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2人なら・・・・・・

今回は口説いと感じるかもしれません。

予め言っておきます。

すいません。


彌生 星風。

草刈 友。

そして、妹。

この場には3人いる。が。

目的が違う。


星風は今この場にいる2人を連れ戻すこと。

友達は両親の『何か』を探し出すこと。



星風は口を開く。


「私の目的はさっきも言ったけど、あなた達を連れ戻すこと」


「わざわざ来てもらって悪いけど、俺達には目的があるんだ。だから、帰ってくれ」


「ハア!?」


一方的に帰れと言われてしまった。

星風だって今来たくて来たわけじゃない。

オリビア。

神に。

無理矢理行かせられたのだ。

しかも、この2人を襲っていた竜も倒した。

星風は命の恩人と言っても過言ではない。

それなのに、


「帰れ、私だって来たくて来たわけじゃないのに、しかもここに来るために酔って……」


地面にしゃがみ込んで顔を青くした。

ヤバい。

気分がどうしようもなく悪い。

竜には勝てるが、このなんと言うか車酔いでも、船酔いでもない、ここでは神酔いとでも言っておこうか、神酔いには勝てない。

地面に手をついて、落ち着こうとしていると背中をさする小さな手があった。


“友の妹”である。


妹は心配そうに手でさする。

星風は涙目。

この時ばかりはオリビアを心から恨んだ。

後で何か仕返しをしよう。と。

心の中で密かに誓う。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


まるで天使の微笑み。

そう表現をしてもいいだろう。

いや、それ以外に思い付かない。

星風は、妹の優しさに心を奪われそうになる。


「ありがとう、少し落ちついてきたかな」


「よかったぁー」


星風が回復に向かっていることを知ると本当に嬉うだった。

逆に星風が嬉しくなる。

こんないい子が実在するなんて。

信じられない。

アンビリバボー。


友は、どこか面白くなさそうだ。

冷たい感じで言い放つ。


「もう、元気になっただろ。俺達は、山口県に行きたいだけなんだ。だから、アンタに構う暇はこれぽっちもねーんだ」


友はそう言うと指で塩少々摘まむ仕草をした。

だが、星風も譲れない。

若干まだ、青い顔で立ち上がる。

低い声音で言う。


「分からないのかな、あなたに決定権なんてない。”あなた達、2人を連れ戻す”。これが今、私が優先してやることなの」


「アンタにはアンタなりの考えがあんのかもしんねぇーけど、それでも帰ることできない」


「何でそんなに山口県に行くことにこだわるのかな?」


純粋な質問だった。

こんな危険な場所で、いつ死んでもおかしくない場所に。

大事のは今生きることのできている自分の命を守ることではないのだろうか。

いや、それ以外に何が大事なことがあると言うのか。

分からない。

理解できない。


「そこに行けば、死んだ父さんと母さんの”何が”分かる気がするからだ。いや、分かるからだ」


「そんなの無理だと思うかな。死んだ人間の声はどうあがいても聞くことは叶わない」


星風はただ冷酷に告げる。

否定する。

認めない。


友は奥歯をギリ!と噛んだ。

やる前から無理だと言う星風に少し苛立ちを覚えたから。

睨み付けながら、吐き捨てる。


「何で、無理だってアンタは決めつけんだ。やらなきゃ無理に決まってんだろ、できないからやるんだろ。アンタはやれないって無理って簡単に諦めんのかよ」


「だって私にはできなかった。私は、あの人の声を聞くことができなかった。あの人の何かを見つけることができなかった」


星風の話を理解できない。

友は星風のことを何も知らないからだ。

だから、曖昧に返事をすることもできない。

けど、これだけは分かる気がする。


(結局、こいつも同じだ)


