第17眠:魔法の革命
ニールと打ち合わせだが、本の数が凄かった。
「氷と風の合成魔術の資料は大体このあたりだ」
「凄い数ですね。過去には普通に使われていたのですか?」
30冊ではきかない数。
「いや、どれもこれも研究段階だ。実用化されていないからこそ、研究資料が沢山残っていると思うべきだな」
「なるほど~」
「ミラーの言っていた、吹雪魔法に該当する記載から見てみようか」
「はい~」
まんまがあればいいけれど。
無ければ、他の合成魔術の魔法構成を参考にしながら、1から構築しないといけない。
一冊目。
「俺は魔法構成は分からないが、記載と内容から、吹雪を生み出す内容だと窺える」
ニール。
これは
「なかなか凄いです。なるほど。こう考えるのか」
この魔法は、大風の魔法の前面に、重ね合わせるように氷の魔法を同時に発動する。
通常の魔法構成を、二人の息を合わせて使うだけだ。
けれども
「この考え方ならば、今日からでも使えます。ただ、これでは求めている威力にはたどりつきませんね~」
これでは要は氷を吹き飛ばすだけだ。
イフリート討伐には、文字通りの吹雪で、全体を氷漬けしないといけない。
「なるほどな。では次だ。ただ、俺が読んだ限りでは不安でな」
二冊目。
内容に目を通すが
「は?え?え~???」
なにこれ
「どうした?」
「ニール、本にデタラメが混ざることはありますか?」
「ああ。かなりある。そうか、やはりこれは信頼出来ないか」
「はい~。これはそもそも魔法構成のやり方から間違ってます~」
威勢のいい効果の魔法がいっぱい書いてあるが、吹雪だというのに、何故か炎の構成が混じっているのだ。
この構成から氷なんて出来るわけがない。
「ふむ。分かるやつには一目でわかるのだな。もし、この本が正しければ、とっくに合成魔術など流行っている筈だと気になっていたのだ」
三冊目が置かれる。
「これは信頼性が高いと思われる。著者は有名な魔術師だからな。問題は、書いてることが専門的すぎて俺にはよくわからんのだ」
読み始めるが
「うわぁ。これ難しいですねぇ」
読むと眠くなってくる。
「ミガサ、これは古代語ですから、あなたも読めるでしょう。読んでみてください」
頑張れ主席。
ミガサは、少し目を通すと
「意味分からないし!?」
いきなりダメだった。
魔法構成を言葉で説明しているのだ。
なんで図で説明しないのだ。
しかも専門用語滅茶苦茶使うし。
「というか、なんで古代語で書くんですか~?内容的には最近の人では~?」
「古代語で書くのがステータスなんだろうな」
「迷惑ですね~」
仕方なく読み進めるが
「ええっと、これがこうだから~」
横に紙を置いて魔法構成を書き始める。
しかし、なんでこの魔術師はこういう嫌がらせみたいな書き方するかな。
魔法構成を自分で書かないと、それがなんなのか意味が分からないじゃない。
「師匠、本気で意味が分からないんですけど。師匠はまさか、文章から魔法構成を書けるんですか?」
「はい」
「前も不思議だったんですけど、私の魔法構成見て『粗い』とか『広すぎる』って言ってましたけど、人の魔法構成見て、それが何を意味しているのかとか、分かっちゃうんですか?」
「私もミガサも学園出身。二人とも風魔術を使うという共通点があるからですね。炎の魔法構成は、本に図として書いてあれば分かりますが、実地で見ても分かりません」
「天才っているんですね~」
ミガサは感心したように言うが
「あれ?うわ~、すごい」
出来上がりつつある魔法構成の陣形を見て思わず声が出た。
「どうした!?当たりか!?」
ニールが聞くが
「いえ、これは単に合成魔術の為の基礎講成です。これだけでは、なんの意味も無いのですが、なんでこれ誰も追随しなかったんでしょうか?」
合成魔術の基礎構成。
