第1眠:魔法使いは狙われる
眠い。
今日も眠い。
「ミラーさーーん!はいりますよーー!!!」
ねてまーす。
それも声に出ることもなく。
「いつまで寝てるんですか!?あの女の子、下で待ってますよ!?」
下で待ってる女の子。
メイルの事だろう。
うん。なら大丈夫だ。
「あと五時間寝かして~……」
「昨日の夜寝て、もう昼ですよーーー!!!」
うるさーい。
宿屋の娘のアカリに無理矢理起こされて、宿屋の下に行く。格好は寝間着のまま。
「おはようございます。ミラーさん」
「メイル、おはよ~」
目の前の少女はメイル。私の雇い主である。
私は魔法使いという特殊な職業。
得意なのは氷魔法。
氷魔法は、素材を凍り付け出来たりするので、生活するのには困らない。
魔法の才能付きで産んでくれてありがとう。お母さん。
でも私には問題があった。
それは睡眠。
とにかく私はいつも寝ている。
常に眠い。
1日1食で、食い溜めをして、後は寝る。
大体1日の2/3は寝ている、らしい。
アカリに言われた。
そんな私なので、雇われてもすぐクビになるのだが(時間通り場所に行かないので)
このメイルだけは違っていた。
私の生活スタイルに合わせて仕事を組んでくれるし、私が寝ると荷台に積んで、目的地まで連れて行ってくれる。
そして、お金の払いがとても良い。
一回の報酬が大きくて、休みが長いので、私にとっては最高の雇い主だ。
「ミラーさん。次はスロートドラゴンを狩りに行きます」
メイルはドラゴン狩りのキャラバンを率いていた。
ドラゴンを狩るというのは凄いことだ。
でもメイルと、その知恵袋のニールの編み出した方法は簡単だった。
ドラゴンの弱点である動力を凍らせる。
これでドラゴンは簡単に殺せた。
私の仕事はこの動力を凍らせること。
氷魔法が使えて、やり方が分かれば誰でも良いと思うのだが、メイルは私を指名し続けていた。
「いいですけど~。今度はどれぐらいですか~?」
「スロートドラゴン自体はさほど遠くありません。問題はその先です。連続してパープルドラゴンも狩るかもしれません」
「わかりました~」
眠いので、言葉が間延びしている。
「荷台も改良したので、寝ながら移動してください」
「たすかりま~す」
メイルは私用にわざわざ荷台にベッドを付けたものまで用意してくれているのだ。
感謝。
メイルは前金をいつものように置くと、帰った。
さて
「じゃあ、アカリ。これ宿の料金に追加するから。私は寝るね~」
「まだ寝るの!?」
そら、起こされたのですから寝るのです。
「まあ、ミラーさんが起きてるなんて珍しい」
アカリのお母さんが来る。
「おはよ~ごさいま~す」
「また寝られるのでしょう?ご飯食べなさいな」
「ありがとうございま~す」
うん。小腹が減っていたのです。食べます。
穀物のスープを飲んでいると
「ああ、この宿か。ミラーさんっているか?」
冒険者達らしき人達が来る。
「……ああ、またミラー関係のお客か」
アカリが面倒くさそうにしている。
「おい!そこの小娘!ミラーさんっているか!?」
「小娘じゃない!あんた達が探してるミラーと年変わらんわ!!!」
「なに!?」
私を見る。
「……あなたがドラゴンスレイヤーのミラーか?」
ドラゴンスレイヤー
ドラゴン殺しは、冒険者の中でも、もっとも名誉な称号だ。
私はメイルのおかげでその称号を持っている。
それも複数。
なので誘われるのだが
「お断りしま~す」
用件は分かる。うちに来ないか?なのだが
「待て!条件を聞いてくれ!契約金で金貨100枚は用意するし!成功報酬も500枚は用意する!」
魔法使いとしては破格の報酬なのだが
「私は毎回それぐらい貰っていますから~」
メイルのすごい点は、商人と繋がっていることだ。
