第28眠:旅の終わりへ
メイルの存在理由。
ある時メイルは言った。
「私の存在は『反骨』なのです」
貧乏な村出身で、生まれて早々、親に殺されそうになった。
生き残った後も、生まれた村で奴隷のように働きながら、外の世界を望んだ。
村を訪れたキャラバンに自分を売り込み、ここでも奴隷のように働いた。
その結果、キャラバンリーダーから、娼婦に向いていると娼館に行った。
その間に会ったニールとドラゴン殺しの相談をし、成功。
メイルは一気に金持ちになった。
普通ならそれで終わりだ。
貧乏から、一気に金持ちになっのだ。普通浮かれて働かなくなる。
だが、メイルは止まらなかった。
なにかに追われるようにドラゴンを殺し続けた。
旅も好きだったのだろう。
だが、それ以上に『反骨』精神が大きかった。
メイルは、世間に、世界に、反逆していたのだ。
貧乏の村出身で、娼婦として売られそうだった自分が、こんなに大成功している。
ザマーミロと。
だからこそ、メイルは『媚びている』と思われる事を嫌がっていた。
媚びてなどいない。
逆の存在。
メイルは、自分自身を
「反骨の人」
として定義していたのだ。
それを、あの馬鹿妖精は、よりにもよって
『お前は娼婦だ』
『媚びているから』
『淫乱だから』
とメイルをなじった。
「ミラーさん、話があります」
メイルに呼び出されて、メイルの宿に行く。
その宿はメイル一人のために、全部屋空けていた。
そう。メイルはその程度の金など気にもしない。
「今回の討伐には、エノームさんと、ネクリさんを巻き込むのを止めようと思っています」
その言葉に
「はい。そうされてください」
もっともな話だ。
「その上でミラーさん。私の本音を言っていいですか?」
「どうぞ」
「私は、あいつらが憎い。それは八つ当たりに近いと自覚しています」
「妖精の言葉ですか」
「はい。私の怒りは、コンプレックスです。私は下等な生まれ。誉められた生き方はしていません。けれども、独立してからは、媚びた記憶はない。その前は媚びていましたね。最初のキャラバンでは笑顔を絶やさなかった。生きるために必要だったから。そのことが、私の心をかき乱すのでしょう」
「侮辱に対して怒るのは、人として当然の事です」
「そうですね。私は侮辱されて、怒れるような立場になった。今までは、どれだけ侮辱されても、怒りを溜め込み、ドラゴン狩りに、そのエネルギーを転嫁していました。今回はそのエネルギーを、あの大妖精にぶつける」
メイルは、透き通った目で私に言った。
「ゴールドドラゴンと契約を結びました。もう私はドラゴンを狩らない。変わりに大妖精をぶち殺す。私を侮辱した、娼婦となじった、あの馬鹿妖精をぶち殺して、私はこのキャラバンを解散する」
「そして、あなたはどうされるのですか?」
「皇帝からは、息子の側室に入れと強く言われていますが、気乗りはしませんね。旅でもしますよ。世界を旅します。自由に、気ままに」
「楽しそうですね」
「ミラーさんは?」
「メイルのような雇い主はもう現れないでしょう。ニールの知識の塔で、寝ながら本でも書こうかと」
「素晴らしいです。ニールも喜びます」
にこりと微笑むメイル。
大妖精討伐。
これで、私達の旅は終わり。
いや、ネクリさんとエノームさんとはもうお別れだ。
殺すのは私とメイル。
「寂しいな」
そう思う。
この旅は終わりか。
楽しかったな。
寝ながら、世界を巡る旅は楽しかった。
でも、もうメイルのような雇い主は現れない。
後は、魔法の研究でもしよう。
ジェラハグドーム様の本のような、世界を驚愕させるような本を書こう。
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ミガサからのグリモア学園への要請
ミラーからの魔法ギルドへの要請
それは大妖精ウインディーネとシルフィード討伐への協力要請。
