第33眠:見渡す限り変態ばかり
年齢操作の魔術。
そこには知らない女性が二人いた。
「術者の若返りも出来るのか?」
「そっちの方がはるかに楽ですよ」
その言葉にニコリと笑う妙齢の女性。
「光と闇は相反していると言われている。氷/炎、両属性がいないようにな」
「ええ。ただ、氷と炎の合成魔術は不可能。風と土の合成魔術は不可能。そう考えると、合成魔術が可能な、光と闇は相反関係に無いのかも知れない」
「そう。この女性、マチルゲーダは光も闇も使える」
凄いなぁ。実在するんだ、そんな人。
「私は、以前から若返りの魔術を模索していた」
マチルゲーダさんと呼ばれた女性
「確信があった。光と闇の魔術で、若返りが出来るんじゃないのか? と。両方とも肉体操作の魔術が可能。年齢操作だけ不可能なのは不自然」
「そう、魔法とはとてもロジカルです。そのような推定はとても大切」
「ジェラハグドームの魔術書は、私も読んだ。でも難解すぎた。あなたはあれが分かったの? 年齢操作の魔術なんて、記載すらなかったと思う」
そう、年齢操作は妖精の書。
でも
「ジェラハグドーム様の難解さは、魔法構成を文字に起こしているという一点だけです。そして、それには意味がある。魔法構成を文字に起こす事で、その魔法構成の意味を解説している」
「それが解ければ」
「人間には不可能な魔法はいくらでもあるでしょう。でも年齢操作の魔術に辿り着くのはそんなに難しくない。あなたももう一歩だったのでしょう?」
「あと一歩。その一歩が遠かったけれども」
「あなた一人で出来るのです。早速やりますか」
魔法構成を見せる。
「……な、なるほど。合成には、この記述が必須か」
マチルゲーダさんは驚きながらも、ちゃんと理解していた。
「マチルゲーダさん、もう自力で掴む直前だったのでは?」
「いや、私はこの合成記述にはたどり着けなかったかな? でもあと一歩だったんだな、本当だ」
溜め息をつき
「やってみよう。上手くいくといいが」
「ご自分でやる以上、加減を考えてください。自分の事は見た目で分からないですからね。身体が縮み始めたら止めるべきです」
「分かった。実験だからね」
マチルゲーダさんは魔法構成を始める。
後ろの女性はマチルゲーダさんに魔法量を送り込むが
「!!!!! す! すごい!!!」
歓喜に震えた声で叫ぶマチルゲーダさん。
そう。若返っていく。
明らかに。
40代過ぎの風貌はどんどん若くなり
「マチルゲーダさん!!! そろそろ止めるべきです!」
もう見た目十代後半。これ以上の若返りは、危険だ。
身体が魔術に耐えられず、暴走するかも知れない。
マチルゲーダさんは魔法を解く。
後ろの女性は急いで、鏡を用意する。
なんて用意周到。
そして、震える手でそれを受け取ると
「あは、あははははは!!! すごぉい!!! 若返った!!! 私は!!! 若返ったんだ!!! 凄い!!! 凄い!!!」
跳ねるマチルゲーダさん。
それまで黙って見ていたジャブローが
「で、他人に対しても可能か?」
「魔術は一緒。本人にかけると、魔法量にロスがないから、よく効くぐらいです。一気に何年若返ったんですかね? こんなの本人しか無理ですよ」
「それの実験にお願いしたんだがな、マチルゲーダさん。まだ他人を若返らせる魔力は残ってるのかい? 助手にも魔法使わせてたが」
「ふふふ。平気よ。ああ、早く道を歩きたいわ。だから早くやりましょうか? さあ、次はあなた」
助手の人。
見た目は20代後半。
まだ若いと思うけど。
「さあ、いくわよ」
同じ魔法構成。
やはり、効きはゆっくりだ。
でもゆっくり効き始めている。
でも、マチルゲーダさん魔法量限界っぽいな。私も送り込もう。
「!!!」
それで、また若返りの魔術は伸びた。
明らかに10代後半にまで戻り、魔法解除。
ざっと10年か。
想像より効くなぁ。
助手さんは急いで鏡を拾い、見る。
そして
「ふわぁぁぁあああ♡♡♡」
はい?
自分の顔を鏡で見て、喘いでいた。
「すごい、わかくなった。もどれた」
そのまま、股間に手を突っ込んで、って
「なにしてるんですか~?」
「ああ、放っておけ。自分の顔でオナ○ーする変態なんだ、あいつ」
どないやねん。
一方で、魔力が枯れた状態の筈のマチルゲーダさんは
「じゃあ! ナンパされに行ってくるから!!! 目標は一晩で5人! さあ!やりまくるぞ!」
スタスタいなくなった。
「……で、これで、私はいいんですよね~?」
眠い。
「変わり者なのは知ってたが、常識のぶっ壊れ方が凄かったな」
ガルさん。今日初めて声聞いた。
「ジャブロー、私はこの前の二人の方がいいと思うんだけど?」
ベリーさん。
「いや、あの二人はダメだ。もう勝手に商売始めようとしやがった。若返りの魔法を教えた段階で、俺達の手から離れる」
なるほど
「ジャブローさん、あの不老の被験者はどうですか? あの魔法は不確定で恐ろしいのです。出来れば、年齢操作の魔法だけにしてほしいのですが。代わりに、年齢操作の魔法は勝手には広めません」
「こちらから、それをお願いしようとしたんだ。不老の魔術はダメだ。コントロール出来ない。あの少女はもう5人、人を殺した」
え?
「兄弟や、親を馬鹿にして、迫害していた連中を、片っ端から殺している。怒りの抑えが出来ていない。かなりマズい。最後は俺達が殺すしか無いがな。あの魔法使い二人も、不老の魔術のヤバさは理解した。封印するよ、あれは」
良かった。話が早い。
いや、良くないな。人死んでるし。
「では、そういうことで~」
寝よう、寝よう。
「ああん♡ わたし、可愛い♡ わかくてぇ♡ きれい♡♡♡」
助手さんが、オ○ニーしながら悶絶する姿を横目で見て、私は地下から去った。
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「あの少女の話は私も聞いていました」
メイル。
「不老の少女ですか」
「成人男性を素手で八つ裂きにしたそうですよ。滅茶苦茶です。殺すと、簡単に言いましたが、あの3人でも敵うかどうか……」
化け物。
「不老の魔術封印に納得したジャブロー達は優秀です。そして、あの魔法使い二人はマズい。ジャブロー達に殺してもらった方がいい」
殺す。
メイル、そんなに簡単に、殺すなんて。
でも
「ミラーさん、私はおかしくなってきました」
おかしい。確かにおかしい
「倫理観が濁ってきました。あのゴールドドラゴンの誓いから、明らかに変です。手に押されたこの紋章から明らかに変」
メイルの手に浮かび上がるドラゴンの紋章。
「ドラゴンに、なにかされたのかも知れない。私は」
そう言って、私にもたれかかるメイル。
「人が、人と思えない」