と。

星風だって今日まで、楽に生きていたわけではない。

沢山苦しんだとも思う。

さまざまな困難と戦っていたのかもしれない。いや、今も戦っているのかもしれない。

だが、それで友が諦める理由にはならない。


「アンタが諦めただけで、俺達が無理って決めつけんな」


「……」


「アンタがどんだけ頑張ったなんて知らない。俺よりも頑張ってんのかもしんねぇー、けどそれは俺が諦める理由にはなんねぇーよ」


「それが殺されるとしてもかな」


星風は、最後の質問をする。

それでも、友は変わらない。

友は、妹の小さな手を握りながら未来を見据えるように言う。


「ああ」


それに続くように妹も嬉しそうに言う。


「私とお兄ちゃんの2人なら大丈夫だよ。だって、一緒だから」


星風は理解する。

自分にはこの2人には敵わない。と。

この2人は強い信念があるのだ。

自分があれこれ言って変わるようものではない。

もし、変わるのなら最初からここにはいないのだ。

そう、理解する。


「そっか、あなた達にはあなた達の理由がある。私がどうこう言おうと変わらない。私は諦めるかな」


星風はどこか冷たい感じだった。

氷よりも冷たい、自然とそう感じてしまう。

友は、確認を取ってみる。


「それは、俺の、俺達の気持ちを分かってくれたってことか?」


否。

確認をする意味はなかった。

星風の瞳を見た瞬間、地面に膝をついてしまう。

全身から嫌な汗が出てきて、それが流れる。


“殺される”。


そう全身から教えられる。

星風は睨んでいるわけじゃない、ただ氷のような瞳で友を見ているだけ。

そのはずなのに、地面から膝を動かすことができない。


ここで、幸いなのは妹はなんともなっていないことだ。

が、心配そうに友を呼ぶ。

そして、体を揺らす。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


「うごぁ……………………………………」


言葉がでない。

妹の声は聞こえる。

それなのに何もできない。


さっきの竜なんて比べ物にならない。

これは恐怖なんて生易しいものじゃない。そう思ってしまう。

恐怖の上を行く恐怖。言葉では、表せない何か。


星風はただ殺気を出し、友にぶつけただけ。

そらは、消しゴムのカスを丸めて投げているような感覚だ。星風にとっては。

星風はゆっくりと口を開く。


「確かに私の考えじゃ、あなたの信念を曲げるのは無理かな。でも、連れ戻す。あなたの心を殺そうとも……」


「……」


「さぁ、私と帰る?それとも死ぬ?」


最後の忠告。

それを告げると殺気をといた。

殺気が無くなるとさっきまで動けなかったのが嘘のように動ける。

が、殺気の余韻が残っている。

心に染み付いているのだ。

取れない。

表すなら影のような存在。

ずっと自分にまとわりついてかのよう。

殺気が無くなったと表現したが、友の中にしっかりと残っている。

この矛盾をどう表現していいものか、分からない。


友の思考は停止している。

動かそうとすれば動かせる。が。

動かしたら後戻りはできない。

選択を間違えば、終わる。

これはゲームじゃない、現実(リアル)だ。

やり直し(コンテニュー)のきかない、場面。


(考えろ、正しい一手を。生きて、(こいつ)と何かを見つけるための選択肢を)


自分に言い聞かせる。

何も出てこない。

星風は、答えを待ってはくれないだろう。

今度こそ星風は口を開く。


「さあ、あなたの答えはどういうものかな」


「お、俺の、こ、答えは……」


口がもぞもぞしてしまう。

うまく言えない。

今も答えが分からないのだ。

どうすれば……。

正解か。

答えがでない。

いや、そもそも答えはあるのか。と。

疑いたくなる。


以外にも星風は友へ助け船を出す。

なぜ、出すのか?

それに意味なんてない。

星風は、確かに目的達成のために今、動いている。が。

目的を達成させる過程には別にこだわってはいない。

数学でも、答えは一つだが、その答えを出すための方法は一つではない。

だから、目的達成の方法も一つではないのだ。


「ねぇ。いまここで何かを見つけることができなくとも別に命が無くなるわけじゃない、それに今じゃないとダメなのかな」


(そうだ)


納得してしまった。

両親の何かを見つけられなくても友は、妹は死ぬわけじゃない。

生きていればそのうち見つかる。

その可能性だって充分にあるのだ。

だから、今諦めたって……。


そんな、思考は最後の最後で止まった。

いや、止めてくれたというべきだろうか。

妹は友の目の前に立ち、まるで星風から守るような格好だった。


「お兄ちゃん、私と一緒に見つけるんでしょ?」


「あぁ」


短く返事をする。

それだけ妹には伝わったように見えた。

しっかりと星風を見る。いや、立ち向かう。

逃げる必要なんて最初からなかった。


「今じゃないといけないんだ。今って決めから今じゃないといけないんだ」


「理解できないかな」


「別にいいさ、だって……」


「私は分かるもん」


妹は兄である、友の言葉を理解していた。

他には分からなくとも妹には分かる。

なぜか?

