第15眠:亡き友の仇討ち
メイルとオルグナは帝国本国で謁見をしていた。
「お主、いくつだ」威厳ある皇帝からの声
「はい。12です」
「12か。12でキャラバンを率いてドラゴンを狩るのか」
「はい」
皇帝はオルグナに向き
「お主はいくつだ」
「34になります。」
「34。若くはないが、お主ほど成功した商人はおるまい」
「そんな、陛下」
皇帝は二人を見ながら
「各公国から苦情が来ておる。我々が狙っているドラゴンを無断で殺し回り、あまつさえ財宝を手に入れていると」
「陛下、そのような事実は」
反論しようとするオルグナを手で止めるメイル。
「真実を見抜けない陛下ではありません。オルグナ」
「うむ。お主らが事前に申請をして国に入っているのも、毎回ドラゴン討伐の証明を出しているのも知っている。今回のフレイムドラゴン討伐では多くの宝を返還したのもな」
皇帝は言った後
「それでも各公国の言い分も分かるのだ。お主等は最早、国の庇護無く動ける立場にはない。それほどの衝撃だったのだ、これは」
そう言って光り輝く玉を取り出す。
「フレイムドラゴンの財宝ですね」
「そうだ。お主等がティルダ公国の領主に返還した宝の一つがこれだ。これは『光壁の玉露』と呼ばれる伝説に伝えられた秘宝だ。
そう、伝説だった、単なる言い伝えのはずが、実在した」
皇帝はメイルを見て
「フレイムドラゴンを殺し得た。まだ秘宝を持っているブラックドラゴンとゴールドドラゴンは健在だ。殺せるか」
「拠点としている識都からは距離があります。往復で1年はかかりますが」
「殺せるのか」
「今のキャラバンの体制ならば可能です」
「では、メイルよ、お主は今から帝国公認のキャラバンとする。行動は自由だが、ブラックドラゴン、ゴールドドラゴンの討伐を命じる。
次にオルグナ、お主にも帝国公認の商会として公認の記しを与えよう。
両者は今後他の国になにを言われても帝国公認だと伝えればいい」
「ありがとうございます」
二人は頭を下げる。
そして
「メイル」
「はい」
「お主、儂の息子の後宮に入らぬか?」
「……は?」
思わず顔を上げるメイル
「次期後継の妾だ。子を産めば正妻になれるぞ。お主のような存在に息子を支えて貰えれば、帝国は安泰なのだが」
「陛下、私はドラゴン殺しをするような人間です。皇族の方の妾には相応しくありません」
「まあすぐの話ではない。考えておいてくれ」
謁見が終わり二人が下がると
「陛下、妾とは言え御子息の後宮に入れるなど」
「もう少し儂が若ければ、自分の後宮に入れていたぞ」
臣下達が驚いて皇帝を見る。
「ドラゴンを殺して回る女だぞ。その子の価値が分からぬのか」
呆れたように
「優秀な魔法使いに皆気を取られすぎだ。実際はあの指揮官が優秀だからだ。今の帝国にはあのような女が必要だ」
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「メイル、どうする?」
皇帝との謁見が終わったメイルとオルグナ。
「少し気になることがあります。それを片付けてからブラックドラゴン討伐に向かいましょうか」
「気になること?」
「はい」
メイルはオルグナを見つめながら
「ミガサさんがいれば、ミリアムさんの仇討ちが可能かも知れません」
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グリモアの学園は大騒ぎになっていた。
ドラゴンスレイヤーと名を馳せたミラー。
この存在は前から噂になっていたのだ。
何者だろうか?と
魔法使いはそれなりの人数がいる。
全員が全員学園に入るわけではない。
師弟制度で、育てられた魔法使いもそれなりに多い。
それなのかと思われていたが、そもそも師弟筋からして不明だったのだ。
問い合わせに言ってもミラーはいつも寝ているので返事は帰ってこない。
魔法ギルド経由の問い合わせにも黙殺していた。
それが実は学園出身。
そしてそのミラーの正体「ラミ」
これに学園の教師は震えた。
グリモアの眠り姫。
学園入学式から居眠りで遅刻。
授業中も寝てる。
教師からの印象が良いわけがない。
呼び出して怒っても寝るし、補習させても寝る。
なのだが、成績は極めて優秀。というか天才だった。
教えられなくとも、人の魔法構成を見て自分で改良することが出来たのだ。
それと積極性。
寝てばかりだが、一度質問を始めると、核心をつく質問をするし、遠慮はしなかった。
実技は満点だし、筆記のテストも、独創的な解答を書いてくる。
酷い点数は付けられない。
すると、その成績の良さに、学園生たちはラミに嫉妬しイジメるようになった。
教師も止めない。それどころか積極的に煽っていた。
教師から見てもラミは嫉妬の対象だったのだ。
ざまあみろ、というような感情だった。
なにしろラミは教わらなくとも、教師を上回る魔法を使えたのだから。
その結果、ラミは学園を出奔した。
その事は今まで誰も気にしなかったのだが
「恨んでいるようには見えませんでしたが」
教師のひとりが言うが
「名前を変えるぐらいですよ?」
その発言に皆が黙る。
「でも、皆の前ではちゃんとした話をしていましたよね?」
「……まあ、当てつけともとれる内容でしたが」
皆が微妙な顔をする。
「ドラゴンスレイヤー、ミラーは金貨30万枚稼いだそうです。魔法ギルドに金貨3万枚提出したと」
教師が苦渋の表情で言った。
「我がグリモアの学園は資金不足だ」
校長は言う。
「三万もの黄金があれば、問題は全て解決する。懐柔できるようになんとか出来ないか」
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「ししょー。ししょー。朝、じゃない。昼でもない。もう夕方ですよー。1日寝るつもりですかー?」
ゆさゆさ
「ミガサ、おはよ~」
「早くないです」
ミガサは呆れかえったように
「師匠、学園に行ってから3日間、寝ることとと、ご飯食べることと、水浴びしかして無いじゃないですか」
「私すごい、三つもしてる~」
「あのですね、そろそろ修行をしたいのです」
「師匠に言われてから修行するようでは三流です~」
「師匠って、スパルタで毒舌ですよね……」
「そうですか?」
「とにかく、私の修行に付き合って欲しいです」
「ミガサ、私は寝ながら色々考えているのですが」
「はあ」
「多分ミガサの魔術を見て、エノームさんとメイルが欲を出す頃です」
「欲?」
「亡き友の仇討ち、大妖精イフリート討伐」
「イフリート?倒せるのですか?」
「あなたなら倒せます」
私はミガサの目を見ながら
「あなたの風の壁ならば、イフリートの存在を殲滅できる」




