第31眠:人間を化け物にする魔術
翌日、ミガサと相談。
「あの二人の仲は最悪です。息を合わせる必要がある合成魔術は難しいのでは?」
まあ、言いたいことは分かる。
「ミガサ。あの二回の失敗は、二人の呼吸が、以前の問題です」
「まあ、そうなんですが」
「息が合う必要もない。基本は、フェイルの構成に、アニータが書き足すだけです。合成魔術の失敗は、自らに跳ね返る。命をかけての嫌がらせする事は流石にない」
「なるほど」
「だから、私達は二人の魔法精度を高めましょう」
「天性の不器用ですよ? なかなか苦労します」
「でしょうね。彼女は大変。利き腕でない手で、あそこまで構成できるようになった、あなたしか教えられないと思いますよ」
「……師匠、私のこと評価してるのか、そうでないのか」
「してますよ~。あなたも今回の件で分かったでしょう? 魔法構成の天才ですよ、あなた」
「天才と言われると照れます」
「秀才ではない、と言ってます。努力は必要ですよ」
「む」
「まあ、合成訓練は明日です。今日は個別訓練だけです」
夕方。
メイルから連絡があった。
ジャブローから、頼まれたものを用意したと。
「訓練はここまでです。解散にしましょう」
三人はホッとした顔をする。
「明日も個別訓練にしましょうか、ミガサ」
「え? ああ、その方がいいかもしれませんね」
ちょっと、考えていたよりも、進んでいない。
「アニータ、明日は朝起きたら、あなたはひとりでとにかく、魔法構成を書き続けてください。まだ抜けることがある。フェイル。とにかく、ミガサの言う事を聞きなさい。ミガサの動きを見なさい。利き腕でないのに、あれだけかけるのよ。自分には出来ないと諦めない」
『はい!』
二人いい返事。
私達の前では良い子達なんだけどなぁ。
「難しいのは当たり前。これは教師も躊躇う超魔術。出来ないことを卑下する必要はない。でも、自分達には出来ないとは思わないで。出来るから訓練しているの。このドラゴンスレイヤーのミラーと、ミガサが」
「はい!」
「わかりました! 頑張ります!」
よし、これで解散だ。
メイルのところに行こう。
すると
「ししょー……。私のときにも、そういう、師弟らしい激励してくれても、よかったのではー?」
ミガサは、なんかふてくされていた。
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私は紙と本を抱え、メイルの元に行った。
妖精の書は返したが、あんなものなくても問題ない。
ジェラハグドーム様の本と、私のメモ書きがあれば事足りる。
しかし、妖精の書が無くなったのは、正直助かった。
あんなの、あるだけ困るもの。
「ミラーさん。こちらです」
メイルが迎えてくれる。
格好が可愛い。
「とてもキュートで可愛いですね」
「ありがとうございます」
ニコリと笑う。
メイルの笑顔は貴重。
笑うと凄い愛想よく見える。
「なにがあってもいいように、地下でやります」
そこには、ガル&ベリーとジャブローがいた。
後は知らない男性二人と、少女。
「用意した。お願い出来るか」
ジャブロー。
「この少女が被験者ですか? 納得はされています? 成功すればこの少女は圧倒的な身体能力で暴れるかもしれない」
「ああ。どうだ? もし嫌だったら他の奴に変えるが?」
ジャブローは、その少女に聞くが
「い、いえ! 約束のお金頂けるんですよね!? でしたらいいです!」
「ああ。もう前金50金は渡したろう? 生きてれば残り50金。万が一があったら、250金だ。ここに用意している。また、オルグナ商会が、それの誓約書に書いてくれている。絶対に支払われる」
「はい。それで、家族みなが救えるんです。ならいいです」
その言葉に、メイルは切なげな顔をする。
「そちらのお二人は魔法使い。この図で魔法構成は理解出来ますか?」
明らかに『アンダーグランドです』みたいな格好が闇の人だろう。
一方で、光の人もそれなりに厳つくて怖い。
光と闇って、魔法に使いつぶしがきかないからなぁ。
結構生活に困るのかも。
「……俺は、これならいける」
「同じくだ。かけそうだ」
さすがベテラン風味。
頼もしい。
「ミラーさん、こちらのお二人は、報酬に他の合成魔術もお望みだ。なにかないかな?」
他の合成魔術?