そう、魔術には基礎となる構成がある。
炎、水、土、風、氷、光、闇などなど。
その基礎構成に様々なものを乗せて、魔法とする。
それに対して、この合成魔術は、その基礎構成を二つ乗せることが出来る。
一つの構成に、綺麗に混ぜることが出来るのだ。
「多分なんだが」
ニールが、違う本を出してくる。
「この魔術師、ジェラハグドームはもの凄い偏屈で有名だった。凄い魔術師ではあったのだが、その凄さは一部にしか分からなかったそうだ。この本が彼の唯一の本だが、彼の評伝にはこう書いてある
『ジェラハグドームは天才だった。惜しむらくはその凄さを伝える気が無かったことだ。唯一の本は、彼の業績を全て乗せたそうだが、図がなにもなく、文章も難解で、これでは誰も参考に出来ないであろう』と」
なるほど。
「これならば出来そうか?」
続きを見ながら、魔法構成を書いていくが、そこで気付いた。
「ああ!ああああ!!!凄い!凄いです!!!この人は!!!間違いなく天才!!!」
立ち上がった。
二人は驚きのけぞる。
「ミガサ!私は天才などではない!天才とはこの方の事です!凄い!この人は凄い!」
自分でも分かるほどの早口。
興奮していた。
凄い本だ。
これが埋もれていたの?
信じられない。
「ニール!ジェラハグドーム様は、いつぐらい前の方ですか?」
「80年前に亡くなっている」
「この80年の魔法使いの怠惰は万死に値します!こんな!素晴らしい本が埋もれていたなんて!!!」
「師匠、ハキハキ喋るとメッチャ怖いです」
ミガサが突っ込む。
「そんなにか、この本は。実際俺も読むのに苦労したのだ。相当難解なのは事実だが」
「それにしても!この方は自分の業績を全て残した!この魔法構成は革命ですよ!吹雪魔法なんてアホらしい児戯です!本当に埋もれていたのですか、これが」
信じられない。
吹雪魔法の目処はついた。これなら使える。
それよりも
「ニール、あなたはこの本を分かりやすく翻訳する事は可能ですか?」
「魔法構成は無理だな。専門家がいないと」
「お金はいくらでも出します。この本を埋もれさすことは世界の損失です」
ニールは楽しそうに笑うと
「そうか、そうか。ミラーはその事が分かるか。そうだ。埋もれた知識は多い。この識都は知識は多いが、埋もれているだけの貴重な知識が多すぎる。やはり、俺が考える知識の塔は必要だな」
知識の塔?
よくは分からないが
「ミガサ、これは魔法の革命です。やりますよ」
「は、はい」
ミガサは戸惑ったように言った。
識都の近くの森。
ミガサとわたしは実験の為来ていた。
「それでどうしたら?」
ミガサに魔法構成を書いた紙を見せる。
「ええっと……?」
「シンプルに言いますね。あなたがやるのは、大風の魔法なんですが、構成を広く、大きくしてほしいのです。具体的には両手いっぱいに広げて構成してください」
「そんなに!?構成がやりにくいです」
「それは分かります。ですが、狭いと出来ないのです」
本当はミガサにも色々工夫してもらいたいのだが、ミガサに色々求めるよりも私がやったほうが早いし確かだ。
「では、大風の魔法構成を……」
空間に広がるミガサの魔法構成。
それに、私がどんどん書き足していく
「な!?」
驚くミガサ
「集中を切らさないで!そのまま続けて!」
「はい!」
ミガサの大風の魔法に、合成魔術の基礎構成と、氷の魔術を足すという構成にしているが、これも随分まどろっこしい。
色々改良が必要だ。
だが
『強き風よ!』
ミガサの詠唱に
『吹雪となり!全てを凍てつかせよ!!!』
詠唱を乗せる。
すると
『ギュィィィィィィィィンンンンンン!!!!!!!!!』
凄まじい冷気音。
一気に持って行かれる魔力。
私は持つが
「!!!!!??????」
ミガサは悲鳴をあげることもなく倒れ込む。
