第37眠:人では守れないもの
「ドラゴン、お前に聞きたいことが腐るほどある」
メイルは怒りに顔が紅潮していた。
『ドラゴンの誓いだ』
「ドラゴンにされるなど聞いていない」
『安心しろ。誓いを守れば元に戻れる』
「ほ、本当に!?」
あ、メイルがめっちゃ嬉しそう。
『誓いが守れればね』
妖精神がクスクスと楽しそうに笑う。
『守れるのかしら?』
「ドラゴンを殺さなければ良いのだろう? 私はもう引退する。別にもう殺さな……」
メイルはここで、突然青くなる。
『ドラゴンの契約の内容は、今頭になだれ込んでるでしょう? 履行可能?』
ケラケラと妖精神が笑う。
「……人外の、クソ共」
『お前も、もう人外だ』
『ふふふ。敵の敵もまた敵よ、メイル』
「メイル、誓いとは?」
メイルは振り向き
「ドラゴンの保護」
「殺さなければいいのでは……あ、」
「そう、このクソドラゴン」
『大妖精からドラゴンを守るのが契約だ』
『狡猾でしょ? ブラックドラゴンの方が馬鹿な分可愛げがあるわ』
「大妖精の親分と押しかけておいて、大妖精撃破目前で止めておいて、なにが、妖精共からドラゴンを守るだ!?」
メイルが激高している。
『人間に戻りたいなら、今戻してやる』
「じゃあ! 今すぐにでも」
『予言してやる。人のままなら一年以内に確実に死ぬ』
メイルは絶句する。
『お前はなにかに愛されている。だが、人のままでは死ぬぞ。仲間も殺される。例えばだが』
『あなたのお友達、薬漬けにされてもうじき死ぬわよ』
妖精神
「な!? だ、誰のことを」
「まさか、ネクリさん?」
『そんな名前だっけ? 今男と薬漬けセックスのやり過ぎで廃人間近よ』
「そ、そんな!?」
『ドラゴンなら癒せる』
『大妖精でもね』
「……わたしは」
『お前の富と決断力は人を超えている』
『諦めなさいな。あなたの誇りを優先して、仇討ちまではさせてあげたんだから』
メイルは座り込んで
「……ネクリさんを救いましょう。皆さん、引き上げますよ」
「メイル、でも」
「ウインディーネ、シルフィード、次顔を見せたら、問答無用で娼館にぶち込むからな。下級娼婦として売り飛ばしてやる」
『はいはい。もう近付けさせないから』
「ミラーさん、行きましょう」
メイルは悲しそうな顔をして
「私一人死ぬのは構わない。でも私のせいで、魔法使いの皆さんや、オルグナ、ニール達が死ぬのは耐えられません」
「メイル」
「人間に戻ることは出来る。だからいいです。今は従うだけです。識都に戻りましょう。問題を解決して、あそこを拠点に生活しますか」
「それでいいの?」
「新都には顔を出す必要がありますし、旅にはなるでしょう。まあ、そこらへんから楽しみますよ」
振り向き
「ミラーさんは、ニールの作っている知識の塔に行かれるんですよね」
「ええ。そこで魔術書でも書いて寝てますよ」
「楽しそうです。私も、知識の塔の近くに住むかな」
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「メイルから緊急で連絡があった。ネクリの件がバレた」
ジャブローが、ベリーに言う。
「んで?」
「御立腹だ。今すぐ引き上げないと、年齢操作の魔術の提供は取りやめると」
「もう、あの二人で使えるのでは?」
「いや、まだミラーのアドバイス抜きでは難しいとのことだ。退き際だ。奴は止めさせる」
「止まるのかい?」
「殺すに決まってるだろう?」
「あーあ。金を掴んでもやることは変わらないねぇ」
「生き方は変わらないってね。まあいいさ。金は掴める。満足するだけの金はな。それで良しとしよう」
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識都に建設中のそびえ立つ塔。
その頂上に登り、ニールは興奮していた。
「ハハハハハハハハ!!!! 遂に!!! この識都に!!! 知識の塔ができる!!! この知識の塔から!!! 全ては始まるのだ!!! アハハハハハ!!!!」
それを下で見守っていたオルグナは
「本当に、ニールは馬鹿なのか、頭いいのか、分からんな。馬鹿と煙は高いところが好きというが」
呆れながら
「メイルの旅も終わり。俺もここで静かに暮らすかな」




