第12眠:やりすぎです、ニルスさん
ドラゴンスレイヤー、ミラーを囲うメイルキャラバンがフレイムドラゴンを撃破した。
この情報は世界中に流された。
衝撃だったのは、その財宝だ。
フレイムドラゴンは何百年に渡り、人間の住処や、鉱山から、金を奪いさっていた。
輝く財宝を集める習性がドラゴンにはある。
有翼のドラゴンは特にそうだった。
フレイムドラゴンは強力であるため、何度もその財宝を奪いに来た冒険者達を返り討ちにしてきた。
今回のドラゴン討伐も、メイル達の真似をした連中は全員返り討ちにあっていた。
メイルキャラバンも手を出さない以上、フレイムドラゴン撃破は不可能。
そう思われていた直後だった。
メイルキャラバンは、フレイムドラゴンの住処である領地の貴族に、重大秘宝を全て提出し、財宝も分け与えた。
それでもなお残るとんでもない額の財宝。
その全額までは分からない。
だが、確かな事実があった。
ミラーへの報酬は、魔法ギルドを介して確定される。
そのミラーが提出した金額は金貨三万枚であった。
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「主力とは言え、魔法使いに30万枚の報酬。つまり、最低でも100万は稼いだと」
「いや、それどころではない。メイルキャラバンは、教会に100万の金貨を寄付したそうではないか。貴族への返還も300万ではきかぬらしい。下手すると金貨1000万近い」
「国家予算を超えているではないか……」
魔法ギルドの幹部達は大騒ぎになっていた。
フレイムドラゴン撃破、財宝の衝撃は凄まじかった。
「ミラーを使わせろ」
という貴族らの要請はもはや脅しに近い。
「とにかく、まずはあの地区のギルド主を呼びましょう。この状況を理解してもらえば、協力してくれますよ」
「そうだな。もはや、体裁どころではない。すぐ呼ぼう」
幹部達は、自分達が扱っていた、ミラーという存在が、もはや制御できるようなものではないと実感していた。
国家予算並みの稼ぎを作り出す魔法使い。
報酬だけで金貨30万枚。貴族の立場と領土を買い取ってもなお余る金だ。
そんなもの前代未聞であった。
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オルグナとメイルは複数の国家からの呼び出しに困り果てていた。
遠くの帝国本国からも呼び出しがあったのだ。
「オルグナ、国に呼び出されるのは構いませんが、こんなの転移にしても、周りきれません」
「本当に困ったな。まあ、普通に考えれば、真っ先に帝国本国だがな」
帝国は公国の連合体だった。
各公国回るよりかは、真っ先に帝国に行くのは効率的だ。
「帝国本国は神教の国。リグルド様にもご協力頂きましょう」
「ああ、あの人ならば顔も利く。いいと思うな」
それよりも
「オルグナ、しかしこの財宝どうにかなりませんか?一体何回襲撃されたことか」
メイル達の財宝の噂は駆け巡ったのだ。
次から次へと襲撃される。
それを護衛でどうにかしていたが、その護衛の中にもスパイは混ぜられる。いたちごっこだった。
「うむ。その為にも国家に囲ってもらった方がいいかもしれん。正直この額は1キャラバン、1商会が扱っていいものではない」
「ですね。しばらく足止めか……」
メイルはため息をつく。
メイルは旅が好きだった。
こういう足止めは辛かった。
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「凄まじいな。本当に」
「全くだ」
ダニーとアラニア。
二人は酒を飲んでいた。
ダニーは、リーダーのカルテナに
「避妊なんてするな。徹底的にやりまくれ。お前の仕事はニルスを孕ませることだ」
と念押ししたところ、1ヶ月間。
メイルのキャラバンで抜けていた時を除いて、二人はやりまくりだったのだ。
その結果ニルスから
「もう、こんなんじゃ、絶対赤ちゃん出来てるから結婚しない?」
と提案してきたのだ。
カルテナはすぐ頷き、ダニーとアラニアも喜んだ。
メイルキャラバンからは
「ニルスの所有権は渡さないが、必要な時だけ遠征に来てくれればいい。普段はそちらのパーティー帯同で構わない」
と返答が来たのだ。
3人はそれに喜んだが、その後だった。
遠征帯同で、一時抜けたニルスは大量の金貨を持ち帰ってきたのだ。
「フレイムドラゴンを撃破した」と
「結婚式はどんな規模になるんだろーな」
「金貨1000枚の式か。聞いたことねーよ」
ニルスは
「いくらでも貰えたが、冒険のモチベーションが下がると困るので、程々にした。金貨1000枚は結婚式、残りは子育てに使う」
そうだ。
ちなみに、今日もニルスとカルテナはいつものようにやっていた。
「飽きないのか、あいつら」
アルバニが呆れたように言う
「長年の失恋がこじれたニルス。恋人失って喪失感が強いカルテナ。お互いが求め合ってるんだから、いいじゃないか」
