第2眠:本人が知らない争奪戦
「ミラー、おはよう?かな?」
「はい、おはよーです」
同じキャラバンの魔法使い、ネクリさんと挨拶。
「ミラーは相変わらずね。まあ、それが良いんだけど」
同じく、魔法使いのエノームさん。
この二人は素材凍結担当だ。
私は、ドラゴンの動力を凍らせたら、大体寝るので、二人の仕事とはあまり関わらないが、同じ魔法使いとして仲が良い。
「ミラー。見てみて、これ買ったんだけど似合う?」
もう一人の魔法使いニルスさん。
この人は派手だ。
私と同じく動力攻撃担当。
なのだが、最近は素材凍結をしたりとか、なんでも屋さんだ。
「綺麗です。ニルスさんはオシャレですよね~」
この4人がキャラバンの魔法使い達。
みんなで仲良く、楽しく過ごしているのですが
「ニルスは今回も一緒?」
「……もう悩んで、悩んで、悩み尽くしてはいるんだけどさー」
ニルスさんは、他のキャラバンからの引き抜きが凄い。
特に昔一緒だった人達からの引き抜きに対しては、ずっと悩んでいた。
「……好き、なんでしょ?あのキャラバンのリーダー」
「……そうなんだけどさ、あいつにもう恋人いるし。私は元々あいつに恋人できたからパーティー抜けたんだよ。今更帰ってもさぁ……」
恋。ニルスさんは、好きだった人と失恋してパーティーを飛び出した。
そして、このキャラバンに雇われてドラゴンスレイヤーになった。
その噂を聞いて、パーティーは戻って来てほしいと連絡が来た。のだが。
「ニルス、何回も言うけど、やめておきなさいって。そらね、あなたの才能は私より遥かに上よ?アイスドラゴンのトドメは実質ニルスの魔法だと思ってるしさ。
でも、このキャラバンだからこそ、ドラゴンスレイヤーなの。名声に振り回されたらミリアムさんみたいになっちゃうよ」
ネクリさんが説得している。
ミリアム。ドラゴンスレイヤーにして、オーガーバスター。
魔法使いとして、一気に頂点に立ち、そしてイフリートに返り討ちにされ死亡した。
「ミリアムは可哀想だったわ。あの娘は優秀だった。だから死んだ」
エノームさんは目をつむる。
「私は反対じゃないわよ。ニルス。恋は大切だからね。好きな人と一緒にいたいという欲求はとても分かるわ。でもね、ネクリの話は大事よ。ミリアムと同じように、周りはあなたに期待している。祭り上げる。偉大な魔法使いにね」
ニルスさんは苦しそうな顔をするが
「いや、まあ。現在進行形で、偉大な魔法使い扱いされても、なんにもブレてない人が目の前にいるからアレなんだけど」
私を見るネクリさん。
「わたしなんて~。寝るのが趣味の魔法使いなだけですから」
「……まあ、ミラーはこうだからいいのよ」
エノームさん。
「正直、みんながいるから私は助かってるのよ。私はこう見えて嫉妬心バリバリだからね。卑屈なネクリと、恋に悩むニルスと、寝てばかりのミラーがいるから、私は私でいられるの」
エノームさんが言う
「卑屈かなぁ」ネクリさん
「……魔法の才能に悩むのは分かるわよ。でもどこかで普通は区切りつけるからね。
私は遠距離魔法使えないけど、それはそれとして悩んでないから」
「そら、エノームさんは氷素材のエキスパートだもん……」
ふてくされるネクリさん。
しかしだ。話が終わらないな。
うん。寝よう。
「くーー。」
「あ、寝た」
「ミラーがこうだからね。本当によくメイルはこの娘見つけたよ。
ミラーいなかったらどうなったかな?私はメイルにキツく当たってたんじゃないかな」
「エノームさん、メイルと上手くやってるじゃない」
「ミラーがいるからね。年下のメイルと格差があってもミラーがいるなら、仕方ないと思えるもの」
「しかし、ミラー。自分の立場本当に分かって無いでしょうね。全世界最強、300年に一度の天才扱いなのにね」
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「あのキャラバンには魔法使いが4人いる。それが、あの4人だ」
4人が喋っているテーブルを遠巻きから見ている男女。
「エノームは知っているわ。あいつは遠距離魔法は使えない。
ネクリと言うのは全然名声を聞かない。素材凍結担当でしょ?