「光と闇で、ですか?」
「他でも構わんが」
「まあ、いちいち他の奴に話をするのも面倒だ。光と闇があればいいが」
蘇りの魔術は論外。
ただ、妖精の本には、他にも外道な魔法はいっぱい書いてあった。
丸暗記はしていないが、よく憶えているのがある。
「年齢を操作する魔法なら」
その言葉に、他人事な顔をしていた、ガル&ベリーが立ち上がる。
「ま、待て!? 本当に!? そんなものが!?」
「不老ができるのに、なぜその程度で驚くのですか?」
「……いや、驚いた。あんたは凄いな」
「ただ、不老はあなた方にしか教えません。でも、この魔法は、必要があり、求められれば提供しますよ。そこは了解してください」
「……異論はない」
「俺もだ」
「よし、では準備に入ってくれ」
儀式の準備。
少女を真ん中に寝かせる。
私は、二人へ魔法量を送り込む魔術準備。
そして、詠唱が始まる。
二人の魔法使いは優秀だった。
魔法構成は完璧。
私から送り込む魔法量もあるのか、なんとか持つようだ。
「う、うわああああああああ!!!!!」
少女が叫ぶ。
そして、見るからに
「き! 筋肉が!!!」
「育ってる! 身体が育ってるぞ!!!」
そう、痩せこけていた身体に、筋肉が漲り、身体全体が大きくなる。
13ぐらいの娘は、見た目20近くまで育っていた
そして、詠唱が終わる。
少女は、呻いていた。
「おい、平気か?」
ガルが近付くが
「待ってください。警戒してください。精神の変質はあるはずなんです。その筋肉でなにかをされれば、ただではすまない」
「分かった。警戒しよう」
ガルは、ゆっくりと、彼女を抱き起こす。
「……お、お、」
「お? なんだ?」
「おなか、すいた……」
グーっというお腹の音が、地下室に響いた。
ご飯を食べながら
「あり得ない筋肉だ。軽々とスリッジハンマーを持ち上げた」
「精神の変質は見た目には分からん。だが、確かに好戦的になっている気がするな。あそこまで、モノを言う娘ではなかった」
女の子はひたすらにご飯を食べまくる。
「不老か、否かをどうやって調べるんだ?そう言えば?」
ガルが聞くが
「誰にかけても、20前後になるようです。それからは育たない。今度老いた人に試せば分かりやすいかと」
「うむ」
「とにかく、想定出来ないのは、精神汚染です。そこは、よく観察を繰り返してください」
「そうだな。コントロール出来ないのは困る。慎重にやるさ」
一方で、魔法使い二人は
「不老は色々面倒だ。年齢操作で金儲けしたらどうだ?」
「賛成だ。この方の言うとおり、精神汚染が心配だし、副作用が多すぎる」
「ふむ。魔法使い達はそのような意見か。実際に年齢操作の方が金儲けしやすいしなぁ」
「ジャブロー、賛成。不老は一度で終わりじゃん。年齢操作は切り売りが可能だ。因みに、何年単位?」
「一年単位ですね。副作用は無い分、消費魔法量が多い。まあ、これは魔法量を送り込んでもらえれば解決するかと」
「10年の若返りには?どれぐらい時間がかかる?」
「こればかりは実験しなければ。ただ、お二人の魔法量は、男性にしては驚くほどあります。連続で五回はいけるかな?と予想していますが」
「ジャブロー、その方がいいかも知れない。徐々に若返った方が、周りの不審も避けられる。様々な需要に応えられるぞ」
「よし、そうするか。まあ不老も色々考えるが」
その娘の食事量を見ながら
「食費で赤字が出そうだしな」
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帰り道
「年齢操作かぁ」
メイルがボソッと言う
「若返りなど望んでいないでしょう?」
「むしろ育って欲しいですね」
でしょうね。
メイルは、良いものを食べているから、同年代よりも、肉付きとか良いと思うけど。
「少し違和感があるんですよね。あれ、本当に不老の魔術なんですかね?」
「どう言うことです?」
「年齢操作に副作用は無いのでしょう?なのに、不老には副作用が盛り沢山。それって、逆に不老が副作用なのでは?」
「え?」
思わぬ話に、私は振り向く。
「あんなに筋肉がつくのおかしく無いですか? あれは、人を、人でないモノにする魔法なのでは?」
人でないモノ。
「人を化け物にする魔法。そう考えれば、精神の変質も理解出来ます。漲る筋肉、圧倒的な治癒力、異常な食事量、不老、そして精神の変質」
つまり
「あの不老の魔術は色々マズいかもしれません。年齢操作の魔法をあの人達に任せるから、不老は破棄しろ、とした方が」
「……そう、そうですね。メイル。そうします」
メイルは冷静だ。
キャラバンのリーダーとして、私達を引っ張ってきた。
そして、その判断に間違いが無かったから、私たちは無事だった。
その冷静さが
「不老の魔術は、あまりにもマズい。あれは不老が副作用。化け物を生み出すのが目的の魔術」と言っている
「ええ。そうされてください」
メイルの笑顔を見て、私には優秀なメイルがいるから、無事だったんだな。と改めて思った。