「式の段取りもなぁ。結婚式終わるまで冒険でれねーな」
「良いじゃないか。全部良い方向にいっている。俺達は鈍らないように訓練すればいいだけだ」
「そうだな」
二人は楽しそうに酒を飲みあっていた。
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「えへへ。考えるだけで楽しいなぁ」
全裸のニルスは、カルテナと結婚式の内容を考えていた。
「ニルスの好きなようにやってくれよ」
そう言ってニルスを抱き寄せるカルテナ
「あん♪もう、一緒に考えてよ。これが楽しいんだから」
ニルスは社交的で、魔法ギルドの知り合いもそれなりにいた。
またカルテナも、冒険者達の付き合いはよく、式に呼ぶ人は大勢いたのだ。
「ふふふ、場所が凄いもんねぇ。大広間貸切かぁ」
識都には、王侯貴族をもてなす、大広間と呼ばれる、巨大なスペースがあった。
基本的には庶民は近寄れない。
だが、ドラゴンスレイヤーであり、フレイムドラゴンを撃破したニルスの立場はもはや庶民ではなかった。
「イベントとかも呼ぼうね。いっぱい楽しくしたいなぁ」
ニルスは楽しそうに笑う。
そして
「きっと、赤ちゃんも出来てるよ、みんなでお祝いしようね」
大事そうにお腹をさする。
「ああ、でも確実に赤ちゃん欲しいな」
「そんなぁ♪絶対いるよ♪毎日してるんだよぉ♪」
「ふふふ。幸せになろうな」
「うん♪」
二人は飽きることなく抱き合っていた。
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私はミガサと見つめ合っていた。
「いいですか~弟子さん」
「はい。師匠」
「師匠の私より、弟子が貰うのはおかしいですよね?」
「そう思います」
「師匠の私は既にギルドの納金や様々なところへの寄付などで、5万金を支払っています。残り25万金です」
「はい」
「で、いくら欲しいと」
「10万金です!」
「ただ働き続行」
「そんな!師匠より少ないです!」
「殆ど一緒じゃないですか」
正直、こんなにお金なんて要らない。
しかし、ミガサの野心をどうにか留めておく必要があったのだ。
ミガサの優秀さはよく分かった。
これは引き抜かれる。
なので、希望のお金はいつでも払えるよ~。
という状態にしておきたかったのだ。
ところが、ミガサは即要求してきた。
「あのね、ミガサ。あなた10万金得たらどうするのよ。絶対パーティー抜けるでしょ?」
「ぬ、ぬけません!絶対です!」
目が泳いでる。
「10万金稼いでおきながら弟子をやるの?無理よ、そんなの。なんで貴族を金貨袋でぶん殴れる金持ってるのに、下働きなんて出来るの?絶対バカバカしくなって、辞めるから」
「……そうかも、しれません」
「いいですか~?あなたの才能は間違いない。でもね~粗いんです。この才能を見いだしたのは、メイルとニール。あなたはもう少し、ここにいて、修行をするべきです」
「……返す、言葉も、ありません」
がっくりとうなだれる。
「実際、このお金は保管します。しかるべき時に渡しましょう」
「本当ですか!?」
「修行が終わったと判断したら渡す。それでいいですか?」
「もちろんです!嬉しいです!」
「とりあえずこれは今回の報酬」
金貨400枚。メイルが最初に提示した金額。
「こ、こんなに」
「修行頑張ってね。こんなものじゃないのよ。あなたが掴める額は」
「はい!頑張ります!」
メイルにミガサの事を報告した。
「ご配慮頂き感謝します」
頭を下げるメイル。
「いえいえ~。それで余ったら返しますから」
「いえ。正直、返されても困ります。今はありすぎて困ってるのです。しばらく国家を回らないと行けません」
「あら、大変です」
「はい。ミラーさんも身辺には気をつけてください。ヤバい連中がいっぱいいますので」
そうだよね~。気をつけないと。
ネクリさんと、エノームさんにも、ミガサの件を報告した。
「なるほどね、それで30万」
「まあいいんじゃない。実際ミラーはそれぐらい貰うべきだって」
二人は楽しそうに話をしてくる
「メイルから言われたよ。一万枚は常に準備しておくって」
「でも、仕事する気なくなるからなー。お金ありすぎると」
それも分かる。でも
「私は、なんですかね~。仕事しないと起きなくなるから、お金はあってもいいですかね~」
本当に起きなくなるのだ。
どんなに金を持とうが、メイルみたいに気を使ってくれる人との仕事を辞める気はない。
ふと、見るが、二人は凄い高級な格好をしていた。
「そう言えば、随分綺麗な格好」
「ふふふ。いくら私でも、さすがに散財するわよ。3000金もあればね」
愉快そうに笑うエノームさん。
「100金を1日で使ったよ。でも良いでしょ、これ?」
ネクリさん凄いお洒落な首飾りをしている。
服も凄い。
「ニルスの結婚式も楽しみだわ。凄い金使うらしいわよ。場所が大広間だしね」
「楽しみです~」
みんなで笑いあっていた。




