第18眠:よく考えたら、そら合わないわ
「わたしは、ミガサに厳しすぎでしょうか?」
「どうしたの?急に?」
ネクリさんとエノームさんに相談。
内容は、弟子のミガサについて。
「今日ですね、いつものように修行しようとしたら、泣き出しまして。『以前の夕方まで起きない師匠に戻ってください!』と」
「最近早起きしてるの?」
エノームさんがビックリして聞く。
「はい。お昼ご飯には間に合う生活です」
「早くないし」
「いや、ミラーにしては、確かに早いかも……」
その分寝るのも早くなりましたが
「修行ってなにやってるの?」
「ちょっと新しい魔法にチャレンジしていましてぇ」
「へえ。風の壁も古代魔法でしょう?確かにああ言うのはキツいかもね」
そうかのか。
「ちょっと聞いてもらっていいですか?」
エノームさんとネクリさんは、ミガサに話を聞きに行った。
最初は厳しい表情で話をしていた二人だが、段々と困惑気な顔をしてきて、最終的にはこっちを見ながら
「ちょっと来い」
みたいな感じで手招きしていた。
「どうでしょうか?」
「一個聞きたいんだけど」
「はい」
「毎回気絶するほど魔力使わせてるって本当?」
「はい」
毎回気絶してますね。
それに頭を抱えるネクリさん。
「それと、これって合成魔術って本当?」
「はい」
合成魔術ですね。
エノームさんも頭を抱える。
「学園卒業直後に超魔術!?しかも禁忌の合成魔術!?そんなの誰だって泣いて引きこもるわ!?」
エノームさんが興奮してる。
「そうなんですか~?」
「そうなんです」
エノームさんが呆れたように言う。
一方でネクリさんは
「でもさぁ、ミガサ。ぶっちゃけるよ。師匠についていけないなら、自分から辞めなよ。それが礼儀だ」
顔が青くなるミガサ。
「ミラーは弟子のミガサの能力を信じてこんな凄い魔法に手をかけてるんだよ?それをさぁ、辛いからって、投げ出すのはどうなの?
もちろん、ミガサがキツイのは分かる。私じゃ無理だもん。でもね、師弟関係ってそんなもんだよ」
ミガサは泣きそうな顔をしている。
「もちろん、少しは緩めますが~」
私の発言にみんなが注目する。
「合成魔術は取り下げません。吹雪魔法『ブリザード』は必ず成功させる。やりたくないなら弟子を辞めなさい」
その言葉に
「……すみませんでした。師匠。全力で頑張ります」
ミガサは頭を下げた。
「ミガサも天才型なんだよね」
エノームさんとネクリさんと三人でランチ。
「主席というから秀才型だと思ってました~」
「私もね、最初はそう思ったんだ。でも構築のあの速さは訓練してどうこうできる問題じゃない。天才なんだよ。だから、努力が必要なジャンルだとすぐへこむんじゃないかな?」
なるほどねぇ。
「そう言えば~ミガサ、古代魔術語読めませんでした。グリモアの学園では教えていたはずなのですが~」
「はあ?古代魔術語読めないのに、なんであいつ古代魔法使ってんのよ?」
「ミラーが教えたのでしょう?でも凄いわね。魔術書読んだこと無いの?普通古代魔術語じゃないの?」
「グリモアの学園は、現代魔術語ですね。あれ流行らせようとしてるみたいですよ」
「あんな使えない文字、憶えるだけ有害よ」
エノームさん。
うむ、それ本当に同感。
「本当ですよ!あの現代魔術語というウンコ、誰が考えたんですかね?普通現代になったら便利になるんじゃ無いんですか?なんで古代魔術語より意味の分からない複雑さになるんですか!?」
「あ、ミラーがハキハキ喋ってる。酒飲んでるな」
「いいじゃない。ランチといいながらもう夕方だ」
そうです。お酒飲んでます。
「古代語の文章で、魔法構築書くとか、意味の分からない事やってる本見ましたけど、今考えたら分かりましたよ。
あれは現代魔術語の馬鹿馬鹿しさを揶揄していたんだ。性格わるぅ。
現代魔術語は、古代魔術語と違って説明の必要が出てきますからね、いちいち文章に書き起こす無意味さ、バカバカしさ。スゴいなぁ、天才だぁ」
