第19眠:魔法の授業
吹雪魔法、ブリザードを完成させる。
ミガサには合成魔法用の特殊陣形を覚えさせ、私がそれに書き足していく、という形をとった。
とにかくミガサの魔法構築は早い。
両手いっぱいに広がる魔法陣形など、普通なら時間がかかり集中力が持たないのだが、ミガサの構築速度なら十分だ。
だから、魔法の発動は十分なのだが、問題はその魔力の消耗具合。
ミガサは毎回気絶する。
それで初めて知ったのだが、ミガサは魔法量がない。
「ミガサ、今日は講義をしましょう。魔法の練習はしません」
「あ!ありがとうございます!!!やっと師匠と弟子っぽいシチュエーションに!」
ミガサが半泣き。
魔法訓練だって、師匠と弟子っぽいけどなぁ。
「これはグリモアの学園での講義の復習にもなり、退屈かもしれませんが、大切なことなので、ちゃんと聞いてください」
「はい!」
「魔力、と簡単に言いますが、実は二つの要素があるのは憶えていますか?」
「はい!魔法量と、瞬発力です!」
「そうです。実は同じ魔法でも、瞬発力が違う人が使うと、威力が変わります。なのですが、そもそも論、その瞬発力は殆ど問題になりません」
「魔法には色々種類があるからですね」
「そうです。氷の魔法だけでも、100種類を超えます。威力が低いなら低いなりに、色々出来るわけですから」
「そこまでは分かります」
「次に魔法量。これが問題です。大抵の魔力とはこれを指します。魔法は魔力を使う。こういう表現が溢れているのは、魔力=魔法量を指しているからですね」
「はい」
「さて、この魔法量。強力な魔法を使うと一気に空になり気絶してしまう」
「ええ。私ですね」
「実はですね、この魔法量は更に分けられるのです」
「え?」
「図にしましょう。魔力全体をm,魔法量はmp,瞬発力はipとします。」
『m=mp+ip』と書く
「このmpは、基礎体力stと魔法効率meの要素で成り立っています」
『mp=st*me』
「この真ん中の記号は、プラスではありません。mpはstとmeを二つ足したものではないのです」
「ま、待ってください!師匠!こんな話初めて聞きましたよ!」
「ヒントは与えられていました。でなければ、魔法使いは延々と筋トレしていればいいんですよ。魔法量と体力の関係は明らかです。単純に使うと疲れますからね」
「で!でも、一般的には、体力の少ない女性の方が魔法量が多い傾向が」
「そうです。それが魔法効率meの話になります。女性は一般的にmeが優れています」
私は式を書き続ける。
「mp=st*me。meが高ければstの不足分を補える。そして、stよりもmeの方が要素が高い。問題は、このmeは天性のもので鍛えようが無いのです」
「なるほど」
「さて、ここまで聞くとやっぱり疑問が出るはずです」
「……?」
「meが鍛えられないのだから、stを増やせばいい。結局筋トレすれば良いじゃんとなるはずですよ」
「な、なるほど」
「それが、単純な足し算では無い理由です。
実はmeはstと相反関係にある」
「???え???」
「mpはstとmeで出来ているが、stを上げれば上げるほど、meが下がるんです」
「それで!女性の方が魔法使いが多い!」
「そう。男性の魔法使いにヒョロヒョロが多いのもそういう理由です。
stとmeならばmeの方が魔法量への貢献は高い」
「なるほどー」
「んで、このstは実はipと相性がいい」
「はい?」
「筋肉ムキムキの男性魔法使いを見たことありますが、どれも威力は高かった。連発は出来ないけれども、瞬発力は強い」
「ふえー」
「その上でミガサ、あなたmeがそんなに高くないの」
ミガサの顔が凍りつく
「もうこれは天性のものだからどうしようも無いんだけど」
「どうしたらいいんですか!?確かにわたしは、魔法量多くない自覚はありましたが!!!」
「そう。とは言え、今まではその魔法量でも困らなかった。瞬発力高かったし、なによりも天才的な魔法構築のスピード。あれがあれば、魔法量の少なさは補える。
魔法構築のスピードはデカい。構築のスピード早いと魔法量をそんなに消費しない。基礎魔法では特にね」
「天才なんてそんな」
照れるミガサ
「学園ではそんなに困らなかった魔法量の少なさは、この大魔法には枷になる。だから、なんとしても魔法量を上げないといけない」
「でも、どうしようもないって」
「もう魔法構築は練習しなくてもいい。あれでうまく行く。あとは魔法量の話だけ」
「どうすればいいのでしょうか?」
「筋肉を、無くしなさい。stを下げて、相反するmeを高くする」
「……はい?」
「動くな。太れ」
「い、嫌です!わたしは、この身体の維持に結構気を使ってるんですよ!!!」
「そう。ミガサ。わたしは、気にしてなかったけど、あなた体力凄いわ。ちゃんと身体の維持の為に運動をかかさなかったのね」
「はい!良い年頃ですからね!わたしも身体に気をつけて」
「太れ」
「いやですーー!!!」
泣き出すミガサ
「最近、この人いいなぁ♪って男性も出来てきたんですよ!」
「男を漁るな。太れ」
「いやーーー!!!」
大泣きするミガサ。
「イフリート討伐の間だけよ。ドラゴン討伐には、今までの身体付きでいい」
「一度太ると戻れないんですよ!!!わたしの体格の維持は大変なんです!!!」
改めてミガサを見ると、とても良い身体付きをしている。
ボンボンキュー。
「お腹が多少でててもいいじゃない。あなたは胸もそれなりだし」
「いやです!そんなだらしのない身体恥ずかしいです!わたし、そんな恥知らずじゃないです!」
だらしのない。恥知らず。
「わたしのことディスってるの……?」
思わず、故郷アラニアの方言が出る。
お腹出ているんですけど、わたし
「……あ」
ミガサは気付いたようだ。
「太れ」
「ふえーーーん!!!」
ミガサはずっと泣いていた。
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『炎が死んだ』
黄金色に輝くドラゴンが憂鬱気に言った。
『人などだろう?油断したのか?』
黒いドラゴンが答える。
『見ていたが、ブレスを弾き飛ばし、直接攻撃も弾いた。恐ろしい防護だ、あれは』
黄金色のドラゴンは黒いドラゴンを睨み
『お主か、儂の所に来るかもしれんぞ』
『闘いは喜びだ』
黒いドラゴンは大きく身体を揺らす。
『奴らの狩りの方法は未だに分からんのだ。気が付けば死んでいる』
『先手必勝よ。こちらから攻めればいい』
黒いドラゴンは翼を広げ
『奴らがなにをしようとも、体制整わず攻めればいいのだ』
『待て!お前!』
『ガハハハハ!!!では行くぞ!!!』
黒いドラゴンは羽ばたき去っていった。
そして
『あいつらの顔とか、どこにいるのかとか、知っているのか?あいつ?』
黄金色に輝くドラゴンは困っていた