魔法は解除された。
「……革命ですよ、これ」
私もへたり込む。殆どの魔力は持って行かれた。
しかし
「な!?なんだ!?これは!?なにがあった!?」
近くを通りがかった人。
森は吹き飛び、殆どが氷付けとなっていた。
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ニールはメイルと会っていた
「ニールがわざわざ来てくださるとは」
メイルは驚いていた。
ニールに会うときはメイルが訪れていたし、呼び出すことはあっても、それは報酬配分の時と、討伐会議の時ぐらいだ。
「メイル。ブラックドラゴン討伐の調べ物は無論やる。だが、少し叶えたいことがあってな。金を借りたいのだ」
「これはますます意外です。ニール、今までの報酬でも、なお足りない事を為そうとするのですか」
メイルはビックリしたように言う。
「ああ。俺はこの識都に『知識の塔』を立てる」
「『知識の塔』ですか?」
「この識都は、知識が集っている。それは間違いないが、その集まった知識が生かされているとは言い難いのだ。今回のミラーの調べ物の件で、改めて思い知った」
「大妖精イフリート討伐の知識と聞きましたが」
「やつが求めたのは合成魔術という禁忌だった。そして調べていくうちにとんでもない本に当たった。僅か80年程度前の本。
変人が書いた難解な魔術書だ。誰もまともに読まずに放置されていたのだが、その中身を見てミラーは悲鳴を上げた。これがなぜ80年も埋もれていたのだと」
「そんな内容だったのですか?」
「革命だ、とミラーは言った。吹雪魔法など児戯だと言った。現に、その本を読んだ翌日、ミラーとミガサは郊外の森を氷付けにした」
「はい。あれがイフリート討伐の切り札とは聞きました」
「気になってミラーに聞いたのだ。この本に書いてあって不可能な事は死者の蘇りぐらいか?と。すると頷いた。そんな魔術はない。だが」
「ニール、まさか」
「ああ、不老の魔術。これは可能であるそうだ。闇と光の合成魔術でな。相反する属性だから魔術師が二人いないと使えない。逆を言えば、二人いれば使えてしまう」
「そんな、知識が、埋もれていた?」
「著者のジェラハグドームは相当な変人だ。評伝を見ると確かに若々しかったらしいが、他の変人奇人の列伝に紛れていた。弟子も取らない。どうやって不老の魔術を使わせたかは知らないが、確かに闇の魔術師と、光の魔術師との付き合いは残っている。
変な魔法に付き合わされた事もな。彼と付き合った魔法使い達は、変人が、変な事をしていて、それに付き合わされたぐらいの感覚だったらしいが」
「ミラーさんは何故それに気付いたのですか?話によるとニールですらそれに気付かなかった」
「そうだ!それが知識の塔の話になる!知識はな!専門家が見ないと分からない事が多いのだ!そして、その専門家は、全ての本を読める訳ではない!
この知識の塔はな、全ての知識を体系的に網羅し、専門家に、このような知識があると分かりやすく明示するようにしたいのだ!」
「なるほど。そのためには莫大な人と本が必要。金が必要な訳ですね」
「これ以降はただ働きでいい。金貨10万枚を貸して貰えないか?」
「ニール、今は金貨が溢れている時期です。喜んでお貸しします」
「ありがとう。」
「報酬の話は今後打ち合わせしましょう。しかし、ミラーさんは凄いですね。本当に優秀な方です」
「ああ。あいつの早口なんて初めて聞いたが、凄いな」
「ミラーさん、お酒飲むとハキハキ喋りますよ。興奮するとああなるんですかね?」
「そうか。まあいい。俺は楽しみだよ。これから忙しくなる」
ニールは楽しそうに部屋から出た。
「不老、か」
メイルは少し天井を見上げながら
「私は要りませんが、そのうち求めるようになるんですかね?不老って」