商人と専属契約を結んでいるので、素材のロスがない。
他の冒険者達と違い、高値での素材売却に成功していた。
それと気前がかなり良い。
氷魔法使い達への優遇はすごかった。
だから私は移籍する意味が無いのだ。
私の生活スタイルに合わせてくれるメイルから離れる理由がない。
「まあ、そう言うことです~。お引き取りください」
ご飯食べ終わってすぐ寝ようかと思ったのだが、用事を思い出した。魔法ギルドへの入金。
魔法ギルドは、魔法使いへの仕事の斡旋や色々な情報を教えてくれる。
その代わり、その街への登録に登録料をとられるし、年会費みたいな感じで更新料も取られる。
そして、そのお金はランクによって違う。
ランクとはなにか。
それが、先程の「ドラゴンスレイヤー」に関わるのだが。
「ドラゴンスレイヤー」のような、強力なモンスターを討伐すると称号が貰える。
この称号持ちは、貴重であり、それを成した魔法使いは基本的にお金持ちなので、魔法ギルドへの寄付金も多く入れることになる。
私もである。
「お金入れにきました~」
「おお!ミラーさん!いや、助かるよ!」
魔法ギルドのおじさんから喜ばれる。
「これで足りますか~?」
メイルから貰った前金の一部を渡すが
「いや、いつもいつも。ミラーさんが毎回律儀にお金を入れてくれるから、この街の魔法使い達は助かっているんだよ」
「それはなによりです~」
「しかしあれだ。ミラーさんみたいな凄い魔法使いが、この街にいてくれて本当に嬉しいよ」
「そんな~。」
口が上手いなぁ。
「前も断られたけど、ミラーさんへの引き抜きの依頼はいっぱいあるんだよ」
「メイルからはまだ離れないですよ~」
「そうか。イエロードラゴン征伐以降、ミラーさんの名声は凄くてね。伝説の魔法使い扱いされてるんだよ」
イエロードラゴン。
毒のドラゴンで、懸賞金付きのドラゴンだった。
私の二回目の仕事。
この征伐で、私の名前は魔法ギルドに広がったらしい。
今では知らない人から声をかけられたりする。
伝説の魔法使い。
「わたしなんて、よく寝ることしか出来ない魔法使いですから~」
もう眠いし。宿に帰りましょう。道で寝る前に。
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「ドラゴン征伐をするには、あの魔法使いが必須だと何回言えば分かる」
「だけどよぉ!全然引き抜きに応えねーじゃねーか!!!」
ガラの悪い冒険者達が酒場で言い合っていた。
「一回の討伐で5000金は儲けてるんだぞ。相当金は渡してる筈だ。下手すると2000金ぐらいかもしれん」
「そんなにかよ!?」
「あのキャラバンは、以前ミリアムを使っていた。あのドラゴンスレイヤーであり、オーガーバスターであった、偉大な魔法使いミリアムだ。強力な魔法使いを囲って討伐をしている」
「そんな事は分かってんだよ!!!それで!その優秀な魔法使いはどうやって引き抜くんだよ!」
「あいつは女だ」
「だからどうしたんだよ!?魔法使いなんて殆どが女……」
そこまで言ってなにかに気付いたらしい。
「金がダメなら身体で堕とせ」
「……なるほどな。てめーは、そういう機転が利くから気に入っているぜ」
「これは強力な媚薬だ。どんな身持ちの固い女も娼婦のように乱れる」
その男はテーブルに小瓶を置くと。
「手段など選ばなくていい。ドラゴンスレイヤーの魔法使いの価値は無限だ。なにがあっても手に入れる」
「娼婦が嫌なので色々努力をしていたら、なぜかドラゴンになっていた」のif話です。
ミラーは、館を買い取ることなく、宿屋を拠点としているので、心労で死ぬことはありませんでした。
この話までは、「娼婦が~」と展開が変わりませんが、ここから先はミラー生存に伴い、物語は大きく変化します。
更新は不定期です。