第39眠:誕生日にオネショ
メイルキャラバン解散パーティー。
会場は、ニルスさんの結婚式でも使った大広間だった。
「すっごーーーい」
王侯貴族だってこんなのしねーぞ。
みたいな豪華さ。
池みたいに見える水たまりは、全部酒だそうですよ。
テーブルの上には、ありとあらゆる食べ物。
給仕は、美しい男女がしてくれる。
ステージでは常になんかしら演奏が行われている。
おいおい。なんだこれは。
「師匠、なんですか、これは」ミガサ
「解散パーティー」
「意味分からないレベルですね、これ」
メイルはひたすら客の相手をしていた。
相手は本物の王侯貴族。
メイルの立場は、もはや公国の王よりも上だ。
有り余る財宝目当てに、貴族や王族が取り入ってくる。
「さあ!飲むぞー!」
元気になったネクリさんがハシャいでいる。
「おさけ、おいしい」
幼児化したエノームさん。
「みんな、しばらくこの街にいるんでしょう? 赤ちゃん産まれたら見に来てね♪」
もうお腹も大きいニルスさん。
もうすぐお産だ。
でも、今日は来てくれた。
会場には、お世話になった人たちがいっぱいいる。
私の荷台を引っ張ってくれたあの人達も。
「グリー兄弟さん」
「おお! ミラーさん! いや、色々たのしがっだな! これでおわがれは寂しいが!」
「皆さんはどうされるので?」
「みなで故郷に戻るよ」
そっかー。
色々挨拶する。
楽しかったなぁ。この旅は。
私を活かしてくれるメイルに会えて、私は幸せだった。
美しい音楽に包まれた会場を見渡しながら
「楽しかった。幸せでしたよ、私は」
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知識の塔。
私はニールと揉めていた。
「デカいベッドを置きたいのです」
「ここは研究施設なんだが……」
「快適な研究には! 快適な居住空間!」
狭いのだよ。部屋が。
「壁をぶち抜きましょうよ。二部屋分のスペースあれば問題ありません」
「作って早々壊すとか……」
結局、ニールが折れてくれた。
壁はそのままで、部屋間を移動できるようにドアを作ってくれたのだ。
「ここは寝室、ここは研究部屋、ここは客間、ここは……」
私には五部屋割り当てられた。
さあ!
本を書くぞ!
ジェラハグドーム様の魔術書のような、魔法の革命を起こすような本をかきあげるのだぁ!!!
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「ししょー! ししょー!」
ゆさゆさ。
ミガサが騒いでいる。
「なんですかー」
グー。
お腹の音が鳴る。
「あのですね! 師匠がこの塔に来て3日間! ずーーーーっと寝てたんですよ!!!」
……
「な、なんだって~!!!」
そんな馬鹿な。
だって、トイレに起きたりとか……
で気付いた。
臭い。
そして、若干湿った感触。
「ミガサ、取りあえず出て行ってください。身支度整えますから」
「そ、そうですか? まあ、普通そうですよね。表で待ってますから、二度寝しないでくださいね」
ミガサが出る。
そして、布団を確認。
「17でオネショかよ!?」
そう、私は17になっていた。
ハッピーバースデー、オネショ。
窓を開け、換気をして、着替えてから表に出る。
「お腹すきました」
「そらそうですよ」
ミガサ曰わく、毎日顔を出していたが、いつまで経っても起きない。
最初は放っておいたが、いくらなんでも起きなさすぎるので、メイルに相談して
「流石におかしいから無理矢理起こすべき」と言われたらしい。
「なんでしょうねぇ~。こんなに寝たのは流石に初めてですよ~」
「師匠、多分なんですけど、起きる必要が無かったら、いつまでも寝てるタイプなのでは?」
あ、それありそう。
「執筆とかに、ノルマ決めてやられたらどうですか?」
「そうしまーす」
ミガサと食事をしながら話をしていたが
「……わたしは、極力、食事に文句を言わないタイプですが」
「そうですよね……」
塔には食堂がある。また、研究の邪魔にならないように、直接部屋に食事を届けてくれるサービスもあるのだが、不味い。
「空腹状態でこれ?」
識都は食事も美味しいんだけどなぁ
「基本的に、食べやすく、栄養価が高くて、手が汚れない、そして食べ終わるのが早い物を選んでいるみたいです。味は二の次、三の次」
なるほどねぇ。
「ニールに要望します。他の料理店から出前頼めないかって」
「基本的には、塔は研究施設だ。無関係な人を入れたくはないのだが」
「快適な研究には……」
「分かった。許可制にしよう。業者名を後で教えてくれ」
よし! これでオッケー!
次だ。
「洗濯とかやってくれるところを探したいです」
「丸投げ……いや、でも塔の上り下り大変だから、切実な問題ですよね~」
そうなのです。
後は水浴びとか。幸い部屋は多いし、水は私ならいくらでも魔法で生み出せる。
「快適な生活! 快適な研究!」
これをスローガンに! がんばるぞー!
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ニールに怒られました。
「流石にひと月いてな、二行しか進んでいないというのは、いくらなんでも」
「申し訳ありません」
頭を下げる。
私は本を書くので招かれたのである。
研究にも色々ある。すぐに成果が出せないのも沢山ある。
そういう人達も、リポートは出すのだ。
進捗状況とかね。
私は、二行だけ書いて、後は寝てた。
それは怒るわ。
「師匠、ノルマ決めて頑張りましょうよ」
「はーい」
本当に私は駄目な人なんだなぁと反省しながら、執筆する事になったが
「……書くと早いんですよね」
「まあ、頭にはありますから」
書くと早い。でも、書くまでが遅い。
私が書今いているのは、合成魔術の基礎構成と、その実例。
「ちゃんと魔法構成も図で書きますからね。これなら分かるでしょう」
書いていた最初の二行はこれだった。
『この本を、魔法構成に革命をもたらした、ジェラハグドームと、私に最大限の支援と理解をくれたメイルに捧げる』