兄妹だから。

理由として不十分?

知っている。

他者からみればそれが普通だ。

だが、この兄妹に限ってはその限りではない。

確かな”絆”があるから。


星風は頭を抱える。

目眩でもしているのだろうか。

違う。

分からない。

なぜ死の恐怖から前進できるのか理解に苦しむ。


「そっか、そっか、もういいかな」


「……」

「……」


「あなた達の選択は”死ぬ”ことって受け取ってもいいかな」


ただ冷酷に結果を伝える。

今度は友だけじゃない。

兄妹(2人)に殺気を向ける。

それもさっきとは比べ物にならないものを。


2人は肌でしっかり感じる。

気味が悪い感じが肌にまとわりついてくる。

気持ち悪い。

全身から嫌な汗がまた出始める。

吐き気もする。

瞳からは勝手に水分が出てしまう。

例えるなら、蛇口が壊れて水が溢れてしまうものだ。


妹も顔が青くなり、その場にいることが嫌になる。

体が不自然に震える。

寒い。

実際は気温もそんなに暑くも寒くもないのだが、そう感じてしまう。

呼吸をすることさえもきつい。

“誰か助けて”

そう思わずににはいられない。


というふうに自分1人ならとっくに限界がきておもっていただろう。

でも、1人じゃない。

隣に……。


(お兄ちゃん)


(こいつ)


((がいる))


2人は離れないように、互いの手を固く握り星風を一目見る。

一度顔を見合せ、友は口を開く。


「なぁ、アンタは怖いものとかないのか」


「……」


「俺はさ、沢山ある。1人じゃどうしよもないほど。でも、だけど俺には大切なものがあるだから、恐怖に負けている暇はねぇーんだ」


殺気がきかない。

いや、それとも……。

友は星風の殺気の中たんたんとしゃべった。


「恐怖に負けないか……。私にはない強さかな。なんだか、羨ましく思うよ」


妹は場違いなことを言い始める。

子供だからなのか。


「お姉ちゃんの匂い、私とても好き。とても安心する」


「何が言いたいのかな?」


「お姉ちゃんは優しいんだと思って」


「何でいい匂いだと優しいことになるのかな?」


妹は笑っていた。

さっきまで殺そうとしていたのに、星風のことを見て笑っていれる。

友では、そんなことできない。

そして、妹はしっかりと言う。


「そんなの決まっているよ、お姉ちゃんが幸せだからだよ」


「えっ!?」


予想外の答えだった。

自分が幸せ!?

そのなこと考えたこともなかった。ただの一度も。


「お姉ちゃんは幸せをみんなに分けているんだよね?だから、いい匂いなんだと思う」


「……」


何も答えられない。

幸せとは自分とは無関係な存在だと思っていた。

だから。

人に、あなたは幸せです。と。

言われても、『はい、そうですか』って受け入れることはできない。


その妹の答えに納得したのは友だった。

友は、星風の殺気のせいで何度も壊れかけたのだ。

それなのに、納得する。


「確かにな」


そして、その答えを言うために続ける。


「アンタが幸せかどうかは知らない。だって、幸せかどうかはそいつの思い次第で決まる。だから俺には分からないけど、アンタは優しいって思う」


「だから、それはなんでかな?」


「だって、アンタは最後まで俺を殺さなくてもいい選択肢を選ぼうとしていた。たから、俺に諦めるように何度も言ってくれたんだよな?」


「そんなのあなたの勝手な妄想かな。私は別に幸せでもなんともない。いや、あの人を助けないと幸せになっちゃいけない」


星風はてっきり友は今の考えを、『それは違う』と否定してくると思ったがそれはしない。

星風の言葉を聞いたとたんにこれまた思ってもいなかった答えを言う。


「”幸せになっちゃいけない”かそれってアンタが気づいていないだけで、自分が幸せになる方法に本当は”気づいている”んだろう。今は無理でもいつかは幸せになれるかもな」


