第14眠:学園に戻ってみました
しばらく暇になるそうなので
「ミガサ、学園に挨拶に行きますか?」
「はい!いいのですか!?」
ニルスの結婚式は盛大に終わった。
メイルからは「しばらく暇になりますので」
と改めて言われたので
「私も挨拶ぐらいはしたほうが良いかなと」
卒業してないけど、一応学園出身ですしね。
お金は有り余っているので、転移石でグリモアの学園まで飛んだ。
「まあ!ミガサ!」
あ、先生だ。
「こんにちわ!ホリデ先生!ご挨拶しに来ました!」
とても嬉しそうな顔をするホリデ先生。
「もうパーティーに入ったの?それと懐かしい顔ね。あなたラミでしょう?」
少し蔑んだ顔をするホリデ先生。
そうそう。グリモアの先生はこんなのですよ。ええ。
「ラミ?いえ、この方は」
なにかを喋ろうとするミガサを手で制する。
「お久しぶりです。ホリデ先生。」
「相変わらず寝ているのかしら?ミガサと一緒と言うことはパーティー?」
「たまたま、同じキャラバンに入ったのです~」
「そう。ラミ、足を引っ張っちゃダメよ。ミガサ、そのキャラバンは大丈夫なの?」
「だ、大丈夫も、なにも」
「ミガサ、わたしは先にいきますよ~」
絡まれても困るしね。
学園は前と一緒だった。
なにも変わってない。
「待ってください!ししょ……」
「ここではラミと呼んで」
「な、なんでですか?」
「面倒くさくなさそうだからです~」
正直結婚式での対応は面倒すぎた。
あんなに挨拶されるのは迷惑である。
学園の問題児ラミとしていたほうがマシ。
しかし、その直後。
「あら、ミガサじゃない。そちらは?」
先生だと思うが、あまり知らない人だ。
学園は広く、先生の顔も全員知っているわけじゃない。
ちゃんとは聞いていないが、私とミガサは一個違いで、ミガサが年上なのだから、間違い無くミガサと同じ時期にいた筈なのだ。
でも、大勢人がいるので憶え切れません。
「師匠のミラーさん、じゃない、ラミさん、だそうです」
おい、ミガサ。
「師匠?ミラー?あなたそう言えば……」
そこで、その人が絶叫した。
「ミラー!!!ドラゴンスレイヤー!ミラー!!!」
周りが振り向く。
「ミガサ!貴女、ドラゴンスレイヤーのミラーさんに弟子入りしたの!?」
バレました。
「まあ、そう言うことです~」
「それと、ラミって。もしかして、グリモアの眠り姫のラミの事?」
グリモアの眠り姫?
なにそれ?
「あああ!!!そうか!師匠!グリモアの眠り姫だ!!!私会った事ないけど知ってます!素行不良の天才がいたって!!!」
ミガサも驚いて叫ぶ。
有名なの?私。
その二人の叫び声に先生方が集まってきた。
「あら、ミガサ。戻ってきたの?」
「どうしました?そんなに叫んで」
「……あら?あなたラミ?」
そして、あっと言う間に
「ラミが、ドラゴンスレイヤーのミラー……?」
私とミガサは先生方に連行され、応接室に連れていかれた。
「ミラー。ラミ、貴女は名前を変えられたのね」
「はい~」
「なぜ?」
「名前に良い思い出が無かったからです」
顔が引きつる先生方。
「それで、戻られた理由は」
「ミガサが弟子入りしましたし、退学したとは言え、学園出身ですから、挨拶ぐらいはしようかと~」
先生方、怯えすぎではないですか
「ずっといられる訳ではないのですか?」
「いえ。私とミガサはメイルキャラバンの一員ですから。休暇の最中に遊びに来ただけです~」
「そうですか。であれば、生徒に話をしてもらえませんか?」
生徒に話。
学園の校庭。
ロクな思い出がない校庭に、学園の子達が並んでいた。
皆が私を見ている。
「昨年の学年主席、ミガサは憶えていらっしゃるでしょう。そのミガサは、ドラゴンスレイヤー、ミラーさんに弟子入りしました」
ざわめき。
「そのミラーさんは、事情があり途中で退学されました。しかし、この学園出身です。今日はその縁でお話をしていただこうと。それではミラーさん」
