第30眠:キャットファイト
グリモアの学園の二人は、アニータとフェイルと言った。
火がアニータ。土がフェイル。
二人とも私の前では大人しいのだが
「あの二人、結構凄いですよ」
ミガサ。
「ほほう」
「アニータは短気だし、フェイルは陰湿です」
「そう言えば、ミガサの後輩だから知り合いか」
「はい。二人とも問題児ですねー。アニータは教師にも喧嘩ふっかけるから、先生方に嫌われてますが、フェイルはなんというかですね。典型的な、面倒な奴ですね。優等生風で、教師受けはしてますが、下級生虐めたり」
おいおい。
わたしは、いじめられっこなのだぞ。
勘弁して。
その二人は、私とミガサで付きっきりで訓練している。
んで、私が担当しているアニータが、些細な事でイライラして物にあたったりしたので、心配になってミガサに聞いたら、これである。
「でもフェイルはかなり真剣です。彼女は応用魔術が不得意。もし、合成魔術を使えるようになれば、自分の可能性が広がりますからね」
「アニータも、私には直接キレないししねぇ」
それなりに上手くやれてるのかな?
それ以外の人達には戻ってもらい、取りあえず、私とミガサ、アニータ、フェイルの4人で、いつもの宿屋で生活していた。
最近忙しくて、あんまり眠れない。
なので
「ミガサ~。最近寝不足なので~。明日は訓練中止。たまにはお休みにしましょ~」
「寝不足……? 1日の半分以上寝てますよね……。まあ、休みは賛成です」
半分以上起きてるなんてあり得ないです。
おやすみなさい。
夜、目が覚める。
お手洗い。
「おかし~です~。寝る前にちゃんとオシッコしてるんだけど~」
尿意で目覚めました。
お手洗い、お手洗い。
わたしはお手洗いに向かうと、部屋から漏れる声に気付いた。
(……? アニータとフェイル?)
最近はお金がたっぷりあるので、宿は貸切にしていた。
多分この二人の声だと思うのだが
「死ねや!グズ! まぁたベッドに針混ぜたのテメエやろ!」
「知らないわよ? あんたがクソッタレだから嫌がらせされてるんじゃないの? あと息臭いから、しゃべんな」
声はそうだと思うが、口調が全然違う。
色々気になるが
「ねむい~」
私はお手洗いに行ってまた寝た。
「師匠。丸1日寝てましたね」
「疲れが溜まってたんです~」
お腹がすいたのでご飯食べながら、ミガサと会話。
「夜、アニータとフェイルの会話聞いたのですが~」
「ああ、あの陰湿キャットファイト聞いてしまったのですか」
陰湿キャットファイト?
「すごかったですよね? 私達には猫被ってる分、物凄いストレス抱えてるらしく、あの二人で殴り合ったりしてるみたいなんです。関わらないようにしてるんですけど」
殴るって。
「師匠も深入りしない方がいいですよ。ああいうのはね、変に介入するとヤバいんです。幸い、アニータとフェイルの力関係は互角です。イジメになったら止めますけど」
「わたしは~、そういうの苦手なので~。ミガサにまかせます~」
放置が正解か。
うん。そうさせてもらおう。
1日ぶりの訓練。
ここに来て、ようやく目処、というか
「あとこれだけ解決したら出来ますね」
「ほ、本当ですか!?」
アニータは驚いて聞く。
まだ、一度も魔法構成に成功していない。
その焦りがあったのだろう。
でも
「着実に構築は成功しつつあります。元々魔法構成は綺麗なんです。あとは、この書き足しの問題です」
「書き足しですか?」
「ええ。火側は、土のフェイルの魔法構成の間に書き足すんです。これが難しい。構成が変に広いのに、細かい精度を求められる」
「そうですね、そこが慣れません。魔法構成が広く、手を伸ばして作るのに、細かいんです」
「でも、それは綺麗な構成がかけるあなたが適任です。後は細かいミスが気になりますね」
多分アニータは物覚えが悪いんだろうなぁ。
短気だからなのか、物覚えが悪いから短気になったのか。
でも私との訓練ではキチンと我慢して、一生懸命頑張ってる。
さて、フェイルは?
と、ミガサの方にいくと、ちゃんと出来ていた。
「あら、もう大丈夫そうですね」
スピードも、構成も問題ない。
ただ、ミガサは微妙な顔をしており
「ちょっと、安定しないです。もう、こればっかりは慣れるしか無いのですが」
「これだけの完成度なら、試せますよ」
場所を移動する。
いよいよ発動実験。
ただし
「万が一に備えて、構成に問題があれば私も書き足しますから」
『はい!』
さあ、どうなるかなぁ?
二人が魔法構成を始める。
なのだが
「うわ」
思わずミガサが言う。
うん。これは
「アニータ! 書かなくていい! これは失敗!」
急いで私が、氷の魔法を書き足し、土氷の合成魔術にする。
名付けて、氷の壁、とも言うべきか。
「わ! す、すごい」
「凄くない! ちょっと! 肝心な部分を書き間違えないで!」
ミガサが怒る。
うん、ミガサも気付くぐらい、致命的に間違えやがった。
「す、すみません」
「もう一度ね」
今度はどうだろうか?
慎重に見るが、今度はいい。理想的だ。
アニータが書き足すが
「違う! 抜けてる!」
急いで書き足す。
その結果
「炎……の壁?」
土の壁ができたが、炎がくすぶっている。
そら、相反する氷属性の魔法使いが構成に混じったらこうなりますわな。
「もうちょっと個別訓練しますか」
急ぎすぎたかな?
反省しながら、今日は解散した。
夜。
宿で寝ていると、ふと目が覚めました。
尿意以外にはあんまり起きないのになんで?
と思ったら
「てめぇ!!! ぶち殺したろか!? どアホウ!!!」
「あなたの頭が悪いから上手くいかないのよ!!!」
アニータとフェイルの喧嘩。
うるさいなぁ。
と思って、部屋の外に出ると。
「師匠」
「み、ミラーも起きたんだ」
部屋の外には、ミガサと、宿屋の娘アカリ。
「うるさいですねぇ」
「止めようとしたんだけど」
「入ると喧嘩は止まるの。それで、出て行くとまた始まる。それが、どんどんヒートアップしていって」
なるほど。
私は、ガチャっと、ドアを開ける。
二人は、つかみ合っていた。
顔も引っ掻き傷がある。
私は
「私の安眠を妨害するな! サノバビッチ! 学園に返すぞ、マザーファッカー! とっとと寝るか、そうでなければレストインピース!!!」
故郷のスラング丸出しで叫んで、私は部屋に帰った。
「……なに語?」
ミガサとアカリはボーッとこちらを見ていた。




