第25眠:蘇りの魔術という名のトラップ
妖精の魔術書。
戻りすぐにニールに相談した。
『妖精の魔術書』という物は、過去に存在したのか? と。
その答えは
「死者をも蘇らせる禁断の魔術書だ。そのような物が、かつてあったと、記録には残っている」
「その言い方だと、消失したということですか」
「ああ。人間に扱える代物では無かったらしい。妖精の魔術書を得た人間は過去に3人。3人とも死んだ。魔術書を得た人間が死ぬと、魔術書も喪失するとのことだ」
「蘇生の魔術の実例は?」
「ない。3人ともそれを実行して死んだと記録が残っている」
おい、シルフィード、ウィンディーネ。
本気で性格悪いな。大妖精。
多分なのだが、蘇生の魔術なんて、人間に扱える代物じゃない。
魔法構成見てビビったのだ。
こんなもの、実行したら確実に死ぬ。
魔法は魔法量を消費する。
魔法量が尽きると気絶する。
気絶ですめばいいが、その量が多すぎると、死に至るケースもあると聞く。
で、この蘇生魔術。
確実に死ぬ。
こんなもの、合成魔術使おうが、魔法量送り込まれようが無理である。
実験もしようがないが、私の想定だと、ブリザードの500倍は魔法量が必要だ。
私とミガサが500人。
合成魔術は余程連携がとれていないと発動すらしない。
500人? 無理無理。
なのだが、蘇生の魔術が実在するという噂の段階で、当然使え。教えろ。と殺到されるのは目に見えている。
実際問題、風/氷の私には、光/闇の蘇生魔術はどうあがいても使えない。
それはまあ、説明のしようもある。
問題は教える方。
こんなものを、教えるのは殺人と一緒だ。
やれば死ぬ魔法。
「教えてもいいけど、やれば死ぬから使うな」と言って、使わないだろうか?
答えは否。
頭が痛い。
なんて物を押しつけやがった、あの馬鹿妖精。
「この妖精の魔術書は、人間が扱えない魔術も多く記されています。蘇生魔術もそう。使えば死にます」
ニールは少し不思議そうな顔をして
「前から不思議だったのだが、ミラー、お前は当たり前のように、魔術書を読んで、魔法構成を理解している。それも、これが何を意味し、どれぐらいの効果があり、どれぐらいの魔法量が必要なのか。そのあたりの検討も付いているように思うのだが」
「まあ、魔法構成だけでは分からない部分も、もちろん多いですが」
「それは、他の魔術師は出来るのか?」
「ジェラハグドーム様は出来たようですね」
「他には?」
「ミガサは出来ない。基本は出来ない魔術師の方が多いように思えます」
「不思議なのだ。ミラーが一目で見て、やれば死ぬと分かる魔法を、なぜ、3人ともやってしまったのか?」
「それだけ、蘇りの魔術は魅力的なのかも知れませんが」
「不老はどうだ?」
「そっちは可能です。そして、ジェラハグドーム様の魔法理解の凄まじさに衝撃を受けました。私はジェラハグドーム様の記載の半分しか読み取れなかった。妖精の書を読んだ後読み直したら、意味がよく分かりました」
「死なないのか」
「そうですね。ただ、妖精の書を見て、改良したバージョンだと、単なる不老とは言い難いものになります。身体能力も向上するのです」
「凄まじいな。不老な上に、身体能力も向上か」
「その代わり、精神的影響も強烈なようですが」
「まあ、不老はいい。それで、どうするのだ。これを」
「それです。私は、ブラックドラゴン撃破の為のとっておきの魔法を、この魔術書から学びました。後は不要です。ニール。今建設中の『知識の塔』に、この妖精の書を置いて貰えませんか?」
「分かった。そうしよう。厳重に保管し、閲覧には許可を必要なようにする。誰も入れない、最も安全な場所だ」
「よろしくお願いします」
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「ブラックドラゴンが各地で暴れています。帝国から、速やかな討伐を求められました。ミラーさん。討伐の準備は出来ましたでしょうか?」
「いつでもどうぞ~」
「いつでも良くないです!!! わたし! まだ師匠から教わった超魔術発動出来てないですよ!?」
ミガサ。
ブラックドラゴンの討伐。
風の壁の防護と、私の凍結魔法。
これだけでは万が一がある。
その為に妖精の魔術書を参考に、超魔術を編み出したのだ。
『絶対零度』
全てを確実に凍てつかされる、氷魔術の究極系。
ブラックドラゴンは、アイスドラゴンのように、氷耐性があるかもしれない。
そうすると、凍結魔法をしている最中に、ブレスを二回される可能性もあるのだ。
風の壁はそんなに長時間持たない。
それをされたら全滅。
そのための、耐性すらぶち抜く究極魔法。
次がミガサの風の壁を、強化した超魔術。
『祝福の壁』
これは、範囲全体を防護することまでは一緒なのだが、生み出した壁の耐久時間が長い。
これも、連続で生み出す系の魔法なので、ミガサと相性がいい。
消費魔法量も少ない。
良いことずくめなのだが
「あんなに難しい魔法構成かけませんよ!!!」