妹はおかしなことを言ってくる。


「いつかじゃなくて今、なってよ!」


「おいおい、無理言うなよ」


友が妹のわがままを止める。

そして、星風は知る。

この兄妹には敵わない。と。

別に、力は星風の足元にも及ばない。

けど、勝てないのだ。

だから、宣言する。


「降参ーかな」


負けを宣言したのになんだか、曇りのない表情で言う。


「あなた、あなた達には敵わないかな。しかも、どうして”連れ戻す”、”行く”の話し合いから私が幸せかどうかに話が変わっているのかな」


それを聞いて答えるよりも友は先に吹き出してしまう。

そして、答えようとする。が。


「う~ん、どうしてだろうな?俺にも分からん。まぁ、でもしいて理由をあげるなら(こいつ)がいたからだろうな」


「なにそれ、答えになっていないかな」


星風は少し微笑みとにたような表情で言った。

まだまだ、分からないことだらけな星風は聞く。


「それに今だにいい匂いだと優しいって言う理由が分からないかな」


「それは、死んだ母さんが言っていたんだ。幸せで優しいやつは、その幸せを分けるためにいい匂いだって。まぁ、俺も実を言うとよく分かんねぇーんだ」


友は、声音を低くして言っていた。それに当然星風も気づいていたが何も言わなかった。いや、どう言ってやればいいか分からなかった、というのが適切か。

友は穏やかな口調で続ける。


(こいつ)の言葉を真剣に受け止めると疲れるだけだから適当に流せばいいんだよ」


「そら、どういうことお兄ちゃん」


妹は怒りマークを頭の上に表示しながら、友に向かってくる。

それを片手で止めながら、友は言う。


「さっきアンタは負けを宣言したよな。ってことは山口県に俺達は行ってもいいんだよな?」


「ダメに決まってるかな」


その星風の返しに唖然とした。

友は、『なんでだよ』と顔に書いているように見える。

星風は、最後まで続けた。


「あなた達だけで行かせる訳にはいないかな。だって、ドラゴンにころされるから。だから、私も一緒に着いていくかな」


「それって、つまりは行ってもいいってことだよな」


友は嬉しそうに言う。

妹も嬉しそうにだった。行けることも当然嬉しいのだが、違う意味でも嬉しかった


「お姉ちゃんも来てくれるの。やったぁー!」


「私が着いていけば絶対に安全かな」


「お姉ちゃんだーいすきー」


そう言うと妹は、星風に抱きついた。

星風は少し頬を赤く染めてしまう。

友は、口を大きく開ける。


星風は我に帰るとそのまま妹を抱きしめた。

そして、嬉しそうに言う。


「私も大好きだよ」


そこで止まらない。いや止まれないのだ。


「このまま私の妹になってよー」


つい本音が漏れでしまう。

友は、速攻で動く。


「そんなことさせるかよ。俺の妹だー!」


「なにマジになってんの?」


「いやいや、アンタこそ俺の妹を妹にしたいって言った時にマジだったけどな」


「まぁ、そこは本気って認めるかな」


「おい!!」


そこから精一杯の突っ込みをいれる。

妹がとられそうでとても不安だ。

絶対に渡さないって心の中で誓った。


友は照れ臭そうに頭をかき、星風の方を見て言う。


「山口県まで、頼むよ。星風(せいか)


「うん、任されたかな」


ひょんなことから、3人は山口県を目指す。

星風は、2人に気づかれないように一瞬苦い表情となる。


(ヤバいかな。私、連れ戻せっていう命令守れないや。まぁ、でも連れ戻す時間は決められていないわけだしいいっか)


自分の考えを正当化して、言い訳を作る。

そして、オリビアに怒られていいように。

さぁ、山口県へ。

ご意見ご感想がありましたらぜひお願いします。

次回は月末に出します。

宜しくお願いします。

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