような特別な効果がないものは、市場に大量に流通し始めたので下がり始めています。そうですね、売価では1割程度ですか」
なるほど。
「ただし、臓器。これの値段が下がりません。変な話ですが、臓器が全部売れれば、鱗や皮が0でも問題ないのです。臓器が安定して売れてくれる限り、価格下落の問題は悩まなくて済みそうです」
「臓器はなんで、下がらないの?」
「臓器は一匹に一つずつしかありません。求めている貴族達は100人ではきかない。しかも、何度も求めてくるのです」
「なんで?」
すると
「不老不死だそうですよ、馬鹿げてますね」
見たこともない、冷たい表情で笑うメイル。
「リグルド様の堂々たる威厳を見れば良いのです。老いは恐ろしいものではない。誇るべきものです。バカな貴族共は、ありもしない不老不死に金を出す」
リグルド。
メイルは熱心な神教の信者だ。
リグルドは神教の幹部。
私も誘われたことがあるが、寝ちぎっていけなかった。
「効果はないの?」
「身体が健康になる効果はあるそうです。常に食べ続けないと不老不死にはならないと。
ですが、私たちですら、そんなペースではドラゴンは狩れません。そもそもドラゴンは有限ですよ?狩りつくしたって足りない」
メイルは両手を広げて
「臓器の買い手がいなくなったら止めどきだなとオルグナと相談しています。ですが、しばらくは安泰のようです」
「メイル、ドラゴン討伐が終わったらなにするの?」
私の質問に、少しクビを傾げると
「そうですね……。わたしはキャラバンを率いて、自由に旅をするのが夢でした。今は叶っています。また違うことを目的に、旅をするんじゃないでしょうか」
旅か。
「私はそのうち家でも買ってずっと寝てようかなぁって」
「ふふふ。そうですね。家かぁ」
「子ども達の楽しい声に囲まれて、すやすや寝てるの。そういうの良いかなぁって」
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「いってーな!畜生!」
ガラの悪い冒険者達が酒場で騒いでいた。
「相手が悪かったな。諦めろ」
「誰だよ!?あのクソ共」
媚薬を持ち、ミラーに絡んで籠絡しようとしたのだが、隣にいた男女二人に叩きのめされたのだ。
「ガル&ベリーだ。名前は聞いたことあるだろう?」
暴れていた男の顔が青ざめる。
「極悪人だよ。人殺しに躊躇いはないヤバい奴らだ。あいつ等も狙っていたとはな」
「人殺しならよー。俺らだって躊躇わねえが、ガル&ベリーか。」
「ああ。腕っぷしも凄いが、狙われたら終わりだ。奴らの短剣の技術は、近寄るだけで殺される」
「そんなあぶねえ連中がなんの用なんだよ、あいつに」
「人殺しなんて金にならねえ。俺らと同じ動機じゃないか?苦労して、標的に近づき人殺して金貨50枚?馬鹿馬鹿しくて欠伸が出る。
あの女はいくら稼いでいるんだ?一匹殺して金5000枚だぞ!
まともな殺し屋なら馬鹿馬鹿しさに気付くさ。こんな苦労するよりも、ドラゴン討伐したほうが儲かるとな。
それも、三匹でも葬れば十分だ。それだけで金貨15000枚。生涯使いきれねえよ」
「だな。ちっ!それにしても厄介だな」
「ああ、対策をしよう。ガル&ベリーは相当厄介だ。マトモに戦っても勝ち目はない。だから、俺達の得意なところで戦う」
男はニヤリと笑った
「毒、か」
「毒使いを舐めるなよ。という話だ。気付かぬ間に殺してやるさ。相手がガル&ベリーだろうがな。そして、次はあの女だ」
「そうだ。ミラーっていうの引き抜いたら、あのメイルってのはお前が遊ぶんだっけ?」
「その名前を今言うな。興奮して股間がそびえ立つ。あいつは好みの顔をしていてな。
毒と媚薬でぐちゃぐちゃの顔にしてから犯すことを想像するだけで、絶頂しそうだ」
「お前、ガキが好きだからなぁ。俺はミラーの方が好みだからちょうどいいか」
「ちっ!お前が変に名前を言うから収まりがつかん!下級娼婦で遊んでくる」
「ああ、俺は飲んでるわ」
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「あいつ、どこかで見たことあったと思ったら」
「ジェルニモ兄弟じゃない。毒使いの。またヤバいのと絡んじゃったなぁ」
ガル&ベリーと呼ばれた二人は気配を消して、監視していたのだ。
「毒使いに狙われたらヤバいぞ」
「先手必勝。セッ○スの後が一番油断する。すぐ片付けよう」
「兄はそれでいい。弟は?」
「弟は雑魚。有名なのは兄貴のみよ。私、弟は顔も知らなかったし。あの兄貴はヤバい。狙われたら私も死ぬかもしれない。プロ中のプロよ」
「しかし、毒使いまでが狙うとは」
「あの兄貴が言った通りよ。暗殺なんて今日日流行らないわ。それよりもドラゴン討伐。
二年でメイルがいくら稼いだと思ってるの?あんな小娘が少なく見積もっても金貨五万枚よ。こっちは、十年殺し屋続けても五千枚も稼げやしない。一発がデカい獲物を狙うのは当然の判断」
「しかし、ベリー。なんで、ミラー以外の魔法使いが失敗してるんだ?結構なパーティーが、優秀な魔法使いを率いてドラゴン討伐しに行ったんだろ?」
「よっぽど優秀なのでしょうね。でなければ、あそこまで囲わないわ。300年に一度の天才は伊達じゃない」
ベリーと呼ばれた女性は苦笑いをして
「本当に、真っ先にドラゴン討伐の真似事した連中に感謝するわ。私も焦ってやっていたら死んでいたものね。まさか20パーティーが全滅するとは」
メイル達がドラゴンを乱獲していると評判になると、真似をする冒険者が続出した。
冒険者ギルドの警告を無視して、ドラゴンに立ち向かったが、結果は全滅であった。
唯一、スティンガーキャラバンだけが、ロンドドラゴンの討伐に成功したが、その後はドラゴン討伐の予定をたてていなかった。
「スティンガーキャラバンも紙一重だったからね。半分死んだのでしょう?」
「ああ、あの連中だから半分生き残れたんだろうが」
スティンガーキャラバンは有名なモンスター狩りのキャラバン。
名声高く、かなり強力な一行であった。
現状はメイルキャラバンとスティンガーキャラバンのみが、この討伐に成功している。
メイルキャラバンに関しては戦死者が誰もいない。
理由はミラーとしか考えられない。
「世界一の魔法使いの引き抜きだもの。慎重にいくわ。この前のガルのナンパは早すぎたかもね、ちょっと引いてたわよ」
「そうか、難しいな」
「ゆっくりやりましょう。焦らずにね」
「子ども達の声に囲まれてすやすや眠る」という夢を叶えてしまうと、心労で死亡というバッドエンドルート一直線。
今回はそのルートから外れています。