生徒達のざわめき。
さて、なにを話すべきか。
思い付かないので
「聞きたいことはありますか~?」
先生方は、「お前なに言ってるの?」みたいな顔をする。
話をしろと言うのに、いきなり質問を募集するな。という話でしょうが
ひとりの少女が恐る恐る手をあげる
「どうぞ」
「あの。ドラゴンって、わたしでも、殺せますか?」
その質問に、周りが失笑する。
ミラーには、その少女の能力も分からないのに、どうやって判断するのだ。という失笑だろう。
でも
「まず、真っ先に手をあげたその積極性。それが才能です。良いですか、魔法使いに必要なのは積極性です。極論から言えば、魔法使いの能力に大きな差はないのです。如何に自分が得意な仕事にありつけるか。
彼女は、自分はドラゴンを殺せるか?と聞いた。良い質問です。それを聞かれれば、では貴女はなにが使えるの?と、能力をアピールする場を取れるのですから」
みんなが真剣な目で聞き入っている。
「それで、貴女の魔法の属性は?」
「はい!炎です!」
炎か。
「直接ドラゴンを狩るのには向いていません」
「そ、そうですか」
「そこで諦めてはいけません。狩るのには向いていない。ではなにも出来ないのか?ドラゴンは炎のブレスを吐くものもいる。それらの防護は出来ないか?など
また、ドラゴンにこだわる必要はありません。炎に弱く、稼げる魔獣はいないのか?とかです」
「……あ、ありがとうございます!」
「頭を使ってください~」
「はい!」
「他には?」
すると一気にみんなが手を上げた。
「では、手前の男性どうぞ~」
少年がキラキラした目で聞く
「稼げますか!?」
「良い質問ですね。素晴らしい視点です。魔法使いは稼いでなんぼですからね~。いくら掴みたいですか?」
「え?ええっと、出来るだけ、多く」
「そんな物では掴めません」
「なるほど」
「そこでは十万金とか言うんです。口に出した金より上は稼げませんし、具体的な金も言えなければ無理です~」
「ありがとうございます!」
「では次~。そうですね、そこの人どうぞ」
「あの、高次魔術の話なのですが、炎には極炎魔術。土には大地魔術などあります。ドラゴンを倒すためには、高次魔術が必要なのでしょうか?」
うーむ。
「いいですか、その発想は捨ててください。高次もなにも、実戦には関係ありません。使える魔法を、場に合わせて使うだけです」
「基本魔法でも使い物になりますか?」
「なります」
その少女はホッとしたようにうつむく。
質問はその後もいくつか来たが
「まあ、ここまでにしましょう。いいですか、私の中でものになりそうだと思ったのは、最初と二人目の人までです。残りの方はこの学園で引き続きしっかり学んでください」
半分学園に喧嘩をうったようなものだ。
最初と二人目は、学園から見ればなに言ってるの?みたいな質問だし、3人目の質問こそが学園らしい。それを否定した。
なのだが
「素晴らしい話でした!」
先生方から誉められた。
「生徒達からやる気を感じました。特に積極性の話がです」
そうなのか。まあいいや。
「ミガサ~。眠くなったので帰りますよ~」
「は、はい!」
私達は転移石で戻った。
=====================
ガル&ベリーは依頼人に会っていた。
「メイルの排除が無理なのはわかった。ではミラーの排除は?」
それに対して困惑するベリー。
「あのさ、ミラー殺すの?あの金になる木を?」
「ドラゴン殺しよりも、あの財宝を掴むこと。あいつらはまだ300万金は持っている」
顔を見合わせるガル&ベリー。
「断るよ」
「なぜ?」
「不利益がデカい」
そしてガル&ベリーは席をたった。
「依頼人、目先に捕らわれちゃいけないよ」
「……目先、か」
「メイルキャラバンの殲滅ね」
女性は憂鬱気に言った。