ニルスはあなたの情報が正しければ、前のパーティーではさほど才能を示していない」
「ああ。やはりミラーって言うのが噂通り本物か」
「でしょうね。私から見ても、1人だけ魔力の許容量が桁外れよ。あの娘が実質1人でドラゴンを殺しまくっている」
「引き抜きには失敗している。どうすればいい?」
「本人が断った。キャラバンの主も断った。魔法使い同士の仲も良好ね、あれ見ると」
妖艶な女性は腕を組むと
「まあ、安易だけど、男の身体でメロメロにする事じゃない?」
「……精神魔法とかはだめか?」
「だめよ。魔法使いは、メンタルが大切なんだから。精神魔法で精神を攻撃したら、魔法構築に影響が出るわ」
「そんなメロメロに出来る男なんてなぁ」
「急がないと浚われるわよ。あの後ろにいる男、多分それを狙っているわ」
「なに!?」
後ろを振り向きそうになる男のクビを無理矢理押さえつける。
「バカなの?露骨に振り向くな」
「す、すまん。しかし、本当か?」
「あの小瓶、媚薬でしょ。見たことあるもの」
「どうする?」
「なにが?」
「助けて恩を売るか?」
「ああ。そうやって取り入る?悪くない発想よ。そうしますか」
終始、男を小馬鹿にしたような態度を示していた女性は、初めて賞賛の眼差しを送る。
「そうね。少しずつ関係を作りましょう。300年に一度の天才という噂は多分本物よ。引き抜きには時間がかかると思いましょ。」
「そうだな。引き抜きが出来れば、俺達は生涯金に困らない。慎重に行き過ぎることはないさ。のんびりやろう」
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魔法ギルドの主は遠距離通話で、本部と連絡を取っていた。
「いや、ですからね。ミラーさんはこの街の、この地区に住んでいて、自分からお金をこうやった届けて下さるんですよ。
この魔法ギルドに対して評価頂いているからこそでしょう。
それを本部が、本来の配分を無視して2/3を取っていくとは、どういうことですか?」
ミラー達が拠点としている識都。
大きな街なので、魔法ギルドも複数あるが、ミラーはこの区画に住んでいたので、一つの魔法ギルドに納金を続けていた。
『あまりにも不公平だと不満があってな』
「なにがですか!?元々、私の所には、エノームさんや、ネクリさん、ニルスさんもいたのですよ!?それをわざわざ他のギルドに受け渡した!それでもなお不満があるのですか!?」
この4人の稼ぎはずば抜けていた。
魔法使いの報酬は、一つの依頼で金貨1枚、多くて5枚。
ところが、ミラー以外の三人は一つの依頼で金貨300枚は稼いでくる。
ミラーに至っては、その倍以上だ。
他の三人は適当に、魔法ギルドへの納金を誤魔化したりしていたが、ミラーだけは真面目に納金していた。
『君のところは、1/3にしてもノルマ達成ではないか』
「ならばノルマを上げればいい!本部没収には納得出来ません!」
以前からこのような衝突は多かった。
しかし、本部も、この地区の魔法ギルドの主も譲らない
『君の気持ちは分かる。だがな、ミラーさんはこの魔法ギルド全体の象徴になりつつあるのだ。
一つの魔法ギルドが囲えるものでは、最早ない。今は王侯貴族からも要請が来ているのだ。ミラーを招きたいと』
「彼女の意思はお伝えしたとおりです。魔法ギルドは、魔法使いを守るためにある」
『無論そうだ。無理矢理する気はない。だが、彼女の取り扱いは、本部が裁定すべき規模の話なのだ』
「300年に一度の天才。そう思いますよ。ドラゴンスレイヤーというだけではない。彼女は全てが規格外だ。
ですが、一人の魔法使いでもあります。私はね、魔法ギルドの誇りにかけても、彼女の自由意志を守り抜きますよ!!!」
『……平行線か。分かった。配分の件は取り下げよう。だがな、所属の話は引き続きする。配分はともかく、取り扱いは本部も関われるようにする』
「私も魔法ギルドの人間だ。魔法ギルド本部の指令に従わない訳はありません。そこはよく相談させてください」
『ああ、ではまた』
遠距離会話が終わると
「くそ!!!クソが!!!本当にくそったれだ!」
暴れる。
「魔法使いの自由意志を守れないでなにが魔法ギルドだ!!!王侯貴族がなんだ!?本人が好きで所属しているキャラバンやパーティーを守れないでなんのための魔法ギルドだ!!!」
何度も何度も彼は脅迫された。
質の悪い冒険者や、街の有力者、貴族。
「ミラーを雇わせろ」と
それでも彼は抗った。
「魔法ギルドは、魔法使いを守るために存在しているのだ。本人の意志なく移籍など認めない」と
それが、最近の本部は、王侯貴族達の脅しに負けて、何度も要請してきた。
それに抵抗していたら、今回の取り分没収の話である。
つまり、嫌がらせだ。
「誇りを失って、なにが残るんだ!私たちはなにがあっても魔法使い達を守るんだろうが!!!それも出来ないのならば、なんの為に魔法使い達からお金を分けてもらっているのだ!」
涙を流しながら
「私は絶対に守る!ミラーさんを守りきってみせる!!!」
彼は絶叫していた。
金貨一枚は10万円ぐらいの価値です。
魔法使い達は一つの依頼で10万から50万ぐらい貰えるのに対して、ミラーは一回6000万ぐらい、年間だと数億以上を稼ぎ出します。
魔法使いとしては超一流の稼ぎを誇っているので、そのあたりも含めて伝説扱いされてます。