第20眠:デブで悪かったな
訓練が終わった後の夕方。
私は、ネクリ、エノーム、ニルスを呼び、そして、嫌がるミガサを無理矢理連れ込んだ。
ここは酒場。
「デブで悪かったな!!!」
「ミラー、酒飲み過ぎー」
「悪い酒だなぁ。なんで10分でこんなに飲んでるのよ」
「ししょー。あのことは謝りますからー」
半泣きのミガサ
「なにがあったの?ミラー?」
「腹が出るのはみっともなくて!だらしないそうです!!!」
「ふえーーーん」
みんなにそのあたりを説明すると
「すげえな、ミガサ」
「積極的に師匠に喧嘩を売っていくスタイル」
「違うんですー!師匠のことなんて言ってません!!!」
「まあ、それはいいの!良くないけどね!それよりも!太れ!お前!ここでいっぱい飯食え!そして動くな!」
「どうしたの?ミラー。同じように太れって?言うほどミラー太ってないけど」
「違います。魔法量の話です。ブリザードを使うためには、ミガサの魔法量が足りないんです」
「体力付けさせれば?」
「逆なんです、ニルスさん。魔法量は体力、というか筋肉と、魔法効率からできていますが、筋肉つけると魔法効率が落ちるんです」
「前話してた、魔法量mpの話ね。体力のstをあげると、魔法効率のmeが下がる」
「はい。魔法を使う上ではmeの方が遥かに貢献します。だからmeをあげるために筋肉を無くす」
「まあ、それは分かるわ。でも太る必要なくない?」
「筋肉が魔法効率を阻害するんです。贅肉は阻害しません。ガリガリの状態では、普通にぶっ倒れます」
「なるほど。それでミラーはそういう体格維持してるんだ」
「いえ、私は1日一食でいっぱい食べて、後は寝ることしかしてないからだと思いますが」
たまたまです。
「だから食え!私と同じようになれ!」
果実やお肉をいっぱい頼む。
「全部私の奢りだ!さあ!お姉さん!ガンガン持ってきてください!!!」
「ミガサ、わたしさ、実はミラーなんか比べものにならないぐらい太っててね」
「は!?」
ミガサがびっくりしたようにニルスさんを見る。
「ダイエットしたんだよ。だから私ダイエットの方法なら教えられるよ」
「ほ、本当ですか?」
「ミガサは常に身体を気にして運動してるでしょ?そういう人は絶対元に戻れるよ」
「教えてください!頼もしいです!」
「今は赤ちゃん出来たから、教えるだけになっちゃうけど」
大事そうにお腹をさする。
「……今の旦那さんの気を惹くために痩せたの?」
「うん」
「凄いなぁ、ニルス」
恋は凄い。
「さあ!食え!」
それはともかく食うのだー!
「師匠!キャラが変わってます!」
「弟子に、デブでだらしがなくて、みっともないとか言われたら、キャラも変わるわ!!!」
酒だー、酒もってこーい
「ミガサ、別に嫌がらせじゃなくて、意味のあることなんだからさ」
「うう……」
ミガサが泣いてる。
「stとmeの話は前からしてたの。適当にでっち上げた話じゃないわよ」
エノームさん。
そうです。
「試してみなさいな。魔法量の話は、魔法使いにとっては深刻よ。まあ、でも体格みれば分かるでしょ?魔法量の多いミラーと私、逆に魔法量の少ないネクリとニルス。どっちがふっくらしてる?」
そう。エノームさんもふっくらしてる。
素材凍結担当として、大量の魔法使っており、魔法量はかなり大きい。
「あ!そうだ!あの今名案思い付いたのですが!」
ミガサ
「どうぞ」
「風の壁の時に魔力流し込んで貰いましたよね!あれやってもらえばいいじゃないですか!?」
「そっから授業しないとだめ?」
溜め息つく私。
「風の壁はね、あれ連続で壁生み出してるでしょ?一個作って、また一個作る。その間に魔法量流し込んでもらってるの。でも『ブリザード』は、発動したら一気に全部持って行かれるでしょ?その魔法量が足りないって言ってるの」
「そ、そうか」
ミガサはがっくりとうなだれる。
でも
「あれ?いや、ミラー。そうだ。魔法量の底上げ可能かもよ?」
エノームさん。
「え?本当ですか?」
「うん。ちょっと研究しましょう?」
「本当ですか!?じゃあ私は痩せたままで」
『太れ』
「うわーーーん」
泣くミガサに、無理矢理ご飯を食べさせた。
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「メイルキャラバンの主、メイルの暗殺か」
その男は苦笑いを浮かべていた。
「そうです。お願い出来ませんか?」
女は金貨を見せる。
「金は?」
「前金で金貨500枚。成功報酬は金貨1500枚」
「なるほどな。暗殺報酬としては破格だ」
「はい。暗殺者として名高いあなたにお願いしたいのです」
「前金を寄越せ」
「よろしくお願いします」
女は去った。
「貴族アランベルシュと、その弟子ビジュヘルか」
男は楽しそうに独り言を言う。
「時代遅れだよ。暗殺など。ベリーの言うとおりだ。1000万金掴んだ女の暗殺が2000金。バカバカしい」
その男はガル&ベリーと顔見知りの暗殺者だった。
「ガルはミラーとその弟子に取り入ろうとしている。ならば俺はキャラバン主だな」
その男は転移で消え去った。
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メイルはオルグナと毎日打ち合わせをしていた。
各王国との関係などをどうするか。
帝国本国公認となったとは言え、それで話は終わらない。
様々な交渉が各国と必要だった。
そこに
「お邪魔する」
「……な!ど、どうやってここに!?表にいた護衛は!?」
オルグナは驚愕して言う。
この部屋に入る時は必ず護衛が知らせてくれるようにしていたのだ。
「眠っている。安心してほしい。殺してはいない」
「殺し屋ですか?」
メイルは落ち着いて話をしていた。
「ああ、雇われてな」
「殺し屋の相場っていくらぐらいなんですかね?」
世間話のようにメイルはする。
「お前の値段は2000金だ」
「ドラゴン1匹の半分程度ですか」
つまらなそうに言う。
「私の価値は100万金ぐらいあると自惚れていたのですが」
「くくく、その通りだよ。暗殺なんて時代遅れだ。メイル、俺を雇わないか?」
「売り込みですか」
「俺は暗殺者ジャブロー」
「ジャブローだと!!!」
目を見開くオルグナ
「私ですら知ってます。必ず殺す、世界最高峰の殺し屋」
「そうだ。だがな、もう暗殺など古い。お前の時代だよ、メイル。俺はお前に乗りたい」
「オルグナ、金庫を開けてください」
「メイル、だが信頼して」
「いいから早く!」
「わ、分かった」
オルグナは金庫を開けると
「私の価値は100万金はある。敵を排除するごとに10万金はどうですか?」
その金庫には200万近い金貨があった。
「素晴らしい。では早速元の依頼主を殺してこよう」
ジャブローは気配なく消えた。
「メイル、お前」
「オルグナ、危なすぎです」
メイルは脱力したように座り込む。
「まだ金貨を大量に残して良かった。空にしてたら死んでましたよ」
「信じられるのか?暗殺者だぞ?」
「信じる、信じないもありますが」
メイルは金貨を指差し
「暗殺に10万金貨積むバカはいないでしょう。それを信じましょう」




