第38眠:制裁と独り立ち
「ジャブロー!!!」
メイルは怒りで顔が真っ赤だった。
私は、エノームさんに看病されているネクリさんを確認するが
「メイル、この症状は解毒などの魔法では不可能です。超魔術でも無理」
ネクリさんは麻薬の薬漬けにされていた。
ジャブローの手の者に籠絡され、薬漬けセッ○スの虜になったのだ。
今は眠りの魔術で強制的に眠らせているが、起きれば、男と薬を求める。
「……わたしが、気付けば、良かったんだけど……」
悔しそうなエノームさん。
ネクリさんとたまに会っていたのは、エノームさんだった。
その異常な男性への依存は、男慣れしてないからだと思っていたのだ。
「いえ、元々ジャブローが、ネクリさんを狙ったのは、私のせいです。ネクリさんは、私に様々アドバイスをしてくれていた。特に裏社会への接触は強硬に反対していた。それが邪魔だったのでしょう」
悲痛な顔をするメイル。
「私が癒やします。皆さんは退席……いえ、ミラーさんだけは残ってください」
みながいなくなる。
私とメイルだけ。
「ドラゴンなら癒せる。本当にクソですね」
メイルは悲しそうにしながらも
「私は反逆の生き様しかできない。全てに抗いますよ」
そう言うと、メイルの姿が光輝く。
「め、メイル!?」
その姿は、半龍半人も呼べる存在だった。
ドラゴンの翼、ドラゴンの尻尾。肌には鱗。
だが、顔はメイルだし、全体的なパーツは人間だ。
『私は人をやめない』
そう言って、メイルはネクリさんに手を翳し
『ドラゴンであることに抗い続ける。人であろうと戦い続ける』
癒やしは終わったようだ。
ネクリさんの寝息が自然なものになる。
それを確認すると、メイルは変身を解いた。
「ミラーさん、あの醜い姿が私です」
「いえ、とってもキュートで可愛いと思いますが~」
「……そ、そう言えば、ミラーさんの美的センス、ちょっと変か。まあ、それはともかく、ネクリさんは癒やしました。あとは」
「ジャブロー達への制裁ですか?」
「……あの連中は厄介です。殺すにしても」
「私も行きますよ、話し合いをしましょう」
ジャブロー達に会いに行くと、そこには死体が転がっていた。
メイルは一瞥してから
「ネクリさんを傷つけた男の制裁だけでは足りない」
「どうしろと?」
楽しそうに笑うジャブロー。
「正直、あなた達は相当厄介だ。縁は切りたいし、殺せるものなら殺したい。だが、それをやれば、仲間たちを傷つけかねない。だから妥協した。その結果がこれだ」
「そこは素直にお詫びしよう」
ジャブローは頭を下げる。
「仲間たちを傷つけるな。次はゲームオーバーだ。確実に殺す」
「……なるほどな」
「とは言え、なんの罰もなしというのもアレですよね~」
「ほう? どうしろと?」
私の提案に面白そうに笑うジャブロー。
「わたし、一度、男性同士の性交って見たかったんです~」
『は?』
その場にいる、私以外の全員が変な声を出す。
「ガルさんと、ジャブローさんでセッ○スするって事で許しましょう。どうせ、この男紹介したのガルさんですよね」
「ま、待ってください!? ミラーさん! 男性同士の性交なんて!? 教義に明記されている、神の道に背く最悪の行為ですよ!? 神が見放すと明確に書いているんです!!!」
メイルが慌てて、くってかかるが
「暗殺者だから、気にしてないですよ、そんなの。罰としてはいいじゃないですか。ニールのいる図書館で、男性同士の性交描いた古代の本があって、読んだんですけど、ああいうの、なんか興奮するんですよね~」
すると
「すまない! すまなかった! いくらでも謝るから! それだけは勘弁してくれ!!!」
ジャブローが土下座する。
おーい
「……ジャブローは、熱心な神教徒ですよ」
「え~?」
なにそれ。暗殺者なのに?