その代価が
「信じられない」
「だが、ブリザードの実演は見ました。また、天才のミラーさんはともかく、学園を出たばかりのミガサが使う『祝福の壁』を見れば、その禁断の書の実在は疑うものではありません」
ミラーからは、禁断の書のうち、人間が使える魔術の翻訳と提供を打診されたのだ。
変わりに、炎と土の魔術師の提供を求められた。
「強力な魔術を知るために協力する魔術師には困りません。それはいいですが」
「ミラーさんは、今後その翻訳をされると言われている。お互いここは協力したほうが、心証が良いかと」
「それもそうですな。では、人選を」
魔法ギルドと、グリモアの学園は、ミラーへの協力で一致した。
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メイルとミラーは、ガル&ベリーと、ジャブローを集め、話し合いをしていた。
「ハッキリ言いますが、私は今回の大妖精討伐で引退しますし、ミラーさんは魔法書の執筆に入ります。金儲けに繋がる要素は一つしかありません」
メイルと事前に相談していたのだ。
あのヤベー連中どうしよう?と。
「ふむ。それで?」
ベリーさんが微笑む。
「ミラーさんは、魔法ギルドとグリモアの学園に禁断の魔術を教えますが、その中で一つ、あなた方に教え、他には公開しない魔術を渡す。ガル&ベリーさんにはお伝え済みかと思いますが」
「不老の魔術だな」
「ええ。ミラーさん。ご説明を」
「はい。まず、必要なのは光と闇の魔術師二人です。光はともかく、闇の属性の魔術師は少ないでしょう。アンダーグランドなあなた方の方が探せるはずです」
「そうね」
ベリーさんが微笑む。
「正直魔法自体は難しくない。それなりの経験のある魔術師が二人いればできます。問題は、この魔術の効果は『不老』にとどまらないのです」
「へえ。というと」
「それが、あなた方だけに教える理由。帝国や、魔法ギルドに教えられない理由」
メイルが歌うように言う。
「身体能力の向上。治癒能力の向上。身体は強力になり、簡単には死ななくなる」
「なんだい!?それは!?」
「信じらん、本当なのか」
驚くガル&ベリー。
「それだけならばいいのです。問題は精神汚染です。闘争本能が異常になります。闘いを求め、止まらなくなる」
「なるほど、国に渡すと」
「バランスが崩れます。血に飢えた無敵の兵隊。そんなものが現れたら、その国は間違いなく無敵の兵士を量産する」
「俺達ならば誤らないと?」
ジャブローが面白そうに笑う。
「金儲けの手段にすれば、自制が効くはずです。なにしろ、際限なき提供は、価値の暴落を招きます」
「素晴らしい!!! いや、素晴らしきクライアントだ!!!」
ジャブローが手を叩いて喜ぶ。
「私達は金に困っていない。また、この魔術の流出を望んでもいない。あなた方に渡しますよ。後は自由にされればいい」
「条件は?」
冷静に聞くガル。
「ミガサは、この大妖精討伐で弟子を解きます。自由にされれば良いですが、幸せになってほしいです。円満には別れて欲しいかな」
「了解したよ」
ガルは微笑む。
「それで、その魔術は?」
「はい。目処はつきました。ただ、光はともかく、闇の魔術師の知り合いはいません。連れて来てもらえませんか?あなた方ならば知り合いはいるでしょう?」
「ああ。近日中に連れてくる。楽しみだ」
「それと、不老を受ける人間も用意してください。あくまでも想定ですから。いきなりご自分が受けるのはお勧めしません」
「ああ、分かった。それも用意しよう」
「それでは、準備が出来たら知らせてください」
三人は、気配なく去った。
「メイル、もうじき終わりですね」
「ええ。この旅はもう終わり。そうだ。エノームさんから、お別れ会の提案をされました。やりますか」
「いいと思います~」
そうだね。みんなで飲もう。