「ミラーがなんかブツブツ言ってますよ~」
「まあ、いいじゃない」
次から次へと酒が運ばれてくる。
「あのさ、メイルへの求婚って知ってる?」
「どれだけ子供好きが多いんだよ、この世界」
「貴族の長男が告白したんだって。そうしたら断ったらしいんだけど、なんかメイル、皇帝陛下のご長男の側室に入らないかって相談されてるらしいわよ」
「あの娘スケールでかいわぁ」
エノームさんは天を見上げると
「今回のフレイムドラゴン討伐で、私の胸はスッキリしたから。もうメイルとはわだかまり無し!仲良くできる!」
「ほう。どうして?」
「1000万金まで稼がれたら、もう嫉妬する域、超えたわ」
「そらそうだ」
みんなで笑う
「メイルが私たちをどう思っているのかも分かった。ミラーの30万金にも顔色一つ変えなかった。
私が求めても渡したでしょうね。だからもういいの」
「なるほどねぇ」
二人のわだかまりが無くなればそれはとてもいい。
でも
「わたしは、ミガサと上手くできますかね?」
ちょっと自信がない。
でもネクリさんはあっさりと言った。
「上手くやらなくていいんだよ」
「?どういうことですか?」
「ミラーはグリモアの学園でなにされた?ミガサはどういう立場で卒業した?合うわけ無いんだよ。上手くいかなくて当たり前なの。だから、ミガサがもう無理と出て行くのか、ミラーがキレて追放するか、どっちかにまで振り切らなければ、別になんでもいいの」
ネクリさんの言葉で、私の不安は吹き飛んだ。
そうだ。
「そうだ!なんか私、モヤモヤしてた正体は!ミガサはあのムカつく学園でチヤホヤされた主席だからだ!そらムカつくわ!」
「ミラー、お酒は程々にねぇ」
エノームさんが、お酒の入っていた陶器を振る。
「まあ、二人でゆっくり話せばいいじゃない。ちゃんとさ」
ネクリさんもぐいぐいお酒飲みながら
「そーだ。ニルスなんだけどさぁ、あいつ妊娠してるのに、まだやりまくりらしいよぉ」
「わお。情熱的。もう収まりつきませんなぁ」
恋バナに話が移動。
そうだよねぇ。上手くいかなくて当たり前かぁ。
なんか気が楽になった。
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「そうなんです!それで師匠がね!」
「アハハハハ!まあ、飲めや」
「飲みますよ!美味しいですね!相変わらず!滅茶苦茶な要求ばっかりするんです!私のこと、嫌いなのかなぁって」
「期待してんだろ?」
「そう思いたいですけどぉ!!!」
ミガサは男女の冒険者と仲良く飲んでいた。
ミガサの行き着けの料理店で、仲良くなったのだ。
初めは、声をかけてきた男に警戒したのだが、男女ペアのパーティーだと知ってからは、仲良くしていた。
この二人は話をちゃんと聞いてくれるのだ。
ミガサにとって、格好の愚痴相手として、重宝していた。
「それでぇ、そもそもぉ、師匠は……とししたぁ……」
ぐう。
ミガサは寝た。
「寝たな」男が言う
「また宿屋に送ろう」
「まだ手を出すのは早いか?」
「正直さ、そこらへんの感覚って、あんたの方が正しいと思うんだよね。ミラーに直接取り入るのを止めて、弟子に入ったこの娘と仲良くするっていうガルの話は当たった訳じゃない」
この二人はガル&ベリー。
ミラーへの取り入りを目指していたが、途中から、弟子に入ったミガサと仲良くするように変えていた。
「まあ、まだ早いかもしれない」
「じゃあ早いわね。ちゃんと送りましょう」
店員を呼びお金を払う。
「媚薬はあるんだよな」
「ジェロニモ兄弟のね。前、下級娼婦に使ったら、気絶するまでオ○ニーしてたよ」
「もうすぐ使えるさ」
ガルは、ミガサを抱っこしながら
「こいつは、通い慣れた学園を離れて、知らない街の慣れない修行で寂しさを憶えている。男の味を覚えたら、もう戻れないさ」




