第29眠:妖精神参上
魔法ギルドと、グリモアの学園から、火と土の魔術師10人が推薦されてきた。
魔法ギルドからはベテラン。
グリモアの学園からは若者。
なのだが、私は困っていた。
「ミガサ~。説得してもらえませんか~?」
「いや、師匠!? 諦めるの早すぎでは!?」
魔法ギルドから来た人達、合成魔術断りやがったのだ。
禁忌だと言って。
「禁忌に手を出すのは嫌だ。というのは理解出来ますから~」
「じゃあ、私からもなにも言えませんよ」
おのれ、根性なしめ!
ウインディーネとシルフィードを殺すには、炎と土の合成魔術しかない。
炎だけでは逃げられる。
土だけでは囲うだけで破壊される。
極炎を纏った土の壁で囲いこむしかない。
そこまでやれば、シルフィードとウインディーネも、降伏してくるだろう。
後はお楽しみタイム。
「合成魔術など正気か!? そんなものに手を出せば!」
「魔法ギルドから聞いていませんか~? 私は氷と風の合成魔術、ブリザードを完成させました。既に10回使ってますが、失敗は一度もない」
魔法使いは黙る。
「強力な魔法にはリスクがつきもの。それは、単独の極炎魔法もそうでしょう?」
別に合成魔術じゃなくても、強力な魔法にはリスクがある。
まあ、死にかねないのは合成魔術ぐらいですけどね。
しかし、想像以上に頭固いなぁ。
仕方ない。
学園生に振り向くと
「あら? あなたと、あなた。」
今気付いた。
この二人は、以前学園に行った時に、質問してきた二人だ。
「私はドラゴンを殺せるか?」
という質問した人と
「高次元魔法が使えないと厳しいか?」
と質問した二人。
「はい! お手伝い出来るかもしれないと思いまして!」
積極性○
「禁忌に忌避が無いぶん、やりやすいかも知れませんね。」
わたしは、魔法構成を書いた呪文書を渡す。
「ええっと、これは」
「魔法構成です。これを見てやってください」
その娘は、その構成を見ながら唸っている。
「師匠、師匠。あのですね、なんというか。わたしで慣れてるのかも知れませんが、普通、魔法構成見せられて、いきなり使えませんからね?」
「……? え? そうなの?」
「普通は魔法構成見て、自分のものにするまで、3ヶ月はかかります」
「……まじで?」
そう言えば、ネクリさんに不思議そうに言われたな。
なんでそんなに魔法使えるのか?って。
魔法構成見て、すぐ使えるのは珍しいのか、うん。
「私は、すぐ見て使えるから主席になれたんです。私みたいなの、学園にあんまりいませんよ」
マジか。
じゃあダメじゃん。
3ヶ月なんて待てるか。
しかし、もう一人の娘が手を上げた。
「あの、私は複雑な魔法構成が出来ません。基礎魔法しか使えないのですが、この構成はシンプルでいけるかも知れません」
「本当に? そうか、あなた高次元魔法が使えなくてもいいのか? って質問した娘だものね。あなたの方は合成魔術の基礎構成だから相性がいいのかも」
私はもう少しシンプルにまとめた魔法構成を書き
「これならどう?」
「は、はい。これなら、いけそうです」
基礎の魔法構成しか出来ない。
多分不器用なんだろうな。となると
「ミガサ、この娘に付きっ切りで、魔法構成の効率的な書き方教えてあげて」
「へ? まあ、良いですけど」
「あなた、利き腕じゃないのに、魔法構成が出来ていた。きっと上手く教えられますよ」
さて、じゃあ私は、この娘だ。魔法構成見て、うんうん唸っている娘と話をしよう。
「魔法構成とはなんだと思いますか?」
1から説明しよう。多分その方が早い。
「え? ええっと、魔法を使うための、なんというか、儀式?」
「そうですね。でも不思議ですよね? 魔法構成って、人によりマチマチじゃないですか? 学園でならった魔法構成も、そのままでは発動しませんよね? 自分で改良しないといけない」
「は、はい! そうなんです! それが難しくて!」
「これを、私やミガサは、すぐ自分のものにできてしまう。それをやるためには、自分の魔法構成の基礎を知る事です」
「基礎?」
不思議そうな顔をする。
「火の魔法使いならば、発火の魔法は基礎の基礎。使ってみてください」
「はい」
その娘は魔法構成をし始める。
なるほど、結構綺麗に作るな。
「魔法構成が綺麗ですね」
「み、見て分かるんですか?」
「はい」
ミガサも驚いてたな、それ。
いや、分かるでしょ。
「そうですね、あなたの魔法構成に合わせると、こんな感じになるのかな?」
絵を書いていく。
それを見ていた魔法ギルドの紹介のおじさんが
「……噂通り天才だ。一目で、人の魔法構築が分かるのか」
と溜め息をつき。
「取りあえず私も火の属性だ。この魔法構成ならば、使えないことはない」
おお。やる気を出してくれた。
「本当ですか。助かります。お名前は?」
「ドンと呼んでくれ」
ドンさん。
「それと、土ならこいつだ」
「ええー!? 私、怖いよ!」
それなりに年齢のいった女性。
「土魔法使いのララバイだ。それなりに有名だと思うぞ。戦争に駆り出され、巨大な土の壁で、侵攻を防いだ」
おお、私ですら知ってますよ、それ。
「土魔法側は、基礎構成ですから」
「うん、まあ、これなら使えると思うけど……」
気乗りはしないようだが
「取りあえず、発動できるかの実験だけでも付き合ってください」
ドンさんと、ララバイさんを、なにもない広場に連れ出す。
予想ではかなり燃えますからね。土の壁。
「良いですか、まずはララバイさんが、基礎構成を書きます。それに、ドンさんが書き足す。だから、ララバイさんはゆっくり書いてください。そして、広く書く」
「分かった」
「よし、やるぞ」
二人は魔法構成を始める。
ララバイさんの構成の広さ、スピードは理想的。
後はドンさんだが、こちらは苦戦している。
いけるかな?