神の教えに刃向かいまくっていません?
「……まあ、今回は許しますが、次はそれやらせますからね」
それで話は終わった。
「……ミラーさんの好みがよくわからない」
メイルが悩んでいる。
「そうですか~? 屈強な男たちが、身体を重ねて、唇をもさぼりあうとか興奮しません?」
「しません」
即答。
「まあ、ジャブローは本気で怯えていましたから、あれはあれで良しとしましょう。いいですか、ミラーさん。仮にも神教徒なんですから、自覚してください。男性同士の性愛は、神の教義に背く大罪。殺人もダメですが、教義には載っていません。口外も不味いんですよ、本当は」
メイルは振り向き。
「ネクリさんの回復待ってから、メイルキャラバンの解散パーティーをやりましょうか。それまでは、ニールの知識の塔の手伝いでもやります」
=====================
ブラックドラゴン撃破の結果、得られた財宝を帝国に提出した。
その謝礼は凄まじい額となった。
「ミガサ、いくら欲しいんですか?」
「ひゃ、百万金ほど!」
メイルは、顔色変えず、指を向け
「そこの倉庫にちょうど100万金あります。運ぶのも大変ですから、倉庫ごとあげますよ」
「まじっすか!?」
ミガサが驚く。おい、お前が求めたんだろうが。
「ミガサ、お疲れ様でした。これで弟子卒業です」
「……? え? なんで?」
?
「いや、大妖精撃破したら弟子卒業って言ったでしょう?」
「撃破してないですし、私あの時なんにもやってないし」
まあ、そうですね。
「そもそも、こんな倉庫ごと貰っても、持ち運べませんし。どこにも行けませんよ。これじゃ」
「じゃあ、100金だけ持って、後は返せば良いじゃない」
「それは嫌です」
おのれ、ああ言えば、こう返しおって!
「師匠! 私はよく考えたら、師匠からマトモに教わってないですからね!? アニータとフェイルに教えてたみたいに付きっきりで指導とかしてくださいよ!?」
「面倒だし」
「そもそも、師匠はこれからどうするんですか?」
街に出来上がったデカい塔を指差す。
「あそこに行きます。本でも書きながら、寝て過ごしますよ」
「へー。そういうのも楽しそうですね……あ! そうだ! 決めた! わたし家族をここに呼びます! それで、わたしも知識の塔に勤めますよ!」
「……なんで?」
「元々家族を金持ちにしたかったんです。これだけあれば、流石に喜んでくれるかなぁって」
なるほどねぇ。家族かぁ。家族。
「子ども達に囲まれて過ごすとか、楽しそうですよね」
私は、性行為に対する忌避が抜けない。
幼い頃に繰り返し見せられた、母への暴行と性行為に、身体が拒絶をするようになったのだ。
「母は父からの暴行が原因で死亡、父は街の喧嘩で返り討ち。親族もなし。いや、魔法の才能無かったら私どうなってたんだろーな」
野垂れ死に以外に道は無かったかな。
魔法の才能があったから、グリモアの学園に入れた。
もっとも、そこでは虐められて、出て行ったけど。
「孤児を集めるのもいいかな。まあ色々考えますか」
=====================
アニータとフェイルには300金ずつ渡した。
「そ、そんな!?」
「こんなにですか!?」
「いえ、こんなものじゃ無いぐらい稼げますよ。ただ、いきなり渡すと今後麻痺するだろうから、ちょっと配慮したんです。それと二人に向けた魔法構成です」
二人は真剣な目で見る。
「学園に戻りなさい。二人ともまだ修行が足りません。アニータは基礎構成の基本を憶えきれてないし、フェイルの不器用さは、繰り返しの練習で挽回可能ですよ」
二人は
『分かりました!』
いい返事。
これで、終わり。
私の弟子達はこれで一人立ちだ。
ふと、塔を見る。
「家にも、学園にも、居場所はなかった。最良の行き先かも知れませんね」