そう。滅茶苦茶難しい。
「前にも言ったけれども、あれは、私も作れません。あまりにも複雑すぎて、魔法構成している間に、集中力が切れます」
「無理なんですよ! あれ!」
「いえ、やはりミガサは天才なのです。あの複雑な魔法構成を、あと少しまで完成させてきた。あとは訓練するだけです。旅の間やりましょう。ブラックドラゴンまでは遠い。その間に」
「天才なんて、そんな」
照れるミガサ。
「それでは、構いませんか?ミラーさん」
「はい。メイル。殺しに行きましょう。ブラックドラゴンを」
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ブラックドラゴンまでは距離が遠い。
だが、私達を探して、こっちの方に向かっているらしい。取りあえずブラックドラゴンの巣の方に向け出発していたのだが
あの、悪夢のような声が、頭上から鳴り響いた。
『今度は殺しに行くのか?』
『もう殺せるか?』
ウインディーネとシルフィード
「はい。向かっています」
『ならばおびき寄せよう』
『奴は馬鹿だ。必ず来る』
「あの山に展開します。あそこにおびき寄せてもらえませんか?」
『良いだろう。娼婦』
『お前がリーダーか。娼婦』
娼婦と呼ばれて、メイルの眉が跳ね上がる。
メイルは過去に娼婦に売り飛ばされそうになったり、娼館にいたりした。
そう言うものに対するトラウマなのか、娼婦扱いに対する反発が凄い。
「大妖精、ブラックドラゴンは、私達が、私達の為に倒す。私達はお前たちの言いなりではない」
あ、キレてる。
『怒ったのか?』
『怒ってる。そんなに嫌か。娼婦扱いが』
『だがお前は娼婦だ』
『淫らな女』
『妖精神が、お前に興味を持った』
『そんなことは有り得ない』
『単なる人間に興味なんて持たない』
『お前が淫らだからだ』
『淫乱』
『淫乱』
『淫乱』
「全裸で来る恥知らずに、淫乱呼ばわりされる筋合いはない」
メイルとの付き合いは長い。
うん、これはブチ切れてますねー。
「メイル、行きましょう。こんなのに付き合うだけ無駄」
私が話をすると
『妖精の魔術書はどうだった』
『ちゃんと読めたか?』
「おかげさまで殺せそうです。それと、なにが蘇りの魔術ですか。あんなもの、人間が使ったら死ぬ。通常の魔術士、1000人分の魔法量が必要」
『そうだ。貧弱な人間には無理かもな』
『だが、蘇りの魔術は実在する。それは事実だ』
『キャハハハハハ』
『キャハハハハハ』
「とりあえず去ってください。ブラックドラゴンを倒す。早くおびき寄せてください」
『良いだろう』
『待っていろ』
大妖精達が去った後
「ミラーさん、あいつらを娼館にぶち込む魔法とかないですか?」
メイルはまだキレていた。
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山の上でミガサと魔法の打ち合わせをする。
ミガサの魔法は少しずつモノになってきた。
今では、発動だけなら可能だ。
問題は連続で出来ない。
「疲労はどうですか?」
「はい。魔法による疲労はそうでもないです」
「ブラックドラゴンがすぐ来るようならば風の壁で構いません。私の超魔術ならば、二度ブレスは撃たせない」
「でも、こっちの方が良いんですよね?」
「魔法量を消費しにくい、祝福の壁の方が、ミガサには向いてると思います」
「そうですね。ただ、物凄いやり辛い……」
魔法構成見て、急に気付いた
「今更なんですが~?」
「どうしました? 師匠?」
「ミガサ、左利き?」
「ええ。そうですけど?」
キョトンとした顔。
そうだったのか。気付かなかった。
私は、魔法構成の絵を新しく書いて
「これで書いてみてください」
「え? あれ?これ随分やりやすい……」
すると
『祝福の壁!!!』
あっさりと発動した。
「凄い!師匠!凄いです!出来ました!」
「ミガサ、今まで魔法構成書いていて『書き辛いなぁ』とか思わなかったんですか?」
ミガサは左利き。
だが、魔法構成は右利きの構成が殆どだ。
そして、それは左利き用に弄ればいいのだが。
「ええ。書きにくいなぁと」
「あなたの魔法構成が粗い理由が分かりました。利き手じゃない物を無理に書いているからですね。今度から左利き用に魔法構成変えたのを教えますよ」
「ほ、本当ですか!? そんなの可能なんですか!?」
「今試したでしょう?」
「凄い!嬉しいです!」
無邪気に喜ぶミガサ。
でも、私には
(天才だ。ミガサは、間違い無く天才)
ジェラハグドーム様とは別種の天才。
魔法構成の天才だ。
私には、左手での構築を前提とした魔法構成なんて不可能だ。
もちろん、昔から右手を前提にした魔法構成を繰り返したミガサは、両利きに近いのだろう。
だが、あんな複雑な魔法構成を利き腕で無い腕で発動にまでこぎ着けた。
そして、左利き用に書き直したら、一発で発動した。
(天才。私なんかが叶わない天才)
私は、ミガサに嫉妬していた。




