第32眠:寝坊する師匠
寝坊しました。
「ししょー。アニータが泣いてましたよー」
「今、夕方ですか~?」
「夜ですね」
まあ
「アニータは今日は単独訓練ですから。うん」
と言うことで
「ご飯食べて、明日に備えましょう」
「また寝るんですか!?」
寝るんです。
だって昨日遅くまでメイルと話していたしね、うん。
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翌日。
ちょっと拗ねてるアニータを放置して、とりあえず二人の構成を見るが
「試してみますか」
これならいけるでしょう。
また、郊外に行く。
フェイルが基礎構成を書く。
これは良い
アニータがそれに書き足し始める。
うん、バッチリ。
そして
『炎の壁!!!』
合成魔術。
炎の壁。なのだが。
「……ちっちゃくないですか?」
ミガサ
「火力が足りない」
私。
そう、前のベテラン二人よりもはるかにチッコくて、ショボい。
「師匠が無理矢理付け足した、氷の壁よりも小さくないです?」
「……そう言えば」
なんで?
私とミガサは、二人で地面に構成を書きながら相談する。
「基礎構成は変わってない。つまり、アニータのせい?」
「いえ、でも、だったらなんで土の壁がこんなに小さくなるんですか?」
そう。おかしい。
ここらへんの合成魔術のノウハウは勘でしかないからなぁ。
ジェラハグドーム様の書を読み直すそう。
「念の為、もう一度やりましょう」
今度はじっくり見る。
なにが、悪いのか。
フェイルの魔法構成は、とにかく忠実に丁寧に書こうと、ゆっくり書いている。
そこに書き足すアニータも、とても綺麗な、指示した通りの構成。
そして
『炎の壁!!!』
「うーん……」しょぼい。
これじゃ、シルフィードもウインディーネも退治出来ない。
なんでだ?
結局この日は解散となった。
発動までは出来たのだから、徐々に進んでいると喜ぶべきなのだろう。
私は部屋に戻り、ジェラハグドーム様の魔術書を読んでいた。
すると
『この!!! アバズレが!? ドブ川に沈めたろか!? ワレ!!!』
『黙れ! チンピラ! そもそもなんであんたみたいな、頭の中暴力一色のクソが来てんのよ!!!』
読書のじゃまー。
仕方なく部屋を出ると、ミガサがいた。
「やっぱり、うるさいですか」
「なんで部屋分けてないの?」
「いえ、分けてるんですけど、なぜかどっちかの部屋で喧嘩始めるんです」
なるほど。
「ミガサ、ドアを蹴り破って二人を威嚇しなさい。ちゃんと弁償しますから」
「そ、そんなの出来ませんって」
根性なしが
仕方ない。
「シャッタファッカー!!!
ノックイットオフ!!!
スクリューユー!!!」
私は怒鳴りながら、ドアをガンガンに蹴って。
「次騒いだら、大風の呪文ぶち込みなさい」
「……ししょー。興奮すると出る、その言葉なんなんですか?」
「故郷の方言」
「ちなみに、今はなんと」
「分かりやすく言うと、『殺すぞ』ですかね」
「……ししょーは、時折めっちゃ暴力的ですよね」
静かになったので、魔術書を読み漁る。
「ジェラハグドーム様って、滅茶苦茶ロジカルなんですね~」
すべてに理由をつける。
これがこうだから、こうだ。とする。
「なんで、この人が奇人変人扱いなんだろう?」
これだけ、ちゃんと物事を説明出来るのに。
いや、魔法構成を文字で書き連ねるとかは変人だとは思うけれど。
しばらく読んでいくうちに
「ああ。なるほどぉ」
私の教え方が悪かっただけなのか。
はたまた、フェイルの不器用さが悪いのか。
アニータの物覚えの悪さが悪いのか。
「まあ、いいや。寝ま~す」
夜更かししたなぁ。
お休みなさい。
翌日。
「シショウシショウシショウショウシショウショウショウショウ」
ぐわんぐわん揺すられる。
「なにごとですか~」
「あ! やっと起きた!」
涙目のミガサ。
「朝ですか?」
「夕方近いです!!! 訓練をですね!!!」
あ、本当だ。夕暮れですね。
「ねむ~い」
「……ししょー、私、一時間以上起こしたんですからね」
涙目のミガサ。
お疲れ様でした。
下に行くと
「あ! ミラー! ちょうど良かった! メイルさんが来てるよ!」
「あら? メイル」
「こんにちわ、ミラーさん。訓練終わったら来てください。例の件です」
ああ。ガル&ベリーとジャブロー。
「分かりました~」
メイルは頭を下げる。
そして、ミガサに向かって
「ミラーさんの眠りは、きっと意味があるんです」
「え?」
「出来る限り寝かせてあげるのも、弟子の仕事ですよ」
そう言ってメイルは去った。