『土の壁よ』
『炎をまといて現れよ!』
合成魔術、ウォールオブフレイム。
発動した。
それは良いのだが
ゴオオオオオオオ!!!!
「あちい!!!」
「す!!! すごい!!!」
離れたところに出たのに、めっちゃ熱い!!!
「これは~、凄い~」
いや、確実に焼け死にますね。
でも死なれても困るんだよね。
目標は、実体化させてレイ○だからね。
うん。
魔法使い二人は呆然とその炎の壁を見ながら。
「革命だ」
と呟いていた。
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学園生は少し時間がかかりそうだ。
ドンさんと、ララバイさんは
「実戦は勘弁してくれ」
とのことなので、学園生を使うしかない。
それをメイルに報告しに行く。
「メイル、合成魔術は問題ありません。ただ、それを使うのは学園生。時間はかかります」
「そうですか。まあ、それは仕方ありません」
ふと、気付いた。
「メイル、随分変わった格好しているのね」
なんというのだろうか、少し肌の露出が多い。
「ええ。あの馬鹿妖精に言われて気付いたのですが、私は媚びるという事に対して、かなり過敏になっていたようです。娼婦らしい格好を忌避していましたからね。まあ、でもそれも終わり。そのあたりのモヤモヤを妖精にぶつけて、私は服装とかも自由になろうかと」
なるほど。
「似合ってるとは思いますよ~」
「そうですか」
メイルが微笑む。
そんな話をしていると、身体が、突然震えだした。
「え?」
ガタガタという震え。
な、なに?
「て、手が!!!」
メイルの手が光り始める。
すると
『素晴らしい、素晴らしいわね、メイル、ミラー』
目の前に現れたのは、見たこともない、美女。
いや、人間じゃない。
羽が生えている。
これは、まさか
『はじめまして。私は、Великий бог』
はい?
なんて言ったの?
『人間には妖精神、と呼ばれていますね』
妖精神。
妖精神。
大妖精は7神と呼ばれているが、実はその上がいる。
それが妖精神。
つまり、これが
「その妖精神がなんの用ですか?」
メイルは堂々としている
『その手の輝きはゴールドドラゴンの誓い。あのドラゴンも手が早いですわね。これだからヤリチンの早漏は嫌いなの。あなたもそう思うでしょ?ちん○、デカければいいってもんじゃないのよ』
なんの話をしているの、こいつ
『シルフィードとウインディーネが妖精の書を渡したでしょ? 返して』
「はい。まだ手元にあるので、返します」
ニールの知識の塔が完成したら預ける予定だったが、まだ手元で保管していたのだ。
『あら、素直ね。もういいの?』
「はい。もう使いません。せいせいします」
『蘇りは不可能でも、不老の魔術は?』
「あんなもの、とっくにジェラハグドーム様が開発していました。それよりも、効率的なだけです」
『凄いのね、あなたといい。人間って』
妖精神は、妖精の魔術書を手に持つと
『炎の壁は見たわ。あれではウインディーネとシルフィードは死ぬ。止めてくれない?』
「やめません。侮辱は、死をもって返す」
メイルは淡々と反論する。
『じゃないと、今殺すわよ』
「どうぞ。既に私が死んだら、全力をもって妖精を殺せ、殺したものに、財産を譲ると友にお願いしています。人間の、金の力を舐めないことです。莫大な財産を手に入れられるためならば、なんでもやりますよ」
『ニハハハハハハハ!!!! いや、好みだなー!!! ねえねえ、メイル。きみ妖精になりなよ。ケットシー死んで、枠余ってるんだよね』
「お断りします」
『その格好も似合うし。妖精向きなんだけどなぁ』
妖精神は微笑むと
『これ以上、大妖精が死ぬのは困る。妥協案とかないの?』
それに対して
「別に殺すのが目的ではないです。侮辱を返すだけですから、妥協は可能です」
そこに突然
『妖精神にすり寄る淫乱』
『娼婦、お前は娼婦』
ウインディーネと、シルフィード。
メイルの顔が怒りに染まる。
『来るな、と言っているのに』
妖精神が呆れたように言うが
『なにが侮辱だ、淫乱。淫乱は淫乱だ』
『娼婦に娼婦と言ってなにが悪い』
「交渉は決裂です。覚悟して待ってろ、このクソ妖精共」
みんなが気を取られているその間に、私は魔法構成をしていた。
そして
『絶対零度』
対象はシルフィード。
『!!!!???? し、シルフィード!?』
全てを凍らせるのだ。
ウインディーネは無理でも、シルフィードならば
『妖精の書を渡したのは失敗だ、ウインディーネ、シルフィード』
妖精神は、シルフィードの氷をくだく。
『ふいー。ビックリした』
『殺さないでくれ。それだけ守ってくれるならば、戦うのは止めない』
そう言って、妖精神達は去った。




